ハイクラス人材のキャリア戦略プラットフォーム iX――サービスの現在地を現場が語る

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ハイクラス人材向けサービスとして、2018年に立ち上がった「iX(アイエックス)」。転職サービスやコーチングサービス、コミュニティとさまざまなサービスを提供するがゆえ、サービス設計もシステム設計も難しい部分があったのではないかと見受けられます。現場で頑張ってきたメンバーだからこそわかる、開発の苦労とiXサービス現在位置、そして進化まで、うまくいっていることだけでなく、苦労も含めてたっぷりお聞きしました。

※2022年10月に「iX」は「doda X」へと名称変更しています。詳しくはこちら

 

機能拡充に向けた改善にひたすら向き合い続けた――

――まずは、iXについて概略を教えてください。どのようなサービスで、どんなユーザーに支持されているのでしょうか?

堤:世の中的にもハイクラス人材の市場価値が向上していますが、そういった方々に対して「キャリア戦略のパートナーとして支援し続ける」というのが、iXの中長期的なビジョンです。 

サービスメニューは多岐に渡っています。まずハイクラス人材向けの転職サービスである、「iX転職」や、市場価値向上に役立つようなコンテンツを提供する「iXキャリアコンパス」の運営があります。また、ハイクラス人材の方は、次に自分が何をすべきか、というキャリア戦略に悩んでいる方が多いので、そのような方々にコーチングを提供する「iXキャリア&ライフドック」があります。

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現時点では、まだ実装されていませんが、ハイキャリアになるほど個人事業主や副業など、雇用に縛られない働き方が増えてくると思うので、業務委託なども含めた支援サービスも考えています。つまり転職以外も含めてハイクラス人材と繋がりを持ち、支援をし続けたいという思いを持って立ちあがったサービスです。

iX転職は、2019年3月にβ版がオープンし、7月に正式版をリリースしました。開設当時は、デジタル広告に投資して個人の方を集めてきても、求人案件が少ないためにスカウトが届かないという状況にありましたね。スカウトが届かなければ当然、成約することもなく、正直言ってビジネスとして成立しないという苦しい状況が続きます。事業として黒字化していかなければ、積極的に投資ができないという話になり、先ほど説明した転職以外のサービスも大切ですが、まずはマネタイズの核である「iX転職」で、しっかりと黒字を目指していくという方針になり、現在はこの「iX転職」という転職支援サービスの運営にほぼ全てのリソースを費やしています。

 

――“スカウトが届かない”要因は、単純に企業数が足らなかったということでしょうか。

堤:2019年当時で言いますと、企業数もそうですが、使ってくれるヘッドハンターの数も不足していました。当時は競合と比較しても、機能が充実していたわけではなかったので、2020年の上期まで、営業はiX転職でスカウトを打ってくれるヘッドハンターを増やすために頑張り、我々は機能充実に向けてひたすら改修していきました。

結果的には、当時と比べるとスカウト送信数は14倍にまで増え、成約数も飛躍的に伸びました。コストをかけた部分に対して、ようやく利益が出始めてきたて赤字が0になり、黒字化してきました。

 

――適切に効果につながっていますね…!ところで、その機能拡充に向けた改善というのは、具体的にはどういうものでしょうか。

堤:ユーザーの方により多くの機会を提供するために、複数のスカウトメールを配信してもらい、配信したスカウトメールをユーザーが見たときに、次のアクションに移る際の、“移りやすさ”を徹底的に高めていきました。具体的には、それまで「スカウトが届きました」という定型の文章がテキストで書かれているだけのメールを送っていましたが、リッチなHTMLメールにして、どのような内容のスカウトが届いているのかが一目で分かるようにしましたね。

加えて、そのスカウトメールの中には厳選された方にしか送られない特別なメールもあるので、その場合はデザインや見せ方を変更する機能を付けました。これらは2020年上期の目玉でもありましたが、この機能を付けることによって、ユーザーの目にも留まるようなスカウトが届くようになったので、ヘッドハンターにも、ぜひ「使ってほしい」という利用促進にも繋げることができましたね。

採用条件を指定し、その条件に合ったユーザーがサービス登録すると自動的にスカウトが届くような機能が競合にはありましたが、「iX転職」はスコープを精査しながら立ち上げたので、まだ備わっていない機能もありました。そういったものは、スクラムチームを組成して、少しずつでもクイックに作っていこうとしています。

 

――少しずつ変化してきているんですね。これからも複数の施策が走ると思いますが、こうすればもっと効果が上がるという施策の、どこからどこまでをスクラムでやるのでしょうか。

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堤:大枠の方針自体は、事業のトップの方たちが決めています。私たちはそれに従って、機能拡充のための競合調査からスタートしましたね。そして、それを企画の人たちが優先度を考えたり、iX転職では実装しないものなどを仕分けし、スクラムチームで実際に機能を要件に落とし、開発をしていきました。

しかし、一気に大玉の機能追加は大変なので、ディレクターである小栗さんが「ここまでの機能をリリースするだけでも価値がある」と整理してくださり、顧客に早く価値を提供できるような形に分割して、推進してくださいました。結果的に早いタイミングで、狙っていた効果を出すことができ、これらのコミュニケーションや計画、実行をするところまでが、このスクラムチームの業務範囲だと思っています。

手探りだったスクラム――でもみんなで“話す”という文化があった

――およそ1年携わってきた中で、iX転職のKPT(Keep、Problem、Try)を教えてください。

安藤:まだProblemとTryを繰り返している中なので、大きなKeepはこれから出てくると思います。ProblemとTryで言うと、私がスクラムに慣れていなかったということもありますが、チームづくりの基盤となるところが甘かったと実感しているんです。例えばチームの目標や、プロダクトの中でどの指標を上げるのか、具体的にはスカウト数をどれくらいにするというチーム目標を具体的に立てていく必要があります。

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また一緒に進めるメンバーの価値観でいうと、さまざまですよね。数多くの開発手法がある中で、目指すところは同じだとしても、一気にまるっと作りたい人もいれば、効果が分からないので小さく作りたい人もいます。その価値観が違うことで開発が上手く進まなかったりしますよね。

自分たちが開発したものを世の中に出してみて、その結果を共有する仕組化されていないというProblemがあったので、それによってモチベーションが変わることもありました。それらのProblemに関して、目標と開発プロセス、モチベーションといった基盤の部分をしっかりと作るということをTryとして進めていきたいと考えています。

Keepで言いますと、スクラムの中で振り返りがありますが、そこで今回のスプリントについての反省会を行います。その中で皆さんが意識しながら小さな改善を続けていったので、その活動はこれからも続けていきたいです。

 

――どちらかというと、これまでは改善を中心とした開発が中心で、全体での目標やプロセスなどをみんなで膝を突き合わせて考えるという時間はあまり取れなかったと…

安藤:そうですね。プロダクト開発統括部全体で、今年の1月からスクラムが始まり、スクラムを学びながらみんなで走っていたという感覚ですね。iXの開発が続いている中で、途中からスクラムが入りました。それまではBITAがすべてディレクションから開発、運用まですべてを担当していましたが、スクラムチーム化をしたので大きく変わりましたね。

 

――ディレクションの範囲でKeep、Problem、Tryを総評するといかがでしょうか。

小栗:先ほど安藤さんが仰ったようにProblemが山積みで、すべてがProblemに見えるときもありました。

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しかし何か問題が発生したときにみんなで集まり、その課題解決に向けて話し合ったり、原因を追及したりします。みんなで集まって話すという文化があるので、立ちあがったばかりで不確実なことも多くありましたが、みんなで答えを作っていくというプロセスができる環境なので、それは今後もKeepしていきたいと感じました。みんなが協力的で、職種によって壁がなくとても風通しがいいので、とても動きやすいと思います。

 

――さまざまなProblemがあった中、踏ん張ることができたポイントを教えてください。

小栗:ハイクラスかどうかは置いておいて(笑)、自分が今ちょうどハイクラス人材の方が一番多い年代と同じ年代になって、環境の変化やこれからの多様な働き方というものを身近に感じています。

自分にとって良いと思える仕事に出会えるといいなと思っていましたが、偶然、同じときにパーソルキャリアでiXというサービスを立ち上げることになりました。今はスカウトサービスというものですが、将来的には副業などにも広がっていくという話もあったので、多様な働き方に対応できるようなプラットフォームを作れるということが、今の自分の思いとマッチしていましたし、良い仕事に出会えるきっかけを提供できる立場のメンバーであることにもワクワクしました。大変なこともたくさんありましたが、それが原動力になっていましたね。

 

安藤:小栗さんが仰ったようなサービスの面白さもありますが、私自身が乗り越えられたのはやはり、周囲の皆さんのサポートがあったからだと思います。私は中途入社ということもあり、プロパーと中途のあいだに何かがあるのかと不安に思っていましたが、そんなことは全くなく、皆さんサポートをしてくださいました。チームとしての結束感を感じたのはやはり、何か課題が起きたときに皆さんがぐっと固まったときですね。「自分は関係ない」と言う人は1人もいません。

 

――そういったメンバーが揃っていたのでしょうか、あるいはリーダーの力でしょうか。

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堤:僕の力と言いたいところですが(笑)いえいえ、メンバーが揃っていたからだと思います。開発の方々もそうですし、企画の方々もそう。みなさん役割や部署が違っても「それはそっちの仕事」と言う人はいません。

 

――堤さんがマネジメントをしていく中で、ここ1年で変化を感じたことがあったら教えてください。

堤:これまでは自分も含めて、上から言われてやっていたがゆえに、感じていた課題もあったと思います。やりづらさを感じたり納得感がないままに進めていたこともあったので、この辺りは安藤さんを中心に、方向性を確認したり、やるべきことを再定義することを行ってきました。この1年は、自分たちのチームを再構築しようと考え、変えようとしてきて、まさにこれから、変わろうとしている大きな転換点に立っていると思います。

正直言って、形だけになっていて、中身が伴わないスクラム開発になっている部分もあったと思います。プロダクトの成長に、みんながコミットして活き活きと働いていたり、常に同じ方向を向いて、そこに向かって一生懸命に楽しみながら努力していたり、という本来の形になっていませんでした。その状態を打破するために、自分たちで考えて、企画、ディレクション、開発すべてにおいて同じ方向を向いて、もともとスクラムが目指しているようなアウトプットや働きざまが実現できるようになると、さらに良いなと思っています。

 

――スクラムをスタートすることになり、どのように自分たちの中で消化をし、今のような考えに至ったのでしょうか。

堤:まずスクラムを取り入れようと言い出したのは私です。2020年の1月からとりあえずやってみようということで、もともとスクラムをやっていた人からやり方や定期的に行うイベントなどを教えてもらってはじめました。

実際にやってみたら、毎月行っている振り返りでも反省点が出てきて、運営上は円滑になってきたと感じています。

一方で、そもそも何のためにスクラムをやっているのか、スクラムでの課題感が出てきて、立ち戻って考える必要があるという問いかけも併せて出てくるようになりました。運営については慣れてきましたが、「本当に早くなっているのか」という疑問が出てきたり、どこかで意味のない企画テーマについて一生懸命にやっていたり、本当はここまでやれば価値がでるはずなのに、開発するまで時間がかかってしまったりということがある中で、根源的な課題感が湧き上がってきたということですね。

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その理由を考えたときに、同じ方向を向いていなかったり、そもそもの目標値が定まっていなかったりということが分かったので、それを整理するということをまさに今行っています。

 

ユーザーのためになるフィードバックは積極的に受けとるべき――

――スクラムを取り入れてみたものの、慣れないスクラム開発に戸惑っていた、ということでしょうか。

堤:私は、iXの立ち上げ当初からいるメンバーです。立ち上げた当初はウォーターフォールで開発をしていましたが、プロダクトの特性上、顧客の反応を見ながらでなければ良し悪しが分かりませんでした。仮説検証型でどんどん出して、ダメならば引っ込めてというスクラムのやり方が、サービスの特性とマッチしているということは元から分かっていたので、大きく土台を作ってからはスクラムに移行しようと最初から決めていました。しかし、そのスクラムに対する理解や、上手く機能させるために必要なことが私自身よく理解できていないままに投げてしまったので、今このような状態になっていると責任を感じています。

 

――現場ではどのような声があがっていたのですか。

小栗:そうですね。「何のためにこれをやっているのか」「サービスとしてどうしたいのかが全く見えない」「このやり方でいいのか」といった声は聞こえてきました。皆さんその声を感じて、次のステージにいくときには違うやり方を考えて進めていったので、その時その時に自分たちで変化をさせていると感じていました。

 

安藤:エンジニアには目的志向がある人が多く、意味のあることをしたい、サービスを良くしたいと思っている人が集まっているので、目的はとても重要視される部分です。その点をきちんと伝えられなければ納得感がないので、モチベーションが下がってしまうことがありましたね。

 

――自分たちで目的意識を定めるとなったときに、上層部との調整も必要だったのですか。

堤:調整はそこまで必要ではないのですが、説明を適切にすることが大事ですね。事業はボランティアではないので、会社に対して何かしらの価値を生み出さなければなりません。なので、会社の売上にどのようなルートで紐づいているのかが説明できれば問題ないと思っています。

ゴールまでの登り方については、効率的な登り方を求められますが、その効率の良い登り方というのもいろいろと考えられますよ。例えば個人の集客を一つとっても、お金を払って広告で集めることも一つですよね。しかし私たちはその手段を選ばずに、個人の人が受け取って嬉しいようなスカウトがたくさん届く企画を考えて実現することでこのKPIを改善したいという点について自分たちの意思を持っていました。ですから、それが一番効率の良いやり方だと上手く説明するしかないと思います。

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それに対して、「このやり方がよいのでは」と言われたことに対しては、私たちの思想とズレていなければそれはそれでアリだと思っています。ユーザーのために良いやり方というのは、きちんとフィードバックを受け取るべきだと考えています。

 

――まずは投資対効果をどこに置くかが決まったら、やるべきことがシンプルになり、みんなが登りやすいプロセスを考えるようになった、ということですね?

堤:目的や目標を設定するのは、言うほど簡単ではありません。なにが指標か、なにが妥当といえる目標なのか、何を追いかけていくか、どの水準まで伸ばしていくかなどありますが、それを出すためにはデータの分析をしたり、自社サービスも競合サービスも知らなければなりません。

私もよく「企画がよくない」「何のためにやるのか」と言っていましたが、この立場になり、“大変なんだな”と分かるようになりました。しかも、そこに数字の責任を負わなければならないので大変です。

 

――安藤さんが仰っていたことがポイントだと思いましたが、パーソルキャリアに入社すると、「なぜこれをやるのか」という意味を自分で設計して、自分で進んでいく人でなければいけないと思います。待っていても何も降りてこないですもんね。

安藤:そうですね。目標を立てることも自分でやらないといけないので、周りにサポートいただきながらそれを理解することができました。

 

――それはどの職種でも共通することかもしれませんね。最後に、この先チャレンジしたいことがあったら教えてください。

安藤:スクラムマスターとしてまだまだこれからだと思うので、早く一人前になり、iXではないチームにいったとしても、そのチームを立ち上がらせるような人になりたいと思っています。またdodaなどのスクラムマスターとも協力をして、スクラムマスターの底上げ、みんなで良くなるということができたらいいなと思っています。今はSlackで、スクラムマスター同士で困ったことを話したりしていますが、それももっと活性化していきたいです。

堤:iXというプロダクトに関しては、ハイクラス人材の転職のときに「iXがあるよね」と言ってもらえる存在になり、より多くの転職支援を成功に導くようなプロダクトを作りたいと思っています。意味のあるプロダクト、誇りの持てるプロダクトに成長させていきたいということが、中長期的な目標としてありますね。

本音としては、プロダクトマネジメントというのは今の時代において、ポータビリティなスキルだと思っています。個人でもプロダクトを作ったり、SNSで発信したりする人がいるので、私もプロダクトマネジメントのスキルが身に付いたら、どんなプロダクトであれ、どんな場所であれ、一定の市場価値、自分の市場価値の向上にも繋がると感じています。

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――iXのこれからの進化がとても楽しみです!本日はありがとうございました!

(取材・文=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/撮影=古宮こうき)

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堤 雄大 Yuta Tsutsumi

プロダクト開発統括部 プロダクト開発部 iX開発グループ マネジャー

1983年生まれ。2007年新卒でインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。インフラサポート、PMO、doda転職フェアシステムやBAKSなど基幹システムのPM・保守運用、anサイトのPM・保守運用を経て2018年からiX転職の立ち上げに関わる。2019年より、iX開発グループの責任者に着任。

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小栗 由美子 Yumiko Oguri

タレントソーシング事業部 iX企画部 iX戦略企画第2グループ リードコンサルタント

不動産サイトやグルメサイトで企画・ディレクションを経験。2011年3月にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に中途入社。2018年よりiXサービスの開発ディレクションを担当

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安藤 春菜 Haruna Ando

プロダクト開発統括部 プロダクト開発部 iX開発グループ リードコンサルタント

大学卒業後SI企業でエンジニアとしてシステム開発を経験。2018年パーソルキャリア入社。「iX」サービスの立ち上げに途中参加、現在はプロダクト開発のスクラムマスターに着任。

※2020年12月現在の情報です。