自社の人事データを活用する――Anaplan-HR導入プロジェクトの軌跡

Anaplanプロジェクトメンバーの集合写真

パーソルキャリアでは、人事部門とデータ部門の連携による「人事データ活用」について、議論や取り組みが進められています。前回はゼネラルマネジャーのお二人に構想を伺い、人材ビジネスを扱う会社だからこその「人に積極的に投資する」姿勢や、個人情報を扱う難しさと課題についてお話しいただきました。

今回は、人事データ活用を進めるために始動した具体的なプロジェクト事例にフォーカスします。

これまで場面ごと・部署ごとに手動でKPIを集計していた作業を改善し、データに基づいたよりよい意思決定を目指す取り組みが進んでいます。どのようなプロセスを経て、Anaplan-HRの導入・リリースに至ったのでしょうか。その裏側に迫ります。

※撮影時のみ、マスクを外しています。

 

 

データの在処や指標を統一し「正確・スピーディに見たいデータが見られる」状態へ

 

――まずは今回のプロジェクトにおける皆さんのお役割から教えてください。

 

田中:導入するシステムと人事の基盤データを連携するためのハブのような役割として、人事本部から参画しました。その後安定的な運用を目指して、ローンチまでご一緒させていただいています。

雨宮:私も同じく人事本部から、今回のプロジェクトに関わる人事・テクノロジー・経営企画、それぞれの組織をつなぐ役割と、システムに反映させるKPIの要件定義を担当しています。

人事本部 人事企画部 第3グループ エキスパート 雨宮 千晴の写真

人事本部 人事企画部 第3グループ エキスパート 雨宮 千晴

吉田:データ共通BITA部からの参画で、今回は運用方法の整理とユーザー認証部分の設計を担当しました。

 

高瀬:私はこれまでは明確な役割を持って携わった訳ではありませんが、データ共通BITA部としてシステムと一体になってデータをより良くしていくためにも、今後プロジェクトに入って頑張りたいなと思っています。

 

――今回人事データ活用に向けてAnaplan-HRを導入されたとのことですが、背景にはどのような課題があったのでしょうか。

 

田中:まずは、データが散在しており統一化・可視化されていない、という点が一つあります。基盤としての人事システムはあるものの、採用・評価・労務などのさまざまなデータを各部署が縦割りで管理しているために情報が独立し、全体を見通せない状態だったんですよね。また情報の在り処だけでなく、部署によって各指標の定義もバラバラで、「複数の部署が出す同じ指標の数値が異なる」という事象も起きていました。

人事本部 人事労務部 人事情報グループ マネジャー 田中 圭の写真

人事本部 人事労務部 人事情報グループ マネジャー 田中 圭

 

雨宮:そういったデータが不正確な状態では、予測も適切に行えないため、「先を見通して必要な投資をする」といった経営判断ができない状態にもなりかねません。

また必要な情報を導くために複数のデータをクロス分析する場合、「複数のシステム担当者からデータをもらって組み合わせ、さらにExcelで二次加工、三次加工を行ってようやく求めるデータが出る」というプロセスを手作業で行っているケースもあったんです。現場の方からデータを要求されたとしても、タイムリーに応えられなかったり、ある程度のExcelスキルを持っている人でなければデータが出せなかったりもしていました。

そこで「より正確かつスピーディに見たいデータが見られる状態」に近づけるためにも、人の手で“なんとかする”のではなくシステムを導入し、データの在り処やKPIの定義・算出方法などを統合していこうと始動したのがこのプロジェクトです。

 

 

――課題に対してAnaplan-HRを導入したことで何ができるようになったのか、概略を教えてください。

 

田中:Anaplan-HR上に、採用・配置・処遇・労務……などの人事マネジメントサイクルに則る形でデータを集約したことで、人事本部で保有するさまざまなデータを一元化し、可視化することができました。

またこれまで手作業で行っていた、人事データやKPIの出力・加工作業の多くが自動化され、ユーザーが見たい切り口に沿った数値やグラフの反映がスピーディに、ストレスなくできるようになっています。これによって作業工数が大幅に削減され、データのエクスポートや二次創作物への活用も簡単になりました。またヒューマンエラーのリスクも下げられ、誰がやっても同じ正しいデータが見られる状態へと進んでいます。

 

雨宮:組織や社員分類を選択して見たいデータをピンポイントで確認できるため、各事業を担当する戦略人事も、より自分の組織の“人”を見やすくなりましたし、ディスカッションや課題の特定もしやすくなったのではと捉えています。

 

 

ゴールは「データを読み取り、示唆や打つべき施策を提案できるようになること」

 

――システム面を担当されたデータ共通BITA部のお二人の視点から、今回のプロジェクトのポイントを教えてください。

 

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ マネジャー 高瀬 純一の写真

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ マネジャー 高瀬 純一

高瀬:社員の大切な個人情報をクラウド上に置くという取り扱い上、やはりセキュリティ面には注意が必要です。今回は認証システムとしてシングルサインオンの仕組みを入れたところがポイントだったかなと思います。

 

吉田:仕組みをつくる方法としていくつかの選択肢がありましたが、すでに社内の仕組みとして存在していて信頼感がある「Azure Active Directory (Azure AD)」と接続する形を選択したことで、スムーズに進められたかなと振り返ります。

 

 

――現場でシステムを触られた方からの反応はいかがですか?

 

田中:現在ユーザーは人事内に閉じていて、少数ではありますが……これまでの “現場からデータを求められた時に、一定のスキルを持っている人しか出せない・時間がかかる状態” が改善されたことで、「戦略人事側でクイックにデータが出せるようになって助かっています」というお声はいただいています。

 

 

――今回のシステム導入によって整えられた環境をベースに、今後はどのような状態を目指していくのでしょうか。

 

田中:現在はひとまずデータを人事本部内で集約してプラットフォームを作った段階なので、今後はそれをもとに分析を加速し、テクノロジー領域の皆さんにもご協力いただきながら「今後どうなっていくのか」という予測やプランニングにつなげていければいいなと考えています。

 

雨宮:データを出すことがゴールなのではなく、私たちがやりたいのは「そのデータの何が課題なのか」「数値の背景に何があるのか」を読み解き、「それに対してどのような手を打つのか」を考えることです。

今回のAnaplan-HRの導入によってやりたいことに近づいたのは間違いありませんが、ここからさらに私たち人事の習熟度を高めていくことも必要だと思っています。またデータ領域の皆さんとの連携という観点では、「複数のデータを掛け合わせて詳細な分析をかけ、課題や優位性を探っていく」部分でデータの専門家の知見を取り入れていけたら嬉しいですね。

分析の高度化を進め、単に数値を報告するのではなく、データから得られた事実をもとに、推論を重ね打つべき施策を経営陣に提案し、経営の意思決定に貢献できる状態を目指していきたいと思います。

 

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これからの「人事×エンジニア連携」に求められることとは?

 

――人事データの活用については「個人情報だから公開を制限すべき」「データを観察・分析して活用し、社員に還元するのが望ましい」などさまざまな議論がなされるテーマだと思います。皆さんはそれぞれのお立場から、どのようなお考えをお持ちですか?

 

雨宮:社員個人の観点で言うならば、目指すのはそれぞれのメンバーが「どのような目標を持って、その期に何に取り組んでいるのか」「グレード・評価ごとにどのような仕事を任されているのか」などの情報を互いに見合えている状態です。そうすることで人材登用への納得感も高まりますし、キャッチした情報を業務設計や新たな知識・スキルの獲得などに活かせれば、より高い成果の創出やキャリアアップにも繋がる可能性がありますよね。もちろん給与情報など公開すべきでない範囲は定めた上で、人事データの活用を進めていければと考えています。

 

高瀬:BI推進グループとしても、目指すところは人事データを広く活用できるようになることですね。やはりBIはデータがなければ始まらないですし、データが活用できる状態になければ、結局は個人によって独自に作られた属人的なデータと知識がどんどん増えていってしまうはずです。有効に活用できるデータが広がるといいなと思います。

 

 

――さらなる人事データ活用を進めるために、現在どのようなハードルがあり、これからどのようなアクションが必要になるのでしょうか。

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ エンジニア 吉田 進太郎

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ エンジニア 吉田 進太郎

吉田:データ自体を綺麗に整えていく必要があるのと、それだけでなく「データを活用する環境やルール」の整理も必要だと思っています。現在は、環境面では分析環境(ユーザがpython等を用いて分析できる環境)とBI環境(データマートをもとにBIツールで分析できる環境)が別で立っていたり、またルールという観点ではパーソルキャリア(個社)用のAWSとパーソルグループ全体として管理するAWSでルールが異なったり、「どの人事データは参照してよいのか・いけないのか」などが明文化されていないなどの状況があります。そういった部分を徐々に整えていけるといいのかなと思いますね。

 

高瀬:そうですね。個人情報の観点をケアしながら活用を進めるために、「センシティブなデータを扱う部分はアカウントも全て閉じ、協力会社さんなどに専門の部隊として入っていただく」などあらかじめ環境を整備していくことも必要なのかなと考えています。

 

田中:ルールの整備については人事としても線引きが難しい部分ではありますが、「従業員本人の利益につながっているか」という視点に則って整理していくことが大切なのだと思っています。

単に「皆さんのスキルデータを定性的な情報として分析させてください」ではなく、「その情報によって何が分析できるのか」「分析することで社員にどう還元されるのか」まで語れるようになることで、データ活用が進んでいくのかなと思いますね。

 

 

――今後データ活用を進める中で、連携や組織体制のあるべき姿をどのように考えていらっしゃいますか?

 

雨宮:お互いの領域について最低限のことを理解した上で、それぞれの専門領域を掛け合わせていく体制を作れたら、生まれるアウトプットが質・量の2つの側面からよりよいものになっていくのではと思います。

その中でエンジニアの皆さんには「提案」をたくさんいただきたいんです。「この数値が見たいなら、他にこのような分析方法や見せ方がある」「システムとしてこのようにデータを保持していくとより効率的で、将来につながる」など、専門家としての声をもらえたら嬉しいですね。

 

吉田:組織体制については、人事情報の取り扱いについてのルール整備がどれだけのスピードで進むかによるかもしれませんが……兼務などで人事部門内に入り込み、「人事の人間」として責任を持って取り組む形の方が進めやすくなるのかなと思っています。

 

雨宮:人事側としても、「管轄領域内にたくさんあるシステムをどのように使うべきか」などデータマネジメント方針を策定したり、システムを統合してあるべき状態を目指したりするためには、人事部門内で一緒に取り組んでくださる方がいるとありがたいですね。それによって権限やセキュリティの問題もある程度取り払えるのではと期待しています。

 

インタビューを受けるAnaplanプロジェクトメンバーの写真

 

 

――ありがとうございます。それでは最後に、それぞれのお立場から今後パーソルキャリアでチャレンジしたいことについてお聞かせください。

 

吉田:「全ての社員がデータにより興味関心をもち、より身近に分析・活用する」そんな組織になるように、データ自体や環境、ルールの整備にチャレンジしていきたいと思います。

 

高瀬:これまでは売上に直結する部分を優先して事業データの活用を中心に行ってきましたが、やはりバックオフィス系データも非常に重要なものだと思っています。それを活用することで事業にも貢献できるという側面もありますから。今後は、バックオフィス側に入り込んでさらに連携を強めながら、データ活用を進められるよう取り組んでいきたいと思います。

 

田中:今後は、テキストマイニングをはじめとした定性的なデータ分析をできるようにするなど、さらに人事データの利活用を推進していきたいと思っています。

その中で、専門的な部分についてはテクノロジーの方々にご協力いただく形になりますが、それだけでなく私たち人事もスキルを身につけることが必要なはずです。システムを入れるにも、人事部門内に最低限のスキルがないと要件定義もできないですし、求めるアウトプットが定まらない状態で進めてもよいものはできません。人事部門全体を巻き込みながら、オペレーションスキル向上に向けて取り組んでいけたらと思います。

 

雨宮:私たちパーソルキャリアは「人々に“はたらく”を自分のものにする力を」をミッションとして掲げていますが、私たち自身が“はたらく”を自分のものにできていなければ、そのような社会を実現できる訳はないですよね。だからこそ社員一人ひとりには「“はたらく”を自分のものにするとはどういうことなのか」を実感していてほしいと思っています。

そのためにも、積極的にデータ部門の皆さんと連携しながら、「企業のあるべき姿」を数値的に分析することを通じて、利益や生産性の最大化をサポートできる環境を作っていきたいと思います。

また人材会社だからこそ、市場をリードして「会社の人事データを科学するとは、どういうことか」というモデルを作っていきたいです。それを通じて社員のはたらくをサポートできる、さらには科学的に実証された計画・検証のモデルと知見をもって顧客企業様へのサポートができる、そんな状態を目指したいと思います。

 

――ありがとうございました!

 

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影 = 服部健太郎)

 

人事本部 人事企画部 第3グループ エキスパート 雨宮 千晴の写真



雨宮 千晴 Chiharu Amemiya

人事本部 人事企画部 第3グループ エキスパート

大学卒業後、テレビ局の国際報道担当記者、予備校の論文科講師などを経て2017年にパーソルキャリアに入社。2018年に経営企画部門から人事企画部門に異動し、人事制度設計・運用や階層別社員研修の設計・運営、役員人事、人事データの利活用促進、人的資本の活用度合いの可視化などに取り組んでいる。

人事本部 人事労務部 人事情報グループ マネジャー 田中 圭の写真



田中 圭 Kei Tanaka

人事本部 人事労務部 人事情報グループ マネジャー

大学卒業後、不動産会社に入社。人事部門に配属され、主に労務管理・人事評価制度企画/運用・人事諸システム導入/運用などの業務に従事。2020年にパーソルキャリアに入社。現在は人事プラットフォームの維持・整備・BPRを通して、従業員が安心・安全で生産性高く働ける職場環境づくりを支援している。

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ マネジャー 高瀬 純一の写真



高瀬 純一 Junichi Takase

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ マネジャー

大学卒業後、約10年間Sierでプログラム開発やシステム設計を行い、その後事業会社にて基幹システムの運用・保守、AWSを利用した分析基盤の立ち上げ、分析/BIツールであるSASやSPSS、Tableau導入などの業務に従事。2018年にパーソルキャリアに入社。専門性を活かして、分析基盤、BI基盤の構築・運用・保守を行っており、データ活用による各種ビジネス解決に貢献すべく日々施策に取り組んでいる。

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ エンジニア 吉田 進太郎の写真



吉田 進太郎 Shintaro Yoshida

インフラ基盤統括部 データ共通BITA部 BI推進グループ エンジニア

新卒でSIerに入社し、BI/BA領域のシステム開発や導入支援を担当。その後、エネルギー会社にてデータ分析を利用した業務改革、新規事業開発に従事。機械学習を用いた設備故障予測、ライフスタイル分野のサービス開発などを行う。2021年、パーソルキャリアに入社し、社内のデータ利活用推進に取り組んでいる。

※2021年12月現在の情報です。