普及率は60%超!――パーソルキャリア版生成AI「ChatPCA」の活用が進むワケとは

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2023年11月、パーソルキャリア版生成AI「ChatPCA(通称:ChaP チャッピー)」がリリースされ、業務への導入と普及が進められてきました。7000名近い社員が在籍する中でどのように生成AI活用を進め、普及率60%以上にまで至ったのか――。

今回は、本プロジェクトを主導するリードエンジニアの久保田と、dodaエージェント事業部でキャリアアドバイザーによる「ChatPCA」活用の促進をリードするゼネラルマネジャーの住永に、話を聞きました。

 

セキュアな環境で、業務に活かせる“パーソルキャリア版生成AIならでは”の機能を提供する

 

――まずは、「ChatPCA」の概要から教えてください。

久保田:「ChatPCA」は、ほぼすべての社員を対象に提供しているパーソルキャリア社内専用の対話型 生成AIです。

アクセスできる端末は、全社員に会社が貸与している標準PCのみに制限したセキュアな環境において、「入力に対してAIによって生成された回答を得る」という一般的なチャットの機能に加え、パーソルキャリアに特化した機能も提供しています。

デジタルテクノロジー統括部 生成系AIエンジニアリング統括部 生成系AIエンジニアリンググループ リードエンジニア 久保田 彗

デジタルテクノロジー統括部 生成系AIエンジニアリング統括部 生成系AIエンジニアリンググループ リードエンジニア 久保田 慧

 

――パーソルキャリアに特化した機能として、具体的にどのようなものがありますか?

久保田:世の中にある一般的なデータを取得できるのはもちろんのこと、別途「社内文書検索」という機能も実装しており、人事規定や社内用語、コンプライアンス関連資料などの社内ドキュメント(全社員がアクセス可能なものに限る)をソースとしたデータの取得もできるようになっています。

また、例えばプロンプトを提案する「サジェスト機能」については、ログイン情報からユーザーが所属する事業部を判別し、その事業部に特化したプロンプトを提案するなど、ChatGPTの機能に社内版ならではの要素を追加しました。

活用の効果を実感してもらうためにも、しっかりと業務に活かせるような機能を提供したい、という思いで開発を進めています。

 

現場の自発的な取り組みで認定試験まで!?――全社的な取り組みとの融合で活用が進む

普及率は60%超!――パーソルキャリア版生成AI「ChatPCA」の活用が進むワケとは

――続いて、「ChatPCA」の活用推進がどのように行われてきたのか、取り組みの軌跡についてお聞きしていきます。まずプロジェクトとしては、どのような方針でスタートしたのでしょうか。

久保田:まずは利用する社員の母数が大きく、かつ職種や業務内容と生成AIとの相性がよい部署から順に展開し、しっかりと普及率・利用率を高めていこうという全体方針を掲げました。この方針のもと初めに推進に取り組むことになった部署の一つが、dodaエージェント事業部です。

もちろん全社員に使っていただきたいという思いはありますが、プロンプトの作り込みが求められる傾向にあるクリエイティブな業務や、高い正確性が求められる法務領域などは、より社内利用が進んで機が熟してから踏み込んでいこうと判断しています。

 

――「ChatPCA」を起点として生成AI活用を強力に推進していく方針が打ち出された時点で、現場におけるテクノロジー活用の状況や、皆さんの受け止め方としてはいかがでしたか?

住永:パーソルグループとして “HR×IT” に力を注いでいく方針はかねて打ち出されており、この10年ほどでIT部門が強化されてきて変化が起きていること、新たなテクノロジーを受容する気運が高まっていることは、現場にいながら肌で感じてきました。

dodaエージェント事業部 転職支援統括部 CAIT部 ゼネラルマネジャー 住永 正

dodaエージェント事業部 転職支援統括部 CAIT部 ゼネラルマネジャー 住永 正

とはいえ、全社でChatPCAの活用を推進すること、事業部として普及率を高めていく方針が示された当初は、現場には抵抗感があったというのが正直なところです。得体の知れないテクノロジーに対して「そもそもChatGPTとは?」から始まる人も多かったはずで、単に仕組みが導入されただけでみんなが使いこなせる状況に至る、というのが難しいことは明らかでした。

そうした背景からdodaエージェント事業部の有志メンバーで、実は全社的な展開が始まる4ヶ月ほど前から「ChatGPTを使って何ができるか」を研究する取り組みが始まったのです。

 

――具体的に、どのような取り組みが行われていたのですか?

住永:みんなに使ってもらうには「いいものが出る」と思ってもらう必要があると考え、まずは実際にChatGPTを触って「こんなことができる」と示すためのいくつかのプロンプトを準備することから始めました。

リリース後は、みんなにChatPCAでできることを知ってもらい、よいプロンプトを参照したりコピーしたりできるサイトを作りました。自由にプロンプトの開発に挑戦し始めたメンバーを対象にコンテストを実施し、そこで実際にさまざまなプロンプトが生み出され、さらにそうした動きを公式化していくために「プロンプトを作り、かつ隣の人に教えられるか」を認定する試験を作って……さまざまな取り組みを行っているうちに、自然とChatPCAを存分に活用しているメンバーがたくさんいるような状況に至っていました。

 

久保田:取り組みの評判から、ChatPCAの活用をテーマにした全社イベントに住永さんが “ChatPCA活用の達人” として登壇されることになり、それを機に次第にプロジェクトとしての取り組みとdodaエージェント事業部での住永さん主導の取り組みが合流していきましたよね。

普及率は60%超!――パーソルキャリア版生成AI「ChatPCA」の活用が進むワケとは

住永:久保田さんとやりとりさせていただく中で、また現場に入り込んでメンバーからのQAに対応いただいたりする中で、「次はどんな機能を開発していくべきか」「どのような分析データが必要か」をともに考えるところまで連携が深まっていった感覚です。

 

――お話を伺っていると、特にキャリアアドバイザーの組織では、これまでのやり方を踏襲しながらも、テクノロジー活用を考える組織に変化しているように感じました。その変化の秘訣はどこにあったのでしょう?

住永:さまざまなことが起因したと思いますが、一つ確実に言えることは、新しく入社された方々によって風が吹き込まれたことだと思います。

長く現場経験があるメンバーからすると、どうしてもこれまでのやり方の方が早いし、変える理由がないんですが、新しく入社してきた方々は業務プロセスや事業部独自のルールなどわからないし、これから作り上げていくんですよね。

その中でChatPCAのように「これ、使えるぞ」というものが出てくると、使うことがマジョリティーになり、だんだんとそれが文化になって浸透していく――組織文化づくりにおいてとても重要だな、と感じました。

 

ChatPCAの活用が浸透し、今や業務に “欠かせない相棒” に

――dodaエージェント事業部における「ChatPCA」活用の現在地について教えてください。

住永: キャリアアドバイザー領域では、ミーティングの議事録作成や一人ひとりの活動振り返りなどにも活用しているほか、業務にも組み込んでいます。

例えば、これまでは転職希望者様に作成を依頼していた職務経歴書ですが、我々がヒアリングした情報をもとに、キャリアアドバイザーがChatPCAを活用して素案を作成し、ご提案しています。転職希望者様とすり合わせながら完成させていくフローに変更したところ、職務経歴書の作成時間を大幅に削減し、転職活動開始までのリードタイム短縮につなげています。

また、転職希望者様のスキルや経験をより詳細に可視化することにも活用が進んでいます。それにより、これまで以上に多くの選択肢から転職希望者様の強みを活かしたキャリアをご提案することができるようになりました。この取り組みによって、マッチング度合いも向上し、面接に進まれる転職希望者様が約3割増加*1しました。

 

久保田:私から「これを使った方がいいですよ」とアドバイスをしたことはほとんどなく、現場で自発的に活用に挑戦し始めた皆さんを起点に、普及していったのはすごいですよね。

 

住永:そうですね。もちろん習熟度の差はありますが、1年前には「プロンプトって何?」という状況にあったメンバーが「どう工夫してChatPCAで業務を効率化するか」「この業務にChatPCAを活かすには?」と考えて使いこなせるようになっているというのは、大きな変化だと感じます。中には「もうChatPCAがないと仕事ができない」と言えるレベルになってきている人もいるんです。

 

久保田:全社で実施したアンケートでも「ChatPCAは欠かせない相棒です」「もっと活用したい」といった声がさまざま聞かれており、やはり皆さんの期待感の強さを感じますね。

 

――dodaエージェント事業部において、業務のさまざまな場面で自発的に「ChatPCA」が活用されるに至った要因は、どのようなところにあると思われますか?

デジタルテクノロジー統括部 生成系AIエンジニアリング統括部 生成系AIエンジニアリンググループ リードエンジニア 久保田 彗

久保田:まずはやはり生成AIのポテンシャルという要素が大きいと思います。活用の仕方がイメージしやすく、一度触ってみれば「こんなに性能がいいんだ」「ここまで自分の業務に当てはめて使えるんだ」と実感できる。そして皆さんが驚くようなスピードで進化を続けている、といったことが活用の後押しになっているのではないでしょうか。

 

住永:そうしたポテンシャルが、先ほどの話のように入社者をサポートしたことで文化を作り、活用を広げることができた要因だと思います。

加えて、もともとパーソルキャリアに根付いている「いいものはすぐに共有する」「誰かがやっているものに倣うことを是とする」という文化がある点も、こうした動きを助けたように感じます。

私自身、長くこの会社で現場を見ていますが、「いいものだ」となったら社内であっという間に広がり、そのナレッジや新たな取り組みも浸透していきます。これはたぶん弊社の特徴ではないかと思いますね。

ほかに取り組みの進め方の観点では、有志のメンバーから取り組みを始めて公式化していくというボトムアップの動きと、代表者を募って情報共有会を行うという組織全体としてのトップダウンの動きを両方進めたことで普及が加速したのかなと。

dodaエージェント事業部 転職支援統括部 CAIT部 ゼネラルマネジャー 住永 正

あとは、久保田さんの存在もとても大きかったですね。密にコミュニケーションをとってマーケットインの発想で開発をしていただくおかげで、“現場が必要としているもの” に近づきやすくなりますし、ご自身の考えや他事業部の取り組みについて早めに情報共有をしてくださるので、「それならこんなことが考えられるね」「うちでもこんなことができるかも」と取り組みの幅が広がっていった感覚があります。

 

久保田:嬉しいですね。私から見える部分は限られますから、ユーザビリティを高めるためにはやはり業務のスペシャリストである現場の皆さんの声を聞きたい、積極的に話を聞いてアイディアをもらいたいという思いで進められたのがよかったなと思います。

 

さらなる普及と生産性の向上――そして社内に閉じない”外向き”な取り組みへ

――この取り組みを通じてお二人がチャレンジしたいこと、目指す世界観についてお聞かせください。

住永:ここまでのChatPCAの普及を追うフェーズから一歩進んで、生成AIを活用して生産性を高めることを追求するフェーズに入ったと捉えています。

生成AIの活用によって顧客接点を最大化し、人が介在するエージェントサービスならではの揺らがない価値をさらにレベルアップさせていきたいですし、「生成AIを活用して営業組織の生産性を高めるモデルはこれだ」と言えるものを確立し発信することを通じて、業界や日本においてリーディングカンパニーと言える存在になっていきたいと思います。

普及率は60%超!――パーソルキャリア版生成AI「ChatPCA」の活用が進むワケとは

久保田:AIを活用して今までできなかったことができるようになり、「自分にはこんな強みがあるんだ」と自信が持てるようになる。そんな “武器” として、社員の皆さんの “可能性を広げるツール” としてAIを使ってもらえるように、全社で啓蒙活動を続けていきたいと思っています。

 

――その実現に向けて、どのようなアプローチが必要だと考えていますか?

久保田:まずはパーソルキャリアに特化した使いやすい機能を開発すること、分析データをより良いものにしていくことで、まだ思うように活用が進んでいない組織を後押ししたいですし、それが業務効率を高めることに繋がればというのが、開発PMとしての思いです。

また現在、住永さんと連携してChatPCA活用の効果を測定するためのデータ基盤作りを進めており、こうした取り組みを通じて生産性の追求に貢献していけるのではと考えています。

 

住永:取り組みを社内に閉じずに、“外向き” になることも生成AI活用の可能性を広げていく上で一つ大切なポイントではないでしょうか。

 

久保田:そうですね。社内のメンバーが生み出したものを汲み上げるだけでは、成長の幅が限定的になってしまいますし、そう遠くないうちにアイディアも枯渇してしまうはずですから。社外でもコミュニティを築いて、しっかりと情報を取り入れていきたいですね。

同じく可能性を広げるという観点では、取り組みをChatPCAだけに閉じず、さまざまなテクノロジーに波及させていくことが望ましいのかなと個人的には思っていて。ChatPCA活用が普及したその次の段階として、例えばノーコードツールを使って営業職のメンバーがシステム開発を行う、といった世界線にまで広げていければなと思い描いています。

 

住永:ChatPCAを別の業務システムに組み込むことで、プロンプトをわざわざ組み入れなくても自動で必要な情報が得られる、というような世界線も、現場の生産性を高めるという観点で考えられそうです。

……やることはまだまだ無限にありますね。引き続き、よろしくお願いします。

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――ありがとうございました!

 

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/写真=合同会社ヒトグラム)

dodaエージェント事業部 転職支援統括部 CAIT部 ゼネラルマネジャー 住永 正

住永 正 Tadashi Suminaga

dodaエージェント事業部 転職支援統括部 CAIT部 ゼネラルマネジャー

パーソルキャリアにて直接応募商材(求人広告、ダイレクト・ソーシング)・人材紹介の法人営業両部門においてマネジメントを経験し、現在はdodaエージェント部門 キャリアアドバイザーのゼネラルマネジャーを務める。また、当社新卒採用/中途採用の面接官も担っている。個人の志向性に向き合ってきたキャリア、面接官としての実務経験の双方から、法人企業への採用面接における研修を実施する等、採用面接のアドバイスを行う。

デジタルテクノロジー統括部 生成系AIエンジニアリング統括部 生成系AIエンジニアリンググループ リードエンジニア 久保田 彗

久保田 慧 Kei Kubota

デジタルテクノロジー統括部 生成系AIエンジニアリング部 生成系AIエンジニアリンググループ リードエンジニア

前職のSIer企業ではシステムエンジニアとして、ドローン自動航行モバイルアプリの開発・大規模ECサイトのデータ移行リード・自社サービス開発に従事。

パーソルキャリア入社後は、ChatPCAの開発・分析プロジェクトでPMを務め、積極的な事業部連携を通じて全社へのAI活用を推進。同時進行にてDX系プロジェクトのPMも複数担当。

副業では個人事業主としてAIコンサルティングから開発、AI活用研修まで幅広く携わっている。

※2024年11月現在の情報です。

*1:同社ミドル企画チームが2024年4月に担当した面接に進んだ転職希望者の人数に対し、2024年8月の同人数を比較