dodaに登録をしたユーザーとキャリアアドバイザーをスムーズにつなぐ「カウンセリングweb予約」機能。2018年12月のリリース以来、常にユーザビリティを意識しながら進化を続けています。今回は、この「カウンセリングweb予約」機能の開発・運用を担当する企画側と開発側のキーマンをインタビュー。それぞれに違う立場を理解しながら、一つの目標に向かってプロジェクトを進めている、そのリアルな実情に迫りました。
※斧上、中野は退職していますが、本人の同意を得て、掲載を継続しています。
登録後、すぐにカウンセリング日時を自動設定。いち早いマッチングを可能に
――まずはお二人の簡単な自己紹介をお願いします。どういったご経歴でパーソルキャリアに入社されて、今はどんな業務をされているんでしょう。
斧上:以前は大手人材派遣会社で営業とフロント業務を担当していました。2016年秋にパーソルキャリアに入社して初めて企画に携わったので、我ながら結構キャリアチェンジしたなと思います(笑)。
入社後は、キャリアカウンセリングのご案内を担当しているセンターは外部に委託しており、そのマネジメント業務からスタートしていました。今はご登録者さまの経歴に沿って専任のキャリアアドバイザー(以下、CA)のグループの適切な振り分けも関わっています。呼び込みの戦略と戦術の立案も行いますね。
――転職しようと思われたのは、どうして?
斧上:これまで営業として、企業と求職者様のマッチングを見ていくうちに、マッチング機会そのものを創出する仕事をしたくなったんです。今はマッチングの仕組みづくりから携われて嬉しいです。
中野:私は独立系のSIerを2社経験して、2013年にパーソルキャリアに入社しました。翌々年からdodaエージェント事業部のシステムのPMを任せられるようになり、今年からはdodaプラスの基幹システムの刷新もPMとして担当しています。
――SIerにいた頃と今とで一番違う点は?
中野:SIerはどうしても、「この期間にこういうものを作って」というオーダーに対応していく仕事ですが、今は「そもそもどういうシステムを作るか」というグランドデザインから始められるので、そこが違いますね。
特にパーソルキャリアに来て良かったことは、自分の裁量で仕事ができることです。SIer時代は「このシステム役に立つのかな」と思いつつ、立場上そうは言えないから粛々と進める、という経験もしましたからね(笑)。
――そもそも「カウンセリングweb予約」はどのようなもので、何を変えるための施策なのでしょうか。
斧上:ご登録者さまがCAと接点を持つには、まずカウンセリングに来ていただかないといけないんです。以前はカウンセリングのご案内をするセンターからお電話で誘致しかありませんでした。そこで、ご登録者さまがご自身のお好きなときにカウンセリング枠を予約できるようにしたくて、「カウンセリングweb予約」のサービスを企画しました。
弊社としては、より多くの方に、キャリアカウンセリングを通じて、転職の可能性を幅広く提供したいことからも、以前はとにかくたくさんの方を誘致する方針で、現職のお仕事が終わられるであろう遅い時間帯にも、ご登録者様へお電話をさせていただいておりました。でも、やはりタイミングが異ればご登録者様にはご迷惑ですよね…。
一方で、ご登録くださった方に対して時間を空けずに枠のご案内をしたほうが、日程調整もスムーズでカウンセリングの設定率は上がるんです。また、カウンセリング案内センターの営業時間が終わった深夜にdoda登録される方も一定数いるはずだ、となったときに、サイトのマイページから自動で即カウンセリング枠をご案内できるこのシステムは、顧客体験にとって大きなプラスになると思い、スタートしました。
――登録してすぐアプローチが来たら、ユーザーは「おっ!」って思いますもんね。そのためには裏の仕組みを自動化する必要があったと。でも、逆にいうとなぜ今までそうなっていなかったのですか?
中野:システム上の課題が大きかったんですよ。Web予約のニーズは現場にはずっとあったと思うんですが、ご登録者さまの様々なご経歴や転職軸に対してどのCAグループをアサインすれば適切か、と判断する部分がそもそも完全に自動ではなかったんです。
カウンセリング案内担当がご経歴を拝見し、スキルを確認したうえでのアサインする作業が5割ぐらい残っていました。それが2016年にCAへのアサインを機械学習を使って精度高く自動化できたことによって、カウンセリング予約に際しても適切なアサインに成功することができました。なので、「カウンセリングweb予約」に進めた、という流れです。
――「カウンセリングweb予約」の全体構造を教えてください。ユーザーがdodaに登録するとシステム側はどう連携し、どう動くのか。また、サービス全体の世界観に照らしたときに、今はどのあたりのフェーズまで来ているんでしょう。
中野:dodaサイトで会員登録をすると、現時点では【基幹システム】側でご登録者様にあったCAグループへのアサイン処理がされます。機械学習モデルとBRMS※を活用して、どこのCAグループがアサインするかを決定し、その情報を、今回新しく作った【予約システム】の基盤に連携させ、それによってご登録者さまのマイページに「webから予約する」というボタンが生成されます。
※Business Rule Management System
ご登録者さまがそれを押すと、アサイン先のグループに所属するCAの予定がOutlookに登録される仕組みです。そのため、CAの空き状況やCA一人当たりのカウンセリング上限数を【カウンセリング案内システム】側で管理し、カウンセリング可能な日時が〇×で表示されます。
ご登録者さまが希望の枠を選ぶと、予約可能かどうか再確認する情報がもう一回走ります。よくあるのが検討されている間に他の候補者さまが先に予約を取っていることもあるので…。それがなければ【カウンセリング案内システム】と【基幹システム】の両方に情報が飛んでその枠で確定します。
――とすると、連携するシステムは【予約システム】と【カウンセリング案内システム】と【基幹システム】の3つ‥‥。
中野:4つですね。もうひとつ【サイト】側のシステムがありますから。
今はまだ全てのご登録者さまに対して、登録直後にそれらを機能させられるわけではありません。現在「Phase2.2」を開発中でして、これが完成すればアサインの処理を【基幹システム】側でなく【サイト】側でやれるようになります。そうすれば登録直後にご案内が可能になります。
――処理を基幹側でやるかサイト側でやるかというのは、大きな違いになるんですか?
中野:今はdodaに登録が完了して5分か10分後にご案内するのがやっとなんです。これをサイト側に持ってくることで、ほぼリアルタイムでご案内できるようになります。
斧上:2018年の12月にサービスを始めた段階ではまだ「Phase1」で、そのときはCAの予定表とも連携していませんでした。というのは、本当に深夜にもお客様さまが入ってくるのか、どれくらいの人数が入ってくるか、というようなことを先にフィジビリで調べたかったんですよね。
だから、新たに設けた予約調整センターという部署で一生懸命CAの予定を押さえに行く、ということをやっていました。それで需要があることがわかったので、本導入に進みました。
――なるほど。それが「Phase2」に当たるんですね 。では次の「Phase3」はどうなるんですか?
中野:その間に2.1と2.2がありまして…。
――おおっ、まだあるんですね(笑)。
中野:はい(笑)。一度に行けたらよかったんですけど、システム構築の難易度が高いからPhaseを分散させることになりまして。それで2020年の4月にリリースしたのが現在稼働中の2.1です。
これでCAの予定表やCA一人当たり予約件数の情報を吸い上げ、連携する基盤は作れたので、自動化するという意味ではいったん完成しました。次はアサイン処理を基幹側からサイト側に持ってくる中身の改善ですね。2.2は7月上旬にリリース予定です。
すぐに“技術の側面から現実的でない”とあきらめない姿勢
――プロジェクトを進めるとき、企画側とエンジニア側はお互いどんなことに気を付けているんでしょう。たとえば企画側は、技術的なことはわからないですよね。
斧上:今回私は自分のやりたいことを伝えるだけだったんですが、中野さんは企画段階から入って技術的な難易度も教えてくれたので、すごく勉強になりました。開発のところだけ見ている人だと「それできないです」で終わると思うんです。でも中野さんはそうじゃないので。事業側がそれをやりたい理由を汲んで、なんとかしようとしてくれたので。開発ベンダーさんを探すのなんか、本当に大変そうで…。
中野:2ヶ月かかったかな。あれは苦労したよ(笑)。
斧上:Outlookと同期させる部分とか、ベンダーさんが1社しかいなかったんでしたっけ。
中野:そうそう、最終的にはね。やっぱりコストとかセキュリティ面で難しいから。あと、うち自体、結構セキュリティが厳しくて、なんでもソリューションを入れられるわけじゃないんですよ。その制約のなかで実績のある方法を探すのが大変でした。いろんな有識者に聞いて回ったなぁ。
――斧上さんが企画にまとめるとき、システムに言及するレベルまで企画されるんですか?
斧上:そうですね…その点は、うーん、どう言えばいいかな。
中野:今回はブレークダウンするところからBITAと企画が一緒だったから、一緒に要件を洗い出した感じだよね。
斧上:そうですね。既存のCAアサインシステムがあって、案内センターでカウンセリング枠を確定させるときはそのシステムを通してOutlookのCAの予定表を押さえに行くという仕組みがわかっていたので、それを壊さなければ別のものに置き換わってもできるんじゃないか、とは思っていましたね。
――既存の仕組みを理解しているからこそ仮説が立てられる、と。そういう仮説って、基本的には技術で実現できるものなんでしょうか。
中野:できるものとできないものはやっぱりありますね。今回ですと、カウンセリング案内システムでCAの空き枠枠情報を出力するのに30秒ぐらいかかっていたんです。
――そういうときは、技術の側面からに現実的でないと判明したものを中野さんが差し戻して、それに替わる提案を斧上さんから受けて、というのを繰り返すんですか?
中野:いや、差し戻すのではなく、中の問題をクリアにする方法を考えるんです。今回だったら「どうやって時間を縮めるか」ですね。そのために別のソリューションを模索したり、ベンダーを探したり。それを企画側にフィードバックして一緒に検討して。その繰り返しです。
――あくまで協働するわけですね。なるほど。企画側と技術側の関係がわかってきました。ちなみに現状の開発体制は?
中野:Phase 2.2で縮小したんですがPhase2のときは、企画は斧上さんと、途中から入ったもう一方の2名。システム側が6名ぐらいでしたがただ、専業で入っている人はほとんどいません。
あとは開発ベンダー3社で計15 ~20名。私は全体のPMとして入って、下に1人と、サイト側もPMが1人に補佐が2人いて、ARCS5.0のシステムを使うことになるのでそれまわりのレビューとかができる人にも1人入ってもらいました。あとはリリース運用まわりを検討してもらう人が1人ですかね。それらとは別に、基幹システムとかサイト側のシステムとか、各システムごとにBITAが立ってくれてましたね。
――素朴な感想ですけど、エンジニアの皆さんってほんと、同時にいろんなことをされてますよね。
中野:大体複数プロジェクトを抱えてますね。できますよ。きついけど(一同笑)。やっぱりPMは責任重大ですし、特に今回の「カウンセリングweb予約」に関してPhase1の構想段階からほぼ一人でやっていたので、思い入れは強いです。
重要なのは企画側と開発側との“目線合わせ”
――それぞれの立場で一番の山場だったポイントをお話しください。まず企画側から。
斧上:私は本格的な企画は今回が初めてだったので、そもそも実現までのプロセスがわかっていなかったんですよね。起案してもそれがすぐ通るわけじゃなくて、3つぐらい審議を経なければいけなくて、しかも今回は金額規模も相当な額がかかるプロジェクトだから経営会議にもかけられることを中野さんから聞かされて、「そんな大きい企画だったんだ」みたいな。怖いもの知らずだったことに後から気付いた感じでした(笑)。
でも、そこでサポートしてもらえたからなんとかやってくることができたと思っています。完全に難易度を理解しているわけではないから一方的にやりたいことを伝えてしまっていた部分もあったと思うんですが、割とのんでくださったので。
――斧上さんが企画を立てるときに大事にされている思想というか、哲学みたいなものは何でしょう。
斧上:顧客視点に立つことですね。やっぱり私自身がフロント業務から始めたので、サービスの受け手側が本当に望むものは何だろう、ということはいつも気になるんです。
――ちょっと語弊があるかもしれませんが、企画って、顧客第一で突っ走るときは後工程のエンジニアに配慮して企画自体を手加減するとかって、ないじゃないですか。それでぶつかったりということはなかったんですか?
斧上:そうですねぇ…。最初はできていたかどうか自信がないですけど、今は企画の段階で「これって難易度的にはどうなんですか?」と中野さんに聞くようにしているんですよ。そうすることで、「これは難易度が高いからこっちを先にやって、その後でいつ頃を目途に実現できると思います」というように先を見せながら起案できるので。そういうところでのBITAの皆さんとの“目線合わせ”は、最近はすごく心がけています。
中野:そこはすごくありがたいんですよね。「これはこれぐらいかかる。こっちはこれぐらい」と教えればそれを元に計画を立ててくれるから。ただ、社会の変化のスピードが早くなっているので、「2~3年かかるよ」だと話にならないことは我々技術陣も意識していかないといけない点です。
――「技術と企画が自分の領域しか知らなすぎて歩み寄れない問題」って、 それこそITの原始時代から続く「あるある」じゃないかと思うんです(笑)。そこの部分が、今回ブレークダウンから一緒に動くことで初めてお互いに歩み寄れたということですよね。
中野:それはありますね。前は企画の人たちが数ヶ月とか半年かけて上流を考えて、それを突然振られる感じのプロジェクトも多かったですから。今は始まってすぐの段階から結構BITAを混ぜてくれるので、プロジェクトの雰囲気がだいぶ変わりました。
斧上:私は技術のプロではないので、そこはもう素直に(笑)。「自分が全部企画して手柄にするんだ」みたいなことは全然思わず、プロに相談したほうがいいアイデアは初めからどんどんプロに聞いちゃいます。
――素敵な話ですね。じゃあ次は中野さんに、PMとして一番山場だったポイントは?
中野:そうですね…ベンダー3社が専門領域をお持ちでそれぞれやる範囲が決まっていたので、その調整が苦労しました。ようは、グレーなところは誰もやりたがらないので(苦笑)
あとは、実績の少ないソリューションを5つか6つぐらい連携しないといけなかったこともあり、想定と違う動きが出てきたことで、そのあたりの調整も難しかったですね。
――日々いろんなことが起きると思うんですが、総じてどんなところがこの仕事の面白さなんでしょうか。
中野:まずひとつは、サービスの最上流から企画と一緒に携われること。あと、SIerとの比較でいうと、SIerは基本的にサービスがリリースした後の世界は見られないんです。次のプロジェクトに移っているから。その点、社内エンジニアは自分が作ったものの“その後”も見られるのがいい。ユーザーの感謝の声なんかも直に聞けて、やりがいを感じます。
――今回はどうでしょう。感謝の声は聞こえてきていますか?
中野:今回はまだかな。ユーザーサイドに効果が波及するのはこれからですから。
斧上:現場ではもう効果を感じていますよ。というのも、「カウンセリングweb予約」をリリースしてからカウンセリング案内担当の電話でのご案内を、「クレームが減った」という報告が上がってくるようになりまして。退会者やサービス停止者へのアンケートでも、「夜に電話は勘弁して」とか「電話がかかってきすぎ」とか言われていた声がだいぶ減りました。
あとは、これから事業利益への効果が見えてくるので楽しみです。カウンセリング案内センターの外部委託の費用も相当な金額がかかってしまっているのですが、適切な業務への移行や削減ができると見込んでいます。
――お二人の今後のビジョンを聞かせてください。
斧上:個人のビジョンとしては、マッチングの機会最大化をもっと追求したいです。今はまだどうしても、ご登録者さまのスキル属性に縛られたマッチングモデルに偏っている気がするんです。そうじゃなく、もっとたくさんの方々に機会を与えられるように、マッチングの在り方から変えていけたらなと思っています。
――そういう仕事は企画ならではですよね。新しい可能性をクリエイトするというか。
斧上:今はCAを経由する領域を主に見ていますが、サービス全体を流れで追うと改善できそうなポイントはまだありますから。ここ私の領域に関連するよね、って関連づけて自分でスコープを広げていけば、結構可能性は無限大だなって感じますね。
――貪欲ですね。中野さんはいかがですか?
中野:今よりもっと領域横断的な、全体最適に繋がっていくような 仕組みづくりに携わりたいです。今回基幹システムの刷新に携わったのを機に、もう少し社の事業全体に貢献する開発を手掛けてみたい気持ちがあります。
――お二人とも前向きでスゴイですよね。斧上さんは「お客様のために」っていう気持ちが原動力になっていると思うんですが、中野さんの“やる気”の源は?
中野:裁量が与えられているからですよ、やっぱり。社内SEは自分で言ったものが良ければ通りますからね。自分が通したプロジェクトに対しては責任を持ちたいし、最後まで踏ん張れますよね。
――その点、パーソルキャリアでは仕事を自分ゴトにして取り組める環境がある、ということですね。
中野:ありますね。逆に言うと、あらかじめ決められているものをカッチリ作ることにやりがいを感じるタイプのエンジニアは合わないかも。そこは自分のタイプを意識されたほうがいいかもしれません。
――「カウンセリングweb予約」はこれからどんな未来像を目指すんでしょう。
斧上:ご登録者さまの条件に関わらず、サービスを受けたい方が受けたいときに受けられるシステムに洗練させていきたいです。というのも、現時点では「カウンセリングweb予約」が使えるのは、当社でご紹介できる求人がある方のみに限られたり、Phase2.2まで進まないとお客様へ拡張してご案内ができていません・・・。
でも、人材業のサービスって、本来なら「転職を検討してみようかな…」と思った全員が、サービスを受けたいときに、自由に受けられるのが理想だと思うんです。いつでもマイページに来れば普通に「カウンセリングweb予約」のボタンが出ていて、普通に予約ができてCAに相談に乗ってもらえるような。今はまだ単純に動線だけでいってもベストの形とは言えないので、もっとスムーズに良い顧客体験に導けるようにしたい。そういうことを追求し続けるうちに、人材業のイメージも少しずつ変えていける気がするんですよね。
――キャリアの悩みは誰もが感じるもの。悩んでいる人に、今まで以上に寄り添えるサービスしていくことが大切ですね。本日はありがとうございました。
(インタビュー・編集=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/執筆=筒井秀礼(エーアイプロダクション)/撮影=古宮こうき)
中野 泉 Izumi Nakano
テクノロジー本部 BITA統括部 プロジェクトBITA部 ビジネスPMグループ シニアコンサルタント
現在は退職。
斧上 千帆 Chiho Onogami
dodaエージェント事業部 事業推進統括部 エージェント企画部 CA企画グループ
現在は退職。
※2020年7月現在の情報です。