“なぜ浸透しなかったのか”――過去の失敗を反映させた顧客管理システムの「現在地」

社内顧客管理システム“CANDy(キャンディ)プロジェクトメンバー 内藤と古野の写真

キャリアアドバイザーが担う顧客管理を、より効率的で充実したものにするために、新たな社内顧客管理システム“CANDy(キャンディ)”がリリースされました。

これまでも度々議論や取り組みが生まれながらも、現場に浸透せず改善に至れなかった顧客管理。過去の失敗を反映し、本プロジェクトはどのように進められたのか。そして今回新たに作り上げたシステムが現場で受け入れられた訳とは――プロジェクトを主導した内藤と古野に、取り組みの裏側を聞きました。

 

 

全てのお客様を見渡し、ケアを行き届かせる顧客管理システムの開発へ

 

――まずは今回顧客管理システム“CANDy”の開発に着手された背景から教えてください。

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dodaエージェント事業部 転職支援統括部 エグゼクティブマネジャー 内藤 千稔

内藤:キャリアアドバイザーは、キャリアカウンセリングを通じてお客様=転職希望者様のキャリアや転職に対する熱度などを把握し、的確な情報を提供しながらキャリアプランと転職活動をご支援する役割を担っています。すべてのキャリアアドバイザーが「お客様の力になりたい」という思いで業務に臨んでいるものの、キャリアアドバイザー1名に対し担当するお客様は150名ほど。そのため、どうしてもお客様の状況把握や細やかな対応が行き届かないケースも生まれてしまっていました。

 

古野:これまでは顧客管理で使われる帳票の種類が多すぎたり、担当するお客様に対して次にとるべきアクションが不明瞭だったりと、特にシステム面に課題がありました。効率的なアプローチを可能にする裏側の仕組みを整える必要性を、皆が感じていたと思います。

 

内藤:これは積年の課題で、何度も改善を試みるシステムプロジェクトが発足されてきたものの、現場への浸透には至れずにいました。

 

――これまで取り組みが行われながらも現場に浸透しなかったのは、どうしてなのでしょうか。

 

内藤:これまでのアプローチは、全て事業側からの目線で行われていたのです。例えば「カウンセリング後にお客様の転職活動が進んでいないこと」が事業側の課題として挙がったとすると、カウンセリング後のフェーズにのみシステム的な手入れが行われていました。

しかしキャリアアドバイザーは、そのフェーズ以外にもさまざまな業務を担っており、課題も抱えています。事業課題の解決=現場業務課題の解決ではないので、合理的だけど現場に持ち込むと使われない、ということが続いていました。

また、事業の課題を解決する道具をあらたに持ち込んだ結果、既存の業務がどんどん複雑になっていくことの繰り返しでしたので、結果として、新しいシステム=嫌なもの、と現場からは見られていました。

 

――そうした積年の課題に対して今回リリースされた“CANDy”概要を教えてください。このシステムによって、キャリアアドバイザーの業務はどのように変化するのでしょうか?

 

内藤:CANDyによってできるようになったことが、大きく3つあります。

まず、これまでは転職活動のフェーズごとに別々のツールを使っていたところから、今回CANDy上でフェーズを問わず担当している全てのお客様を見渡せるようになりました。その上で、紹介や接点が取れていない顧客について、疎遠状況の可視化されるような機能も盛り込みました。

そしてこれまであった複数の顧客管理システムを全て廃止して、顧客情報や企業の求人情報の管理に使われる社内基幹システム「ARCS(アークス)」など、すでに浸透している業務システムの呼び出しを可能にしました。これによって、集約された一つのシステム上からお客様に対するアプローチが行えるようになりました。新しい業務が加わるのではなく、ふだんの業務がCANDyを使ったほうがラクになる、というようにしています。

 

古野:自分で設定した閾値に応じてお客様へのアプローチを示唆する“アラート表示”ができる機能なども盛り込まれているため、よりお客様へのケアが行き届きやすくなるはずです。他にもお客様の転職に対するご意向をヒアリングしたものをプルダウン式で入力できる機能や、フィルタ機能などもあり、皆さんが使い慣れたExcelと同じ感覚で操作いただけるかなと思っています。

 

過去の失敗を反映し、徹底的に現場に根ざした開発を実施

 

――システム面でのポイントを教えてください。

BITA統括部 プロジェクトBITA部 システムPMグループ シニアコンサルタント 古野 順一の写真

BITA統括部 プロジェクトBITA部 システムPMグループ シニアコンサルタント 古野 順一

古野:現場で使ってもらえるシステムにすることが重要なので、機能にこだわる必要がありました。そのためアーキテクチャーとしてはシンプルな作りとし、リーズナブルな仕組みをスピーディに構築することを優先的に考えました。

仕組みとしては、UIについてはキャリアアドバイザーの声を取り込んだ操作性にするためにスクラッチで作成し、APIやDB上のテーブルについては基本的にはARCSに追加する形で実装しています。その際、情報をARCSから直接持ってくると負荷がかかってしまうため、必要なデータを初回立ち上げ時に新規テーブルに反映し、基本的にはそのテーブルを参照する作りにしました。またフロント上の工夫として、表示処理の軽量化と合わせてソート/フィルタ処理がARCSとは異なり、クライアント側で処理する作りに変えることで、性能面でARCSよりも早い操作スピードを実現できていると思います。

 

システム構築概要図

このようにUIとしては別のシステムを作っているわけですが、APIを活用することでコストを最小化しています。これらは内藤さんがかつて実施されたARCSの大規模刷新によって土台が作られていたからこそできていることです。

 

内藤:確かに、昔のARCSではできなかったことですね。刷新の際に、ARCSの各基本機能をAPI化し、外部からの呼び出しにも耐えるつくりにしたことが大きいです。そのほか、Ignite UIといった外部アセットも活用しやすくなっているので、開発工数の圧縮やプロトタイピングもやれる状態になっています。

あとは6年ほどかけて内製エンジニアチームを育ててきていたことも大きかったと思います。 「今ならできるだろう」という感覚がありました。

 

――今回の開発は、内製エンジニアの皆さんの手で進められたのですね。

 

内藤:そうです。外部のベンダーさんにお願いする場合はあらかじめ要件を詰めてからお渡ししますが、内製チームのメンバーはとても優秀でやりたいこともあるので、皆さんから提案をもらいながら進めた方が良いものになるはずです。だからこそ今回は、私はプロジェクトマネジャーというよりはプロダクトオーナーとしてふるまうことを決めていました。システムのポリシーや思想に関わる部分はしっかりと握りつつ、開発自体は内製エンジニア主体で進めてもらいました。

「こんな感じにしたいんだよね」という思いに対し、「このような作りや見せ方だったらどうでしょう」「AパターンとBパターンを作ってみたんですけど、どうですかね」と“社内の仲間”の立場から気兼ねなく提案してきてくれて、改めて内製チームの良さを認識しました。一人ひとりが嬉しそうに、楽しそうにやってくれていたのかなと感じましたね。

 

古野:事業会社の内製チームであっても、必ずしも自由になんでもやれるということばかりではありませんが、今回は検討フェーズから一緒に考えて、内製チームの主体的な意見も取り込みながら、比較的自由にやらせてもらえた部分が大きかったんですよね。

「テーマと向き合い、トライアンドエラーを重ねる」ことに挑戦したいメンバーが多い中で、内製チームの良さを活かした開発スタイルの一つの例が作れたのだと感じています。

 

 

――リリース後の社内からの反響はいかがですか?

 

内藤:リリース後3週間、初週から利用率が95%超で、最初からユーザがついてきてくれています。

満足度も85%を越えており、この手の営業支援ツールはパーソルキャリアだけでなく、どこも苦戦しがちですが、奇跡的なレベルで上手くいっていると捉えています。

 

 

――これまでは改善の取り組みが生まれても「現場への浸透」に難しさがあったということですが、今回現場に受け入れられた訳をどのように振り返られますか?

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内藤:業務を変えるのではなく、いまの業務をラクにすることを大切に、ユーザの課題にとにかくフォーカスしたのがポイントと考えています。

ちょうどPJTを起案するときに、トヨタ自動車の記事を見ていて、そこからの示唆も大きくありました。トヨタにおける「カイゼン」は、仕事の効率化が目的のように語られるけど、本質的には、誰からの仕事をらくにすることだ、と。やっぱり、そういうことって大事だよな、ということで、よくある業務変革PJTでなく、むしろ業務変革しないPJTにすることを大切にしました。

まず、今の業務を写しとること、今のペインを取りのぞくことを目的に、業務を80項目くらいにわたって詳細にヒアリング・観察しました。そこから、ユースケースとペインの整理、システムのイメージ図を作っては再度、現場にラウンドする、ということを3回繰りかえしました。ヒアリングはのべ100名以上になります。企画Ph.をアジャイル的に、課題と解決方向を外さないようにしたのがポイントです。

開発Ph.でも、プロトタイプを作成し、現場で実際に見たり触れたりした上での意見も吸い上げていたので、リリース時が初見ではなかったことも、現場で受け入れられた要因として大きかったのではないでしょうか。

 

内製チームと現場で議論を重ね、社内で愛されるサービスに育てたい

 

――多くの関係者を取りまとめながら複雑なプロジェクトを推進するプロセス&システムデザイン部(以下、PSD部)で、求められる行動とはどのようなものだとお考えですか?

 

BITA統括部 プロジェクトBITA部 システムPMグループ シニアコンサルタント 古野 順一の写真

古野:現在組織で柱としているのは、3つのポイントです。

一つ目は、自分自身の強みやすべきことを認識し、自走できること。組織としてメンバーを適材適所に配置した上で、それぞれの個性や能力を活かして成果を上げていくためにも、一人ひとりが自分の動き方をわかっていることが重要です。もちろんフォローはしますが、「誰かが助けてくれる」と受け身ではなく「自分たちで事業を助けにいく」くらいの気概で自走して欲しいなというところですね。

二つ目は、私たちは社内ベンダーではなく事業会社のSEだからこそ、単にQCDを追うだけでなく事業成果を追求していく、ということ。

そして三つ目は、常に最適なソリューションを提供していくことです。そのために言われたことだけをやるのではなく、「これは本質的な課題か」「本当に達成したい目的とは何か」を問い続けながら課題提起し、解決に向かっていく動きが求められるのだと思います。

 

――過去、エージェントBITA部(現PSD部)の責任者を務められていた内藤さんからはいかがですか?

 

内藤:「持論」と「議論」、つまりどのようなジャンルでもいいので自分なりのスペシャリティや持論を持ち、それを持って事業に対して議論ができるような人であって欲しいと思っています。

テクノロジーやUXについての知見、プロダクトづくりの観点を知っていることで、事業も気づいていない課題を見つけることや、PJTの方向を正しくリードすることができると感じています。とくに、UX-CX-PJTマネジメントが繋がってきていますが、まだまだ事業はそうした観点を取り込みきれていません。業務システム系のプロマネ・システム人材もその辺の観点は弱いですね。このあたりを持ち込める人は、バリューが高いと思います。

プロとして、モダンな知識やアプローチを知っていて、事業からして頼れるパートナーでいてほしいです。

また、そういったアプローチが実現しやすいよう、システム環境のモダナイゼーションも重要です。

プロセスとシステムをデザインしなおすのが、PSD部ですので、システムとモノゴトのアプローチのモダナイゼーションを担っているくらいの気概でいてほしいです。

 

――ありがとうございます。それでは最後に、プロジェクトの今後の展望をお聞かせください。

 

内藤:キャリアアドバイザーとお客様の不安やもどかしさを解消するために、今回まずは顧客管理について俯瞰できるシステムを作れたので、引き続き取り組み、もう2段くらいアプローチを深めていきたいです。

また「業務系システムの世界に、プロダクト開発・ユーザ視点のアプローチを持ち込んだ」というのは一つ大きな意味を持つことだと思うので、成功させてPSD部の財産として例を残せればと思います。

 

古野:今回現場に根ざして意見を取り入れながら作ったことで、キャリアアドバイザーの皆さんにとって近い位置にあるサービスになったと思いますし、内製チームとしても技術面を任された思い入れのあるプロダクトでもあるので。引き続きブラッシュアップしながら、現場と内製チームで一緒になって「社内で愛されるサービス」に育てていきたいと思います。

 

――ありがとうございました!

 

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈)

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内藤 千稔 Kazutoshi Naito

dodaエージェント事業部 転職支援統括部 エグゼクティブマネジャー

2003年中途入社。新卒で楽器メーカーに入社し、営業および営業企画を担当。パーソルキャリアでは、人材紹介事業のマネジメントを経て、IT企画部門(旧BITA、現PSD部)に異動。変化につよいシステム・企画開発組織・データ構造へのシフトのための各種取り組みを推進。基幹システム刷新、内製組織の構築を終え、現在は、キャリアアドバイザー組織の責任者として、UX-CX-業務プロセス-システムを繋げる取り組みに従事。

BITA統括部 プロジェクトBITA部 システムPMグループ シニアコンサルタント 古野 順一の写真



古野 順一 Junichi Furuno

BITA統括部 プロジェクトBITA部 システムPMグループ シニアコンサルタント

六本木の飲食店に「住む」というブラック勤務を経験し、ふと我に返りIT業界にジョイン。その後Sierを8年ほど経験、稼働時間がとても高く、ふと我に返り「何が違うんだっけ?」と思ったがそのまま働くことにする。主にPG、インフラのエンジニア、PM、営業を経験し、ペット保険の事業会社にジョイン。4年半ほどシステム部門をリーディング。パーソルキャリアジョイン後は基幹システムのPMとして従事。

※2021年11月現在の情報です。