はたらく人の未来を指し示す「マイポテ」。サービス企画開発本部初のtoCアプリ内製開発とその舞台裏

マイポテ

2019年12月9日、パーソルキャリアは、キャリアの可能性を拡げるアプリサービス「マイポテ」をリリースしました。年齢や居住地、学歴、職業を入力することで、属性が近い人と比較した、自分自身の現在の立ち位置と未来の予測立ち位置を知ることができるアプリです。

「マイポテ」のようなtoC向けのモバイルアプリの開発は、サービス企画開発本部にとって初めての試み。社内にアプリ開発の経験を持つエンジニアが多くいない中で、企画・デザイン・エンジニア、それぞれの担当が密にコミュニケーションを取り合ってプロジェクトを進めていきました。dodaに登録されている膨大なデータをどう引き出すか? 引き出したデータをどう活用させるか? リリースまでの数々の苦労について、サービスオーナーの今村健児、エンジニアの馬場裕、デザイナーの佐藤匠生に話を聞きました。

※2021年6月をもって、「マイポテ」サービスの提供は終了いたしました。ご利用いただいておりましたお客様は8月10日以降よりアプリ上でのサービス利用を停止しております。ご登録いただいたデータにつきましては、提供終了日以降、データ削除を実施しております。お客様によるお手続きは必要ありません。

初めてのtoCアプリ開発「イケると思った」

——まず、「マイポテ」を開発するに至った経緯から教えていただけますか?

今村:構想自体は2018年秋くらいからあったんです。パーソルキャリアは主に転職サービス「doda」を中心に提供してきたんですが、“働く”というコトをもっと広くとらえると、転職以外のtoCサービスを立ち上げる必要があるだろうと。

▲サービス企画開発本部 サービス企画統括部 サービスオーナー部 今村健児

▲サービス企画開発本部 サービス企画統括部 サービスオーナー部 今村健児

今村:人が働くにあたっては、まず仕事を知って、選んで、さらに行動する、という三段階があります。この「認知」「選択」「行動」のうち、まずは「認知」を担う部分を個人向けサービスとして立ち上げようと考えました。一連の各段階をサービスとしてつなげていくために、入口から作ったイメージですね。

——具体的には仕事のどんなことを「認知」してもらおうと考えていたんですか?

今村:最初はあえてこれを決めなかったんです。パーソルキャリアが持つdodaのデータベースをフル活用するには、情報を引き出す「軸」を決める必要があるのですが、この「軸」をユーザーに決めてもらって。

佐藤:まずはどんなニーズがあるのかを知るために、パーソルキャリア社内の25歳~30歳くらいの社員に声をかけたんですよね。

今村:新卒で入った会社の仕事に一通り慣れて、今後の自分のキャリアについてぼんやり考え出す時期ですね。そんな世代の声を聞こうと思ったんですが、いきなりユーザーには話しかけられないので……(笑)。

佐藤:そう、サービスのことは伝えずに、うちの社員が仕事をしていくうえで困っていること、悩んでいることをひたすら吐き出してもらう機会を作りました。それを受けて、仮説検証のためにちょっと作っては見てもらって。トライアンドエラーでコンセプトを固めていきました。それが2019年の3月~5月くらいですね。

▲サービス企画開発本部 サービス開発統括部 UXデザイン第1グループ リードデザイナー 佐藤匠生

▲サービス企画開発本部 サービス開発統括部 UXデザイン第1グループ リードデザイナー 佐藤匠生

——最初からアプリでリリースする計画だったんですか。

今村:事前にブラウザかアプリか、という検討はしていたんです。「働く」というのは長いスパンのテーマなので、継続的なタッチポイントと操作性も含めてアプリにするべきだと考えたんです。これまでの経験から、若い世代はアプリのダウンロードに抵抗がないことも知っていたので。

馬場:でも、最初は「ネイティブアプリではなく、ブラウザで作る予定だ」と聞いてたんですけどね。サービス企画開発本部としても、スマホアプリの内製開発の経験はなかったので、それが自然だろうな、と思っていたんです。

——サービス企画開発本部で、アプリの内製開発はこの「マイポテ」が初めてなんですか?

今村:そうなんです。いろいろ考えるとアプリでやるべき、でも社内に経験があるエンジニアがいない――困っていたところに登場したのが馬場さんでした。

馬場:いや、前に軽い気持ちで「Flutterに興味あります」とだけ話したのを、今村さんが憶えていたんですよ。

——ということは馬場さんは、アプリ開発の経験はなかったのに抜擢された……?

佐藤:「興味がある」って言っただけなのに、「馬場さんがFlutter詳しいらしい」みたいな話になって。

馬場:話に尾ひれが付いて(笑)。そうして声をかけられたのが2019年の7月くらいでしたね。

▲サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エンジニアリング部 サービスデベロッパーグループ リードエンジニア 馬場裕

▲サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エンジニアリング部 サービスデベロッパーグループ リードエンジニア 馬場裕

——リリースされたのが2019年の12月ですよね? 相当なハイペースでの開発だったんですね。

今村:2019年8月から徐々にエンジニア達も入り始めて、11月末リリースの予定だったので、結構タイトなスケジュールでしたね。当初はdodaのデータベースがどういう状態になっているかもわからないし、Flutterの開発経験もない状況で、馬場さんからも「難しい」と言われてて。たしかに不安に思うのも当然なんですが、でも僕は「イケる」って言い続けて。

——すごい自信……! その自信はどこからきていたんですか?

今村:いや、根拠はちゃんとあるんですよ(笑)。第一フェーズでは、ユーザーごとに情報の出し分けはないし、サービス自体も課金や複雑な外部連携もない。この内容なら、過去の経験上、これくらいの期間でリソースをかければイケるだろう、と踏んでいたんです。

——でも、部署内ではアプリ開発は初めての経験ですよね。外注という選択肢はなかったんでしょうか?

今村:もちろん、一部を外注することも検討したんですが、パーソルキャリアのデータベースを開示することになるので、セキュリティ上ある程度の内製開発は避けられません。さらに、サービスの立ち上げからアップデートまでをクイックに行う必要がある。トータルで考えると、内製開発が必須だったんです。

dodaの膨大なデータベースと向き合いながらの開発

——馬場さんは、このプロジェクトで初めて本格的にFlutterを使ったとお聞きしましたが、いかがでしたか?

馬場:手探りで慣れていきながらの開発でしたけど、思った以上に使いやすかったですね。デザインと開発を並行するなかで、「このデザインでの実装は難しいので変えてほしい」ということもほとんどなかったと思います。iOSとAndroidを別々に開発する時間がない、という理由でFlutterを選んだんですけど、結果として正解でした。

——Flutterのおかげでだいぶ効率化を図れたと。とはいえ、初めてのアプリ開発で大変なこともたくさんあったかと思います。

馬場:データベースの取り扱いには苦労しましたね。アプリにデータを表示するには、dodaのデータベースを参照するんですが、そのデータは求職者から預かった大切なもの。慎重に扱わないといけないんです。

今村:セキュリティ関連の打合せにも馬場さんに同席してもらって、常に意識しながら進めるようにしていました。社内の調整にも時間をかけましたし。そして、やっとデータにアクセスできても、そこからがまた問題で。

——それはどういった問題ですか?

今村:ユーザーが入力した項目は、表記がゆれていることが多いんですよ。例えば「マネージャー」という役職ひとつとっても、「マネジャ」と書く人もいれば、「マネジャー」と書く人もいる。データを取り出すためには、そうした表記のパターンを全てピックアップしないといけなくて。他にも想定と違う事も多く……。

馬場:開発よりも、データの精査に一番手間がかかりましたよね。結局、リリース前月の10月までやってました。

マイポテ

今村:なかには、諦めた項目もあります。当初は乗換アプリをイメージした作りだったんです。「職業A → スキルB → 職業C」のように、理想の職種へたどり着くために必要なルート、スキルなどを提示しようという。けれど、これには職歴ごとに詳細なデータが必要なんですが、想定よりもデータの数が少なくて、実現できませんでした。

佐藤:職業ごとに「結婚している割合」や「睡眠時間による年収の違い」も出そうとしましたよね。自分のキャリアを検討するにあたって、その職業の生活スタイルを知りたいというのは、ヒアリングでもニーズがあったんです。でも、そもそも「既婚/未婚」の項目はdodaに登録する際にも任意入力で、結婚後にプロフィールをわざわざ更新する人がどれくらいいるのか、というのもあって断念せざるをえなかったですね……。

——なるほど、dodaのデータには、いろいろと有益な情報を提示できるポテンシャルもあるけれど、難しい部分もあるんですね。他にもデータの見せ方で苦労された点はありますか?

佐藤:年収のグラフはかなりのパターンを試しましたね。もともとは折れ線のグラフだったんですが、職業によってはサンプル数が少なくて、きれいな曲線にならなくて。結局、棒グラフに落ち着いたんですが、これも軸をいろいろ変えて、と試しながら、ユーザーテストを経て今の形になりました。

▲実際の年収グラフイメージ

▲実際の年収グラフイメージ

——デザインを決め、開発を進め、データを精査する、というところまで話を伺ってきましたが、あとはテスト工程でしょうか。

今村:そうですね。ただ、テスト工程は外部の協力会社に依頼しました。これも過去の経験からなんですが、新しいチャレンジとなると、企画もエンジニアもデザイナーも新規開発に意識が向いてしまって、テストが後回しになりがちなんです。重大な事故が起きるくらいなら、テストは外注して、メンバーには作ることに集中してもらえたらと思って。

——なるほど。メンバーの皆さんは、そうしたサービスオーナーの心配りを実感されていましたか?

佐藤:(宙を見ながら)そうですね……。

今村:あれ? あんまり感じてなかった(笑)?

マイポテ

佐藤:いや、でも言われてみれば、たしかに集中できていたなと。めちゃくちゃ自由にやらせてもらった記憶しかないですね。エンジニアもデザイナーも、自分の仕事に注力できて、すごく恵まれていたと思います。

今村:でも、「オフィスにお菓子が足りない」っていうのは言ってたよね。

佐藤:不満はそれくらいですね(笑)。

これからは「ライフ」を提示した温かいサービスに

――短期間でのアプリ開発ということで、チーム内の情報共有も重要だったと思うのですが、そこも意識されていましたか?

馬場:そうですね。プロダクトオーナーの今村さんと、デザイナーの佐藤さん、そしてエンジニアの僕の間でコンスタントにコミュニケーションを取りながら開発を進めていました。気になることがあったら、今村さんのところにすぐに聞きに行っていましたね。

今村:会えば何かしら話してましたからね。5分で済む話なのに、いつの間にか「これ80年代のアーティストなんだけど知ってる?」とか余計なことを10分くらい喋っちゃってる(笑)。

佐藤:仕事の話と雑談がシームレスでしたね(笑)。

――「話しやすい」というのは大事なことですからね(笑)。難しい顔でずっとモニタを睨んでいる人には、なかなか話しかけにくいですし。

佐藤:そう言う意味では、今村さんはとにかくフランクですよ。今村さんと僕が2人で会話していると、どこからともなく馬場さんがやって来て会話に加わるんです。そんな数分間の「立ちミーティング」を数え切れないほどやってたと思います。

 

今村:ええっと……ここで真面目な話をしていいですか。

 

――どうぞ(笑)。

今村プロジェクトに問題が起きる原因は、コミュニケーションミスが多いと思うんです。「エンジニアと決めたことをデザイナーが知らない」なんていうトラブルはたくさん見てきたので、とにかく三者間のコミュニケーションを密に取ろうと心がけていました。

昔、教えられたことなんですが、職場での役割は「劇の配役」だと考えるようにしているんです。

僕はサービスオーナーという、全体のバランスを見て決める役割の人です。その他には見た目からユーザーの体験を考える役割のデザイナーがいて、それを実際に組み立ててアプリにするエンジニアがいる。これは単なる配役なので、役割に上下なんてない、という考え方ですね。

「圧が強くて話しかけられない」というのは、上下や自分に問題があるから起こること。心理的安全性を確保する意味でも、フラットな立場でコミュニケーションをとることが理想ですね。

佐藤:「迷ったら5分でも10分でも集まって、さくっと解決しよう」というマインドでしたよね。短期間で開発ができたのも、コミュニケーションの賜物だったと思います。

▲「マイポテ」プロジェクトチーム  のメンバー

▲「マイポテ」プロジェクトチーム のメンバー

――そうしてリリースされた「マイポテ」ですが、今後はどのように進化し、発展していくのでしょうか?

今村:まずは多くのユーザーに使ってもらって、反応を見たいですね。僕のなかでは今はまだ「ベータ版」的な認識なんです。もっとやりたいことはあったんですが、100%を目指して延々開発を続けるより、まずはユーザーに使ってみてもらいたかった。ユーザーの反応をもらうことで、これからどんどん良くなっていくと思っています。

佐藤:まだまだ改善点や、追加したい機能もありますしね。

今村:想定より真面目なサービスになっちゃった、というのもあるよね。

――当初はもっと遊び心のあるイメージだったんですか?

佐藤:もともとマイポテは自分のキャリアの選択肢を考えるために、「ワーク」だけでなく、同じ世代・職業の人がどこに住んでいて、どのくらい休みを取っていて、どういう生活をしているのか、といった「ライフ」を知るためのアプリとして考えていたんです。 だけど、データの都合で「ライフ」に関する情報が少なくなってしまって。良く言えばシンプルなんですが、機械と対話しているような感じもあって。今後は「ライフ」の部分をもっと増やして、温かみを足していけたらなと。

馬場:そうなんですよね。ただ、dodaは固いイメージもあるので、柔らかくしすぎると逆に違和感を持たれてしまうというものあって……。難しいチャレンジですけど、もっと見せられるデータを増やして、コンテンツを工夫できればと思ってます。何にせよ、今はリリースできてホッとしている、というのが正直な気持ちですね。

マイポテ

今村マイポテには「働く人に気付きやきっかけを与える」という目的があります。データを見ることで、学びや内省につながればと思うんです。現在は年収のグラフ表示がメインですが、より興味を引くような機能も検討しています。

――今後もアップデートを続けていくわけですね。

今村:そうですね。デザインの微調整を含めたマイナーアップデートは定期的に続けて、春頃には「ライフ」の部分を打ち出した機能をリリースできたらと考えています。

――アップデートが楽しみです。本日はありがとうございました!

(文=井上マサキ/編集=ノオト/写真=栃久保誠)

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今村健児 Kenji Imamura

サービス企画開発本部 サービス企画統括部 サービスオーナー部 ゼネラルマネジャー

Slerにて、システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、政府系の大規模システムの設計、リリースに携わる。2006年よりヤフー株式会社にて、決済、EC事業に従事し、サービス企画、事業戦略、サービス責任者などを歴任。その後、株式会社ユニクロにて、国内外のアプリ開発におけるプロジェクトマネジャーを経て、2019年2月より現職。

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馬場裕 Yutaka Baba

サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エンジニアリング部 サービスデベロッパーグループ リードエンジニア

2017年にパーソルキャリア株式会社に入社。前職では、主に受託開発や客先常駐でWebサービスやアプリ、業務システムの開発。dodaに関連するサービスの開発に従事し、キーワード検索やアンケート機能、新規サービス開発を効率的に行うためのAPI開発を行う。現在は新規サービス開発の部署に移動して、「マイポテ」の開発でエンジニアチームの取りまとめを行う。

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佐藤匠生 Shoi Sato

サービス企画開発本部 サービス開発統括部 UXデザイン第1グループ リードデザイナー

民泊系スタートアップ、不動産テック企業などで新規事業立ち上げやWeb/アプリにおけるUI設計に従事。2018年よりパーソルキャリアに参画。UI/UX領域の専門家として複数の新規プロジェクトを支援する傍ら、デザイン組織の立ち上げにも奮闘中。

※2020年2月現在の情報です。