コロナ禍以降、dodaエージェントサービスで実施されているキャリアカウンセリングは、原則オンラインまたは電話での実施となっています。これまでの対面型に比べて、時間や場所を問わずにキャリア相談ができることから、多くの方に利用いただいてきました。
しかし非対面かつ限られたカウンセリング時間の中では、転職希望者様のキャリアの悩みや将来の方向性、希望求人に対するコンセンサスが取りづらく、お客様に何度もお時間をいただかなくてはいけないことも・・・。
そこでスタートしたのが「ファーストマッチプロジェクト」です。カウンセリング予約後すぐに機械学習を活用して求人をいくつか自動紹介し、それらをもとにカウンセリングを行うことで、スムーズに転職希望者様との認識合わせが行えるようにする取り組みです。
どのようなプロセスを経て取り組みが進められたのか――プロジェクトをリードした後藤、百家、折原に話を聞きました。
【機械学習を活用した求人自動紹介 × キャリアカウンセリング】で、お客様のニーズに素早く応える
――まずは、本プロジェクトが始動した背景から教えてください。
後藤:発端となったのは、dodaエージェントサービスにおける転職希望者様のニーズをはかるべく実施したアンケートです。
前提として、dodaエージェントサービスではご登録いただいた転職希望者様に対し、キャリアアドバイザー(以下、CA)によるカウンセリングを実施し、その内容をふまえて求人紹介など転職活動のご支援を行っています。
このカウンセリングを受けていただくにあたってのご要望をアンケートでお聞きしたところ、最も多かったのが「カウンセリングの場でも求人紹介を受けたい」というお声でした。
アンケートの結果を受け、現状カウンセリング時に求人紹介ができていない背景にはどのような課題があり、転職希望者様のご要望に応えるには何が必要か、検討を進める中でスタートしたのが本プロジェクトです。
――カウンセリング内で求人をご紹介できていない、その背景にある課題とは?
百家:大きな要因の一つは、コロナ禍においてカウンセリングのあり方が変わったことです。従来は対面・90分間で実施していましたが、現在ではオンライン・60分間もしくは電話・45分間が主流になっています。
コロナ禍でも転職希望者様に機会をご提供しようとスタートし、多くの方々にご利用いただいているオンライン/電話 カウンセリングですが、非対面かつ限られた時間の中で、CAがキャリアの希望やお悩みを汲み取って転職希望者様と共通認識を作ることのハードルは高くなっていて。さらに求人紹介まで行う時間を確保することは、なかなか難しかったのです。
またオンライン化が進んだことで、転職に対するハードルが下がって「とりあえず登録してみよう」という方も増えており、その結果「doda」に十分な情報が登録されないケースも多くなっています。こうした情報不足によって転職希望者様のパーソナリティが事前に分からず、カウンセリングを充実させるための事前準備が難しいというジレンマもありました。
――その課題をどう解決しようとしたのですか? 取り組みの概要を教えてください。
後藤:人の力だけでニーズに応えられない部分は、やはりデジタルの力を借りるべきではないかと考え、目を向けたのが機械学習でした。現在「doda」やパーソルキャリアの基幹システムではAIや機械学習を使った取り組みをさまざま適用しており、今まさに力を入れていきたいこの領域が課題解決の手段になり得るのではないかなと。今回は、機械学習を活用したレコメンドで求人の自動紹介を実現しようと取り組むことにしました。
――具体的に、どんな仕組みで求人紹介や転職希望者様とのコミュニケーションが行われるのですか?
百家:まずは転職希望者様のご登録情報や「doda」サイト上での行動履歴、「doda」に蓄積された過去の転職データなどをもとに「このような求人を求めているのではないか」と推測し、該当する求人をご紹介します。
その後カウンセリングを行い、自動紹介した求人をたたき台として転職希望者様の考えるキャリアの方向性や本当に求める求人について、認識のすり合わせを行う流れです。
自動紹介を挟むことで、「早く求人が欲しい」というニーズに応えるとともに、転職希望者様の思いを的確に反映したCAによる求人紹介にも素早く繋げられればと考えて始動しました。
後藤:自動紹介の際には、データをもとに求人を自動でご紹介していること、この求人をもとにカウンセリングで方向性を定めていくことをメールでご案内します。またメールで「登録情報が充実すれば、より適した求人のご紹介ができます」とお伝えすることで、登録情報不足やレコメンドの精度面の課題にもアプローチできればと考えています。
関係者間で丁寧に認識を合わせ、互いに意見や提案を出し合って大規模プロジェクトを推進
――今回のプロジェクト内での皆さんのお役割について教えてください。
百家:私は営業企画として、プロダクト担当者の方と対話しながらCAさんのオペレーション観点で企画を考える立場です。ある程度企画が形になったところで後藤さんにお渡しし、「どうシステム実装していくべきか」を一緒に考えていきました。
後藤:私はITコンサルタントとして、折原さんはじめシステム部門の方も巻き込みながら、システム化するにあたっての課題や企画の実現のために必要なことを調整していく、プロジェクトマネジメントを担当しています。
折原:今回レコメンドのロジックをデータサイエンスグループの方々が担当されており、そこで出していただいた案件を基幹システムに取り込んでメール送信する部分の実装を私たち内製開発チームが担いました。
――どんな流れでプロジェクトを進めてきたのでしょうか。
後藤:機械学習を活用する上ではやはり精度の課題があるため、はじめに検証を行ってから全体展開を目指すことに。まずは、データが現状あまりない中でどうすれば関係者の方々に納得してもらえるかを慎重に考えながら、時間をかけて仮説を立て、システム部門の方々と実装について検討を進めていきました。
折原:今回はあくまで検証のためスモールスタートで、効果を見ながら進めていこうと、いくつかの実装案をご提案させていただきました。
――プロジェクトを進める中で、特に工夫した点などはありますか?
百家:求人は人材業界における一番の商品とも言え、転職希望者様が求めるものだからこそ、CAさんが一番こだわっている部分の一つです。そのため、機械学習で抽出した案件についてCAさんに「ご自身だったらこの案件をご紹介しますか」とお聞きし、「これなら私たちも紹介するから、安心して転職希望者様にご提案できる」という意向をしっかりと確認していきました。
そのようなCAさんの目線やご要望を適宜ききながらプロジェクト側にフィードバックし、レコメンドロジックや実装方法を改善してもらうことで、実際に現場で使ってもらえるシステムにすることは特に意識したかなと思います。
後藤:そういったご提案はぜひいただきたいですし、納得感があれば可能な限りご対応したいと思っており、要件定義の段階でもプロジェクトメンバーの皆さんにお伝えしていました。開発側でも「今のタイミングでどこまでできるか」と意見を出していただき、目的やそれに合う手段をすり合わせて進めていきましたね。
百家:またCAさんのオペレーションに変化が生じ、大きな負荷がかかってしまわないよう、できる限りナチュラルにインストールすること、CAさんに不安を与えないよう「CAの仕事がデジタルに置き換わるのではなく、転職希望者様の思いを整理するための武器として導入したい」という目的をしっかりとご説明することも重視しています。
後藤:プロジェクトマネジメントでは、関係者間でいかに認識を合わせられるかが重要になります。今回は特にCAさんや営業企画、システム部門の方々だけでなく、「doda」サイトの担当者やデータサイエンスグループの方々も巻き込んでのプロジェクトとなるため、認識合わせには特に注力しました。
まずはプロジェクトの背景や課題感、それに対する打ち手、目標・目的を正しく定めて「何をどこまでやるのか」を整理することに力を注ぎ、その上で各部署の方々に伝わる言葉で通訳するよう努めたことで、皆さんのご協力をいただけたかなと振り返ります。
――開発者の視点からはどうですか?
折原:データサイエンスグループの方々に作ってもらったレコメンドロジックの精度がどれだけ高くても、ご紹介する・ご紹介してはいけないものを弾くという裏側の仕組み部分がしっかりできていなければ、転職希望者様やCAさんの業務に大きな影響が出てしまいます。
そのため、丁寧に既存のデータやソースコードを調査すること、今回触らないものも含めてシステムの影響範囲を調べた上で仕様を提案することには特に留意しました。
また開発期間を短くするために、新規で作るのではなく既存のAPIなどを活かしたり、調査結果をふまえてこちらから実装方法をご提案したりと、日頃から業務理解を深めながら基幹システムの改善に取り組んできた、私たちのチームならではの動きができたかなと思っています。
後藤:「既存のシステムで見るとここに課題がありそうだ」「こういうところに注意しなければいけないのではないか」とシステムをベースに課題を提起し、解決方法の提案までしてくださって非常に助かりました。
企画に言われたことをただやるのではなく、柔軟かつ主体的に動いていただけたところに、システム部門の皆さんのスキルとマインドセットの高さを感じますし、内製開発っていいなと思わされましたね。
システムの力を活かし、CAが転職希望者様の方々と向き合いやすく、多くの方により良い転職体験を得ていただける環境を作る
――プロジェクトの現在地と、今見えている成果があれば教えてください。
後藤:2023年7月にリリースし、8月から検証がスタートしました。CAさんにヒアリングを実施して「実際にどのような効果があったか」をはかるとともに、求人への応募率や転職成功率などの定量情報もふまえ、効果の検証や判断を進めています。
百家:定性的な部分では、CAさんから「事前に届いた求人をもとに転職希望者様と目線合わせができ、カウンセリングがやりやすくなった」と嬉しいお声をいただきました。この部分は狙い通りで、やってよかったなと感じています。
折原:開発観点では、今回データサイエンスグループと連携したのはシステム的にも組織的にも初めてのことでした。基盤の方、AWSに詳しい方を巻き込みながらプロジェクトを進め、これまで接続実績のなかったAWS上の分析基盤と、オンプレ環境にある基幹システム側のサーバーをつなげられたことが大きな成果だと感じています。今後のプロジェクトで連携が必要になった際に、今回築いた仕組みが活かせるかなという手応えがあります。
――次のフェーズではどんな課題に取り組んでいくのですか?
後藤:定量面で、当初「カウンセリング前に求人が提案されることでリードタイムが短縮され、求人への応募率が高まるのではないか」と仮説を立てていましたが、現段階では有意差が確認されていません。現在はこの結果をもとに「カウンセリングにおける行動変容があったか、なかったのか」「なぜ有意差がでなかったか」の検討を進めています。
これまでデータがなく仮説でしか会話ができませんでしたが、今回のプロジェクトを経て「今回の取り組みのままでは結果が出ない」と明らかになり、次の手が打ちやすくなったかなと思うので、今後深掘りしていきたいところです。
百家:またより良いご提案ができるよう、レコメンドの精度を高める努力を続ける必要がありますし、せっかくのご紹介が「doda」からお送りするメールの中に埋もれてしまわないよう工夫するなど、細やかなチューニングも今後の課題になるかなと思います。
――ありがとうございます。それでは最後に、皆さんが今後チャレンジしたいことを教えてください。
百家:CAのみなさんがより転職希望者様と向き合いやすくなり、多くの方により良い転職体験を得ていただけるよう、システムの力も使った改善に引き続き取り組んでいきたいと思っています。
また今回のプロジェクトでは、折原さんをはじめシステム側の方々のお顔が見える状態で、うまく連携しながら企画ができたなと思うので、今後もこの点を継続して。よりフロントとテックの距離が近く、うまくプロジェクト推進ができる状態を作っていければと思います。
折原:百家さんのおっしゃる通り、企画・ITコンサルタントの方々と一緒に近い立場でやれたことがよかったなと思っています。企画や要件定義から関われるのは内製開発のエンジニアだからこそだと思うので、今後も初期段階からプロジェクトに関わり、システム面からのご提案をしていきたいです。また業務や事業に対する理解をより深めて、そういった視点もふまえた提案をしていければと思います。
後藤:今回のように各部署がしっかりと連携していけるよう、効果やROI、プロジェクトの目標などに対する認識をしっかりと合わせていくことを引き続き意識したいと思っています。
またこのプロジェクトには、データが溜まっていない・可視化されていないといったシステム面での課題もまだ残されているため、そういった部分にもアプローチしながら、アジリティ高く効果を生み出していければと思います。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)
後藤 拓馬 Takuma Goto
エージェント企画統括部 エージェントプロセス&システムデザイン部 カスタマープロセスデザイングループ サブマネジャー
新卒でSIerに入社し、エンジニアとしてシステムの開発・保守を数年経験。徐々に上流工程を担当することが増え、事業会社の複数領域にて開発ディレクション、プロジェクトマネジメントに従事。 その後、より事業に近い位置で仕事をしたいという想いから、2021年12月にパーソルキャリアに入社。現在は主に基幹システムの開発プロジェクトやアーキテクト改善プロジェクトを担当。
百家 寿紀 Toshiki Momoka
エージェント企画統括部 カスタマー企画部 カスタマー企画第2グループ
2021年12月にパーソルキャリアに中途入社。前職では、通信会社のtoCの営業戦略立案や販売チャネルのDXを経験。現在はdodaエージェントサービスの顧客体験価値向上の施策立案やキャリアアドバイザーの営業企画を担当している。
折原 剛 Tsuyoshi Orihara
エンジニアリング統括部 エンタープライズ開発部 dodaエージェントシステム開発グループ エンジニア
新卒でメーカー系SIerに入社し、主に官公庁向けなどの業務システムのアプリケーション開発に従事。製造~PLなどを経験し、2020年10月にパーソルキャリアに入社。現在は、内製開発チームにて、主に社内基幹システムのアプリケーションの開発を担当している。
※2023年10月現在の情報です。