パーソルキャリアでは、人事部門とデータ部門の連携による「人事データ活用」についての議論・取り組みが進められています。
techtektではこれまで、取り組みを主導するゼネラルマネジャーによる対談や、具体的なプロジェクト事例についての記事をお届けしてきました。
今回は、この「人事データ活用」をめぐって協業する人事データ推進グループの田中、須藤と、デジタルテクノロジー統括部 リードストラテジストの長谷川による座談会を実施。取り組みの軌跡と現在地、そして今見据える課題や展望について、話を聞きました。
- 環境が徐々に整っていく中で生まれる、データ活用への期待と課題意識
- 5年間の取り組みを通じて人事としての視座やスキルが高まり、データ活用を支える組織体制が築けた
- データ活用の取り組みが組織風土として根付く、一人ひとりが誇りに思える人事組織を目指す
環境が徐々に整っていく中で生まれる、データ活用への期待と課題意識
――まずは、これまでどのような取り組みが行われ、人事データ活用をめぐる状況がどのように変化してきたのか、振り返りからお聞かせください。
田中:人事データ活用の発端は5年ほど前からだったかと思います。当時の状況を振り返って率直に表現するならば、「人事データを活用するぞ!」とはいうものの、まだデータ分析・活用するスタートラインにも立てていなかったかもしれません。
基盤として人事システムはあるものの、データは部署ごとに縦割りで管理され、全体を見通すことのできる “共通のデータ” と呼べるものではありませんでした。そしてこのバラバラのデータをもとに、各部署に点在するExcelスキルを持つメンバーが、部署によって異なる定義や条件に則って集計を行っていたのです。
こうした、データも、それを扱う体制や育成の仕組みなども統一化されていない状況において、「同じ指標でも部署によって出す数値が異なり、どの数値が正しいのか分からない」というデータの不正確さが課題になっていました。
須藤:当時は「ピープルアナリティクス」や「戦略人事」といったキーワードでセミナーなどが活発に行われており、社内でもそうしたテーマに興味を持つメンバーはいましたが、まだ組織として取り組んでいこうという気運は高まりきっていなかった印象です。
――そうした課題をふまえ、2021年にBIツール「Anaplan-HR」が導入されましたね。
田中:Anaplan-HR上にさまざまなデータが集約されて、みんなが統一されたデータを・統一された切り口で見られる環境が整い始め、またこの頃には、オペレーションやツールの扱い方についての社内研修をはじめ、体系的な学びの場も提供されるようになりました。
その成果として、データ集計の工数は当初と比べて削減され、“データの民主化” や “データ起点で語ること” も少しずつ叶ってきた頃だと捉えています。
長谷川:「データを活用して何かやりたい」という思いが各部署で生まれていきましたね。
とはいえ、当時はまだAnaplan-HR上のデータを自由に出し入れすることは難しい状況でしたし、データ活用をリードできる人材が各部署にいたわけでもありませんから、「取り組みたいけれど、何をすればいいかピンとこない」「興味はあるけれど、具体的にどうしていくべきか」という期待感とモヤモヤがあったのかなと。
田中:そうですね。まずはAnaplan-HRでデータがしっかりと可視化されたことのインパクトが大きく、期待が高まっていきましたが、同時に「BIの機能を超えた企画や戦略策定を行えるようになるためには、まだこれから育成によるナレッジや経験値の蓄積をしていかなければいけない」という課題も意識されていました。
5年間の取り組みを通じて人事としての視座やスキルが高まり、データ活用を支える組織体制が築けた
――Anaplan-HR導入から3年ほどが経ちますが、どのような変化がありましたか? 取り組みの変遷と、人事データ活用の現在地について教えてください。
長谷川:Anaplan-HRで徐々にデータの可視化やデータを活用した企画が生まれてくる中で、よりパーソルキャリアにカスタマイズして、柔軟に人事戦略に合わせた活用を進める必要が出てきました。
そこで内製にて人事データ基盤を構築したのが2021年。そこからGoogle社が提供するBIツール「Looker」を使って、よりカスタマイズされたデータ分析環境を整えたことが大きな変化でしょうか。
須藤:この新たなシステム環境への移行によって、システムを使えるメンバーの数が倍ほどに増えたほか、新たな軸で分析を行うためにデータセットを入れるといったこともしやすくなりました。
田中:データを見る環境が整ったのはもちろん、例えば今後人事データと他の部門のデータをかけ合わせたシナジーを生み出していくなど、さらにデータ活用の幅を広げていくことにも期待を持てる状態です。
――そうした期待を抱けるまで、データ活用人材の育成や評価という観点ではどのような取り組みが行われたのでしょうか。
長谷川:まずパーソルキャリア全体としてリテラシーを高めていくために、「そもそもデータ分析はどのような流れで進めるのか」「データのマネジメントとは?」といった基礎を伝えるプログラムを全社に展開しました。
その上で、やりたいことを実現するにはリテラシーだけでなく実務的なスキルも欠かせません。希望する一部の人事メンバーに対しては業務フローの整理やプロジェクト推進の仕方、開発、要件定義といったより具体的なテーマを扱うプログラムも提供しています。
その中で「チャンピオン」と呼ばれるデータ活用人材を育成し、次はチャンピオンを中心にまた人事本部内でのデータ活用を推進する――このサイクルを作っていくことで、「データに強い人事」を育成することで人事本部の強化を一緒に進めています。
またこうした育成プログラムを通して取り組んだことを人事評価といかに結びつけるかについても、仕組みづくりを行ってきました。
――ここまでの取り組みを振り返って、手応えとしてはいかがですか?
長谷川:各部署にチャンピオン(データに強みをもつ人事)がいる状況を作れたことが、何より良かったと思っています。データを活用した取り組みを進めたいときにリードできる人がいること、そしてその人を中心に横の繋がりを生みやすくなることは大きいなと。
今後、例えば戦略人事と採用を繋げていこうとなったときに、どちらかの組織に負担が偏ることなく、両組織で「私たちのデータはこうなっています」「私たちはこうです。じゃあどうしていきましょうか」と議論していけることに、取り組みの進展を感じます。
田中:そうですね。この5年の取り組みを通じて、人事としてのオペレーションスキルやテータリテラシーが高まったことを実感していますが、今後さらにチャンピオンを軸にさまざまな取り組みが生まれたり、周りのメンバーにもナレッジが波及したり、チャンピオンどうしの繋がりから新たな取り組みのきっかけが生まれたりしていくといいなと思います。
データ活用の取り組みが組織風土として根付く、一人ひとりが誇りに思える人事組織を目指す
――現段階で、今後に向けた課題と捉えていることがあれば教えてください。
田中:チャンピオンの育成は進んできましたが、組織全体に目を向けた育成、リテラシーの底上げはまだ取り組む必要があると思っています。私たちが提供するデータやプログラムをいかに使ってもらうか、チャンピオンの後継者をいかに育てていくか、を考えていきたいところです。
もう一つの課題として捉えているのは、生産性の向上です。それぞれの部署で同じようなことに取り組んでいるケースもあるのかなと感じます。人事では同じオペレーションの繰り返しではなく新たな企画も求められるため、単純比較は難しいかもしれませんが、カバー率(人事メンバー1人あたりが見る社員数)を指標として見れば5年間生産性が変わっていないことには、事実として捉える必要があると思っています。
――課題の解決に向けて、どのようなアプローチが必要だと思われますか?
田中:「やらない」という決断が必要になるのかなと思いますが、どうでしょうか。
長谷川:そうですね。トレンドをキャッチしてさまざまなことに挑戦した結果として、業務が増えてずっと忙しく、生産性を高められない状況が生まれているように感じます。この「やらない」の決断ができないというのは、結局「これがやりたい」が明確でないということなのかなと。だからこそ、“地図” を描かなければいけないのだろうと考えています。
せっかくボトムアップの文化がある会社ですから、現場で描いた地図を吸い上げて組み合わせ、パーソルキャリアとしての大きな地図を描いていくのが理想なのではと思います。
――“地図” を描いていくために必要なこととは?
長谷川:個々のメンバーや管理職者、役員の中にあるそれぞれの地図をもっと表に出して、「こうしたいんだ」と対話していくこと、外部の方との交流を通じて「他社は何に取り組んでいて、自分たちは今どのような状態なのか」「どうすれば楽で、楽しいやり方にできるのか」をイメージすることが大切なのではないでしょうか。
またテクノロジーを担う立場としては、「人事の皆さんに必要な武器は何か」「皆さんが武器を使いこなすために必要な教育とは何か」も一緒に考えたいなと。
私たちがその武器を提供することが、地図を描いていくにあたって人事の皆さんが「こうした方がいいのでは」と “人事として考える 向かうべき方向” を見極めたり、その考えをもとに声をあげたりする後押しになるのではないかなと思います。
――ありがとうございます。それでは最後に、人事データ活用の取り組みを通じて皆さんが目指す世界観についてお聞かせください。
長谷川:私が思い描いているのは、考えて動ける人材とその武器の両方が揃い、“全員がCHRO” となるような世界です。
メンバーの皆さんは学ぶ意欲やキャリアの指向性が強く、思考力や行動力もある方々ですから、そんな皆さんに外と繋がる機会を提供して新たな視点を取り入れてもらうこと、プレゼンスを高めるために必要な武器を見極めて提供することに取り組んでいければと思います。
須藤:ここまで長谷川さんのお力を借りて取り組みを進め、育成や環境の整備ができたので、今度はこの人事データ活用の取り組みを “組織風土” にしていきたいなと思っています。そのための仕掛け作りに、また一緒に取り組んでいければ嬉しいです。
田中:目指すのは、皆さんがパーソルキャリアの人事本部のメンバーとして「うちの人事っていいな」と思うことができ、さらに「パーソルキャリアの人事ってすごいよね」と他社からも認知されている状態です。
そのために、皆さんが作りたいものを自分で構築できるような大元の環境を用意したり、一人ひとりのスキルや「次のステップで何が求められるのか」を可視化して学びを加速させられるような仕組みを作ったりと、環境と教育の両面で整備を進めて、メンバーが主体的に必要なものを取捨選択できる状況を作っていけたらと思います。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=合同会社ヒトグラム)
田中 圭 Kei Tanaka
人事本部 人事マネジメント統括部 人事デザイン部 人事データ推進グループ マネジャー
大学卒業後、不動産会社に入社。人事部門に配属され、主に労務管理・人事評価制度企画/運用・人事諸システム導入/運用などの業務に従事。2020年にパーソルキャリアに入社。現在は人事システムや人事データを活用したデータドリブン人事を推進している
須藤 明日香 Asuka Sudo
人事本部 人事マネジメント統括部 人事デザイン部 人事データ推進グループ
教育業界で営業職、美容業界で専門職に従事した後、2014年パーソルキャリアに入社。戦略人事部、組織人材開発部での各種人事データ集計、組織文化・エンゲージメントサーベイ、人材アセスメント活用の施策設計・運用・分析経験を経て、現在ガバナンス・データ推進グループで人事データの見える化システム運用による業務効率改善及び利活用促進、人事社員のデータリテラシー向上などに取り組んでいる。
長谷川智彦 Tomohiko Hasegawa
デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 ビジネスグループ リードストラテジスト
2020年にパーソルキャリアに新卒で入社。自身でもデータ分析を行いつつ、社内でのデータ活用の企画立案やPMに従事。現在は人事領域でのデータ活用を進めるためにBI開発やデータ分析PJTを進めつつ、社内でのデータ活用リテラシー向上のための勉強会を開いている。
※2024年10月現在の情報です。