転職サービス事業のデータ基盤を支える――カスタマー企画統括部ってどんなところ?

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カスタマー企画統括部は、転職サービス「doda」の事業経営データを操る、当社の中では重要な部門です。今回はそんな重要不可欠な部門を率いる、エグゼクティブマネジャーの中村太一にインタビュー。彼の人柄を表すキーワードは、「合理的」で「具体的」、そして「最短で成果を出す」。そんな言葉通り、合理的で着実な事業運営のために、どのような組織をどのように創り、運営しているのか、余すことなく聞いてみました。

HRはお金で買えないマッチング事業

――いつもの通り、太一さんとお呼びしながらインタビュー進めます!まずは簡単に太一さんの経歴から教えてください!

中村:高校生までは日本にいましたが、大学生になって渡米。4年間を向こうで過ごしたのですが、基本的な考え方や職業観はその間にできあがったような気がします。

帰国して最初の就職先は調査会社。リサーチとかマーケティングに興味があって、要はコンサルアナリストみたいな仕事です。そこから証券会社に転職してマーケティング職になって、もっとしっかりマーケティングをやりたいなと思って人材サービスの企業に入りました。HR事業に入って、データ系のエンジニアやサイエンスの人たちと一緒にチームを作って、そこのマネジャーも兼務しましたね。そこで6年ぐらいを過ごしまして。

在籍当時はビックデータが流行り始めたので…今から10年前くらいですかね。そんな世の中で「データが大事」という事を感じていた時だったので、この先もこの経験は役に立つな、と思ってました。HRを選んだのに強い理由はなくて、それまでは金融とかメーカーのビッグデータを扱っていたんで、やってみたら面白いかなという軽い感覚ですね。まあ、実際も面白かったですよ。

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そこから今度は大手ではなく、スタートアップにいきたくなって、そこでCOO的な仕事をしたり、経営企画をやったり事業を作ったりしていました。一年ぐらいやってみて、まあ、スタートアップあるあるですが、ちょうど事業上の大きな変化があったタイミングで抜けて、最終的には結局、また人材がやりたいなと思って今に至ります。それが2年半前のことですね。

 

――どうして、また人材に戻ってきたのですか。

中村:人材業界自体がとても楽しくて、以前の会社もいい会社だったんですよね。人材の新陳代謝があるので、一連の流れに乗った感じにはなるんですけど。一度人材サービスは離れていますが、実は副業などでHR系企業のお手伝いはしていました。

 

――HR事業の楽しさとは何でしょう。

中村:難しいですね。何が楽しいのでしょうか(笑)真面目に答えると、世の中の多くは“はたらく”に関わっているので、HR事業の重要性や面白さを感じています。あと、このHRにおけるマッチング事業ってお金で買えないんですよね。

その他のマッチング事業の多くは、企業がお金を払えばより多くのユーザーにモノが届き、売買が成立しますよね。逆も然りで、ユーザーもお金を払えば、欲しいものが手に入ります。

ただHRのマッチングは、ユーザーからお金を基本的にはもらわないですし、人と企業を結ぶので、お金を払えばどうにかなるマッチングではありません。今まで出会ったマッチングの中でも相当難易度が高いと思っています。

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売上などを考えれば、求職者からお金をもらってないのになぜマッチングするのか?という事も議論になりますが、お金を払ってもらったからと言って、必ず希望している企業に入社できるわけではないですよね。このHRのマッチングは、各マッチングで企業と求職者の主導権的な要素が大きく違っていて、マッチングといえども50:50のバランスでは成り立ってません。業界、職種、経験などさまざまな要素が市場価値となって、企業もしくは求職者のどちらかにイニシアティブが寄るはずです。さらに面白いのは、企業や求職者にとってその価値基準の重みづけが違う事です。

これらの要素が、お金の高低によって変わるのではなく、ケースバイケースで動いていることがHR事業の醍醐味でもあると思います。

 

――なぜ、その中からパーソルキャリアを選択したのですか。

中村:パーソルキャリアを選択したのは、総合人材サービスの中で、圧倒的2番手という理由で選びました。この表現の仕方でいいのかな(笑)。圧倒的2番手の良いところは、1番とはちょっと違うことができることですよね。ここでなら、自分がイメージしているHR的な仕事ができると踏んだのです。

 

ビジネスの根幹を支えるカスタマー企画統括部とは

――カスタマー企画統括部について教えてください。

中村:基本的にはdodaを担当しています。リボン図と言うと分かりやすいと思うんですけど、一言でいうとカスタマーである個人と採用をしたい企業であるクライアントのベストマッチングを生み出すということです。カスタマーとクライアントを集め、そしてアクションしてもらうように促して、結ぶ、という事ですね。

集めるというところは、基本的にマーケティングなので、リボン図全体をモニタリングしながら事業運営していくという役割がまずひとつあります。これはデータを使ってファクトでどうなっているかというのを見るという感じですね。

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もうひとつの仕事は、サイエンスやエンジニアがやっていることでいうと、機能やデリバリーの仕方を考えています。データによるサービス作りです。一言で表すと簡単なのですが、プロダクト側と連携して、サイトのUI/UXや機能拡張などを考える人たちがいるので、その裏側で、どういうデータロジックでそれを提供していくかを役割としています。

 

――データを活用して、どのように行動を促したり、結ぶことを実現しているのでしょうか?

中村:我々がカスタマー理解を深めて、サイト上での行動を促します。キャリアカウンセリングのように対面であれば、表情や話し方などでどういうタイプの方なのか分かると思いますが、Web上ではわかんないですよね。

求職者の方に登録いただく情報(年齢や職務経歴、スキルなど)や、サイト上での行動や購買(当社で言えば応募)するアクションになるかと思いますが、そのデータがあればその方に合った求人や企業がより分かるようになります。常に、サポートする人が横に一緒にいるわけではないので、ユーザーの何をファクトととして判断するか、でいうと、データをもとにしている、という事ですね。

 

――データを集めた後に、ビジネス活用していくこともカスタマー企画で担当してますか?

中村:それも一緒にやっています。最も大事なのは活用できるという場を作っておくことです。これがすごく大事ですよね。データを持っているだけでは意味が無かったり、活用できる人が少ないのでは意味がないので、活用できる場を用意しておいて、みんなが使えるようにする、という事が大切です。

 

――データを活用してもらえる場と、活用する人も手掛けていると。

中村:そうですね。データ活用の場は、データエンジニアやインフラエンジニアが作っていますが、結局この場をどういうことに使いたいか、という上段の論議がないと何の意味もないですよね。それってビジネスの根幹ではないですか。どういう課題があって、課題が出てくる要因と、それに対してどういう対応ができるのかというのを、データで示すこともできますし、他にも効果が高い方法があればそっちを選んだ方がいい。データは手段でしかないので、上段の解決したい課題に対して、どうアプローチするか、ですね。

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――太一さんが入社してから、どのようにデータを提供して事業に反映させてきたんでしょうか?

中村:組織的な観点から話すと、2年前くらいの4月に入ってきて、7月~8月くらいにまず部をつくりました。当時のデータビジネス部でしょうか、知り合いなどを中心に人も増員しました。人が集まって組織として形になってから、データが色々なところに散乱しているので、それをきれいに整える作業から始めました。基本的に工事と一緒で、土地が崩れているとビルが建たないように、地ならしをきちんとしてあげるということと、最初の基礎設計みたいなものがきちんとできないといけないので、最初のところを綺麗にしてあげる。これが最も時間がかかります。

これを、正確に作っていって、ようやく1年くらい前からリリースし始めて、この秋にアプリケーションが本格稼働するところです。すでに30年の歴史あるサービスで、且つこの先もデータ活用しながらサービスを向上していくとなると、目指しているものを考えればこの先1年~2年はかけて、もっと進めていきたいです。

 

――外から入って、社内のシステム上に散らばっていたデータをまとめてみての体感はいかがでしょうか。

中村:毎日、何かしらのデータはあがってくるため、それをどういう風に活用するかのほうが大事ですね。データをきれいにして、繋げてあげて、それをどういう風にやるのかという樹形図みたいなものをつくれるのかどうかです。

樹形図などその辺はこの1年2年とかでできてきて、テーブルとかもいっぱいできてきて使えるようになるんで、あとはそれをどうやって、今あるシステムだったりとか仕組みだったりとかに織り交ぜていくのかという話が多分大事になりますね。

 

Howを自らで考えて実行できる組織に

――少し組織文化みたいな話を訊きたいんですが、太一さんの部署は、どんな文化や雰囲気を持っている部署なんでしょうか?

中村:組織文化などで意識しているものってあんまりなくて、そもそも組織論みたいなものが向いてないというか、あんまり好きじゃないんです(笑)。仕事をする中で、何か「コト」を達成するために何を頑張ればいいのかが分かればいいんですけど、組織論や文化ってどうしてもその外のことが気になってしまうような気がしてて…例えば環境とか制度とか。あんまりそういうコトを僕自身が気にしないんですよね。

組織論がそこまで好きになれないのは、それが抽象的だからなんですよね。みんなで歯を食いしばろうとか、具体的にそれが何なのか分からない。例えば筋トレでいうと、「腕のパワーがないからお前はボールが飛ばないんだよ」などと言われるじゃないですか。腕と言っても、それは二頭筋のことなのか、三頭筋のことなのか、関節の話をしているのか、動かし方が違うのか、それを意識できるのがプロだと思います。

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大体やりたいこととか、目的ってそんなにずれないと思うんですよね。結局、何でみんなあんまり上手くできないのかと言うと、具体的なHowがないからだと思うんです。例えば、世界平和とか叫ばれてますけれど、絶対実現しないじゃないですか。それはHowがないからなんですよ。

 

――向かうべき目的や、やるべきことを共有していることが重要ということでしょうか。

中村:早くやるとなったら、最速でやることを重視すればよいし、最速でやることよりも安定的に稼働させることが重要なら、それを重視すればいい。それさえ決まれば、それをやるために自分が具体的に何をしたらいいのかを、きちんと突き詰めたほうがいいなと思っています。それが何か組織論と繋がっていればいいんですけど。

 

――太一さんがコトを成すために、目線合わせることはするんですか?

中村:わたしからは「ここが大事」っていう話はしますね。それは数字でも目標でも。でもそれ以上のことはしないですね。具体的にそれを自分の言葉として落とせるかどうかとか、咀嚼できるかとかどうかは周りを見ながら、見よう見まねで、自分でやるしかないっていう考え方です。悪い面でもあるかもしれないけれど、そういう人が集まっているのかもしれません。

 

――Howを自分で考えて実行する、目的やゴールの目線があってれば、勝手に自走する、ということですね。

中村:そうですね。基本的にはそれをやりたい人しか集まらない方がいいんじゃないかと思ってます。仕事で何かを成し遂げたいとなったときに、みんながそれをやりたいねと思っている時に、そもそもやりたくないとなると、なんでいるんでしたっけとなってしまう。その中から学べるスキルをもって(外に)出たいですというのはいいと思います。「三年で辞めます」でもいいと思う。

しかし、それも違うみたいな話になると、そもそもなんでしたっけという、嫌々やる部活動でしかないんですよ。その考え方の根源は、やっぱりアメリカでの経験は大きいと思いますね。あと大事な節目節目で出会った人からも影響を受けました。

 

――カスタマー企画では具体的にはどのようなカウンターパートとの接点が多いのでしょうか?

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中村:エンジニアやサイエンスの職種の人たちを中心に考えても、基本的には色々なところと関わります。データの基盤となるものを作らなければいけないので、他グループのエンジニアやインフラ基盤の人たちとはよく話しますね。

それをどうやって使うか、こうしたほうがいいよねというのは自分たちで話をします。一方でそれを社会に出さないと意味がありません。社会に出す窓口がdodaなので、dodaというサイトにおいて、それをどうやって表現していくというのは、プロダクト企画やプロダクト開発の人たちと会話をして、伝えていくことになります。 

全体設計の中でdodaの中でどういうことをやっていきたいのか、データを使ってどういうサービスをしていきたいという観点では、経営陣とも話していかなければいけないですね。今はそれを私がやっていますが、本来そういう部門の責任者としては、データのありかたとか、データを使った事業運営や経営も考えなきゃいけないという感じですかね。

 

――エンジニアやサイエンスの皆さんは、企画側とどのようにやりとりをしているのでしょうか。 

中村:自分たちから依頼をすること、企画側から依頼があることのどちらもあります。なので本来は企画側もデータのことをよくわかった方がいいし、データ側も企画のことをよくわかった方がいいんです。その共有する当たり前のレベルは上げたいと思っていますね。

その当たり前が以心伝心で進んでいく組織は早い、プロのレベルですよね。アイコンタクトでパスしてるようなチームって絶対強いじゃないですか。行くよ~とかで打ってたら絶対マズイじゃないですか。スポーツが分かりやすいですけど、考えることじゃないんですよね。体が反応してとか強いチームは同じ結論までいくのに最初のスタート地点が7合目くらいから走ってるんですよ。こういう当たり前を組織論で言うと高めていきたいです。ゴールまでの距離が短くなるので失敗の数も減っていく、失敗する要因が少なくなるので。

 

――他の組織といっしょにレベルを底上げしていくときに、他の組織への働きかけはどうするのでしょうか。 

中村:まずは、自分の組織レベルをあげて、全体的に“こちらが標準なんだな”という意識をつけないと、いつまでたっても、レベルは上がりません。全く関係のないの部署や会社ですごい人がいても、人ってそんなに変わらないじゃないですか。自分と同じ高校や大学で、今まで一緒に遊んでいた人が急にすごくなると、なんか悔しくて、そっちのほうが「自分もあいつになれたかもしれない。今のままでいいのか?」って思う自分がいるとインパクトが大きいんですよ。

つまりは、同じ組織や同じプロダクトに関わっている組織が圧倒的に変わっていくことで、背中を見せに行くやり方に効果がありそうだと思ってます。

 

答えは事業や現実にしか無い

――太一さんから見たときに、カスタマー企画でどのような苦労や課題が多いと感じられますか。

中村:当たり前のレベルを上げていくこと、競合との差別化の話をどれだけ作れるかは課題だと思っています。これって、それまでの延長ではなくて、型を破らなくてはいけないと思ってます。ですが、どうやって破っていくかという方法や人づくりはすごく難しいです。

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――リボン図でのマッチングビジネスなどに加えた新しい仕組みがないと、飛びぬけたアイデアとかはでてこないのではないでしょうか。

中村:基本的に手段から考えてもでてこないです。仕事を探している人がいて、人を欲しがっている企業がいます。これをどうやってシームレスに繋げるかどうかですから。 

そのときにある課題や、実現できてないことは何か、を考えないといけないですね。データに答えはないと思っていて、事業とか現実にしか答えは無いですから。だから現実的な事業に興味が無い人にはこの部署は難しいと思います。

基本的には上空から見ることと、現実を見ることの双方が重要だと思っていますが、個人的には上空からすべてを見渡せるなら、仕事変えていますね(笑)。投資家になって儲ける方法考えます(笑)。基本的には未来のことはよく分からないですよね。

 

――たしかに今のリボン図の仕組みを大きく変えるということはそんなに無いですもんね。

中村:この縮図自体に、抜本的に何かが変わることはほとんどないと思ってて、その上下を変えたり、様々な組み合わせだと思っています。組み合わせは結局、不都合とか自分が感じている負からしかでてこないと思っていて、一人称で転職活動している人になれるといった想像力はすごく大事だと思います。

だからこそ、ディテールを気にします。ディテールが整っていないと結局モノにならないんですよね。大抵みんな同じような感じで、データの活用だよね、IoTだよねとか、なんかまあ色々言いますよね。でもそれで今の課題の何が負で、お金を払ってまでも変えたいと思うことって何ですか?ということです。

ディテールと新しい面白いことを、頭の中できちんと把握してその両方を考えることが必要だとは思います。わかったときにそれをどうやってビジネス化するという俯瞰する目も必要ですが、それを構造化する目も大事です。

一貫して言われている具体的にどうしたいのっていうHowの部分がしっかりしていないと未来はないです。その今の自分の状況とその目的の距離までとか、最低でもベクトルが分からないと難しいですよね。

 

――太一さんがこれからチャレンジしたいことを教えてください。

中村:キャリアプランとかもないですね(笑)。その時、その時で楽しいことがあって、その時、その時の楽しいことができていればいいですね。だって先のことは分からないですよね。明日死んじゃうかもしれないですし。ただ大事なポイントだけは何か?というのは常に意識していますね。枝葉の話はどうでもよくて、幹さえしっかりしていればよい。そうすれば派生してあんまり変なものは生まれてこないし、変な考えには行きつかないは思っています。

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――太一さんらしい、ストレートで迷いのないお話を、ありがとうございました!

(取材・文=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/撮影=古宮こうき)

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中村 太一 Taichi Nakamura

事業戦略本部 カスタマー企画統括部  エグゼクティブマネジャー

大学卒業後からマーケティング、ビジネス企画・開発、データサイエンスに関わる仕事を、マーケティングリサーチ、証券、人材サービス、不動産テックなどの異なる業界で経験。現在はパーソルキャリア株式会社にて、マーケティング&データ活用を担当する部門にて、約100名のマネジメントをしながら、転職サイト「doda」に関わるマーケティング、事業データ基盤の構築、ビックデータ施策によるサービス開発を支援。

※2020年11月現在の情報です。