パーソルキャリアでは昨年から生成系AIの活用を積極的に行っており、今年4月にはdodaサービス内に、生成系AIを活用して職務経歴書を自動生成する機能を搭載しました。また社内では、「ChatPCA」と呼ばれるパーソルキャリア専用の対話型生成AIを開発――業務の効率化、生産性の向上に取り組んでいます。
本記事では、生成系AIやLLM活用における現在地を前半に、後半は#discussion for futureと題し、さらなる活用について自由に議論を進めます。
※discussion for futureとは、パーソルキャリアの代表である瀬野尾が大切にする「どんなに大きくなっても、10人のベンチャー企業のような“オープンでフラットな議論ができる組織”でありたい」という思いに根ざし、メンバー間での議論・対談の様子をお届けしています。
「ChatPCA」でシステム開発に携わり、社内への普及活動にも邁進するシニアデータアナリストの浦山と、dodaの法人顧客向けシステムやエージェントサービスにおける業務プロセス改善などをIT/テクノロジーから支援する、シニアコンサルタントの上原に話を聞きました。
- 生成系AI活用の現在地―実践と成功体験の積み重ねで広がる活用の幅
- 大切なのは夢を見過ぎず、でも乗り遅れないこと
- 生成系AI・LLMの活用を戦略的に考える #discussion for Future
- 多様化するLLM活用の選択肢。その中から適したものを選びとり、“無理をしない”形でサービスに取り込める状態を目指す
生成系AI活用の現在地―実践と成功体験の積み重ねで広がる活用の幅
――まずは、パーソルキャリアが取り組む生成系AI活用について、概要や具体的な事例を教えてください。
上原:事業に近い領域で主に取り組んでいるのは、「ChatPCAをいかに活用していくか」というテーマです。ITコンサルタントどうしで「こんなことができそう」と対話して実践し、成功体験を積む中で「こういう使い方があるんだ」と理解を深めながら活用の幅を広げています。
例えば、IT投資に関する稟議(IT審議)用の資料を作成する際には、検討事項に漏れがないかを確認するため、ChatPCA内で仮想的な議論をさせ、その議論の論点を出力し自分が書いた審議資料と比較しています。
また他に、SQLを長くメンテナンスし続ける中で増えてしまったサブクエリを、ChatPCAにお願いしてWITH句にまとめてもらった例もありますね。結果は完全ではなく、付け加えられた不要な条件を削除して綺麗にするなどある程度の調整は必要ですが、すべて手作業で行えば30分かかることを考えると大きな効率化に繋がったと言えるケースです。
浦山:みんなそれぞれに、多様な使い方をしていますよね。他にも、コードを書いてもらう、翻訳に使う、マニュアル代わりに使うなど、“日常業務のアシスタント”のような使い方が多いのだと思います。
さらに一歩進んだ工夫の例としては、APIを使ってChatPCAをプログラムから呼び出す仕組みを構築するケースが挙げられます。私は以前講演の機会をいただいた際にこれを実践し、スライドを自動生成するプログラムとChatPCAでやりとりをして、講演シナリオを考えてそのままスライドにも落とし込んでもらう流れを作りました。
dodaサービスに搭載した職務経歴書の自動生成機能も同様に、ユーザーがフロント側で入力・選択した内容をもとにバックエンドのLLMがさまざまな提案を行ってくれる作りになっています。こういった成功事例がいくつか生まれ、職務経歴書の自動生成機能については第二世代へのアップデートも進むなど、さまざまな取り組みが前進していると言えます。
大切なのは夢を見過ぎず、でも乗り遅れないこと
――生成系AIを導入・活用するにあたり、課題や注意すべき点と捉えていることはありますか?
上原:指示を出せばその通りの回答をくれますが、それはあくまでインターネット等にある膨大なテキストデータから学習し“計算”して出した結果です。人間のように“理解”して回答しているわけではない、と私は捉えており、この点であまり夢を見過ぎてはいけないと思っています。
ただ、だからと言って役に立たない訳ではありません。生成系AIを活用することで生産性は大きく上がるはずですし、まだ私たちが気がついていない“LLMに任せられる業務”もたくさんあるはずですから。その仕分けをどうしていくか、それをどう意識させないようにするかを考え、エンジニアの力も借りながらシステム化していく必要があるのではないでしょうか。
浦山:おっしゃる通り、期待しすぎるのも、乗り遅れてしまうのもよくないと私も常に感じています。パーソルキャリアとしていかに適切な立ち位置をとるかが重要になるのかなと。
――「期待し過ぎず、乗り遅れない」ためにどのようなアプローチが必要なのでしょうか。
浦山:まず大切なのは、“適切に理解してもらう”ことです。今は技術の進歩があまりに早く、ある程度技術に近い人でなければ適切な温度感で理解し続けることは難しいため、私たち技術者がこの「どこでアクセル/ブレーキを踏むべきか」という感覚を経営層や現場の皆さんに伝える役割を担っていく必要があるのだと思います。
上原:ブレーキを踏むという意味では、IT審議もその役割を担っていますね。「生成系AI活用を進めよう」とアクセルが踏まれたときに、説明責任を問い、一定のブロックをかけることもあります。
ただこれには良い面だけでなく、「絶対にいい取り組みだと思うけれど、数字や前例を示して審議に通すのは難しい……」と取り組みの推進を阻んでしまう面もあるのです。
浦山:IT審議の場で、投資対効果はもちろん、コンプライアンスやレピュテーションリスクなども含む幅広い視点で考えて判断を下すことはとても大切である一方、皆さんのスキルを発揮しアイディアを試す場を作ることのハードルが高くなってしまっているのは事実ですね。
上原:組織全体が夢を見過ぎて突っ走ってしまわないよう、「夢を見て前向きな取り組みに挑戦してみるチーム」と「適切にブレーキを踏む役割を担うチームやIT審議の場」がある、というバランスのとれた形を作っていくことが大切なのかもしれませんね。
生成系AI・LLMの活用を戦略的に考える #discussion for Future
――ここからは普段の業務から少し離れて、「生成系AIやLLMの活用の可能性」について、お二人の考えを自由に聞かせてください。
浦山:パーソルキャリアの強みは、蓄積されたたくさんの“データ”があること、そしてたくさんのお客様と接してきた“経験”を持つ人が各組織にいることです。このデータと経験を使ったサービスを、LLMを介して作れないかと考えています。
蓄積したデータを使って学習する仕組みとしてはdodaエージェントサービスのレコメンドシステム(通称:セカンドマッチ)など既に形になっているものがありますが、データだけでなくさらに経験を実装することで、「過去のデータにないものは分からない」という機械学習の限界を突破できるというイメージです。
上原:人材サービスの進化系として、LLMやAIでリクルーティングアドバイザーやキャリアアドバイザーの業務を的確にサポートするサービスをご提供できれば、例えば「法人のお客様から求人をいただいたけれど、人手が足りない」といったケースの有効な解決策になり得ますね。
浦山:ポイントは、“経験”をどう活かすかだと思います。参考になるのは、ChatGPTの例でしょうか。ChatGPTは過去のデータから学習するだけでなく、人との対話によって「どの発言が適切/不適切か」を教え込まれています。だからこそ「言葉は知っているけれど倫理は知らない」AIが「倫理的に不適切な発言をしない」形でサービスとして成立しているのです。
私たちの“経験”も、これと同じようにLLMに実装できるのではないかなと。
上原:実現するためにはそれなりの準備とさまざまな取り組みが必要ですが、考え得る話ですよね。
浦山:そうすれば過去のデータと経験が実装されたサービスは実現できると思います。IT審議を乗り越えるという課題は変わらずありますが……。
上原:そうですね。そうした準備の成果をパーソルキャリアの社内にだけ還元するとなると、投資対効果はおそらく十分とは言えないでしょうから、広く還元する方法も考えたいところです。AIの仕組みそのものを公開しなくとも、手法の部分は他社さんや他の業界にもご提供していけるといいのかもしれませんね。
浦山:あくまでアイディアではありますが、規模の観点では公共職業安定所など公的な機関を巻き込んでいけると、さまざまな会社が参画してくれてスケールメリットも出せそうだなと思い描いたりしています。
上原:いいですね。こうやって対話をすると、自分ではなかなか行き着かないようなことに思い至れて面白いなと思います。
多様化するLLM活用の選択肢。その中から適したものを選びとり、“無理をしない”形でサービスに取り込める状態を目指す
――ありがとうございます。それでは最後に、お二人の今後の展望やチャレンジしたいことを教えてください。
上原:社内のあちこちで「今のシステムにLLMをどう組み込んで業務を改善していくか」という話が出てきているので、まずはその足元固めをしっかり行っていきたいと思っています。
例えばセカンドマッチではベクトル検索を取り入れるなど、規模の大きなシステムでは機械学習をしっかりと活用できつつありますが、まだそこに至っていないシステムもさまざまあります。既存システムやSalesforceなど普段の業務で使うツールにもLLMを取り入れ、どの事業部でも現場で使ってもらえるように標準化を進めていければと思います。
浦山:まず推進したいのは、LLMの手堅い活用の形の一つと考えている「ベクトル検索」です。機械学習には大きな案件でないと見合わないような手間やお金、時間がかかりますが、ベクトル検索なら、ある程度のノウハウさえあれば誰でも検討して低コストで導入できます。
この技術が社内で広がって皆さんが「誰でも使えるね」と実感し、各部署に数名はベクトル検索に詳しい方がいて「実装するならこういう方法があるよ」と各自で見積もりが出せる。そんなレベルを目指していきたいと思っています。
またより長期的な視点では、皆さんが多様化するLLMの活用方法についてそれぞれの使いどころを理解し、適したものを選びとって“お金と時間をかけ過ぎない・無理をしない”形でサービスに取り込んでいけるような状態が、将来的なあるべき姿だと考えています。技術者として、その実現に向けたお手伝いができればと思います。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/写真=合同会社ヒトグラム)
浦山 昌生 Masao Urayama
デジタルテクノロジー統括部 データサイエンス部 アナリティクスグループ シニアデータアナリスト
AI ベンダーでデータサイエンティスト兼PL(プロジェクトリーダー)として機械学習モデルの開発やデータ分析の受託業務に従事。それまでは、ネットワークエンジニア、情報セキュリティエンジニアとして顧客の課題解決に対応。2021年10月にパーソルキャリアに入社し、推薦モデルの開発、情報検索システムの開発等、先進的なデータの活用を実践。
上原 大伸 Daishin Uehara
BITA統括部 プロジェクトBITA部 ビジネス・システムPMグループ シニアコンサルタント
大学院修了後、SIerに入社。その後、ベンチャーや医療系に特化した人材紹介業などに携わる。プログラマーから始まり、運用、インフラ構築(サーバ、ネットワーク両方)、品質管理、プロジェクトマネジメント、ライン管理を経験。2020年パーソルキャリアに入社後、EAS事業部のプロジェクトマネジメントをメインとして課題解決に携さわり。現在は複数事業が用いる請求権管理のシステム構築をメインで進めながら現在企画中の新規システムへのLLM導入を支援している。
※2024年10月取材時点の情報です。