2018年10月、パーソルキャリアは、エンジニア部門拡大と働き方の選択肢を広げるため、仙台に新しく開発拠点を設立しました。東京と仙台、それぞれのエンジニアが分け隔てなく同じプロジェクトにアサインされ、遠隔で連携を取りながら開発を行う仕組みづくりをすすめています。
仙台オフィス設立の苦労や、テレワーク推進の状況、これからの取り組みについて、仙台に籍を置きながら東京も含めたサービス開発統括部エンジニアリング部全体のマネジメントを行うゼネラルマネジャー鹿野と、同部門でエグゼクティブマネジャーを務める三口に話を訊きました。
テレワーク推進のため設置された仙台の開発拠点
——まず、仙台に開発拠点を立ち上げた経緯から教えて下さい。
三口:今後、エンジニアはテレワークで働くのが普通になると思っています。しかし、パーソルキャリアは多様な働き方を目指している一方で、仕組み作りはまだまだです。テレワーク推進のチャレンジも含めて、東京から離れた場所に開発拠点を作りたいと思ったんですよ。
——未来を見据えたうえでの経緯だったんですね…!具体的に教えて下さい!
三口:東京と別の地域とで連絡を取りながら開発をすすめられる環境が整えば、同じような感覚で、オフィスにいなくてもシームレスにコミュニケーションを取ることができるようになるはずだと考えているんです。実は、以前の職場でも仙台に開発拠点を持っていて、東京オフィスと常時接続して連絡を取って仕事をしてたんですよ、鹿野さんと一緒に。だからパーソルキャリアでもできるだろうな、と。
鹿野:あと、「開発のリソースももっと必要だ」とも言ってましたよね。
三口:そう、リソース確保のために、エンジニアを増やしたかったんですよ。それと、東京とは別に新しい開発拠点が欲しいよね、という話が同時進行で動いていて。鹿野さんであればこの2つを両方叶えてくれると思ってました。当時はパーソルキャリアに入社したばかりでしたが、仙台オフィス立ち上げのために頑張ってもらうことにしました。
——鹿野さんは、入社当時から仙台オフィスにいたんですか?
鹿野:いえ、2018年の夏にパーソルキャリアに入社してすぐは、東京のオフィスで働いてました。3カ月ほど経った頃に、三口さんから「仙台オフィスの立ち上げをやってくれないか」と声をかけられたんです。
三口:以前から鹿野さんがマネジャー志向の人間であるということはよく知っていたので、話は早かったですね。加えて同じくらいの時期に、パーソルキャリアの組織改編があって、僕の組織の配下にエンジニアが増えたんですよ。そこで、僕だけでマネジメントするのは大変になってしまったので、エンジニアチームのマネジメントも鹿野さんにお願いすることにしました。
仙台にいながら、東京にいるメンバーも含めて全員のマネジメントを行う、というスタイルです。仙台オフィスでの開発環境の整備や、人集めも、メンバーのモチベーション醸成もすべて鹿野さんがやるんだよ、といって送り出しました。
鹿野:サービスを作っていくエンジニアだけじゃなくて全部やってね、と。
——ゼロからのオフィス立ち上げは、かなり大変な仕事だったと思います。
鹿野:普通は誰もやりたがらないですよね(笑)。でも、もともとマネジャーに興味があったというのはもちろんなんですが、誰かに無理やり管理業務をまかせるのもマイナスにしかならないので、「じゃあ僕がやってもいいですよ」と引き受けました。
すべてはシームレスな環境のために。仙台オフィスの現場潜入――
——仙台・東京間のコミュニケーションやメンバーのマネジメントは、どのような仕組みで行っているんですか?
鹿野:仙台と東京のオフィスをテレビ会議で常時接続しています。それぞれのオフィスに設置された大きなモニターにお互いの様子を映し、マイクとスピーカーで声と映像が届くようにして。離れたオフィスの人に声をかけたくなったら、モニターの前に行って「◯◯さーん」と呼びかけると相手に声が届く、という感じですね。月に2回の1on1など、個別でのテレビ会議も行ってます。
各開発プロジェクトには東京・仙台関係なくメンバーがアサインされます。なので、「この人は東京にいる」「この人は仙台」といった意識は、あまり無いんですよ。
常時接続というと大変なことをやっているように聞こえますけど、極端な話、マシンとネット環境さえあれば、テレワークの通信環境としては十分です。だけど、人数が増えると接続数が多くなってネットワークが遅くなるんですよ。なので「一人ひとりが繋げるのは面倒だから、部屋全体を写すようにしよう」とか、「オフィスがガヤガヤしているから、集音性の高いマイクを使おう」とか、目的や状況にあわせて個別に設備が必要になってくるんです。
——なるほど。具体的にどういう機材を使っているんですか?
鹿野:いわゆる「Youtuberマイク」と呼ばれている、近くの音しか拾わない集音性の高いマイクと、耳にかけるオープンイヤー型のイヤホンを使っています。仙台オフィスは、エンジニアのデスクのすぐ隣に営業部門のデスクがあるので、通話する時に彼らの会話などの音が入ってしまうんですよ。だから、その音をなるべく拾わないように、集音性の高いマイクにしています。
三口:マイクもイヤホンもかなりの種類を試してたよね。鹿野さんは東京側のことも考えて設計してくれるので、話をするときもノイズが少なくて助かるんですよ。
鹿野:いろんな種類を試しましたよ。耳の中に入れるタイプ(カナル型)のイヤホンは、遮音性が高いけど耳への負担が大きいので、長時間使うには不向きなんです。そこで、耳を圧迫しないイヤホンを探したりして。
——大変そう……!
鹿野:でも、機材を選ぶよりも、オフィスの立ち上げ準備が大変で。単身で仙台に乗り込んで、本当にゼロからのスタートだったんです。
まず、開発用のインターネット回線もオフィスに引かれてなかったんですよ(笑)。仕方がないので新しく回線を引こうとしたんですが、その設置までの段取りも誰に聞けばいいかわからない。転職したばかりで知り合いもいない――とにかく、東京にメールして聞いてみるしかなくて。あとは、申請に許可をもらうために関係各所を回ったり。
三口:鹿野さんは簡単に話してますけど、大きな会社で前例のないことをここまでスピーディーに対応するのは本当にスゴイことなんです。本来、マネジャーがする業務じゃないはずだけど、意思をもって取り組んでくれましたね。
鹿野:誰も担当しようとしない仕事はマネジャーがやらなければならないので。先日も、会議室に開発用回線を引くために、その配線を僕がやりましたよ。「これは何番に挿して……」とか(笑)。それでもシームレスな環境を作りたかったので、とにかくがむしゃらに進めましたね。
仙台―東京間の見えない情報格差をどう埋める
——オフィスの環境づくりを経て、今の状況はいかがですか?
鹿野:そうですね。だいぶシームレスな環境を構築することはできてきたと思ってます。物理的な距離に関係なくコミュニケーションをとることに、意識が向いてきたメンバーも多いです。
三口:パーソルキャリアでも初めての事例だし、他の会社でもなかなかないよね。日常で意識していない行動を、どれだけ意識して環境を作るかが重要だということもわかってきて。
鹿野:本当にそうなんです。
ただ、これからもっと意識しないといけないのが、仙台と東京の情報格差。
両拠点のエンジニア間で、開発状況や情報に差が出てしまったら、まともにすすまなくなっちゃいますから。今は僕と仙台にいるシニアエンジニアの江口(拓弥)が情報共有を心掛けて問題を起きないようにしています。
三口:サービスオーナーがいるのは東京なので、決まったことが仙台に伝わるまでにラグがあったりして。ふたつの拠点で連携して開発をすすめていると、どうしても人数が多い拠点を中心に物事が動いてしまいがちなんですよね。
——東京にいる人は東京で完結してしまいがち、という……。
三口:というより、そもそも「完結しよう」という意識もなくやっているんだと思います。遠方のオフィスがなくて東京だけでやっていたとしても、一部の関係者だけで意思決定をしてしまうということは往々にしてありますよね。鹿野さんは、そこを特に意識して、情報格差をなんとかしようとしてくれていると思います。
鹿野:もちろん「モニターとスピーカーが常にオンになっていて、あたかも同じオフィスで働いているように、いつだってコミュニケーションが取れる」状態が理想なんですけど、やはりそれはなかなか難しくて。
例えば、僕らの部門以外の社員がオフィスに出入りする時には通信を切らないといけない場合があったり、回線が不安定で通信が途切れたりすることも多くあります。一度途切れた通信を復旧させようとするにも手間がかかるので、気がついたら途切れたまま放置されていることもあって。
三口:全員がいつも自分のマシンから、もう一方の拠点に繋げておけばいいんじゃない?
鹿野:でも、それだとマシンの負担になるし、回線が圧迫されちゃうんですよ。
三口:いや、それは結局、環境整備がまだ不十分だからでしょ?
鹿野:だけど、今の体制だと、これ以上は難しいところもあって。
三口:そこをなんとかするのが鹿野さんじゃないの?
鹿野:そうなんですけど……。
(編集部の存在を完全に忘れて、二人だけのやりとりがしばらく続く……笑)
三口:(取材だったと思い出して)あ。本音を言うと、会社にお願いして、完全な環境整備まで含めて、オフィスをまるっきり僕らのイメージに合わせて作らせてもらうのが理想なんですよ。
鹿野:パーソルキャリアは「リモートワークやテレワークで働ける」ことを発信していますが、そのために環境や制度で整えるべき部分はまだまだたくさんあるんですよね。新しく「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」というミッションができました。それを実現するために、仙台オフィスのようなチャレンジは、先陣を切って取り組む価値があるとも思っています。
一般的に、エンジニアやクリエイターは必ずしもオフィスに足を運ぶ必要がない「テレワークに向いている職業」とされていますよね。一方で、メンバーとのコミュニケーションが必要なマネジャーは、テレワークで苦労する部分も多いんです。だからこそ、この仙台オフィスの取り組みを通して上手くマネジメントができれば、会社のミッションとしても一歩前進したことになると思っています。
エンジニアが、さらには会社や世の中全体が、幸せになるために
——これから、仙台オフィスをより発展させていくためにチャレンジしたいと考えていることはありますか?
三口:もう少し人数が増えたら、仙台オフィスのメンバーが中心になった開発プロジェクトもすすめられるよね。
鹿野:それはぜひやってみたいですね。エンジニアだけではなく、企画担当者やデザイナーも採用できればチームメンバーとしては十分です。仙台のメンバーが半数以上を占めるプロジェクトに、東京から数人参加する感じになったり。
三口:そうすれば、東京の人も仙台にいる人の気持ちがわかるんだろうね。一度、情報格差の恐さを身をもって体験すれば、東京の人も意識が変わるかもしれないし。とにかく、仙台オフィスはどんどん人数を増やしていったほうがいいんです。むしろ東京より人数が多いくらいに。
仙台オフィスは、これからもっとエンジニアが増えて、組織をスケールさせていくための足がかりです。これが達成できたら、今後は九州や関西にも新しい拠点を設置するかもしれないですし。最終的には、東京が置いてけぼりになるくらいがちょうどいいんです。
鹿野:さらにすすんでいけば、東京にも仙台にもいない、完全なテレワークで働いているエンジニアにプロジェクトマネジャーを依頼する、みたいなチャレンジをしてもいいのかもしれませんね。
最近は、社内でも徐々に仙台オフィスの情報が広まっているようで。この間、別部署の人から「テレワークの仕組みの作り方を教えて」と相談されたんですが、やるべきことや気をつけるべきところを一通り話したうえで、最後に一言、「かなり大変ですよ」と伝えるという(笑)。
今は「テレワークの推進」の話ばかりになっていますが、結局のところ僕らの目標は良いサービスを作ることです。そのためには、東京にいるサービスオーナーから他の関係者まで、いろいろな人を巻き込んでいくことも必要なんです。これから増えていく仲間たちにも、そのマインドを持ってほしいと考えています。
――鹿野さんが、ここまで苦労しながら仙台オフィスのマネジャーを務められている原動力はどこにあるのでしょう?
鹿野:僕は「エンジニアが幸せになれる組織を作りたい」と思っているんですよ。そのために、マネジャーがいないなら自分がやるし、誰もやろうとしない雑用もやるし、という感じなんです。
三口:鹿野さんは、ずっと前からこれを言ってるんですよ。「大変なところは自分が引き受けて、皆が気持ち良く仕事ができたらいい」という、本当にマネジャー向きの人なんですよ。今、この仙台オフィスがなんとか成立しているのも、鹿野さんがマネジャーをやってくれていることが大きいんじゃないかな。
これからの鹿野さんに求めていることとしては、「皆が幸せになってほしい」という思いをもう少し広げて、会社や世の中にどうやって貢献していくのか――視線をもっと外にも向けていってもらいたい。だからこそ、仙台で大変な役割を担ってもらっているんです。
――「エンジニアが幸せになれる組織」を創るために、考えていることを教えて下さい!
鹿野:オフィスや社内制度のことはもちろんですが、エンジニアが幸せになるためには、会社から正しく評価されることも重要です。そのために、それぞれが何かしらの形で会社のミッションにコミットしていかなければならない。会社から求められることと、自己実現をつなぐフォローもマネジャーの仕事だと思ってます。ただ、彼らが本当にやりたいことを掘り下げていくにあたって、自分にはもう一段上のスキルが必要だなと感じていて。
そこのフォローを行いながら、メンバーがパフォーマンスを最大限発揮できるような環境を用意したいですね。パーソルキャリアで働いたこのチームがメンバーにとって成長の場になり、将来「このチームにいて良かった」と思っていてほしいですね。
三口:確かに、それにはかなりの経験が必要で。時として、「あなたはパーソルキャリアではない会社に務めたほうがいい」という場合もあるし。
(編集部……嫌な予感……)
鹿野:でも、すぐその結論に至ってしまうのもマネジャーの問題だと思うんですよ。仕事は好きだけど、そこまで本気になってやろうとは思わない人もいるでしょうし。
三口:いやいや、そこはマネジャーとしての掘り下げが足りないわけで……。
――まだまだお話が尽きませんが、以降はテレビ会議でやっていただくとして……。本日はありがとうございました!
(文・編集=ノオト/撮影=品田裕美)
三口聡之介 Sonosuke Mikuchi
パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エグゼクティブマネジャー
京都大学在学中に、株式会社ガイアックスの設立に参画。その後、KLab株式会社で携帯アプリケーションの開発に従事したのち、楽天株式会社に入社し、プロデューサーとしてMyRakutenなどを担当した。2013年から株式会社百戦錬磨に参画、取締役に就任。2013年にとまれる株式会社を設立、代表取締役社長に就任した。その後、ベンチャー企業複数社を経て2018年2月からパーソルキャリア株式会社に入社。サービス開発統括部のエグゼクティブマネジャーを務めている。
鹿野徹也 Tetsuya Sikano
パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エンジニアリング部 ゼネラルマネジャー
SIerに新卒入社後、金融系PROJECTにて要件定義〜開発〜マネジメントを経験。その後、地元へUターンし、地方ソフトウェアハウスにてIBM、FUJITSU、NEC等のリホスト業務(ランタイム作成、言語変換)に従事。地方と東京の「はたらく」違い・差を実感し、より自分らしく「はたらく」ため Webアプリケーションエンジニアへ転身。RubyOnRailsから始まり、アプリ連携、サーバレス開発、AGILE(SCRUM)開発リードと各種Webサービス開発で経験を重ね、2018年にパーソルキャリアへ入社。昨今はGV提唱のDesignSprintを利用したサービス企画に加え、ゼネラルマネジャーとしてエンジニアの「はたらく」をサポート、より良いチーム開発の実現に向けて挑戦中。
※2020年1月現在の情報です。