デザインの力を最大化するために、発見したい2つの課題

 

 

デザイナーが企業にいる意味は何ですか?

こんにちは。パーソルキャリア株式会社で、リードデザイナーを担当している長沢です。
弊社には「NUTION」というデザイン組織があり、その中の1人です。

皆さんにとって、「デザイナーが企業にいる意味」は何ですか?
私は今いる企業に対し、「デザインの力を最大化するためにいる」と考えています。

このテーマについて、2023年に参加したDesignship Do デザインマネジメントコースでの学びと個人的な学びを交えつつ、紹介します。
 

サマリー

  • デザインの力を最大化している状態は、企業が戦略としてデザインを活用している状態
  • デザインの力を最大化する時の課題は大きく分けて「技術的課題」「適応課題」
  • 適応課題の発見・解決のために、デザイナーがいる意味を考えてみることがオススメ
  • デザイナーがいる意味は、「デザイン態度」「ディシジョン態度」を知ることがヒントになる
  • デザインをする意味は、PLとBSどちらに効くか意識して言語化しよう

様々な組織で頑張っているデザイナーの皆様のお力に、少しでもなれたら幸いです。

※Designship Doは、デザイン・ビジネス・リーダーシップを学ぶ実践型デザインスクールです。
 

目次

「デザインの力の最大化」とは「戦略としてのデザイン活用」

 

デザインの力が最大化されている状態とは、「デザインラダー」でStep4まで進んだ状態だと考えています。
デザインラダーとは、企業がデザインを活用している度合いを4段階で整理したものです。
※ラダー=はしご
 

Design Ladder(デザインラダー)Step1はデザイン未導入、Step2は製品意匠としてのデザイン、Step3はプロセスとしてのデザイン、Step4は戦略としてのデザイン

*1

 

Step1は「デザイン未導入」で、Step4は「戦略としてデザインを活用できている」状態です。
 
Step4は具体的に次のような状態です。
  • 全社戦略にデザイン資源を組み込んでいる
  • ビジネスの競争優位性としてデザインが活用されている
  • 製品開発だけでなく、新たなビジネスモデルやビジョンを、デザインの考え方から変革している

※デザインラダーは、2001年にデンマーク・デザイン・センターが提示したモデルです。
 
 

課題は2種類...技術的課題と適応課題

 

物事を推進する時の課題は、大きく分けて2つあると学びました。
技術的課題と適応課題です。
 

技術的課題
適応課題
特徴
既存の知識・方法で解決できる
  • 既存の知識・方法では解決できない
  • 関係性の中で生じる、複雑で困難な課題
解決方法
学習と実践
  • 対話
  • 関係性の課題発見と、解決策の検討
 
 

技術的課題


こちらは想像しやすいですね。
Designship Doではプロダクトマネジメントを学習し、プロダクトの価値を高めるための知識を得ました。(たくさん活用してます!)
ただ、知識としては正しくても、実践する時に他者との関係性が課題になることがあります。
それが適応課題です。
 
 

適応課題

 

関係性の中で生じる、複雑で困難な課題です。

対話などにより、適応課題の原因を発見する必要があります。(「溝に気付く」と表現されています)

既存の知識・方法では解決できず、個別で解決策を検討する必要があります。

 

適応課題の種類は4種類あります。

 
適応課題の種類と例

 

種類ごとの説明を、書籍を元に記載します。
(書籍:「他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)」)*2
 
例は私がデザイナーが直面しそうな適応課題を想像し、記載します。

1.ギャップ型
  • 組織で広まっている価値観と、実際の行動にギャップがある
  • 例:組織で「ユーザーを調査し体験設計すべき」という価値観は広がっているが、実際は調査をせずに想像のみで開発してしまう

2.対立型
  • 互いの役割や目標が対立する
  • 例:デザイナーAはデザインシステムを作ることで事業に貢献するつもりだが、デザイナーBはUX設計で事業に貢献するつもりで、デザインチームの動きがバラバラになり結果的に非効率になる

3.抑圧型
  • 言いにくくて言えない
  • 例:リリースごとにデザインシステムの更新に時間が必要だが、そのタスクをデザイナーしか認識していない。結果的に厳しいスケジュール設定になってしまっているが気まずくて言い出せない。

4.回避型
  • 痛みや恐れを伴う本質的な課題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替える
  • 例:事業戦略が本質的な課題解決になっておらず、関係者のリソースを非効率に使っているとわかっているが、解決の困難さや対立を恐れ目の前のタスクをこなす

具体例は想像ですが、覚えのある方も多いのではないでしょうか。
一面だけを見ると正論でも、視野を広げると複雑な問題が絡んでいると気付くことはありますよね。
解決は困難ですが、我々デザイナーの強みを活かせる課題だとも思います。
関係者の状況や考えを調査し、課題を発見するアプローチは、我々デザイナーが普段行っている業務に似ているからです。
一歩踏み出し、試してみる価値はあると思います。
 

対話のために、「デザイナーが企業にいる意味」を考えよう

 

実際に適応課題を意識してみて、発見したことがあります。

それは「デザイナーが企業にいる意味」の言語化が必要だということです。

 

理由は、適応課題の原因の1つだから

 

そもそもデザイナーの役割...デザイナーが企業にいる意味の認識が、関係者と違うことがあります。
 
例えば、価値あるプロダクトを作るためにUI以外の学習をしているデザイナーもいますよね。
この方がUI以外の貢献をしようとしても、関係者はそう考えてないかもしれません。
もしくは、自分がやるべきでないと考えている貢献を望まれているかもしれません。
そもそもデザイナーが「デザイナーが企業にいる意味」を言語化できていないと認識の違い...つまり溝に気付きづらく、説明もしづらくなります。
 
あなたにとって、デザイナーが企業にいる意味は何ですか?

ちなみに私は抽象的には「デザインの力を最大化するため」と考えていますが、UIUXデザイナーとして具体化すると「効果的なMVP作りをし、効果的な仮説検証を実現し、事業に貢献するため」と考えています(自分の役割を定義しているだけであって、すべてのUIUXデザイナーの役割を定義しているものではありません)。だからUIを作るだけでなく、事業戦略の理解、ユーザーの行動・思考までの仮説の具体化、検証のために必要な最小限の設計に時間を使います。こう定義していると、関係者との認識の違いに気付き対応しやすくなります。
 
「デザイナーが企業にいる意味」を考える時のヒント...デザイン態度、ディシジョン態度

 

「デザインのアプローチ」と「ビジネスにおける一般的なアプローチ」の違いを知ると、デザイナーがいる意味を考えやすくなるかもしれません。
参考として、「デザイン態度と、ディシジョン態度*3を紹介します。
 
 
デザイン態度と、ディシジョン態度出典: "アカデミック・ビュー Vol.04", トビラボ-To Be LABO, 2021/03/21, https://www.tobelabo.com/2021/03/21/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC-vol-04/,(2023/12/29)
 
 
個人的にディシジョン態度(またはマネジメント態度)を理解しづらかったのですが、こちらの記事がわかりやすく説明をしてくれていたので紹介します。
 
まず、マネジメント態度というのは、合理的な思考を求めます。それは、組織としての合理性です。多数の人がかかわる組織としての合理を求めるので、その説明責任として厳格性や整合性のようなものが必要とされたという背景があります。アプローチとしては、これまでに有効だった方法論やこれまでに成功してきた事例を参照して、その方法を現状の問題に適用し問題解決をはかる。これは、すでに与えられた選択肢が存在していて、問題のフレームが確定しているときには有効な考え方ですが、これからの新しいモノやコトに対してはうまくはまらない。問題解決の仕方を既存の選択肢から選ぶという受動的なアクションがメインなので、そこに新しい選択肢を加えることを発想できないのです。これに対して、デザイナーやクリエイターがクライアントや自分が取り組むべき課題に対してどのように思考するのかというと、既存の方法にはあまりこだわらない。問題に対してどのようなアプローチがあり得るのかというのを、既存の方法を含めて、新しい方法を視野に入れて考えるのです。
“「デザイン」を経営に活かすデザインマネジメント 八重樫 文 立命館大学経営学部教授”.TWIST/ツイスト.2020-1-23,https://twist-design.life/special/design-management,(参照 2023-12-29).
 
この違いを知り、デザイナーが企業にいる意味の1つは「デザイン態度を取り入れること」であり、それは事業にとって必要なのだと認識が強まりました。また、ディシジョン態度寄りの方への対応も考えやすくなりました。例えば、ディシジョン態度の特徴を意識して説明をすると伝わりやすいですし、デザイン態度の何を不安視しているのか想像しやすくなります。例えば、デザイン態度の「不確実性・曖昧性の受け入れ」は、「曖昧さをどう検証していくか」をセットで話すと進むこともあります。
 
もちろん、職種や立場によって白黒はっきり分かれるわけではありません。
ただ、他者と自分の溝を言語化したい時に眺めてみると、ヒントになることがあります。

 

「デザインをする意味」を考えるヒント....PL、BS

 

もう1つ、適応課題が発生しがちな「デザインをする意味」を言語化する時のヒントを紹介します。
それが「PLに効くのか」「BSに効くのか」を意識して話すことです。

  • PLに効く...損益計算書。ざっくり言うと、収益・費用・利益のこと。直接数字が上がるデザイン。UI改善によるコンバージョン率UPなど。
  • BSに効く...貸借対照表。ざっくり言うと、利益を生み出すための資産。間接的に数字に貢献するデザイン。ブランディングなど。

複数のデザイナーと語った様子だと、PLに効くデザインは理解されやすく実行しやすいですが、BSに効くデザインは適応課題が発生しやすいようでした。
まずはデザイナーがPLとBSどちらに効くのか考えることで、説明や推進の戦略を立てやすくなりそうです。(多くのデザインは明確にどちらかに分かれているわけではないので、どちら寄りで説明するかも検討できます。)
 
ちなみに、BSに効くデザインの推進をする手段の1つに「PLに効くデザインによってデザイナーの信頼を増やし、BSに効くデザインを着手しやすい状況を作る」というものがありました。
BSに効くデザインの推進は、特に関心を持たれていた話題でした。
必要としているデザイナーが多い話題なのかもしれません。(私もとっても興味あります!)
 

「適応課題」についても語ろう

 

Designship Doに参加したことで、様々な企業、様々な立場のデザイナーと語り合えました。
そこで気付いたことは、技術的課題について語られることは多くありますが、適応課題について語られる場は少ないかもしれないということです。
 
皆さんの組織の適応課題は、どのようなものがありそうですか?
一見ただの愚痴に見えても、それは解決する価値のある適応課題かもしれません。
まずは近くの人と適応課題について語り、「どんな対話が必要か」と一歩踏み込んで考えてみても良いかもしれません。
 
最後に、メンバーと適応課題について語りやすかったトピックを共有します。
  • 最近「やばい」「もやもや」と感じた出来事は何かあったか?
  • 私達はデザインラダーのどのステップか?それはなぜ?
  • デザイン態度、ディシジョン態度の違いを感じたことはあるか?それはどんな時?
  • 私達の組織構造はどんなものか?課題は何がある?現状、どんな対話が設計されてる?対話の少なさが、組織課題の原因になっているかもしれない。どんな対話が必要か?(画像のような図を書くと整理しやすいです)

組織構造を書いてから「課題」「対話(1on1や定例などの話す機会)」を書き出すと、
対話の少なさによる課題を発見できます。
画像の場合は、プロダクトマネージャーとデザイナー間に対話の仕組みが無く、必要な情報を得づらい可能性があります。
※画像はイメージであり、実際の組織構造と課題ではありません。

 
デザインを学び、活用する者として、一緒に頑張っていきましょう!
この記事が、同じ目標に向かっている方のお役に立ちましたら幸いです。
 

デザインの力で「はたらいて、笑おう。」の世界へ。私たちと一緒に進めていきませんか。

 

弊社のデザイン組織「NUTION」では「はたらいて、笑おう。」を実現するために技術的課題も適応課題も語り、学び合っています!

今回参加したDesignship Doも、弊社から複数のデザイナーが参加しており、お互い学びを共有しながら高め合っていました。
興味を持ってくれた方はぜひこちらのサイトをご覧ください。
 
 



長沢 Nagasawa

UIUXデザイン リードデザイナー

事業会社にデザイナーとして新卒入社。UIデザイン以外にも企画、UXリサーチ、プロジェクトマネジメントを経験。事業と仮説検証を理解したUIデザイナーの必要性を感じ、専門性を高める為に転職活動を開始。2021年に、デザイン組織のあり方に共感したパーソルキャリア株式会社に転職。

※2024年1月現在の情報です。

*1:Designship Doの講義資料を元に作成:伊藤 セルジオ 大輔,”ロードマップのデザイン(Designship Do デザインマネジメントコース),2023/9/16”

*2:

参考文献
宇田川 元一. 他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング), 2019, 200p.

*3:RICHARD J. BOLAND, JR. AND FRED COLLOPY. "Managing as designing". STANFORD BUSINESS BOOKS, 2004.