転職者のコミュニティサービス「転職同期」。開発の成果と反省を語り合おう

転職同期

2019年12月、パーソルキャリアは転職後の“はたらく”を支援するサービスをリニューアルしました。その名も「CAREER POCKET」(通称:キャリポケ)。第一弾としてリリースされたのが、転職者同士をつなげるコミュニティサービス「転職同期」です。近い時期に転職した人(=転職同期)同士のコミュニケーションを目的とした、CtoCサービスです。

立ち上げ当初のイメージを追い求め続けた転職同期の開発プロジェクト。サービスの成果や開発の裏側を聞く予定だったインタビューは、いつの間にかプロジェクトの反省会へ……? サービスオーナーの齊藤陽と、エンジニアの江口拓弥、デザイナー兼サービス企画を担当した齋藤翔大に語り合ってもらいました。

SNS世代のアフターサポートは「プロの手」ではなく「口コミ」で

——そもそも、転職同期とはどのようなサービスなのでしょうか?

(齋藤)翔大:簡単に言うと、同じ時期に転職したユーザー、いわば“転職同期”のリアルな発言をタイムライン上で共有して、ユーザー同士が交流を行うコミュニティサービスです。フォローした人の投稿が並ぶタイムラインの他に、自分と同じ職種や、近い時期に転職したユーザーの投稿が表示されるタイムラインを作ることもできます。

——転職先の企業では横のつながりは薄くなりがちですもんね。時期や業界などの共通項を持った新しい繋がりを作るためのサービスなんですね。

翔大:そうです。サービスを通じて、同期はもちろん、同業の先輩や後輩と交流したり、転職後の相談に乗ってもらったりもできます。

以前は「dodaキャリアライフサポート(以下、CLS)」という名称でサービスを運営していたんですが、これはフォローの対象者がdoda会員に限定されていました。そこからより広くタッチポイントを持つためサービスを拡張して、リニューアルされたのが「CAREER POCKET」。転職同期はその新しいサービスのうちのひとつです。

——CLSではどういうサービスを提供していたのでしょう?

翔大:メインは、専任のコンサルタントに転職後の“はたらく悩み”に関する相談に乗ってもらえるサービスです。ユーザーの満足度もかなり高かったので、キャリポケでも専任コンサルタントによるアフターフォローは継続して行うことになっています。

齋藤翔大

▲サービス企画開発本部 サービス企画統括部 サービス企画部 グループリーダー 齋藤翔大

——プロによるフォローもありつつも、転職同期の肝はCtoCサービスにあるかと思います。ユーザー同士でサポートし合う仕組みにしたのはなぜなのでしょうか?

(齊藤)陽:サービスターゲットである20代や30代の若い方を意識した結果です。彼らはTwitterで誰かの投稿を読んだり、知りたい情報があったらInstagramで口コミを検索したり――といったSNSでのコミュニケーションを日常的に行う世代ですから。「なんだか最近会社に行きたくないんだよね……」みたいな愚痴をSNSにポロッと出してしまうことって多いと思います。そこを狙いにいきました。

——確かに、面と向かって誰かに相談するほどでもないような悩みは、SNSで軽くつぶやきがちですね。

:こうしたユーザー同士のコミュニケーションサービスにしたのは、運営目線の都合もあって。これからキャリポケのユーザーが増えていった時に、一人ひとりの相談にプロがマンツーマンで対応するのはどうしても限界があるんです。プロによるサポートと並走してくれる、別のコミュニティが必要だろうと考えていました。

それにサービスとしては、生の声がぶつかり合う場所でないとユーザーには響かないと思ったんです。プロが手を差し伸べるのではなく、ユーザー同士が揉み合って文化ができていくほうが、現代のサービスとして自然なのかな、と。

齊藤陽

▲サービス企画開発本部 サービス企画統括部 サービスオーナー部 ゼネラルマネジャー 齊藤陽

翔大:この考え方は、パーソルキャリアの会社のミッションにも繋がっているんですよ。「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」というミッションは、あくまでもその「力」を提供するのであって、「あなたに合った働き方はこれです」と一方的に提供するものではないと思うんです。

仕様の決定打となったDesign Sprintの力

——そもそものサービスのコンセプトはどういった経緯で生まれたのでしょうか?

翔大:企画コンセプトは、テクノロジー本部責任者の柘植(悠太)さんと僕との間でキャッチボールをしながら組み立てていきました。それをもとに、エンジニアチームがDesign Sprintを通して今の形にしていった、という流れです。

僕は2015年に入社して3年間、営業部にいたんですが、サービス企画がやりたいと思って、サービス企画開発本部の前身である個人企画部に異動してきて。サービスに立ち上げから携わるのは、この転職同期が初めてなんです。なので、時間をかけて柘植さんと企画を詰めていきました。

——そこで、開発に着手するにあたり、エンジニア側がコンセプトを改めて揉んでいった、と。

江口:そうですね。エンジニアとデザイナー、それぞれの視点から転職同期を見て、どうすれば良いサービスにできるのか、他にどういうアイデアを取り込めばいいか、というのを提案しながら形にしていきました。

Design Sprintって、企画を「揉む」場所というよりも、「突き詰めて、具体的な形にしていく」場なんですよ。4日という短期間で仕様を決め切るのが目的なので。

江口拓弥

▲サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エンジニアリング部 サービスデベロッパーグループ シニアエンジニア 江口拓弥

:Design Sprintを行ったのは、当時の企画コンセプトがまだフワっとしたものだったからです。具体的に、どんな機能と人員が必要なのか、そもそも技術的に作れるのか――全てが未知数すぎたので、一度きっちり考える場を設けたい、とエンジニア側から働きかけがあったんです。

新しいサービスを立ち上げるにあたっては、「ビジネスモデル」「プランニング」「デベロップメント」の3要素を明確にすることが必要です。この3要素のうち、企画の時点で足りなかった「デベロップメント」がDesign Sprintによってようやく埋まった感じですね。

——Design Sprintを行って、やっと開発に走り出せるようになった、と。開発にあたっては、具体的にどういった機能や技術を使ったのでしょうか?

江口:ユーザーの認証プラットフォームには、Auth0を使っています。dodaとは独立しているサービスなので、参照するデータベースは、登録時に個人情報を入力してもらっています。GoogleのFirebaseを使っているんですが、ただ、開発途中に、SNS規模のコミュニケーションサービスはFirebaseだけでは機能が足りないと判断して、最終的にCloud SQLも使うことにしました。

——その他、開発にあたって苦労したことはありましたか?

江口:ページやタブのスタイルなどの仕様を最終決定するところで大変な思いをしましたね。後から仕様の変更があることを見越して、プロジェクト開始時に細かい仕様が固まっていないままの状態で走り出してしまったんです。それぞれの機能やページを、わざと細かい部分まで詰め切らず作っておいて。ただ、これが、後々に大変なことになったんです……。

あえてゆるく作っておくことの落とし穴

——なんだか聞くのが恐ろしい……。一体、どんな大変なことが起こったんですか?

江口変更が入る前提ということは、はっきりいうと「それぞれの要素の必要性や存在理由が、突き詰められていない」ということなんですよ。その状態のものをまとめあげてても、できあがったものはコンセプトがそろっていない寄せ集めになってしまったんです。

転職同期

——サービス全体で一本筋が通った状態になりえない、ということでしょうか?

:そうですね……。ニュアンスが難しいので、ロボット開発にたとえて説明しますね。

——ロボット……?

:はい。ロボットを作る時は、機体の役割や目的を決めた上で、「その目的なら、この見た目がふさわしい」と、デザインを考えていくのが一般的です。まずは、何よりも、そのロボットの役割や目的を考え抜かなければならないんです。

例えば、ある程度開発が進んでから機体の設計が変わり、「ここに関節を1つ増やしたいんですけど」となったとします。でも今回は見た目から作り出しているので、もうすでに腕の外装がほぼできあがっている状態なんです。「いや、今からそれは難しいですよ」となるじゃないですか。

——なるほど、「もうここまで作ってしまったから、それならゼロから作り直したほうが……」ということですね。

江口:理想は胴体を作ってから、それを支える手足を作っていくべきで。なのに今回は、それぞれを並行して作っていたんです。その結果、全てを一体にまとめようとした時にうまくくっつかなかったり、くっついても形が違ったりしたという……。

転職同期

:見えない部分ではなく、見えている外側の部分から着手してしまったがゆえの苦労でした。初歩的ですが、開発では起きがちなトラブルなんですよね。

——このデザインはどういった流れで決まってきたのでしょうか?

翔大:柘植さんと企画を詰めている段階で、僕がAdobe XDでイメージ程度のデザインを組んでいたんです。その時は今の組織もまだできたばかりで、デザイナーさんも人数が少ない状態でした。

本格的に開発をスタートするにあたり、ここまでデザインができているんだったら、これをプロトタイプとして進めればいいだろう、という話になってしまったんです。専門ではない僕が作ったデザインで……。

:今回のケースだと、翔大さんがAdobe XDでカッコよくサービスのイメージを作ってくれたので、結果としてプロトタイプ「っぽい」ものができちゃった状態だったと思うんです。

結果論でしかないですが、Webサイトのデザインと、ページごとの要素や機能だけをまとめたワイヤーフレームは分けて作っておくべきでしたね。ページごとの機能とデザインは分けて考えていたほうが、変更が生じた時に対応しやすいので。

転職同期

翔大:本当に、江口さんはじめとして皆さんにはご迷惑をおかけしてしまって……。

江口:でも、翔大さんのサービスに対する「熱量」はすごかったですよ(笑)。

:そうそう。翔大さんの熱量、僕はすごく好きだったんですよ。結果として無事にサービスリリースできたし、リリース後に見つかるバグがすごく少ないのは驚きました。チームの開発レベルはとても高かったと思います。

ユーザーが第二の運営となる理想的な状態に

——そんな苦労を経て、サービスは昨年の12月にリリースをされました。発表にあたって、丸の内にCLSのユーザーを集め、転職同期の試用会を行ったと伺いました。皆さんも参加されたんですか?

江口:はい。サービスに何かあった時に対応する要員として、僕も仙台から東京に駆け付けました(※)。toC向けのサービスを開発しているとはいえ、実際にユーザーの顔を見ることなんてなかなか無い機会ですからよろこんで出張しました。

※ 江口は普段、パーソルキャリア仙台オフィスに勤務。詳しくはこちらのインタビューで語っています。

——試用会の様子はいかがでしたか?

江口:正直なところ、長期間ひとつのサービスのことだけを考えて仕事していると、「みんな、本当にこのサービス使うのかな」なんて考えてしまうのですが――皆さん、とても楽しそうに使ってくれていて安心しました。

転職同期

翔大:そうですね。試用会に来てくれたユーザーが、今ではサービスの「第二の運営チーム」みたいになってくれていて。

——「第二の運営チーム」?

翔大「登録したばかりで、使い方がわからない」といった初心者ユーザーの相談に、運営担当みたいに答えてくれているんですよ。

——当初想定していた、ユーザー同士が相互に助け合う現象が、少しずつ起こり始めているんですね。

:そうですね。一般的なコミュニティサービスだと、「登録はしたけど、見ているだけで投稿しない」人がほとんどです。だけど、転職同期では、自分で投稿してコミュニケーションを取っている人のほうが多い。これは、アーリーアダプター層が積極的に使用しているという良い兆候なんです。

——いい滑り出しなんですね。これからが楽しみです。今後のサービスの展望を教えてもらえますか?

翔大:いくつか案があるんですが、まだサービスリリースして間もないので、ユーザーとマーケットの動向を見ながら適切に判断していきたいと思っています。

あとは弊社内の話ですが、エンジニアチームと連携したサービスの管理や運営も、引き続きしっかり行っていきたいと思っています。

リリースするまでは、自分から声をかけるのを遠慮して、意思疎通のハードルが高くなってしまっていたという反省もあって。今は週に一度、転職同期のプロジェクトメンバー全員がひとつのデスクに集まって作業する日を設けているんです。

江口:あれ、すごく良いですよね。僕は仙台からオンラインでの参加にもかかわらず、他のメンバーと本当に気軽に会話できてます。

翔大:これからは、エンジニアさんとのコミュニケーションをより密に行っていかなければと思っているんです。今だったら、現在の課題や今後のイメージについて、雑談のような温度感で相談ができるようになっているので。コミュニケーションの大切さを改めて感じています。

——企画チームとエンジニアチームの、より理想的な環境で、より良いサービスができていくことを祈っています。本日はありがとうございました!

(文・編集=ノオト/写真=品田裕美)

転職同期

齊藤 陽

齊藤 陽 Akira Saito

サービス企画開発本部 サービス企画統括部 サービスオーナー部 ゼネラルマネジャー

大学在学中に起業し、モバイル情報サイトの企画、運営に従事。その後、Softbankおよびその関連企業で営業、CS企画を経験し、株式会社ミクシィへ入社。CS、開発、企画を歴任し、Webプロデューサーに。退職後は知人とWebメディア制作関連の会社を起業。その後自身でも起業し、海外発の音楽情報メディアの日本版の権利取得、ローカライズと運営、Webプラットフォームサービスのコンサルティングなどを行う。並行して国内で民泊予約プラットフォームを運営する株式会社百戦錬磨へ参画、事業本部長に着任。2019年2月パーソルキャリアに入社、「CAREER POCKET」事業責任者としてサービス開発に従事。

齋藤 翔大

齋藤 翔大 Shota Saito

サービス企画開発本部 サービス企画統括部 サービス企画部 グループリーダー

2015年4月にインテリジェンス(現パーソルキャリア)入社後、求人広告「an」「doda」の法人営業を3年経験。2018年5月からは、新規事業の立ち上げ部門にディレクターとして参画。転職後のアフターサービス「dodaキャリアライフサポート(現CAREER POCKET)」の立ち上げに携わる。2019年以降は、転職経験者向けコミュニティ「転職同期」の開発・運用に従事している。

江口 拓弥

江口 拓弥 Takuya Eguchi

サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エンジニアリング部 サービスデベロッパーグループ シニアエンジニア

2008年、地元山形のソフトハウスに入社するも、半年後に東京へ転勤。Webアプリケーションの受託開発とセールスエンジニアを3年経て、派遣先であった小さなSIerに転職。システム統合に伴うデータ整備業務を経験し、堅牢なシステムの作り方と運用に触れる。2018年に仙台に移住。Ruby on RailsとVue.jsを使用した受託開発業務を経験した後、パーソルキャリアにジョイン。現在はdodaからの転職者をアフターフォローするサービス「CAREER POCKET」をNuxt.jsとFirebaseを利用して開発している。

※2020年3月現在の情報です。