ユーザーのインテントを捉えた連携を――doda SEOスクラムチームとは?

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転職サービスdodaを支えるエンジニアたちの中に、検索結果を上位表示するSEOに特化したスクラムチームがあります。ご存知の方も多いように、SEOは単純に上位表示させるだけで意味がなく、日々変化するGoogleのポリシーに沿って、柔軟に対応する必要があります。その変化をキャッチするために、dodaのSEOチームは、一体どのような取り組みをしているのか。その苦労話ややりがいエピソードなどをスクラムマスターの中野、テクニカルディレクターの和田にたっぷり訊いてみました。 

大切なのは“小さな変化を見逃さないコト”

――dodaのSEO担当というとどこまでが対象になるのでしょうか??対象範囲と役割を教えてください。

和田:はい。dodaサイト内の動的ページである、求人の検索機能を通じて表示される結果の一覧ページと、その先にある求人詳細ページなどが主な領域となります。SEOですので、基本的にはユーザーが検索した際に、dodaが上位に挙がっていることを目的としていますが、何でもいいから、とりあえず検索結果の上位にいるようにして、ユーザーの目につきたいということではありません。一般論としてのSEOの定義ですが、あくまでユーザーの意図に合った検索結果の上位にdodaがいることが重要です。Googleが「コンテンツが王様」と定義するのは、コンテンツとしてユーザーが知りたいものがあり、それに上手くたどり着けるようにする世界。その目的のために、それぞれを分業しながらSEOの向上を目指しています。そこで私は主にテクニカルな面のSEOを担当しています。 

 

――テクニカルな面…dodaの場合にはどのようなことを対応したんですか?

和田:そうですね。Googleのクローラーがより効率的にサイトの情報を取得できるようにするクローラビリティ改善や、ページ速度、、、正確にはUXなんですけど、それを表すCore Web Vitalsという指標の向上といった部分になります。dodaの課題に対してテクニカルな領域で解決の道筋を立ててるんですが…詳細は企業秘密です!(笑)

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プロダクト開発統括部 フロントエンドグループ プロデューサー 兼 テクニカルディレクター 和田 武

――詳細は応募したあとですね!SEOチームではどのように改善のための仮説を立ててるんですか?

和田:そうですね。私も含めてですが、プロダクトオーナーも長らくこのサイトのSEOに携わっている人間なので、その辺の嗅覚が鋭い人を中心に、データから仮説を立てています。例えば、ファインダビリティが上下していて、シーズナリティを考えたとしても異常値なので、何かが起きているのではないか?というアラームを挙げてくれます。

それ以外でもSearchConsoleを見たときに、急に増減しているなどの異変があれば、何かが起きたのではないかと疑います。常にモニタリングをしていて、何か異変があれば原因を探して手を打つということですね。この小さな変化を見逃さないことが大切です。

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しかし、誰かが正しい答えを言ってくれるわけではありません。そこが難しいところですね。SEOは早めに成果が現れる領域もあれば、そうでもない領域もあり、3ヵ月から半年を見る領域もあります。もし、打ち手が間違いだったとしても、それが分かるのは結構先だったりします。

 

――これだけ指針の変動が激しいなかで、スクラムマスターはどんな風に動いていたんですか?

中野:そうですね。他のスクラムチームと比較してSEOが異なる点がいくつかあります。まず今回は4月にスクラム組成されていますが、新しいメンバーが数名ジョインしましたが、SEOが専門領域ではないメンバーだったので、この指針の変動が激しい内容を理解してもらうことをフォローしていました。それはテクニカルな内容もそうですし、そもそもどのようにしてユーザーの検索意図に沿って上位に入るかという考え方、ファインダビリティスコアの見方など、インプットすべきことが山ほどあります。

 

スクラムの始まりは、スクラムチームとして何を追っていくかをチーム全体ですり合わせをして発信をする必要がありますが、それをリモートミーティングで実施するとなると、なかなか難しいですよね。こういう話はやっぱり対面でやりたかったですね。

 

――HRならではのSEOの特徴というか、難しさみたいなものはありますか。

中野:HR領域でいうと、例えば求人広告のビジネスモデルは前課金制となっていて、原稿を掲載したいという企業から原稿料をいただいてからサイトに掲載します。そしてそれらは、ユーザーや転職希望者の目に触れて初めて価値が生まれます。なので、その後の応募に繋げるということが大切だと考えていて、その価値を最大化させるためにも、SEOは重要だと考えています。

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プロダクト開発統括部 プロダクト開発部 doda開発グループ コンサルタント 中野 涼祐

とはいえ、単純にdodaの検索結果が上位に来れば良いということではありません。検索結果が上位にあがって、なおかつそこを入口として、ユーザーの応募にまで結びつかなければ意味がありませんからねなので、いかに検索意図に沿ってユーザーに適したものを表示させて、応募に繋げていくということが大事だと思っています。それはやりがいにも繋がっていきます。

 

――検索意図…ですか…? 

和田:私たちは、ユーザーがどんなキーワードで検索した人がいて、どのくらい表示されているかを見ながら、「どのようなインテント(検索意図)で、何が起きているのか」を踏まえて考えたうえで、正しくどこで取っていくべきかを考えています。

コンテンツでSEOをカバーしている部分もあるので、例えば“転職活動のノウハウを知りたい”というニーズは、基本的にコンテンツで吸収するようにしています。もう少し進んで、直接求人を探しているという行動になったときに、dodaサイトがみんなの目に当たり、かつ有用なものであると認識される必要があります。

どのような見方をしているかは分かりませんが、検索から訪れたページ体験もGoogleは見ているそうで、例えば直帰率などは「検索で引っかかったけれども、ユーザーが行動しないページなのではないか」と見られてしまいます。なので、一時的に検索結果が上がったとしても、直帰率が高ければ検索結果は下がってしまうということが指標として計算されています。 

ですから、重要なのはまず、我々はユーザーが求める機能やコンテンツを提供できているのかということ。それが提供出来ているのであれば、ユーザーに見てもらわなければならないので、その点ではHRサービス特有ではないですが、求められていることは他業界と変わらないですね。

 

職種を超えた共通理解と細かな数字での目線合わせ

――スクラムマスターとして何か意識していることはありますか?

中野:チームで実施している1つ1つの施策が目標に直接結びつくかどうかは難しいのですが、それによってどうしたら良くなるのかという点はチーム内で共通理解を持つように心がけていますね。1つの施策を行うだけで順位が上がるという世界ではなくて、日々の小さな努力の積み重ねが実を結ぶ領域です。他の領域では結果が目に見えて分かるものもありますが、そういう領域ではないので、日々出来ることを探しながらチーム内でPDCAをまわすことを意識しています。

 

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――変化が激しく、成果がすぐに見えない…そのような環境で、人を動かすことは難しいそうですね…。

和田:我々のチームはエンジニアにも細かく数字を伝えています。今はオンラインのコミュニケーションがメインなので、slack内でリリースの結果や近況を伝えあっていますね。なので、自分がやったことの結果というのは、エンジニアも肌で感じられていると思います。一覧にまとめて報告していますが、その一覧の中にもとても細かく見ているレポートがあり、その中で改善したい領域が多いものを重点的に伝えて、ちょうどいい細かさを意識しています。

 

中野:新しい施策が出てきて、それをやるかやらないかを判断するときに、その施策は何を解決するためかという目的を全体で合わせなければ、「何のためにやっているのか」と分からなくなってしまいます。その点は、チーム内で共通理解ができるようようにこだわっていますね。

エンジニアの中には新人もいるので、もともとのエンジニアリングの理解度にもばらつきがあります。それを踏まえても「何のためにやるのか」という目的は、全員に話すようにしています。また、企画者の立てた企画のパフォーマンス領域に付随して、次のサイクルのためにコードを綺麗にしておかなければならないという課題もあるので、「ここを直した方がいい」という切り出しは、エンジニアから発信してもらうようにしています。エンジニアも企画者であるという状態のスクラムを目指していますね。

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要するにパフォーマンスの領域は企画者からは見えていないので、エンジニアから出てくる意見も徹底的に拾い、まずは議題に挙げるということが重要だと思います。それをみんなで話し合い、やるべきものならばやる。そういった会話を交わす土台は作れているので、チーム内のコミュニケーションは良好だと思っています。

エンジニアも含めてみんながSEOについて共通理解をしていて、エンジニア一人ひとりが自分の触っているソースコードを見て、問題があるかどうかを確認しなければ、企画者には分かりません。そして課題を挙げるときに「このSEOの理解度では話してはいけないのでは」ということを作らないようにしているので、課題も挙がりやすいと思っています。

 

――その雰囲気作りはどうしていますか。

和田:そもそも“話しやすい”ということが大事だと思っているので、自分が担当するミーティングでは一旦すべってでも小笑いをとりにいきます(笑)。アイスブレイクを挟むことで、単純に話しやすさを出すように心がけています。また、話すきっかけとして、それぞれの領域の人に「懸念が隠れていないか」とこちらから振ってみたりもします。

SEOってエンジニアのモチベーションが上がりにくい領域も多いんですよ(笑)タイトルを出し分けたり、リンクを正しく充足させたり、コンテンツ内容をユニークにするみたいな技術的なチャレンジがあまりない地道な部分ですね。しかしCore Web Vitalsなど、新しくうまれた技術的な素養が必要な領域もあります。

そういった情報を日々共有し、エンジニアも積極的に改善を提案してくれるようコミュニケーションをしています。またそういった領域はエンジニアにもSEOに関する情報にアンテナを立てて貰いたいと思っています。

 

我々は得た情報を気軽に共有する場として、スクラムが立つ前からslackのチャンネルの中にSEOに関する技術情報を活用しています。単純に記事の共有だけではなく、「我々のサイトで考えるとこうなるかもしれない」というコメントをつけつつ共有していて、SEOチーム以外も多く参加しています。それを見た人が各々の領域で活かしてもらえるといいなと思っています。

 

個別最適から全体最適へと組織が変わる分岐点

――お2人はどのようにして連携しているのでしょうか。

和田:何か困りごとがあったら中野さんに渡しています(笑)。

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中野:そうですね。渡されてます(笑)スクラムマスターというのは企画や開発を円滑にまわせるようにする役割なので、日々困りごとや開発の障害を取り払ったりしています。

和田:dodaにおいてのスクラムは、ソースコードレベルでスクラムが分かれているわけではないので、被っている部分があるのですね。そのため、いじりたい箇所があっても、もしかしたら他のスクラムの施策に影響が出てしまうかもしれないので、その折衝を中野さんに依頼したりします。

中野:はい。そういった他のチームとの話し合いは私が担当してますね。

 

――課題がいくつかある中で、どのようにして優先順位をつけているのでしょうか。

和田:そうですね。まずは私が優先順位をつけて並べて、次にPOが確認。その後、スクラムイベントにおいてメンバー全員で確認するという流れですね。

中野:スクラムは、スプリント単位で計画して、開発、リリースするという流れを何度も繰り返すので、最初のタイミングで「このスプリントでは何をするか」という点をチーム全員で集まって計画します。そのときに課題と施策の優先度をみんなで確認し、そのスプリントでどこまでできそうかを決めていきます。それがスクラムイベントです。スプリントはチームにもよりますが、我々のチームでは2週間に一度、開催しています。 

 

――つまずきやすい点って、どんなところにあるのでしょう。

和田:気を付けないといけないのは、ボリュームに対しての費用対効果のバランスを常に考えていくことですね。スプリント内で回そうとしたときにスコープが切りづらいことも多々あります。

例えばCore Web Vitalsの改善でスクリプトのリファクタリングをしたのですが、1500行ほどあるコードの内1000行は必要なかったということがありました。コードを解析してその処理が本当に使われているのか確認しながら進めたのですが、コードが想像以上に理解しづらく時間がかかってスプリントに収まらないといったことも起きました。ただ実際やってみないとわからないこともあるので、やってみたけどどこまで効果が見込めるのか、それでもやった方がいいものなのか、という判断が大変なことはありますね。

またそんなコードが生まれた背景には企画側のディレクション不足を感じており、それは私がテクニカルディレクションと名乗ろうと思った背景にもなります。先程の例のスクリプトなどに顕著なのですが、コーディングルールや命名規則などに統一性がなく継ぎ足されたコードも多くあり、その改善をスプリントの限られたタイムボックスの中でどうやるかは課題です。

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――それについて、根本的な治癒はいつかはやらなければならないということでしょうか。 

和田:そうですね…。フロントエンドとバックエンドでは課題感も違うので、スプリントの中でどれだけリファクタリングをするのかについては、認識や意見をみんなで合わせていきたいですね。他の部門との調整も必要となり、必然的に大ごとになってしまいます。

 

中野:最終的にやる・やらないはスクラムチームとして決めます。結局チームの目標がある中で、我々がやるべきかどうかという点が一番のポイントになるので、それをやることによってプラスになるかという観点はとても重要ですね。

 

――スクラムマスターは、自分のチームに入り過ぎずにどこかで全体を俯瞰して、自分のチームが動くべき時をスクラムマスター同士で見極める必要がある、ということですよね。 

中野:そうですね。仮に同じタイミングで案件が被ったとしたら、まずは同時に出せる方法はないかと考えます。それがもし無理ならば、それはどちらかが譲らなければならないですね。

 

――これまで良くも悪くも個別最適で動いていたものが、今は半枚岩くらいになり、SEOでやらなければならないことと、その他のスクラムでやらなければならないことが連携し始めているということですね。

和田:うちのスクラムの良いところは構成の違いにあると思っています。プロダクトのメンバーのみで構成されてはおらず、POはマーケティング側の方なので、定例の際にマーケティング側のマネージャーなども入ってきてくれます。マーケティング側からプロダクト側まで全領域の人がいる状態で話が出来て、マーケット的な温度感や広告の動きなどの話も聞きながら動くことができます。エンジニアが市場の状況を理解するということはSEOでは重要になりますね。SEOにかかわる関係者がマーケットからプロダクトに至るまで小さくひとくくりになっている、とても良いチームだと思います。

 

――部を横断してSEOについて考える体制ができているんですね。最後に今後の目標についてお聞かせください。

和田:GoogleのCore Web Vitalsは来年以降はプラス指標になるという話があります。今はマイナスを取り除けている状態ですが、よりプラスの部分を目指すために、それをどのようにして積み上げていくか、Googleとにらめっこしながら考え、施策を推し進めていきたいですね。

 

中野:今までのウォーターフォール型の開発では、エンジニアが企画側に言われたことをやるというやり方でしたが、スクラムではそうではなく、目標に向かって自発的に行動し、チームの中では開発側が企画をしてもいいし、企画側がコーディングをしてもいい。誰が何をしてもいいという状況で、決めた目標に向かってやることを全員で決めて、それに向かってひたすらやっていくチームを実現させていきたいです。

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 ――ここからのSEOの進化に期待ですね!ありがとうございます!

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和田 武 Takeru Wada

プロダクト開発統括部 フロントエンドグループ プロデューサー 兼 テクニカルディレクター

前職は金融系SIerでフロントエンド開発、UI設計、PMなどを担当。2016年4月にインテリジェンス(現パーソルキャリア)入社。当初はdodaサイトのグロースハックグループに所属し、A/Bテストの開発サポートや、環境改善、リーダー業務などを経験。その後、速度改善など技術的要素が多い案件を中心にディレクションを行い、現在はdodaサイトのテクニカルSEOを担当。

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中野 涼祐 Ryosuke Nakano

プロダクト開発統括部 プロダクト開発部 doda開発グループ コンサルタント

2018年にパーソルキャリアに新卒入社。転職サービス「doda」のWebサイトでプロジェクトマネージャーを経験。2020年4月からはdodaSEO領域やマイページ領域のスクラムマスターとして、チーム改善に取り組んでいる。

※2020年9月現在の情報です。