コンプライアンス・ガバナンス強化の第一歩――“コンプラ審議プロセスガイド”の道のりとこれから

トップ画像パーソルキャリアは、転職サービス「doda」を中心とした既存ビジネスや、「人々に“はたらく”を自分のものにする力を」というミッションを実現するための新規サービスなど、社会にさまざまなサービスを提供しています。その背景には、5,000人強の従業員を抱えながらもベンチャースピリットを持ち、スピーディーに企画を推進することを大切にしてきた歴史があります。

一方で、これまでtechtektでも取り上げてきたように、昨今プライバシーを考慮した取り組みの重要性が増し、企業のコンプライアンス・ガバナンス強化に対する社会的要請も高まってきています。

そこで、2021年4月から“コンプラ審議プロセスガイド”の運用を開始。スピーディーな企画実行と企業として守るべき責任の両立に向け、第一歩がスタートしました。これまでどのような課題があり、またどのような議論の過程で本ガイド作成に至ったのか。今回は、ガイド作成に当たった情報セキュリティ担当 石川、法務担当 鳩野、そしてテクノロジー企画から廣と柿田に話を聞きました。

 

 

プロセスの全体像を可視化して企画者・チェック者双方の負担軽減へ

――まずは、コンプライアンス推進部のお二人から、それぞれの組織の役割を教えてください。 

鳩野:パーソルキャリアには、法務を担う部署として契約グループと法務グループの二つがあります。契約グループは、既存サービスの契約条件の審査や、サービスのトラブル対応などを行う部署です。対して私の所属する法務グループは、既存サービスの機能追加や新規サービス、その他企画案件に関するリーガルサポートを行う部署で、情報セキュリティグループと連携しながら日々の業務を行っています。

コンプライアンス推進部 法務グループ マネジャー 鳩野 恵子

コンプライアンス推進部 法務グループ マネジャー 鳩野 恵子

石川:情報セキュリティグループは、個人情報保護の観点から、個人データの取り扱いを「お預かりした時点からデータを消すまで」の一気通貫で管理する役割を担う部署です。具体的には、オペレーション部分のリスクマネジメントやシステムのセキュリティリスクへの対応を中心に、情報の取り扱いの細かな運用や、プライバシーマーク関連など法令に関わらない部分のチェックを行っています。

 

――ありがとうございます。今回の“コンプラ審議プロセスガイド”作成のお話を詳しく伺っていきます。まずは、ガイドの作成に至った背景からお聞かせください。

 

鳩野:私たちはコンプライアンスを「ステークホルダーの期待に応えること」と定義していて、それ自体は昔から今も変わりません。ただ昨今の周辺環境の変化に伴って、私たちコンプライアンス部門に求められる役割や対応する案件の質が変化してきていました。

 

石川:例えば、世の中にクラウドファーストの考え方が広まったことで、それまでIT部門が一箇所で管轄していた個人データの管理が、各ユーザー部門に委ねられるようになりました。また、個人情報にまつわる漏洩事件が散見されることや、機械学習が広まってデータの使われ方の不透明性が増したことから、消費者の意識も高まってきていますよね。これらに伴って「法令遵守」だけではカバーできないコンプライアンスやプライバシー保護の観点まで、各企業が適切に管理していくことの重要性がさらに高まっています。

 

また社内の動きとして、「エンジニア組織と企画組織を拡大し、施策をどんどん作っていこう」と舵を切ったほか、組織体制と人事制度が整えられたことで内製エンジニアの定着も加速してきました。こうした流れを受け、我々コンプライアンス部門に持ちかけられる企画の相談件数が急増し、レベルも高度になってきています。

コンプライアンス推進部 情報セキュリティグループ マネジャー 石川 忠

コンプライアンス推進部 情報セキュリティグループ マネジャー 石川 忠

こういった社内外のさまざまな要因が影響しあった結果、企画の検討段階でチェックすべきポイントの数が膨大になり、チェック担当者の中で「どこから手をつけていいか分からない」「何を検討すべきか見えにくい」といった課題が生まれていました。チェック工数を削減し迅速に対応していくためにも、まずはコンプラ審議プロセスの大枠を可視化しようとガイド作成を始めました。

 

――テクノロジー側のお二人から見た課題もお聞かせいただけますか?

 

廣:石川さんのおっしゃる通り、「サービスやプロダクトを新しく生み出していくこと」をミッションにし、テクノロジーを活用してよりスピーディーに新しいことにチャレンジしよう、という組織が増えています。しかし、コンプライアンスや情報セキュリティに関する知見を、必ずしも全員が同じレベル感で持てている訳ではありません。その結果、本当に基本的な問い合わせからレベルの高い企画立案における相談まで、全てがコンプライアンス部門の皆さんに飛んでしまっていました。

 

柿田:またここ1,2年の社員数の増加は顕著なものです。その分、ビジネスのボリュームも大きくなりますし、新しい挑戦の数や、それに伴う相談の数が急増することも必然的なものです。その中で「ベンチャースピリットを持ってスピーディーに企画を進めていこう」と、急ぎの相談が次から次へ舞い込んできては、コンプライアンス部門の皆さんのご対応にも限界がありますよね。

デジタルテクノロジー統括部 リードエンジニア 柿田 一

デジタルテクノロジー統括部 リードエンジニア 柿田 一

廣:そういったコンプライアンス部門の皆さんの負担もありながら、一方で企画関係者たちにとっては、コンプラ審議プロセスの全体像が見えない部分があり、自分たちの力で推進していこうにもなかなか難しい状況でもありました。このガイドの作成は、「これを見ればコンプラ審議プロセスがわかる」という最低限の枠組みが揃うことで、両者の負担を軽減する役割を持つと認識しています。

 

“守るべきものは変わらない”――その中で最大限に効率を高める工夫を凝らす

 

――課題解決のために、今回ガイド作成という策を選ばれたのはなぜですか?

コンプラ審議ガイドライン

コンプラ審議ガイドライン

柿田:いくつか策は検討していますが、始動した昨年末の時点でのコンプライアンス部門の業務負荷を見て、短期的に効果を出せる施策を、できるところから始めていく必要があるだろうという判断に至りました。

その中でコンプライアンス部門の方々にヒアリングを進めていくと、企画の細部が詰まりきる前の問い合わせが多いとわかったんです。例えば、「〜〜がやりたいから、このサービスを使ってもいいですか」という漠然とした相談が持ちかけられ、「どういうニーズを何で解決したいのか」「なぜそのツールが必要なのか」といった文脈が抜け落ちていると。そのために、企画のベース部分の検討からコンプライアンス部門の方々が入らざるを得なくなっている、ということがボトルネックの一つとして見えてきました。

恐らく企画者としては、初期段階からしっかりと専門家に相談し、抜かりなく着実に企画を進めていこうと意識しているのだと思いますが、それではコンプライアンス部門の方々の業務負荷が大きくなってしまいますよね。

そこで、まずは「こういう情報をもって相談していただければスムーズです」と明文化することで、企画段階での単純なやりとりを減らせれば、短期間でもお互いの負荷をわかりやすく軽減できるのではないかと考え、ガイドを書きはじめました。

 

――今回は大きな課題を解決する第一歩として、目に見える効果を生み出すことを重視されたのですね。「ガバナンスの強化」と「チェックにかかる時間・工数の削減」の両立を目指すにあたり、ガイドはどのような方針で作られたのでしょうか。

テクノロジー企画部 ゼネラルマネジャー 廣 泰介

テクノロジー企画部 ゼネラルマネジャー 廣 泰介

廣:基本的には、「守るべきことをしっかりと守り、その中で最大限にスピード感を高めるために、先々の見通しを可視化する」という方向性で考えています。守らなければいけないものは変わりませんし、チェック体制がいきなり増強される訳でもないので……例えば一連のプロセスに3ヶ月かかるのであれば、3ヶ月かかるということを企画者にあらかじめ知っておいてもらい、その分早めに動き出してもらうようにしようという考え方です。

 

石川:そうですね。企業としての責任を果たすためにも、手綱を緩める発想はないというのが大前提です。

 

柿田:急がば回れといいますか、「ガイドをしっかり理解して遵守して進んでもらえば、ゴールが近くなりますよ」という思いで作っていますね。

 

鳩野:法務部門から見た時にも、柿田さんのお話にあったように、ご相談をいただく時点で「誰と・何のために・どのような形で」などの要素が抜け落ちていることが多いんですよね。その結果、細部を一緒に詰めていくのに時間がかかったり、企画段階での考慮もれから必要なチェックが抜け落ち、初めから審議がやり直しになる場合もあります。

ただ、これまで私たちが「そういった要素がコンプライアンスの観点から重要である」ということをあまり発信できていなかったことが、このボトルネックの一つの大きな要因としてあると思っているんです。だからこそ、今回「企画プロセスの各段階において何を考慮する必要があるか」を明確にし、ガイドの中に組み込ませていただきました。

 

――「規約」「関連法・許認可対応」「知的財産」「契約」の4項目で、コンプライアンス観点で検討すべきポイントを記載されているのも、同様に情報発信を意図されているのでしょうか。

 

鳩野:おっしゃる通りです。企画者ご自身であらかじめ検討していただきたい部分や、人材紹介のサービスを提供する上で押さえておくべき法律や考え方などを、しっかりと周知していきたいと思って記載しました。

デジタルテクノロジー統括部 リードエンジニア 柿田 一

柿田:こうしてプロセスと検討ポイントを可視化し、一人ひとりが全体像を一気通貫で見られるようになることで、今後さらにコンプライアンス部門の皆さんと企画関係者たちの目線があっていくことも期待しています。

 

今後も取り組みを続け、“共に”あるべき姿の実現を目指す

 

――ガイドをリリースされたことで見えてきた、新たな課題はありますか?

 

柿田:リリースしただけではガイドに則った運用を徹底していくことは難しいので、今後啓蒙活動をしていく必要があると考えています。おそらく、一度効果を実感していただければ継続して使っていただけると思うので、まずは試してもらえるように働きかけていきたいですね。

またプロセスのスタートからエンドまでのリードタイムや、問い合わせのターン数などは定量的に測れると思うので、効果測定などもやっていけたらいいなと思います。

 

――それでは最後に、今後の方向性や意気込みをお聞かせください。

テクノロジー企画部 ゼネラルマネジャー 廣 泰介

廣:課題はまだまだたくさんあり、今後も取り組みは続きます。その過程で、業務プロセスが見えづらいことやコンプライアンス部門の皆さんの負荷が大きいことなど、課題を少しずつ改善していけたらと思っています。

また、柿田さんのおっしゃる通り「作って終わり」ではなく、このガイドをアップデートし続けていくことと、皆さんに理解して使ってもらうための教育や検証をしていくことは必要だと思うので、この二つはきっちりやり切りたいと思います。

 

柿田:今は「個人情報が守れているか」という法令に照らした査閲の他に、「どう守るか」を考えるところまでコンプライアンス部門の方々に担っていただいていますが、今後さらにビジネスが拡大すると、これでは回らなくなってしまいます。Society 5.0の実現を目指し、データを使ってイノベーションを起こしていくという社会の流れを追い風に、テクノロジー領域に携わる身としてできることに積極的に関わりながら、テクノロジーを使ってあるべき形にシフトしていけるよう取り組んでいきたいと思っています。

法令解釈など頼るべき部分は頼らせていただきつつ、テクノロジー領域発での提案や議論をさせていただくなど、コンプライアンス部門の皆さんと一緒になって進めていけたらと思うので、よろしくお願いします。

 

――ありがとうございます。コンプライアンス推進のお二人からもお願いいたします。

 

鳩野:コンプライアンス部門も決してサービスの邪魔をしたい訳ではなく、顧客体験価値が高いサービスをリリースしたいという思いで日々取り組んでいます。その上で、私たちだけではどうしようもない部分が多く、皆さんと一緒に協力しながらでなければ前に進めません。今後も協力体制を築いて取り組みたいと思っていますので、ぜひ「一緒に」というスタンスでご相談をいただけるとありがたいです。

コンプライアンス推進部 法務グループ マネジャー 鳩野 恵子

また、これまではプロセスやチェックの論点などの発信が足りていない部分がありましたが、今回のガイド作成を第一歩として情報発信を積極的にしていきたいと思っているので、今後もよろしくお願いします。

 

石川:チェックをお待たせしてしまっている案件が非常に多いのは事実ですし、自分たちの専門知識を高めていかなければ技術の発展にも追いついていけないので、まずはチーム内でメンバーのスキル向上に引き続き取り組んでいきます。企画全体の把握力についても、皆さんと磨きあっていくことができたら嬉しいですね。

また今回はガイドでチェック観点を明示しただけなので、今後は各観点でのチェックを容易に進めていくためのツールなど「これぞ」というものを整備したいですね。「この観点でチェックすればいいんだ」「この観点で企画を作ればいいんだ」とわかるものをご提示し、皆さんと一緒に企画力を高めていくことにも取り組んでいきたいと思います。

コンプライアンス推進部 情報セキュリティグループ マネジャー 石川 忠

 

――コンプライアンス、ガバナンス強化に向けて、大きな一歩がスタートしたことがわかりました。本日はありがとうございました!

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈)

コンプライアンス推進部 情報セキュリティグループ マネジャー 石川 忠

石川 忠 Tadashi Ishikawa

コーポレート本部 コンプライアンス推進部 情報セキュリティグループ マネジャー

2007年にパーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に新卒入社。キャリアアドバイザー、システム部門・経営企画部門でのバックオフィス業務BPR・事業審査プロセス構築などに従事した後、個人情報保護管理等の運用を担当。パーソルホールディングス(旧:テンプホールディングス)転籍等を経て、2018年にパーソルキャリアに再転籍。2020年4月より現任。

コンプライアンス推進部 法務グループ マネジャー 鳩野 恵子

鳩野 恵子 Keiko Hatono

コーポレート本部 コンプライアンス推進部 法務グループ マネジャー

企業法務系法律事務所にて弁護士として勤務の後、2016年にパーソルホールディングスに入社。パーソルホールディングスではM&A案件や新サービスの立ち上げサポート等を担当。2019年10月よりパーソルキャリアにて勤務、2020年4月より現任。。

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廣 泰介 Taisuke Hiro

BITA統括部 テクノロジー企画部 ゼネラルマネジャー

2006年にパーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に新卒入社。キャリアアドバイザー、営業企画部門を経て、2012年よりシステム(BITA)部門へ配属。2015年にマネジャー着任。2020年より現任。

デジタルテクノロジー統括部 リードエンジニア 柿田 一

柿田 一 Hajime Kakita

デジタルテクノロジー統括部 データソリューション部 CODグループ リードエンジニア

2020年6月入社。金融系のシステム保守からキャリアをスタートさせ、2社目のシンクタンクではPMとしてインフラ開発全般に関わる案件に幅広く従事。直近ではシンガポールに駐在し現地ベンダーを率いて顧客調整、予算管理、プロジェクト推進、チームビルディングなどを担当。

※2021年9月現在の情報です。

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