時はさかのぼること2年前、パーソルキャリアでは法人顧客への提供価値をさらに高めていくために、部分的に導入していたSalesforce(以下、SFDC)の全社展開をスタート。転職サービス「doda」、プロフェッショナル人材採用支援サービス「HiPro」などをはじめとした法人向けサービスを提供する事業にて利用が進められてきました。
個別事業内での最適化だけでなく事業/サービス横断のプロジェクトにまで活用は広がり、SFDCがなくてはならない基盤となった今、導入を主導してきたITコンサルタントたちの目は、今後のさらなる運用強化や事業間連携の強化に向けられているのだといいます。
今回は、当プロジェクトを主導するITコンサルタントの谷口、楊、上原の3名にSFDC活用におけるこれまでの歩みと、これからについて話を聞きました。
- “データを活用した根拠のある営業活動” と “シームレスな事業間連携” の実現に向け、SFDC全社導入へ
- 本当にやりたいことや見込まれる効果を現場の方々と一緒になって考え、実りある改修を
- 数字や現場の喜びの声、さらなるご要望……取り組みの結果が目に見える形で返ってくることが醍醐味
“データを活用した根拠のある営業活動” と “シームレスな事業間連携” の実現に向け、SFDC全社導入へ
――SFDC導入プロジェクトにおける皆さんの役割から教えてください。
谷口:まず全体像としては、全社導入を一つの大きなプロジェクトとして進めるのではなく、各事業の営業企画の方々と事業部内のBITA組織が連携しながら、それぞれ独立した形で導入を進めています。
私と楊さんは求人広告サービスなどを取り扱う採用ソリューション事業部と法人企画のインサイドセールスを、上原さんはEAS事業部を主に見ており、その中で担う役割としては、事業戦略に応じたIT活用の検討や営業企画の方からご相談いただく課題に対する解決策のご提示、そしてそれらを実行に移す際のプロジェクトマネジメントが中心です。
――2021年にSFDCの全社導入へ舵を切られた背景には、どのような課題があったのでしょうか。
上原:エグゼクティブ層向けの人材紹介サービスを手がけるEAS事業部においては、難易度の高い営業活動の大部分をコンサルタントの力量に頼っていることが課題となっていました。
「どうして受注できたか」を科学的に示せるようなデータをとり、根拠のある営業活動ができる体制を作るためにも、システムを活用していこうとSFDC導入に着手しています。
谷口:データを活用した根拠のある営業活動を、という原点は採用ソリューション部も同様です。営業支援システムはすでに導入されていましたが、「一定の工数をかけて入力しても、すぐに営業活動に還元できるようなアウトプットが得られない」という理由で利用が定着していなかったり、別途Excelで管理されるデータもあり情報が散在していたり……システムはあってもその仕組みやデータは活かしきれていない状況でした。
また事業間の連携という観点でも、情報が分断されているためにコミュニケーションが円滑にとれておらず、お客様にとってマイナスの体験を生んでしまっていたのです。これらの課題を解決するべく、全社としてSFDC導入が進んでいきました。
――そういった課題は、営業支援システムや顧客管理システムの導入において一般的に見られるものなのでしょうか。
楊:前職でコンサルタントとしてシステム導入のさまざまなケースを見てきましたが、やはり「システムを入れても活用、定着が上手くいかない」という点で一定数の企業が苦労されている印象です。
活用、定着においては “現場の要望” を汲んだ活用方針の設定やシステムのカスタマイズが欠かせませんが、そういった要望は外部のコンサルタントに依頼するのでは受け取りきれない部分があります。やはり「社内の企画者やシステム管理者が、いかに “現場のユーザーに価値やメリットを還元できるような仕組み” を企画段階から作れるか」が多くの企業にとって課題となっているのではないでしょうか。
本当にやりたいことや見込まれる効果を現場の方々と一緒になって考え、実りある改修を
――プロジェクト始動後、どのように導入を進めていかれたのですか?
谷口:企画部門とBITA組織で「どのように浸透させていくか」を一緒に検討し、導入を進めていきました。
楊:データ活用を行うにはまずデータの蓄積が必要で、そのためには、今までの営業活動を変える必要があります。そういった習慣化されたものを変化させる過程においては、自主的な動きに頼ることはなかなか難しいため、まずはマネジメント層を巻き込んである程度の強制力を持った形でシステム利用を始めていただくことにしました。
谷口:初めの頃は、定期的に活用状況をモニタリングさせていただき、情報の入力率が低い組織に対して企画の方からアプローチしていきましたね。
これである程度定着が進んだ後、今度は工数をかけて情報入力を行っていただいていることに対してメリットをお返しできるように、少しずつ機能の改修を重ねてきて今に至ります。
――EAS事業部ではいかがですか?
上原:初めはログイン率や情報の入力率を週単位で追っていき、思うように定着していない組織に対して企画の方から働きかけを行ってもらう形で進めました。
ただ、それだけでは取り組みとして長続きしないため、マネジャーや現場の経験豊富なコンサルタントの方々などから「ここをもっとこうしてほしい」といった要望をお聞きしています。少しでも使いづらさを解消して負担を軽くできるように、また入力した結果を営業活動に活かしてもらえるように、私たちもユーザーインターフェースや機能の改修を続け、利用率を一定以上に保つよう取り組んでいます。
――現場の方々との密なコミュニケーションがカギとなっている印象です。やり取りをする中で意識されていることがあれば教えてください。
楊:現場の方々からいただくご要望と、彼らの最終的な目的が必ずしも合致しているとは限らないため、対話の中で「本当にやりたいことは何か」を一緒になって考えて理解し、必要に応じてより良い方法をご提案できるように意識しています。
上原:ご要望をいただいても、予算上叶えるのが厳しい場合や確かな効果があがるか懸念が残る場合もあり、どう落としどころを見つけていくかはやはり難しいところです。そういった時には「その改修をすることでどのくらいの効果があがるのか」を一緒に考えてもらうように働きかけることを心がけてきました。
そうすることで、現場の方にも「その改修にどれだけの作業工数が必要なのか」を知り「本当に意味があるか」を改めてしっかりと考えていただくことができ、実りある改修を増やすことにもつなげられるのかなと思っています。
谷口:効果の観点はやはり重要ですよね。その中でも、現場のユーザーさんやマネジメント層の方々にとっての効果や価値の他に、お客様にとっての価値や、ITコンサルタントや企画職としての狙いまで含めて、全体のバランスをとることが求められるのだと思います。
――そのような工夫を重ねられ、SFDC導入はどの程度まで進んできたのでしょうか。プロジェクトの現在地をお聞かせください。
谷口:現在は導入が終わり、事業ごとに利活用を進めている段階です。また、事業間でSFDCを活用した情報連携の仕組みを構築し、他の事業の情報を上手く活用してクロスセルにつなげるような動きも徐々に見られてきています。
ただ、連携している情報の質にはまだ課題感があり、今後連携の仕組みをより上手く使える状態を目指して運用強化を進めていきたいところです。
数字や現場の喜びの声、さらなるご要望……取り組みの結果が目に見える形で返ってくることが醍醐味
――ここまでのプロジェクトを振り返って、感じられた喜びや醍醐味があれば教えてください。
谷口:営業企画の方々とBITA組織とで、それぞれのプロフェッショナルな領域を活かして上手く連携しあい、時には互いの領域に染み出しあいながら協業することに面白さを感じています。
またその先で200人を超える営業の方々の行動に変化が生まれ、良い意味でも悪い意味でも結果が目に見える面白さもあるのかなと思いますね。
楊:ユーザーに近い場所で仕事ができて、「使いやすい」「1ヶ月で◯社の商談者数が増えた」といった喜びの声が聞けることが何よりのやりがいであり、醍醐味だと思っています。スケジュール・リソースの調整や機能の連携など難しいことがさまざまある中で、苦労が報われる感覚です。
上原:もちろんポジティブな声だけでなく「もう少しこうして欲しかった」というご要望などもありますが、良いものでも悪いものでも反応が返ってくる、という部分には楽しさを感じますよね。時には思いがけない反応もありますが、それも事業のことをよく知るための一つの道筋だと考えると、やはりこの仕事の醍醐味だと感じられています。
――プロジェクトを通して、学びにつながったことはありますか?
谷口:SFDCは標準の仕組みである程度のことができ、定期的に自動でアップデートがなされるようになっているため、あまり作り込みすぎるとそういったSaaSならではのメリットを享受できなくなってしまうなと思います。一定、制服に体を合わせにいくような使い方が望ましい部分もあるのだなと、運用開発を進める中で感じました。
ただ現場から「どうしてもやってほしい」と強いご要望をいただく場合もあるため、やはりバランスが大切ですね。
上原:ITコンサルタントにも、現場のユーザーやマネジメント層の方々にも、それぞれに「こういうふうにしたい」という夢がありますが……それが実現した先で運用にのせる際に、新しい機能が加わったことによって企画側で新しい業務が増えてしまう、といったこともあり得るため、いかにそのバランスをとるか、あるいはいかにその負担を減らすかまで考えていくことが重要なのだなと気付かされました。
楊:以前は “投資に対する効果” にお二人のようにはっきりとは目を向けられていませんでしたが、この1年半ほどの取り組みを通して、確かな効果をあげて現場に還元することが必要なのだと意識するようになり、このプロジェクトに入って良かったと感じています。
――ありがとうございます。それでは最後に、今後チャレンジしたいことをそれぞれお聞かせください。
楊:これまで技術的な面での経験を自分自身の財産として積み上げてくることができましたが、さらに皆さんの力になるためには、今後マネジメントの経験を積む必要があると思っています。今の仕事はまさにそれに最適なポジションですから、現場の皆さんや企画の方々、さらには他事業部やベンダーさんまで含めたさまざまな方とお話ししながら、マネジメントスキルを身につけられるよう頑張っていきたいと思います。
上原:今はデータを取りはじめたばかりの段階で、数値的な可視化ができているのは人材紹介のビジネスモデルの中でも一部分にとどまっており、まだまだこれからだと思っています。今後はモデルの中の各過程でしっかりとデータを積み上げ、それを活かして先の見通しを立てたり方針を検討したりと事業の役に立つ形でご提供できる状態を目指していきたいですね。
谷口:採用ソリューション事業部においては、マーケティングからインサイドセールス、そしてフィールドセールスへ、という連携の部分にまだ改善の余地があるため、情報の量や鮮度を最適化していきたいと思っています。そしてそれによって、“人にしかできないところ” に営業の方々が時間をかけられるようにしていきたいです。
また今はまだ試行錯誤の段階ですが、今後SaaSの運用保守をスリム化しながらコストを削減しつつ、品質と対応のスピードを高めて、と最適化を進めていきたいなと思います。それに向けて、新たな仲間が加わってくだされば嬉しいです。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)
谷口 将貴 Masataka Taniguchi
BITA統括部 採用ソリューションBITA部 SFA推進グループ マネジャー
ITサービスの会社に新卒入社。SE、PMとして総合商社向け基幹システムの開発、運用・保守に携わる。顧客課題に応じた案件の提案など、上流工程からシステムリリースまでを行い、様々なシステム対応を伴うプロジェクトのマネジメントを経験。2020年8月パーソルキャリア入社、2022年10月より現職。
上原 大伸 Daishin Uehara
BITA統括部 プロジェクトBITA部 ビジネス・システムPMグループ シニアコンサルタント
大学院修了後、SIerに入社。その後、ベンチャーや医療系に特化した人材紹介業などに携わる。プログラマーから始まり、運用、インフラ構築(サーバ、ネットワーク両方)、品質管理、プロジェクトマネジメント、ライン管理を経験。2020年パーソルキャリアに入社後、現在はEAS事業部のプロジェクトマネジメントをメインとして課題解決に携わっている。
楊 麗 Li Yang
BITA統括部 採用ソリューションBITA部 SFA推進グループ リードコンサルタント
中国出身で大学院卒業後に来日。SEとして金融・広告など社内システム構築に長年経験を積み、一時にコンサルタントに転職。2021年パーソルキャリアに入社後、プロジェクトマネジメントの道を進め初めて、日々ユーザの課題と向き合い、現場に役立つシステムを提供できること目指す。
※2023年4月現在の情報です。