ユーザー体験価値の最大化を――UXデザイン部GMが考える「これからのデザインの在り方」とは?

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あらゆるサービスのweb化が進み、ますますデザイナーの価値は向上しているといわれていますが、それはエンジニアとの共鳴があってこそ成立するもの。まさに切っても切れない関係にあるデザイナーとエンジニアの連携について、そして新規サービスを創るうえでのデザインの在り方について、サービス開発統括部 UXデザイン部のゼネラルマネジャー、藤井に訊きました。 

“デザイン×エンジニアリング”の領域で勝負するための組織づくり

――本日はよろしくお願いします!まずは、自己紹介からお願いします。

藤井:去年の10月にパーソルキャリアに入社しました。現在の肩書はゼネラルマネジャーで、UXデザイン部の部長をしています。簡単にこれまでのキャリアをご紹介すると、大学でデザイン/アートを、その後に専門学校で3Dを学び、一緒に作品作りをしていた友人に誘われてゲーム会社に入社しました。キャリアのスタートは、PS2やX-BOXのゲーム制作でした。

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その後、一緒に仕事をしていた方や友人に誘われて起業したり、自分で小さな事業を始めたり、就職したスタートアップや一部上場企業で、いくつかのデザイン組織を立ち上げました。その中のひとつ、スタートアップ企業のCOOが今の上長、エグゼクティブマネジャーの三口で、彼がパーソルキャリアに転職し私を誘ってくれて入社することになりました。 

――藤井さん…いえここはいつも通りレナさんと呼ばせていただきます!(笑)この半年の間、どのような取り組みをされてきたのでしょうか?

藤井:最初の1か月はUIを作り、手を動かす期間を設けました。デザイナーが長い期間手を動かさないと、取り残されてしまうので(笑)。でも、組織づくりに注力した方が効率的だということで早々に切り上げて、採用活動に移っていった感じです。私が入社する前からすでに4サービスほど開発/運用していましたが、リードデザイナー2名で切り盛りしていた状態。さらに三口は、この組織でサービスをもっと生み出していかないといけないと言っており、これは人が足りないぞということで採用を強化していきました。現在は16名(2020年6月)が在籍するデザイン組織になっています。

――レナさんは入社当初からどのような組織を作りたいと考えていたのですか?概略を教えてください。 

藤井:私は長い間、ベンチャーやスタートアップなどの小さな事業会社で働いていました。1、2名のデザイナーが1つのサービスにコミットしているような現場では、広大な荒野を広く浅く及第点に耕していく作業に追われがちです。それはそれで良いところもあるのですが、各々が専門領域を持つメンバーで構成されているチームには品質の面で勝てないと感じていました。また近年は、デザインという領域は非常に広く扱われていますが、ひとりのデザイナーがカバーできる領域には限界があります。チームで臨まないと、世の中に価値ある体験を提供するのは難しいと考えており、体験を社会実装するための専門領域を定義し、4職種を集めた組織にしています。

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UXデザイン部 職種別守備範囲

「UI/UXデザイナー」は、サービスのUIやグラフィックデザインのスキルを持つデザイナーです。サービスには体験が非常に大切になりますので、“UX最大化のため、合理的かつ効果的にUIや体験をつくる職種”と定義しています。対して、どういったユーザーにどんな体験を届けるべきなのか、本当に良い体験を実装できているのかをデータドリブンで進めていかないといけない。そのため、ユーザーから適切な定性データを摂取し開発の起点をつくるプロフェッショナルとして「UXリサーチャー」を置いています。UXリサーチャーにはプロジェクト横断して全体を見てもらっていますが、もう一つ、プロジェクト横断する職種として「サービスデザイナー」があります。「UI/UXデザイナー」は体験の実装が主戦場ですが、それよりも俯瞰してサービスを捉え戦略から体験を設計し、持続するビジネスのしくみを考えるのが「サービスデザイナー」です。

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また、UXデザイン部はエンジニアと一緒にサービスを作っていく、“デザイン×エンジニアリング”の領域で勝負している組織です。なので、“ユーザー体験の最大化”にコミットする専任のエンジニアがいることで、さらに良い体験を提供できると考え、「UXエンジニア」の職を設置しています。ただ、各メンバーはこの中の1つの役割りだけを担っているわけではなく、たとえば私は「UI/UXデザイナー」と「サービスデザイナー」を兼務したはたらき方をします。他のメンバーも同様、UXリサーチャーをメインでされている方も、データを扱うのみではなく施策まで取り組みたい場合は、“UXリサーチャー7割、UXデザイナー3割”みたいな業務配分で、各々が力を一番発揮できる割合で働いてもらいます。 

“やや自立分散型組織”でクオリティとスピードを確保

――デザイナーの方が組織を作る時には、やはりデザインと同じようなアプローチをとるものなのでしょうか。

藤井:はい、同じですね。“デザイン”という言葉は“設計”という意味を持っているので、組織を設計するという話かと思います。デザイナーは普段から無意識に5つのフェーズを経てアウトプットしています。5つのフェーズとは「対象を観察」「課題を発見」「アイデア発想」「認識しやすく」し、最後「造形」に至ります。この「造形」に至るまでの思考法が“デザイン思考”と言われているもので、デザイン以外の問題解決にも応用できると言われています。私たちデザイナーは意識せず、こういった思考法を多用していると思います。

あと組織づくりでは、特にエンジニアとの関係を重視しています。私たちの仕事はデザイン組織の中だけで完結するものではなく、様々な方と繋がっていなければ成立しません。そのなかでもなぜエンジニアなのかと言うと、これはデザイン組織や経済構造の歴史を紐解いていくと理解していただけます。

初期のデザイン組織は、例えばレオナルド・ダ・ビンチなど1人の天才を中心とした工房が、教会や貴族たちをクライアントに受託制作していました。1990年代には、フレームワークを駆使する事によって天才以上に成功確率を高めたデザインファームが登場します。

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デザイン組織の歴史

iPodが登場する2000年代、機能訴求だけでは商品が売れない時代に突入します。大手デザインファームがデザイン思考やイノベーションコンサルティングとしてビジネスと強く結びつき始めました。2010年代以降はスマホの登場で、顧客とのコミュニケーションが変わりました。企業は顧客との継続する関係性を求められており、そのためデザインとエンジニアリングとが高度に融合した組織を必要としています。

現在はエンジニアリングによって経済構造が大きく変わっています。産業革命以前の農業経済では、土地×労働者×資金で富を生み出してきましたが、産業革命以降の工業経済ではボトルネックになっていた土地は機械に代替されました。アプリケーションによるサービス経済では、さらに労働者がアプリケーションに代替されています。アプリケーションを動かし続ける事によって富を生み出せるので、当然のことながらエンジニアの価値も高まりますよね。ですが、エンジニアリングによる競争優位性が通用しないケースもあります。例えばGoogleやアリババなどのITジャイアントがAI技術を研究しはじめると、大抵の企業では敵いません。それらのコア技術がAPI公開されると技術のコモディティ化がおこり、差別化要因が機能から利用体験やブランドストーリーに置き換わり、そこでデザイナーの役割が重要になります。

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また、何人ものエンジニアを投入してサービスを市場にリリースして、実際のサービスで検証するには長い時間と莫大な費用がかかります。仮に、そのサービスがうまくいかなかった時にやり直すとなると、大変なことになりますよね。ですが、仮説をデザイナーが紙芝居(プロトタイプ)にして、エンジニアが実装する前から検証していくことによって、成功確率を上げる事ができます。デザイン組織は、エンジニアの最高のパートナーです。エンジニアと共創するデザイナー、デザイン組織の価値が高まっています。 

――レナさん自身はこの新規サービスを生み出していくサービス企画開発本部の状態をどう捉えていて、何を加えていこうとお考えですか。

藤井:デザイナーが不足していたので、まずは受け容れるための環境作りと採用活動が、この半年のフェーズでした。私たちは、『doda』と同じくらいのインパクトのある、「働く人たちを日常的にエンパワーするサービス」を生み出し、日本の労働人口6700万人に出来る限りリーチしていくことを目標としています。ですが新規サービスを生み出す確率は、一般的には5~10%といわれています。ですので、とにかく数多くチャレンジして成功確率を上げていこうというのが、私たちの生存戦略です。そのためには24サービスを同時開発できる組織体制が必要だと考えています。

 

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24サービスを同時開発できる組織へ

24サービスを同時開発できる組織体制とは、目的ではなくあくまで手段です。ただこの手段のため少し特殊な開発をしていると思います。もちろん、1つの会社が様々なサービスを出しているケースはありますが、一般的には事業部で分かれてサービス開発しているかと思います。一方でサービス開発統括部は、1部署で24サービスを開発/運用しようとしています。多様なターゲットに価値あるサービスを届けるためには、我々も多様な価値観を内包している必要があります。UXデザイン部のメンバーは社内外問わず積極的に越境して、多様性を組織にもたらしたいですね。

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また、現在は10ほどのサービスを並行して開発/運用していますが、私がすべての工程で確認しようとすると、私自身がボトルネックになってしまいます。そこで、素早く仮説検証し続けられるよう、メンバーは各現場で上長承認を得ることなく意思決定する形をとっています。言うなれば“やや自立分散型組織”って感じですね。“やや”というのは、パーソルキャリアはヒエラルキー型の組織として設計されていますが、UXデザイン部内では“自立分散”を良い塩梅で取り入れているという意味で、そのように表現しています。

ただデザインという領域は広すぎるため、1人の人間が意思決定に十分な技術や知識を持ち合わせているとは考えていません。そのため、独自の6つの専門領域を定義した専門家制度を取り入れており、自分の苦手な領域については専門家に助言を得られる体制にしています。デザインスプリントの専門家はこの2人、UXリサーチの専門家はこの2人というように、複数名の専門家を立てています。

アウトプットは“世界一”でなければダメ

――デザイン組織の重要性を深く理解できました。社会的にも存在意義が認められているということですね。 

藤井:そうですね。組織の形に対する考え方で『BTCモデル』というものがあります。ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの頭文字をとって、そう呼ばれていまして、このバランスが良いとイノベーションを生み出しやすい組織だと言われています。また、スタートアップでサービスを作るために必要な最小構成は、ハスラーとハッカーとデザイナーの3名だと言われていますし、どんな会社でも必要な存在だと思っています。

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実際に私自身、周囲の誰かしらが起業する際はお声がけ頂く事が多く、身の回りで新しく事業を始めようとする人たちは、すべからくデザイナーを必要としてくれていたように思います。そうして、デザイナーがいない組織に1人目のデザイナーとして参画するのですが、そうするとあれやこれやと色々と頼まれます。重要なプロジェクトには大抵、説得力のある資料が必要だったりします。経営者の頭の中にしかないビジョンを見える化するお手伝いなど、良い経験を積ませて頂きました。デザイナーがいる事による恩恵は、企業にとっても大きいと思います。

――レナさんがデザイナー個人として大切にしていることは何ですか?

藤井:デザイナーとしてのこだわりはあまりないんですよ。自分の事業をしていた時は、職業をデザイナーとは思っていなかったくらいですから。自分は企画屋だと思っていたこともありましたし、課題解決の手段として、たまたま他の能力よりもデザインが得意だったから、スキルとしてデザインを使っていただけで。デザインを愛しているデザイナーと話をしていると、自分自身、“これでよいのか?”と悩んだりするくらい(笑)。そのぐらいこだわりないです。

ただ一方で、アウトプットは“世界一”でなければダメだと思っています。例えば、パンひとつ買うにしても、家から5分圏内で、店員さんも愛想よくてという、複数の条件が重なって、“今の私にとって世界一のパン屋さん”となるわけですよね。2番目のパン屋だと買ってもらえないんです。漫然と手を動かすのではなく、どういった限定条件のもと“世界一”を目指すのか、その人にとって1番いい選択肢であり続けるため、どう設計するかにこだわっていたとは思います。

――デザイン組織を通じて、今後実現したいことを教えてください。

藤井:当然ながら、組織のミッションを遂行するということですね。日常的に使えて、働く人たちをエンパワーする『doda』と同じくらいインパクトのあるサービスを作り出したいですし、その成功の再現性を高めていく。そういうイメージを持っています。サービスひとつで6700万人をカバーできないという話もあるので、ある程度の成功を何度も再現して、スマッシュヒットを高打率で打てるような組織にする必要があります。そんな目標を掲げながら頑張っていきます。

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――ありがとうございました!

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=THE TEXT FACTRY(エーアイプロダクション)/撮影=古宮こうき)

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藤井 烈尚 Rena Fujii

サービス企画開発本部 サービス開発統括部 UXデザイン部 ゼネラルマネジャー

学生時代にグラフィックデザインや3Dを学んだ後、コンシューマーゲームの企業に開発現場に飛び込む。その後いくつかの事業立ち上げに携わり、スタートアップから一部上場企業まで、デザイン組織を4度立ち上げる。2019年10月よりパーソルキャリアに入社し5度目のデザイン組織づくりに従事。仕事と並行して全脳アーキテクチャ勉強会(汎用人工知能の勉強会)の実行委員も務める。

※2020年6月現在の情報です。