「当たり前」のユーザー視点を取り戻す――dodaマイページ改善プロジェクト

dodaマイページ改善プロジェクト

「doda」は、求人広告サービス、エージェントサービス、スカウトサービスなど数多くのサービスを一つのブランドで提供しています。会員がそれらのサービスを利用する際の拠点となる「マイページ」は、いわば“dodaの玄関口”。しかし、サービスごとに複数の事業部が関わるがゆえにdodaのシステムは非常に複雑で、マイページもユーザーが使いやすいとは言えない状態でした。

そうしたマイページの大規模リニューアルプロジェクトに取り組んでいる、企画担当の井手(プロダクトBITA部)と、エンジニアの東辻(エンジニアリング統括部)にインタビュー。改善プロジェクトの難しさとやりがいについて、話してくれました。

各部署の都合が混在し、ユーザー視点に欠けていたマイページ

——dodaの「マイページ」は、どうして、リニューアルが必要になったんですか?

井手:それを説明するためには、まずdodaのサービス全体について話す必要がありますね……。パーソルキャリアは、エージェント事業や求人広告事業など、さまざまなサービスを提供しています。それらのサービスの集合体が、dodaというブランドなんです。

ユーザーは、1つの「dodaアカウント」を取得すれば全てのサービスが利用できます。それらは、1つのマイページからアクセスできるようになっています。

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▲プロダクト本部 プロダクト開発統括部 プロダクトBITA部 doda BITA第2グループ コンサルタント 井手亮典

——ユーザーとしては、1つのマイページからアクセスできるのは便利ですよね?

井手:ただ、パーソルキャリア社内ではそれぞれのサービスを運営する事業部が異なっているんです。そのため、事業部ごとの意図を反映したマイページを作ろうとすると、ユーザーにとって不都合な点が出てきてしまうんですよ。

——具体的に、どういった点が不都合だったのでしょうか?

井手:ユーザーから届いた声のなかに、「応募の進捗状況を確認したい時に、どのページを見たらいいかわからない」というものがありました。“直接応募した企業からの連絡をチェックする”ページと、“エージェントサービスで応募した企業の件でキャリアアドバイザーからの連絡をチェックするページ”が別々に設けられていて、ユーザーは自分の応募状況を一覧で見れなかったんですよ。

——そ…それは使いづらい。別のボックスを見るために、一度マイページのトップまで戻らないといけないとなると、 たしかに面倒ですし、見落としも起きそうですね。

東辻:もちろん、こんな形式になってしまったのにも理由があって。複数サービスがまとまっているdodaの都合上、ある部署からの改善要望を反映させようとすると、そのページに関係する全ての部署の了承を得ないといけないんです。

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▲テクノロジー本部 エンジニアリング統括部 第1開発部 プロダクトアーキテクチャBITAグループ エンジニア 東辻良幸

東辻:なので、サービスごとにページを分けて、関係している部署を絞るほうが、それぞれの部署から受けた要望をシンプルかつスムーズに反映させることができる。その面ではよかったんですが……。

——その結果、ユーザーにとっては見づらいページになってしまった、と。

井手:そうなんです。ユーザーにとっては、直接応募もエージェント経由も、同じdodaじゃないですか。サービスを管轄している部門が異なるのも、サービスによってチェックするページが違うのも、全てパーソルキャリア側の都合なんですよ。それなのにページを行ったり来たりと、マイページ上でたらい回しにされるのは明らかにおかしい。

もちろんこれ以外にも数え切れないほど問題があって、簡潔に言うと、我々の都合ばかりで「ユーザー視点」が欠如したページだったんですよ。要望を受けるがままに機能追加した結果、それぞれのページごとのUIも統一されていないし、求人検索する画面には「フィルター」と「絞り込み」の2つのボタンが付いていましたし。

——……「フィルター」と「絞り込み」って、両方とも同じ機能じゃないんですか?

井手:そうなんですよ! これを見て「問題だ」と誰も言わなかったことが問題だったんです。そんなパーソルキャリアの都合中心だったマイページに、ユーザー視点を取り戻そうというのが、リニューアルの目的でした。

要望を鵜呑みにせず、意識的に取捨選択

——大きなポイントでは、どのようなリニューアルが行われたのでしょうか?

井手:わかりやすいところだと、「お知らせ」ページですかね。こちらがリニューアル後のページなんですが、どんな印象ですか?

リニューアル後のお知らせページ

▲リニューアル後のお知らせページ

——新着情報が一覧できるページですよね。アプリやSNSでよく目にするような、一見普通な感じですが……。

井手:そう見えますか? 良かった……!

東辻:良かったです、本当に。

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——「良かった」? どういうことでしょう?

井手:普通じゃなかった状態をようやく普通にできた、僕らにとっては画期的なページなんですよ。サービスごとで見るページが違っていた時代は、当然お知らせページも同じような構成になっていて。

——つまり、お知らせページがサービスの数だけあった……?

東辻:そうです。お知らせページにアクセスすると、サービスごとのボタンが並べて表示されていて、さらにそれぞれのボタンの脇に新着件数が数字で表示されていました。

お知らせページの改善

▲お知らせページの改善

井手:お知らせページは、「バッジで表示される新着件数を、リアルタイムの新着情報のみとする」という調整も行いましたね。

前日にマイページを開いたユーザーが翌日もアクセスした場合、「前回ページを見た後に届いた新着情報があるか」を知りたいのが普通じゃないですか。だけど以前は、お知らせの項目一つひとつをタップして開封しないと、「新着」のバッジが消えなかったので、昨日開いた時にすでに表示したはずの未読分にさらに今日の分が上乗せして表示されるというスタイルになっていたんです。

——新着件数をゼロにするのにも、なかなかの手間がかかりますね。

井手:ですよね? これは良い改善だと思ったんですけど、社内からはこのリニューアルに物言いが付いて。「まだ見ていないお知らせもあるのであれば、それは表示し続けないといけないじゃないか」と。

——なるほど……。ユーザーとしてはリニューアル後の仕様のほうが使いやすいですけど、「せっかく送ったお知らせを見落としてほしくない」という事業部側の意見もわかります。

井手:しかし、それを全て受け止めた上で、本当に必要なものは何か考えるのが僕たちの役割です。新しいマイページに責任を持っているのは僕たちの部署なので、そこの取捨選択は意識的に行わないといけません。

なので、社内からいただいたご意見に対しては「そうですよね、検討します!」と答えてます(笑)。

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——ユーザーの都合と会社の都合、両方のバランスを取ってマイページを作っていかなければならないんですね。リニューアルでは苦労も多かったと思いますが、具体的にはどのようなことが大変だったのでしょうか?

井手:大きく3つありました。まずは、リニューアルの結果とその影響をどの視点からチェックするか。次に、リニューアルをするにあたってどう社内コンセンサスを取るか。最後に、技術的な問題です。

まず、マイページのリニューアルが難儀なのは、使いやすくすることが、ユーザーの転職成功率を高めるわけではありません。求人情報を見てその会社に応募するかどうかって、マイページの使いやすさが全てではないですよね。選考を通過できるかどうかも、転職希望者と社内のキャリアアドバイザーにがんばってもらうしかないので。

——たしかに、「マイページが使いやすいから転職活動がうまくいった!」とは、なかなかならないですね。

井手:だから、リニューアルの効果がどのくらいあったのかを検証することが難しいんです。使いづらくても使わないといけないのがマイページなので、リニューアルしてもユーザー数が大きく伸びるわけではないですし。

貢献度合いが数字で計りにくいので、このリニューアルにどこまで投資をしていいものか、経営視点でも判断がしにくかったと聞きます。そこは、リニューアルの必要性を繰り返し事業部にかけあうことで、ようやく実行にこぎつけましたが。

——最終的には、リニューアルの評価はどういった点で行うことにしているんですか。

井手:いろいろと迷いましたが、「マイページ経由の応募」をKPIの1つにしました。並行して、新しいマイページに関するアンケートも適時実施して、使い勝手に関するフィードバックをユーザーからもらっています。

——では、技術面についてはいかがでしょうか?

井手:技術的にも、やっぱりdodaに紐づくサービスの多さがネックでした。いろいろ面倒な調整を東辻さんが、がんばってくれて。

東辻:はい、がんばりました(笑)。dodaに紐づく各サービスは、使っているシステムもそれぞれ違っていて。その乱立したシステムが全て絡んでくる場所が、マイページなんです。

dodaマイページ改善プロジェクト

――システムもサービスごとに異なっているんですね。

東辻:元のシステムが異なるので、データベース上のテーブル構成もそれぞれ固有に成立しています。そのため、各サービスの情報を1つのページでまとめて表示しようと思うと、全てのシステムに関連するテーブルを参照し、膨大なデータを集約する必要があるので、表示にかなりの時間がかかります。リニューアルする前と後で、その速度に変化がないよう、かなり泥臭く仕組みを作っていきました。

具体的に一部を説明すると、社内ではARCS(アークス)とBACS(バックス)と呼ばれている2つのデータベースを、バッチで連携させ動かしています。連携する際に、マイページに最適化された形で連携ができれば良いのですが、それを念頭に置いてしまうと、作りたい機能の数だけ大量のデータを扱うバッチとテーブルが量産される可能性があります。また既存のバッチを改修し、連携するデータの種類を増やそうとすれば、既存のテーブルに手を加えることになるので、大量に存在する他のバッチや関連システムの調査をしなければなりません。こうした中で一つ一つ検証し、今できる最適解を模索していきます。同時に、マイページの品質を守るためにサーバサイドのロジックやSQLを精査し、不要なものを捨て、自分たちの目的に合わせた形へ組み直していきました。

dodaの仕事の醍醐味は、レガシーなシステムからの変革に立ち会えること

――社内の調整における苦労も、技術的な苦労も、dodaならではなのでしょうか。

東辻:エンジニアとしてdodaに携わるというのは、そういうことなんです(笑)。新規サービスをイチから作るのであればシンプルな構成にすることもできるし、今回のような苦労はなかったと思います。だけど、dodaの場合は、30年の歴史のあるサービスですし、その分蓄積された情報が詰まったレガシーなシステムを扱わないといけない。そこを覚悟して入社したほうがいいと思います。

井手:たしかに、最新のデータベースを使って仕事できるとだけ思っている人には、あらかじめ知っておいてもらったほうがいいかも…。

東辻:でも、歴史あるサービスを運営する事業会社でエンジニアとして働くと、レガシーなシステムに向き合う時がいつか必ず来るんです。現在パーソルキャリアではシステムの内製化を進めていますけど、複雑なシステムをいかに定義づけして、自分のものとして扱えるようにするか、社内のエンジニアは特に意識的に考えていると思います。

dodaマイページ改善プロジェクト

――マイページにおいての内製開発のメリットは、具体的にどういったところでしょうか。

井手:社内のステークホルダーが多いマイページは、細かい調整を行おうとしても、要件定義にやたらと時間がかかります。外部ベンダーに発注するとなると、なおさら細かく要件定義をしないといけなくなるので、発注から実装のサイクルをクイックに行えなくなってしまう。それならば、全ての部署から寄せられる要望に優先順位をつけ、その都度対応できる、内製での開発のほうが圧倒的にスムーズなんですよ。

「マイページ改善は、外注では進みません」と社内で繰り返しプレゼンして、社内でもいち早く、外注から内製に移行しました。一から内製で運営している新規サービスを除けば、内製に最初に移行したのがマイページチームだったと思います。

違和感なく使えることは「当たり前」でしかない

――これだけ苦労してマイページのリニューアルを実現されたのであれば、ユーザーからの好反応もたくさん届いたかと思います。

井手:いえ、全くそんなことはなく……。マイページって「違和感なく使えるのが普通」なので、「リニューアルして良くなったです!」という声は基本的に届かないんですよ。むしろ、ユーザーからの声が来るとすれば、クレームで(笑)。なかなか報われないですけど、誰かがやらないといけないんで。

東辻:でも、たくさんの一般ユーザーが使うシステムだからこそのやりがいもあるんです。家族や友達と話している時に、「最近こんなことやったよ」って、リニューアルしたマイページを見せることができるんですよ。僕は前の職場で官公庁向けの開発を行ったんですが、当時は自分の仕事を実際に見てもらうことなんてできませんでしたし。

仕事の流れとしても、ここを改善したらこんな影響があって、そうなるとここを調整したらこういう影響が出るだろうか――と、UIについて色々な人と話しながら真剣に突き詰めていくんです。自分で考えて、それにフィードバックをもらうという一連の流れが、自分にとってもすごく勉強になっていると感じてます。

――マイページの改善にあたって、エンジニアサイドから企画サイドに提案をすることも多いんですか?

東辻:むしろ、そっちのほうが多いですね。来た要望に対してのアプローチ方法を考えるよりも、自分で課題を見つけて、井手さんはじめ企画チームに提案し、改善策を一緒に考えるところもエンジニアの役割です。

dodaのエンジニアには、難しさももちろんありますが、企画担当者と同じ目線で話しながら改善方法を考えていく楽しさがあると思います。

dodaマイページ改善プロジェクト

――最後に、今後の改善の内容や予定を教えて下さい。

東辻:新しく目標にしているのは速度改善です。現時点でもある程度の速度は担保していますが、よりスムーズに使えるように内側の改善をしていきたいな、と。「井手さんの頭の中をどれだけ適切な形で表現するか」はずっと個人的なテーマですね(笑)。

井手:これからは、「ダメな部分を改善する」のではなく「より良くしていく」ことが必要なんです。dodaのマイページは、リニューアルしてようやく、他社と見劣りのしないものになったと思っています。いよいよ次は、「サイトが良いからdodaを使おう」と思ってもらえるところまで、プロダクトを仕上げていくことですね。

(文・編集=ノオト/写真=西田優太)

dodaマイページ改善プロジェクト

馬場裕

井手 亮典 Ryosuke Ide

プロダクト本部 プロダクト開発統括部 プロダクトBITA部 doda BITA第2グループ コンサルタント

2016年、パーソルキャリアに新卒で入社。1年目からdodaサイトのシステム開発案件のプロジェクトマネジメントを担う。2019年からプロダクト戦略グループを兼務し、dodaサイトの戦略・企画立案、主にマイページ領域の責任者として企画から開発までを担当。その他に、社会課題解決企業を中心としたソーシャル・ワークスタイルフォーラムの開催、社会課題解決を仕事にするサイトの企画なども行っている。

今村健児

東辻 良幸 Yoshiyuki Higashitsuji

テクノロジー本部 エンジニアリング統括部 第1開発部 プロダクトアーキテクチャBITAグループ エンジニア

前職では官公庁向けのwebアプリケーションに従事し、2018年3月にパーソルキャリアへ入社。一貫してdodaの内製開発に携わる。元ゲーマー。現在は父親として日々奮闘し、時々ゲームを嗜むゲーマーとしての側面も持つ。

※2020年2月現在の情報です。