パーソルキャリアでは、「キャリアオーナーシップ育む社会の実現」に向けて各事業・サービスを日々進化させています。特に転職サービス「doda」を中心とした主力事業では、その長い歴史の中でサービスも成長し、サイトやアプリ、業務システムの開発、ビジネスアーキテクトの推進、インフラ周りの整備など、IT/テクノロジー活用も大きく変化してきました。その分IT投資・予算についてもしっかりとその説明責任を果たしながら、増強しています。
以前IT予算の考え方にまつわる記事を公開したところ、多くの方にご覧いただき、今もなお人気を集める記事となりました。
そこで今回は第2弾として、前回に引き続き既存事業に関連したIT予算の家計簿を一手に担う高木と、パーソルキャリア CIOの片山も交え、これからのIT投資に求められることとパーソルキャリアのIT予算の考え方についてたっぷり話を聞きました。
事業継続的な投資と、事業成長につながる積極的な投資の両立
――前回IT予算の考え方についてさまざまなお話をお聞きしましたが、今回はまずその変遷について伺えればと思います。この十数年を通して、IT投資・予算の考え方においてどのような点が変化したのでしょうか。
片山:まずリーマンショック後、業績が厳しい状況の中でIT投資を減らさざるを得ない時期がありました。その当時、“将来の成長に対する投資” の必要性について盛んに議論が交わされていたと認識しています。
そうした流れの中で、よりITを積極活用していこうと立ち上げられたのが、事業成長をITの側面から支援する「BITA組織」です。
BITA組織が立ち上がって以降は、一時IT投資に対して慎重に判断していました。これは今も大切にしている点ですが景気回復に合わせて少しずつ回復してきた売り上げを適切にITの投資に使うため、費用対効果の観点をより厳しく見て、コストを抑制する傾向が強かったような感覚があります。
その後、私がIT投資全体を管轄するようになったのが2015年頃からのことですね。
この頃以降は、もちろん費用対効果は重視するものの、そもそもの仕組み上課題がある部分を改善する “事業継続的な投資” もしっかり行っていかなければいけないと考えました。そして土台の部分を良くしていく中で、より事業の成長につながるような “積極的な投資” もしていかなければいけないと……この二つを両立してきました。
そうした過程で、IT投資の重要性に対する経営の理解も深まっていき、現在のようなIT投資を積極的に進めていく姿勢が形作られてきたのだと認識しています。流れとしては、IT投資については継続的に拡大路線できているというところです。
――IT投資の重要性に対する理解が得られた要因を、どのように捉えられていますか?
片山:2012年 BITA組織が立ち上がった頃には、運用保守が高いレベルでは行われておらず、障害も多発してしまうような状況がありましたが、体制を強化しながら成熟度を増していく中で実際に障害が減りました。
また維持管理以外の面でも、例えば、プロダクトの改善をアジャイルでどんどん進めていくなどの体制強化や進め方の見直しを行う中で、着実にユーザー体験が向上し、登録・応募も増えていきました。そのような、目に見える形での成果があがったことは一つ要因としてあると思います。
また取り組み単位で投資に対する効果の振り返りをしっかりと行うことや、年に一度経営に対して「年間の投資に対してどれだけの事業貢献できているのか」の報告を行うことを、過去からずっと続けてきた結果でもあるのかなと思います。
直近2年間で変わったことと、変わらず大切にしていること
――大きな流れとして、IT投資に対してより積極的な姿勢をとられているとのことですが、前回からの2年間でIT予算にまつわる変化はありましたか?
高木:戦略的にクラウド活用を推進していこうという流れの中で、AWSなどの利用に伴う費用の処理方法を変更しました。
「ホールディングスで契約し、個社で使った分のコストが振り分けられる」という請求方法は変わりませんが、社内の管理会計取引という仕組みで科目を付け替える形にしたことで、サービスを利用している事業にとって費用が見えやすくなったのです。
こういったグループ横断で振り分けられる費用は、これまで見えづらいために強く意識されることがなかったものですが、「業務システムやプロダクトの拡張、データ量が増える中で、費用としても膨らんでいた」ということが目に見える形になったんですね。
これを契機に、課題を認識して “使うべきコストはしっかりと予算を確保して使い、工夫することで抑制できるコストは最適化をしていく” という適切な管理を改めて考え直す動きが生まれています。
――事業企画や経営企画の方々と調整を行う中で感じる変化としてはいかがですか。
高木:IT投資・予算の仕組みを理解した上で中長期のプランを立てたり、事業の業績を説明するために自分たちが使っているコストの中身を理解しようとしたり、そういった動きが見えてきているなと感じています。
かつて「IT関連のコストは、ITに関する理解がしにくいことに加え、コスト妥当性もわかりにくいが故にBITA組織にお任せ」というシーンも多かったところから、「自分たちの事業のコストの一つとして、これまでわからなかったITに対しての理解や、コスト妥当性を把握しながら意志を持って管理するんだ」という姿勢の方々が増えてきた印象です。
要因としては、先ほどお話ししたような会計処理の変化でコストが見えやすくなったという点もありますし、何か新しい取り組みを行う際にITは切っても切り離せないものですから、自分ごと化されるようになってきたという側面もあると思います。
片山:そうですね。事業における取り組みとITというものが、初めから紐付けて考えられていた訳ではありませんが……やはり各事業の中にBITA組織を取り込んで、“事業の中のIT人材” として取り組み続けてきたことが大きかったのではないでしょうか。
BITA組織が各事業との連携を深め、事業横断で使われるシステム含めて各事業に対する説明責任を果たそうと取り組んできた――その結果として事業のシステム費用に対する意識が高くなってきていると思います。
――ありがとうございます。反対に、この2年間変わらず大切にされていることをそれぞれの立場からお聞かせください。
片山:投資判断においては、費用対効果は変わらず大切にし続けています。「どれだけ事業の売上や利益に貢献できる取り組みなのか」を見極める、というのが大前提ですね。
一方で、事業を維持していくための費用も大切なので、この部分については「何を目的に、どれだけのコストをかけるのか」「それに見合う価値とはどのようなものか」を、定量的には難しくとも定性的にしっかりと評価しながら判断していくよう意識しています。
――費用対効果を見るにあたってさまざまな指標があると思いますが、特に重要視されているのはどのような点ですか?
片山:指標は取り組みによって異なりますが、一番大切にしているのは、事業における “効果” に対してのコミットメントです。
IT投資によって仕組みが間違いなくよくなる、という話があったとしても、それをいかに活用していくかが非常に大事だと思うんです。
例えば、何か工数削減につながる取り組みを行うにしても、「その削減された工数がいかに利益貢献できる活動につながるのか」が大事ですよね。現状をよりよくするためにITを活用することはもちろん大事で、積極的に投資は行うけれども、その過程で事業運営における効果に対してのコミットメントを厳しく見る、というスタンスです。
――高木さんはいかがですか。
高木:変わらないのは、“間に立つ意義” を考えることだと思います。事業の担当者から言われた数字を経営にそのまま報告することは、誰にでもできますから。
事業と経営、それぞれの視点や立場を理解した上で、厳しく管理する必要がある部分は厳しく見る一方、時には事業がやりたいことについて経営にこちらから理解を求めて許可をもらう――そういった、両者と信頼関係を築いてきた介在者の立場だからこそとれるコミュニケーションを、地道な部分ではありますが意識し続けていますね。
積極的なIT投資で、IT人材から選ばれる環境と組織を作りたい
――後半は、“パーソルキャリアにおけるIT投資のこれから” に焦点を当ててお話を伺います。短期的な投資と中長期的な投資というものがある中で、今後どのようにIT投資を考え、行っていくべきだとお考えですか。
片山:“短期的に価値のある取り組み” に対する投資を引き続き積極的に進めながら、“中長期的にやらなければいけないこと” に対する投資も優先度を落とさずにしっかりと進めていきたい、と考えています。
テクノロジー本部の中期経営計画の中でも、技術負債の解消が一つ大きなテーマとして挙げられていますが、これも過去から段階的に「フレームワークのバージョンアップ」「アーキテクチャの見直し」などの取り組みを進めてきました。ここから更に、「クラウドへのリフト・シフト」を行うと同時に「アーキテクチャの改良・改善」を継続的に取り組んでいきたいところです。
短期的な成果が出づらい部分であっても、将来的なリスクにつながる懸念があるならば積極的にIT投資を行っていくという姿勢は、これまでもこれからも変わらないと思います。
実際にコロナ禍で業績が厳しい状況にあっても、パーソルキャリアではIT投資をほとんど落としておらず、むしろ昨年は過去にない規模のIT投資が行われているんですよね。これからも短期的な要因に左右されることなく、中長期的な目線でIT投資を行うことは大切にしていきたいですし、そのために必要とあれば経営に対する提案なども行っていきたいと思っています。
――そういった短期的な成果が見えづらい部分への投資を積極的に行えるのは、やはりBITA組織の取り組みによってIT投資に対する理解が醸成されてきたからなのでしょうか。
片山:BITA組織としてしっかりと成果をあげ、それを認識してもらうための振り返りやコミュニケーションを行ってきた、という積み重ねも要因としてあると思いますが……。
それだけでなく、まずテクノロジー活用に力を入れていこうという全社の方針から「テクノロジー本部」ができ、エンジニア組織がどんどん拡大していくという短期的な大きな流れがあって、その中で、仕組み自体を継続的に改善していかなければ技術負債が大きくなり、それ自体が将来的な経営リスクになり得る、ということに対する理解も深まってきているように感じますね。
――今後、IT投資をする上で特にどのような領域に注力していくべきだと思われますか?最後にそれぞれのお考えをお聞かせください。
片山:少し抽象度の高い話にはなりますが、IT/テクノロジー活用を進めていくにあたっては “人” がとても大切になるので、ITコンサルタントやエンジニアのような、いわゆるIT人材から選ばれるような環境、そして組織でありたいと思っています。
そのためにも、社員が活躍できるような環境を作るための投資をしっかりと行うべきだなと。また現在も外部有料セミナーへの参加や研修受講などの支援を会社として行っていますが、そういった社員のスキル向上に向けた投資も引き続き推進していきたいと思います。
高木:やはり、環境作りは大切ですよね。例えばPCのスペック一つをとっても、満足できるものを使ってよいパフォーマンスを発揮してもらえるように。予算を確保していきたい部分でもあり、またIT予算管理を担う立場として「抑制すべき部分をしっかりと管理することで、そういった環境作りにコストをかけていける」とみなさんからの理解を得るアプローチもしていきたいなと思います。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)
片山 健太郎 Kentaro Katayama
パーソルキャリア株式会社 CIO(Chief Information Officer)兼 テクノロジー本部 BITA統括部 エグゼクティブマネジャー
1998年にITコンサルティング会社でシステムの開発、運用保守、BPRに伴うパッケージシステムの導入を実施。 IT化構想策定など、上流案件も実施し、14年間務める。 一つの企業の経営にもっとしっかり携わりたいと考え、2012年2月にパーソルキャリアに入社。 人材紹介・転職メディア事業のIT責任者を務め、2015年からIT組織(BITA統括部)を管掌。
高木 史 Fumi Takagi
テクノロジー本部 BITA統括部 テクノロジー企画部 テクノロジー企画グループ
2013年11月パーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に中途入社。
※2023年3月取材時点の情報です。