転職サービス「doda」やハイクラス人材の転職サービス「ix転職」をはじめとしたパーソルキャリアの主要なサービス開発を担うプロダクト開発統括部では現在、大きな組織改革が進んでいます。その改革の一つとして、ウォーターフォール型のプロジェクトマネジャーがアジャイルにおけるスクラムマスターに変化し、大きく役割が変わっています。世の中が注目する職種でもある、このスクラムマスターにはどのような苦労とやりがいがあり、従事することでどのようなスキルが身に着くのか。プロダクト開発統括部 プロダクト開発部 ゼネラルマネジャー松岡に聞いてみました。
アジャイルの精神とパーソルキャリアのバリューの共通点
――まずは、現在の松岡さんの役割から教えてください。
松岡:プロダクト開発部のゼネラルマネジャーとして、dodaやiXのブランドにおける、プロダクト開発全域のマネジメントを担当しています。各スクラムチームの組成やスクラムマスターの育成、チームのコーチングとチームの生産性管理、プロダクト開発における量産管理が主な役割ですね。責任範囲はプロダクト開発におけるすべて、企画から実際にリリースされるまでです。各プロセスがいかに速くなるか、質が良くなるか、量がどれだけ増えるかというのを考えながら、最適化していきます。
――プロセスごとに最適化ポイントは違ってくると思いますが、共通項みたいなものはあるのでしょうか。
松岡:思想の基本はアジャイルに則っているので、重要なのは“チームとしての生産性をどう追いかけるのか”です。そして、エンジニアがどこまで関与していくのか考え、話し合うのも大切かと。そのプロセス、またどのフェーズで、どういうアウトプットを出して、どこからがエンジニア中心に、もしくは企画中心にやるべきかを明確にしてしっかり引き渡していきます。場合によっては、共通作業として重なっているところがあるので、そこを整理して違和感なくスムーズに進めることが大事かと思います。
――プロダクト開発統括部では最近アジャイル体制を取り入れられたと聞いていますが、松岡さんは過去に経験があって、それなりの知見をお持ちだったのですか。
松岡:アジャイルは、私自身も経験がなかったんですね。前職のSIerではプロジェクトマネジメントに近い立場で仕事をしていて、どちらかというと2~3年がかりの大規模プロジェクトの一部をプロマネしていたのですね。基本、エンジニア中心の組織だったで、アジャイルという考え方はありませんでした。パーソルキャリアは事業会社で、企画とエンジニア、プロダクトマネジャーが近い位置にいて、より早く開発していくと目標を掲げ、それを実行するためにスクラム開発に移行。その過程で私もスクラム組成の役割が与えられました。
――そうだったんですね。スタートするにあたって苦労もあったんではないですか?
松岡:そうですね。とりあえず走りながら学び、考えていくしかありませんでしたね。当然、研修を受けたりしますが、大事なのは、現場でどのようにPDCAを回していくか。実行しながら、チャレンジしながら、その中で成功、失敗を重ねていくしかないですよね。自分の中にフィードバックする時に、世の中にある文献や外部の詳しい方のサポートを受けながら、確かな情報にして次に進んでいく感じです。
――松岡さんは、プロダクト開発の経験が長いと思いますが、これまで内外のエンジニアと仕事を進めていく中で課題になっていたことがあったら教えてください。
松岡:課題はたくさんありますが、エンジニアに関することであれば、マインドにずれを感じることがありましたね。SIerだと、どうしてもプロジェクト単位で、しかもベンダーという立ち位置でエンジニアがアサインされるケースが多いので、目的がプロジェクトを成功させるところで終わってしまう。
そうではなく、やはり事業やプロダクトをドライブする必要があるので内製エンジニアはもちろん外部のベンダーであっても、そこの部分のマインドを変えていく必要があります。いかにスクラムマスターやプロダクトマネジャーがプロダクトの重要性、事業の重要性を語って、思いを共有しながら共に乗り越えていくのが重要ですし、そこが最大の課題かとも思っています。
――プロジェクト単位で捉えるのと、その先の事業やプロダクトを見据えるのとでは、何が違ってくるのでしょうか?
松岡:プロジェクト単位で考えると、どちらかというとhowが中心になってくると思います。事業やプロダクトをみていく場合、whyやwhatが抜け落ちていると、howはやらないという選択肢もでてくると思います。ですから、最初からhowだけを見ていると、実は無駄なhowを生んでしまうことになって、実は世の中にはそういったプロジェクトが多いように感じます。
これまでは、企画者がhowまでも決めているケースが多かったかと思いますが、これからはエンジニアがどうするか決めるべき。howをしっかり決めるには、当然、その背景をもっと理解する必要があると思います。プロダクト開発における花形はエンジニアです。何を作り出すかは彼ら一人ひとりのセンスと行動によって決まってきます。要するにモノを作る最終責任、最終的にアウトプットをする役割の人たちが、何を思って作るのかが重要だという話です。
――先日の上妻さんの記事の中にも、ウォーターフォール型からスクラム型に移行させていくとお話がありました。それによって何が起こっているのか?事例があったら教えてください。
松岡:2019年度の時点では、doda Recuitersだけがスクラム体制を採用していましたが、他にもアプリ開発など徐々に採用されるようになり、この4月からは全部で9つのスクラムチームをスタート。toCとtoBのチームがあって、それぞれプロダクトにおける成果や進化に向けて進めています。
今後はアウトプットの質や量、スピードを含めて、プロダクト開発部でチェックをしながらPDCAを回していくことになります。チームを立ち上げる際にはもちろん、様々な苦労は付き物ですが、比較的、順調に進んでいるような気がします。何よりもプロダクトやチームに対して、“自分たちがどうコミットしていくか?”という会話が、現場で生まれているのが良いですね。
これまでは、プロダクトの話というより、自分のことやプロジェクトを終わらせることばかりが話題の中心になっていました。ところが今はお客様のことを常に念頭におき、どういうアウトプットをするのが最適なのかを考え、共有するような場になっています。
――組織の形を変える際に、外圧的に形から変えるパターンと、メンバーがきちんと意図や思想を理解して、内側から変えていくパターンがあると思います。今のパーソルキャリアのエンジニア集団においては、どのような組織変革が最適だとお考えですか?
松岡:おっしゃる通り、形とアジャイルの文化があると思いますが、基本的な精神は会社で進めているバリューの部分が大きな役割を果たしています。アジャイルの精神の中に“顧客との協調”“変化への対応”“対話を通じてどれだけ自分ゴト化していくか”などがありますが、その考え方が、僕らのバリューでいうところの“自分ゴト化”や“外向き志向”と非常にリンクしているんですよ。バリューとアジャイルの精神に多くの共通点が見られるので、アジャイルを推進することで、自然にカルチャーは育っていくと考えます。
スクラムマスターは“語って実行する”ことが重要
――スクラムマスターについて詳しくお聞かせください。プロジェクトマネジャーからスクラムマスターに移行してきたと思うのですが、その変化はどういったものなのでしょうか。
松岡:プロジェクトマネジャーの役割は、その任期において設定されたひとつの目標を達成するためのチームづくりですよね。一方のスクラムマスターは、常に変化していくプロダクトを長期的な目線で捉え、戦略を立てながら、チーム作り、スキル開発など広い範囲で裁量を持って考え抜く必要があります。もちろん、継続的に開発をしていくので、全体の開発プロセスにおける、継続的な改善点を探し出し、改善する必要もあります。また、ビジネスとしてグロースしていく過程においても同じく、今問題なのかということをしっかりと真意をとらえないといけないので、開発でも、ビジネス観点でもより詳しい知見が必要になるのは間違いありません。
――必要となる力が大きく広がると同時に深くなると言うことですね。そういう力は訓練によって身につくのでしょうか。
松岡:僕もプロジェクトマネジャーからスクラムやプロダクト全体を見るようになっていった立場なので、ここ2~3年はバックキャスティングの考え方が、どこまで育つのか?を自分自身のテーマとして意識するようになっていました。要するに、会社から降りてきた戦略や目標数字から逆算していって、段階的にどういうステップを踏んで実行していくのか、それを一人ひとりのメンバーが考えなければ次の成長がないと思っているのですね。現状を分析して、次にどういったステップをチームで踏むべきかを考える必要があります。
――それは物の見方というか、意識を変えるだけで身につくものでしょうか?
松岡:そうだと思います。そのために今回で言えば、スクラムで進めていけば、プロダクトや事業にどのような影響を与えていくかを考えぬくので、従来のプロジェクト単位の進め方に比べて、より未来を見据えた開発になると思っています。
――仕事を通して、その習慣が、否が応でもついてくるという話ですね。だからこれもまた、経験を重ねながら自分が意識していくことで、良いスクラムマスターになるという感覚ですね。
松岡:そうですね。スクラムのチームも正解があるわけではないので、それぞれのチームでどのように成長するのかはバラバラだと思います。でも、スキルセットとして重要なのは、いかにdoda事業やプロダクトを愛して、どうファンが生まれるかというところを考え抜くことです。そのためにチームをどう作っていくのか、どういう開発をしていくのかを考えることが重要です。
――スクラムマスターが強くなればなるほど、プロダクトに与える影響が大きくなってくるというようなイメージかと思っております。ではなぜ、スクラムマスターが力を発揮していくと、どうしてプロダクトが良くなるのでしょうか。
松岡:スクラムマスターが強くなると、まずチームの課題と、それをどう乗り越えていくかを語れるようになります。そうすると、企画からリリースまでのリードタイムが短くなり、その結果、開発のスピードが上がります。開発スピードがアップすれば絶対的なリリース量が増えますし、成功例ばかりではなく失敗もあるかもしれませんが、それもフィードバックして改善される。全体的な質も上がるし、量も担保できます。
――まだ走り始めたところではあるかもしれませんが、スクラムマスターの“やりがい”については、どのように感じていらっしゃいますか。
松岡:今は、新しい体制に移行したばかりなので、どのようにチームを作っていくか、どこに課題があるのかは、まだはっきり見えてはいません。だから半年後のためにどういう選択肢をとっていくのかをメンバーと話しながら進めていきます。一人ひとりが自分自身で何を実行していくのかを考え、選択していくことで実行力がつきますし、半年、一年と続けることで大きな変化が現れると思っています。
――エンジニアのスキルというのは、単純に技術力を向上するだけでなく、自分たちで決めて実行することを繰り返すことで、身についていくものなのですね。
松岡:アジャイルは、事業会社のエンジニアには必要な精神だと思っています。手を動かすだけ、言われたことだけをやっているエンジニアは、これからどんどん価値を失っていくんじゃないかと思ってます。何をやるべきかを語り、考えて行動できるか、この場で学べるかというのが、一人ひとりの個人の未来につながっていくと思います。
――語ることが大事なのですね?
松岡:語って実行することが大切です。いかに未来を考えてやりきるかということです。コミュニケーションはとればとるほど成功できると思います。物作りにおいてもコミュニケーションは重要ですし、戦略を考える企画者や、その上にいる事業責任者も語り、メンバーの認識を合わせていくことが大事です。スクラムによって、同じ時間を共有する機会も増え、その中で一つの目標を目指しながら、良質なコミュニケーションが生まれます。
重要なのはメンバーに実質的な裁量をーーー
――松岡さんから見た今のプロダクト開発部を一言で表すとしたら?
松岡:やるべきことをやりきれる場所だと思っていますし、そうあって欲しいですよね。やるべきことというのは、dodaの状況、マーケットの状況を含めて、その中で何を作るかということ。それを決めていくのは自分たちです。実行する環境を用意しているので、裁量をもってプロダクトの進化を決断して進めていく。それを“チャレンジ”の場として、自分で認識して、変化、成長を続けてほしいのですね。私はエンジニアたちの“チャレンジ”を全面的にサポートとしていくので、思いや情熱を持って、このdodaというブランドを、次のステージにあげてほしいと思います。
――組織の雰囲気作りには、まず環境を用意することが非常に重要だと思いますが、他に何かやるべきことはありますか?
松岡:裁量をどう与えるか、だと思います。口では「裁量があります」と言っても、実際にはチェックがたくさん入って、全然自分たちで決められないという会社やプロジェクトが往々にしてあるとは思いますが、私たちの会社は違います。少なくともきちんと裁量を与えられるように、マネジメントが守ってあげることが大切だと認識していますんで。時には関係部署や経営陣など外部からの思いが入ることもありますが、各スクラムが独自性を持つために、彼らに実勢を持って進めていってほしいと思っています。
――良いお話ですね。メンバーを信頼していないと、それはなかなかできないことです。松岡さん自身はマネジメントの考え方というのは、どこで身に着けたものでしょうか?
松岡:私はそんなに賢くはありませんが(笑)、どちらかというと、いかに自分の責任、役割を理解して、それを実行するために何をするかということをしっかり考えるタイプなのですね。そういった観点から、今の自分の役割は、doda全体をどう変えるのか?というところにあり、それは自分一人ではできない、とても大きな仕事ですよね。結局、人の力を借りながら事を進めるために、その人たちと共通意識をもって、同じ方向感でWin-Winの関係になる必要がある。そこをうまくやれるのかどうかというところがマネジメントの本質だと思うんですよね。
会社として、チームとして共有する方向感や目標に向かうことが、ちゃんと個人の未来にも影響を与えるような構図になっている必要があります。しっかりとここで1年、半年過ごす、私たちといっしょに仕事をする中で、エンジニアの皆さんの10年後、20年度の仕事につながるように意識をしているつもりです。
――松岡さんのこの朗らかな口調で説明されたら誰もがみんな納得してしまいそうですが(笑)。大きく変わることに抵抗を持つ人とかいませんでしたか。ここまで大きくガラッと変えることに松岡さん自身の抵抗はなかったのでしょうか。
松岡:メンバーは変化を感じていると思います。
今まではプロジェクトを成功させることだけを考えていましたが今は、これをやる必要があるのか?このチームは何を目指してやるのか?ということを、ステイホームで更に深いところまで考えるようになりました。彼らはすごく悩みながら進めていて、その分、すごく成長していると思っているので、「前向きに進んでほしい」とメンバーに伝えています。
元々私も担当していた「doda Recuiters」のチームはアジャイル精神で成り立っていましたが、それをすべてのチームに適用するのは、当初、自分自身もやり切れるかどうかの不安はありました。しかし、新しいサービスや仕組みを生むときには、従来のやり方の良い部分を残してチャレンジする必要があります。徐々に私も今の会社が長くなってきていて、下を引っ張っていきながら、何かを変えるような立場になっていると思うので、それを自覚して、チャレンジしているつもりです。
――松岡さんがこれからプロダクト開発部で実現したいこと、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
松岡:人材サービス市場は多様に変化しています。その中で今のdodaの価値を変化させていき、よりデジタルな世界でdodaというブランドを確立しないといけないと感じています。正直、今、その岐路に立っていると思っていて、いかにマーケットを変化させるようなブランドにしていけるのかがポイントだと思うし、その中で日々チャレンジを行うことが大事だと思っています。
ここからは部の話になりますが、実はその小さなチャレンジが未来につながると思っているのですね。今やっていることがきちんと未来につながるのだと意識しながら、戦略的思考を持ったうえで、日々実行しているものの積み重ねが社会に影響を与えていくと思っています。
最初は小さな一歩かもしれませんが、サービスをリリースして開発し続けて変化しさせていくことにより、大きな社会の変化につながると思うので、そこをいかにやれるか。いかにdodaのファンをつくるか、最終的にはお客様がdodaのファンになってくれるかにつながるので、そのためにはいきなりホームランはあり得ないですので、一点一点を積み上げていって、それが変化につながると思います。
私がこの会社にいる理由は、新しい考え方を投入し、変化を生み出すことにあると思っています。いかに自分自身でやり切れるか、というのがこの会社の面白みであり、私自身のチャレンジでもありますね。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=THE TEXT FACTRY(エーアイプロダクション)/撮影=古宮こうき)
松岡 論史 Satoshi Matsuoka
P&M本部 プロダクト開発統括部 プロダクト開発部 ゼネラルマネジャー
1983年生まれ。メーカー系SI企業にて、プロジェクトマネジメントを経験。2016年インテリジェンス(現パーソルキャリア)入社。「doda」サービスのIT企画全般を担当し、「BITA(ビータ)」のマネジャーに就任。その後、18年10月よりdoda Recruiters(デューダ リクルーターズ)サービスのプロダクトマネジャーに着任し、ビジネス~ITまでのサービス責任者としてプロダクトの向上に努める。2020年より、プロダクト開発部の責任者に着任
※2020年6月現在の情報です。