2022年2月~3月、アマゾン ウェブ サービス(AWS)の活用をテーマとした研修プログラムがパーソルグループ社員向けに開催されました。この研修を主導するのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)とパーソルホールディングス(以下、パーソルHD)。今回で2度目の開催となる本研修では、全5回のプログラムの中で初学者から中級、上級とレベルを上げながら、AWSの活用方法について学べる構成になっています。
今回は、AWSジャパン 技術統括本部 エンタープライズ技術本部でサービス産業向けのチームでマネージャーを担っていらっしゃる藤倉様をお招きし、特別インタビューを実施。国内のグループ会社39社(2022年4月1日時点)のAWS活用を推進するパーソルHD増田と、パーソルキャリアでAWS活用を推進する月島とともに、パーソルグループにおけるAWS活用の現在地と、今後活用を進めていくうえでのヒントを伺いました。
- 2016年「クラウドファースト宣言」以来着実にクラウドリフトが進み、今やクラウド活用は当たり前の“文化”に
- クラウド推進に重要な「スキル・マインド面の後押し」の一環として、AWSジャパンと研修を共同主催
- これからのHR業界におけるAWS活用のあり方と、インフラエンジニアに求められることとは
※撮影時のみマスクを外しています。
2016年「クラウドファースト宣言」以来着実にクラウドリフトが進み、今やクラウド活用は当たり前の“文化”に
――本日はよろしくお願いいたします。まずは、パーソルホールディングスにおけるAWS活用の現在地から教えてください。
増田:パーソルグループでは、2015年からAWSを用いたクラウドの本格利用を開始し、グループ共通のクラウド基盤の構築が進められました。2016年には、グループ全体で「クラウドファースト宣言」を実施。これを機に、徐々にクラウド活用が進んできています。
現在では、おおよそクラウドが70%、オンプレミス環境が30%程度の割合までが進み、クラウド活用がグループ内で当たり前の文化として根付きつつあります。
月島:パーソルキャリアも、クラウドリフトは進んできているものの、クラウドシフトができているものとなると新規事業関連や一部のサブシステムにとどまり、今後さらに活用を推進していく必要がある状況です。
ただ現在は、過去システムの大部分をアウトソースで管理してきたために発生した技術負債の解消や、内製化を進める中での組織体制づくりが過渡期にあるため、これらの取り組みが進む過程でクラウド活用もより加速していくのではと捉えています。
――着実にクラウド活用推進を行ってこられた中で、課題に感じていることはありますか?
増田:直近の課題は、システム間連携が複雑でアーキテクチャの整理が追いついていない、レガシーなシステムのクラウドリフトです。私の所属するグループIT本部では今後オンプレミス環境の利用率0%を達成し、2025年度末にはグループ共通の標準データセンターを廃止することを目標に掲げているので、まずはこの点に取り組んでいこうと考えています。
また現在はクラウドの利用が増えているものの、どうしてもレガシーな思想から抜け出せず、クラウドのメリットを最大限に享受できていないシステムも一部存在しています。クラウドリフトを達成した先では、モダンアーキテクチャ化・クラウドネイティブ化などが課題になってくると思います。
月島:パーソルキャリアとしては、内製化を進める中で「どこに注力すべきか」を見極めることが一つの課題です。機能追加や改善から技術負債の解消まで、取り組まなければならないことが数多くあるので、どこを内製化し、どこをパートナー様と一緒に行うべきか検討を進めています。
また、これまでの環境に熟達しているメンバーにとってクラウドは真新しい領域になるため、情報や知識、事例などを共有したりスキルの調整をしたりと、受け入れ態勢づくりについてもサポートしていく必要があると思います。
――藤倉様のお立場からご覧になって、パーソルホールディングスやパーソルキャリアの印象はいかがですか。
藤倉:世の中的に、クラウドのIT投資に占める割合が2021年の予測は37%程度となっており、2025年で51%とトラディショナルなITを上回る予測だそうです。*1グループ全体で70%近くもクラウドリフトがなされているというのは進んでいると言えます。
AWSをご利用いただくにあたり「既存の資産のリフト」と「“新しいこと”をクラウドネイティブなやり方でクイックに立ち上げ、ビジネスを加速させる」の二つの道があると考えています。前者は運用保守などの業務をスリム化するために必須の部分ですが、一方で新しいことにも着手していかなければいけません。パーソルグループ様全体のご様子をみても、この両方の道を歩まれているなと感じますし、バランスや進め方が理に適っているなという印象です。
もちろん、レガシーなシステムのリフトとおっしゃっていたラストワンマイルが大変な部分ではあると思いますが……最終的には既存システムがシフトすると共に、新規でたくさんつくられているクラウドネイティブのものが融合し、向こう5年ほどで新しいステージに到達されるのではと思っています。
クラウド推進に重要な「スキル・マインド面の後押し」の一環として、AWSジャパンと研修を共同主催
――藤倉様はさまざまな企業様をご担当される中で、クラウド活用推進の鍵がどのようなポイントにあるとお考えですか?
藤倉:取り組みへの適切な投資や評価を行うためにも、まずはトップダウンでクラウドファースト宣言をして体制を整えることが重要であるという大前提のもと、その先で「スキル」と「マインド」が大切なポイントになると思います。
トップダウンでいくら方針を打ち出しても、それを実現できる人材を育てなければ絵に描いた餅になってしまうので、スキルを向上させるための教育、人材育成の観点が欠かせません。今回もご受講いただいたように、AWSのトレーニングメニューなどを活用して知識の底上げをしたり、また個人や部署ごとではなく組織として知見を蓄積するために、組織横断でナレッジを共有し合うことが重要です。
マインド面では、せっかくクラウドに移行したとしても、従来通りのやり方が存続して取り組みが止まってしまっては勿体無いです。慣れたやり方を大きく変えるのは難しいことでもありますが、「クラウドを使えば、作業が早くできる」「スケーラビリティが簡単に手に入れられる」と感じることができれば、次からもこの方法でやってみようと意識が変わるはずです。小さな成功体験を積み重ねていければ良いのではと思います。
パーソルグループ様では、クラウドネイティブなアプリケーション構築などにも積極的に挑戦されながら、育成・成功体験の蓄積とナレッジ共有のサイクルが上手く作れていることが一つの成功要因なのではないでしょうか。
――クラウド推進において大切な「人材育成」の一環として、研修プログラムの実施でAWS様のお力をお借りしていると伺っています。研修がスタートした背景と、概要についてお聞かせいただけますか。
増田:1年前にミーティングをさせていただいた際に、パーソルグループでAWSの知見を蓄積し、リテラシーを高めて有効にAWS活用を進めるための枠組みをつくりたいとご相談していて。その際にご提案いただいたのが、プライベートイベントの実施でした。
昨年実施した一度目の研修では全5回・講演形式のプログラムに、IT人材だけでなく営業、制作部署の方まで各200名程度、のべ1,000名もの社員が参加してくれて、大切な学びの場になりました。その成功を受けて、継続して今年も実施させていただくことになったのです。
今年は昨年よりもアナウンスが遅れてしまい、集客に苦戦しましたが、それでも述べ800名ほどの方が参加していただいています。やはりAWSへの興味があることは応募の反応や受講者数から明確ですね。
コンテンツとしては昨年を踏襲する要素と新たに加えた要素があり、初学者から熟練者をコンテンツによってスコープを定めていることは踏襲したままに、今年は新たに開発者向けのコンテンツも備えました。
パーソルでは昨今、内製化組織に対するモチベーションが高くなっていますので、それに伴って開発者の採用が加速しています。昨年はインフラレイヤにスコープを当てていましたが、今年はアプリケーションレイヤまで網羅できるようにコンテンツを練って臨んでいます。
これからのHR業界におけるAWS活用のあり方と、インフラエンジニアに求められることとは
――ここからはディスカッション形式でお話を伺います。まず、HR業界におけるクラウド活用は他業界とどのように違いがあると思われますか。
増田:HR業界の特徴は、お客様の大切な個人情報をお預かりし、またwebサービスを軸とすることが多い事業の性質上、より深くセキュリティと向き合っていく必要がある点だと思います。
月島:「人」「人生」を扱うからこそ、セキュリティやコンプライアンスは一層しっかりしていると思いますし、そうあるべきですよね。事業スピードを高めながらも、コンプライアンスに確実に準拠させることがとても大切になるのかなと。
藤倉:私としても、物理的な “もの” を扱うのではなく形のない “人のデータ” を扱い、そこに付加価値をつけて提供するビジネスだからこそ、セキュリティと表裏一体になっていく点が大きな特徴だと捉えています。こうしてパーソル様が先陣を切って事例をつくってくださることで、これからマーケットの理解も変化していくのではと思います。
――そうした非常に重要な情報を扱う業界において、この先クラウド活用を進めていくにあたりAWSに関わるインフラエンジニアがどのようなスキルを伸ばしていくべきか、どのような経験を積んでキャリアを築いていくべきか。皆さんのお考えをお聞かせください。
増田:2025年くらいの近い未来を見据えると、そもそも「インフラエンジニア」という領域にこだわる必要はなくなるのではないかと思っています。インフラレイヤではAWSのようなGUIで簡単に構築できる環境が整備され、アプリケーションレイヤではローコード・ノーコード化が進み、誰でも容易にITに触れられる環境が整備される中、従来のエンジニアリングが“無くなる”ことはなくとも、縮小していくことは起こりうるはずです。エンジニアの専門性が失われる時代もあり得るのかなと。
その際には他の領域とのかけ合わせによって、ビジネスレイヤを含めたゼネラル系のスキルが必要になるのではないでしょうか。
月島:私も同様に考えています。インフラエンジニアはシステムをつくる上で組織横断的な役割を果たすことが多く、セキュリティやガバナンスなどの非機能的な領域に強みがあると思うので、そこを伸ばしていくなどの選択肢もあると思いますが……その中でも、やはり全体像を理解していないとやるべきことは見えてこないと思うので、インフラに限らず知識の幅を広げていく必要があるのかなと思います。
増田:アーキテクチャのスキルもそうですし、事業や組織としての目的を理解し「何を目的にこのような構成を設計するのか」といったビジネス観点の目的思考を身につけることも必要です。
藤倉:おっしゃる通りビジネスの観点が非常に重要である中で、従来のプロジェクト評価ではQCD (Quallity, Cost, Delivery) がよく用いられますが、今後はそこにビジネススケールも一体となった評価がなされるべきだと思います。
ビジネスが伸びている時にサービスの応答時間を適切なものにできているか、コロナ禍で転職市場が落ち着いた時にコストを下げられるか。そういったビジネスと連動する形でインフラサービスをマネージすることが必要であり、その視点を持ち合わせて柔軟に対応することがこれからのインフラエンジニアに求められるのだと捉えています。
増田:そのためにはやはり課題感や危機感を持って仕事に取り組むことが重要です。そのマインドが「エンジニアリングだけやっていてはいけない」という思考に行き着かせ、人を動かすのかなと個人的には思います。
――貴重なお話をありがとうございました。それでは最後に、今後皆さんがAWSジャパン様×パーソルグループの連携の中でチャレンジしたいことについてお聞かせください。
月島:パーソルキャリアとしては今後もどんどんクラウド活用を進めていこうと思っているので、軸となるAWS環境を提供してくださるグループITの皆さんと密に連携しながら、グループ全体のシナジーを生んでいければと思います。
そうした中で、まだクラウドシフトなど試行錯誤している部分もあるので、AWS ジャパン様には今後もナレッジやサービスをご提供いただくなど、引き続きお力をお借りできればと思っています。
増田:私たちはこれまでは基盤の運営などインフラにフォーカスした役割が中心でしたが……昨今のHR業界ではベンチャー企業の台頭も激しく、流れが早い状況にあるので、よりイノベーティブな開発やビジネス、そのための環境づくりにフォーカスしていきたいと思っています。
AWS ジャパン様とは、外部の知見や他の企業様の事例などをご提供いただいたり、壁打ちをさせていただきながら、共に良いアイデアをつくり上げていけたら良いと思います。
藤倉:現在は技術的なご相談をいただき、また研修などを通してご支援させていただくことが中心となっています。ですが、AWSは実業で使われているメソドロジーがベースとなったもので、テクノロジーの枠にとどまらずお客様のビジネス開発やをご支援することも可能です。
具体的にはデジタルイノベーションプログラムという Amazonが実践している顧客起点のサービスデザイン手法を学ぶことができるもので、Amazon/AWS のフレームワークを利用したワークショップをご提供可能です。そこで出たアイデアを実現するためのプロトタイプ開発のご支援も実施させていただいております。
今後はビジネスの領域にもう一段深く入り込み、パーソルキャリア様、パーソルグループ様全体のビジネスに貢献できるように、協業させていただくパートナーとして、関係性を築いていければと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
――AWSの活用によって、さらにビジネスが加速する予感がしてきました…!本日はありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=小野綾子)
藤倉 和明 Kazuaki Fujikura
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 エンタープライズ技術本部 流通サービスグループ 交通物流ソリューション部 部長
2016年に AWS 入社。入社後、エンタープライズのお客様向けにクラウド活用に向けたアーキテクティングを実施。Security Virtual Teamにも所属しており、Securityをテーマとした内容でAWS Summit Tokyoに3年連続で登壇。2021年よりサービス産業向けのお客様を担当するチームのマネージャーとして活動している。
増田 健吾 Kengo Masuda
パーソルホールディングス株式会社 グループIT本部 ビジネスコアインフラ部 クラウド推進室 エキスパート
メーカー系Sier、エンタメ事業会社、コンサル企業で主にインフラレイヤにおけるさまざまなIT領域のプロジェクトを経験。2017年にパーソルホールディングスに入社し、以降、パーソルグループ全社を対象としたAWSクラウド基盤のプロダクトオーナーおよびチームマネージャーを担当。2018年にはAWSサミットへの登壇を経験している。
月島 学 Manabu Tsukishima
インフラ基盤統括部 システム共通BITA部 AWS推進グループ マネジャー
PCメーカーに新卒入社。その後、SIerを経て、自動車流通企業にてインフラ組織のマネジメントを経験。2011年よりAWSを中心に自社とグループ会社のクラウド化の推進や、データセンターの撤廃にプロジェクトマネージャーとして従事。2019年、パーソルキャリアに入社。現在はAWSを活用したクラウド環境の整備、移行推進を担当している。
※2022年4月現在の情報です。