昨年、パーソルキャリアでは新経営体制に移行し、代表取締役に瀬野尾が就任。そこで3つのテーマから瀬野尾との対談記事を公開し、多くの反響がありました。
掲げるポリシーは「どんなに大きくなっても、10人のベンチャー企業のような “オープンでフラットな議論ができる組織” である」こと。このポリシーに共感を寄せ、社内でも多くの議論が交わされた1年だったように振り返ります。
1年経った今回は、そんな瀬野尾とデータ部門の責任者である斉藤、データサイエンティストである中里、倉持の4名にてディスカッションを行った様子をお伝えいたします。
社内アンケートを実施したことで見えてきた、パーソルキャリアにおけるキャリアオーナーシップの特性とは。そして分析担当者の視点からの示唆や意見もふまえた、“これからのキャリアオーナーシップ”とは――。
- ディスカッション①:一人ひとりの考える「キャリアオーナーシップ」
- ディスカッション②:データで見る「キャリアオーナーシップ」
- ワークショップ:イメージスケッチ「キャリアオーナーシップとは?」
- 「キャリアオーナーシップ」の持つメッセージをプロダクト・サービスにつなげ、社員の行動や顧客体験、さらには社会を変えていく
ディスカッション①:一人ひとりの考える「キャリアオーナーシップ」
――まずは皆さんがそれぞれ考える「キャリアオーナーシップ」を共有いただきたいと思います。瀬野尾さんは “キャリアオーナーシップとは” という問いに対して、どのような 表現で答えられますか?
瀬野尾:私の抱くイメージをあえて一言で表すと、“主人公” です。禅の言葉で「人間一人ひとりの主体的な人格」を表す言葉ですね。
もう少し具体的に表現すると、「自らの可能性と機会を知る」「ありたい姿を自ら選択する」「経験を積み重ねていく」という三つのプロセスがあります。成功・失敗を問わずこれらの循環を繰り返すことで育まれていくものが、キャリアオーナーシップなのだと考えています。
――倉持さん、中里さんは「キャリアオーナーシップ」をどのように理解されていますか?お二人のお言葉でお聞かせください。
中里:私自身がこれまでキャリアを自分で考えて自由に選択してきた経験をふまえて、まず キャリアオーナーシップは “責任” とセットで考えられるべきものかなと思います。
また同時に、“多様性” も重要な要素と考えています。さまざまな人がいる環境で、自立した人どうしが互いに尊重し合い、良い影響を与え合うからこそ、良いパフォーマンスが出せる。そんな多様性のある体制や環境を拠りどころとするものなのではないでしょうか。
瀬野尾:“多様性” は、私も非常に重要なキーワードだと捉えています。キャリアの道をつくっていくにあたってはロールモデルというものはなく、誰かと比べる必要もありません。一人ひとりが自分らしく生きて、その結果、多様な道が生まれていくことが大事なのだと思います。
倉持:私が2022年に新卒入社する前に初めてキャリアオーナーシップと聞いたときは、ロールプレイングゲームのようなものをイメージしていました。
ゲームの世界では主人公が仲間にしたキャラクターを育て、強い相手と戦いながら冒険していく。同様に、現実世界に生きる自分を仲間に見立て、心の中にいるもう一人の自分が俯瞰した視点から現実の自分を律しながら目標に向かっていく、というのがキャリアオーナーシップを発揮できている状態なのかなという考えです。
しかし社会人になって1年間働く中で、「ゲームでは目標があらかじめ決められているけれど、現実世界では目標を自分で決められる」「精神的・現実的な制約から目標を持つことが難しい人もいる」などの気づきがありました。もう一人の自分の存在と向き合い対話ができるように、そこから目標を見つけて行動ができるように 支援していくことが “キャリアオーナーシップを育む” ことなのかなと解釈に変化が生まれています。
瀬野尾:日々忙しい中でキャリアを考えることは後回しにされがちですし、不安に押し潰されてしまっている人もいますからね。だからこそ、先ほどお話ししたように可能性と機会を知り・自分で選択し・経験を積めるような場を、サービスを通じて提供していく必要があるのでしょう。
ディスカッション②:データで見る「キャリアオーナーシップ」
――先日、社内で「キャリアオーナーシップ」にまつわるアンケート調査を実施されたと伺っています。この調査の概要について教えてください。
倉持:「 キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム(※)」によって実施された、“キャリアオーナーシップの計測” を目的としたアンケート調査です。パーソルキャリアにおける調査結果の分析を、私たちHRDXグループで担当しました。
※「個人と企業の新しい関係性」を模索する企業や団体が業界を超えて集まり、その実践論について議論や実践、検証を行う
具体的な調査内容としては、「個人のキャリアオーナーシップ」とそれを支援する「組織のキャリアオーナーシップ」という二つの軸に分かれ、前者では「主体性」「価値観」など、後者では「文化」「活躍機会」といった観点から質問が設けられています。
――分析結果としてはいかがでしたか?
倉持:キャリアオーナーシップについて考える際に挙がる「キャリアオーナーシップが高ければはたらく個人としても組織としても、何かしら良い成果が出るだろう」といった漠然とした仮説について、実際にデータを見るとどうなのかを詳しく分析しています。
まず社員ごとの定量的な評価指標である パフォーマンス指標とキャリアオーナーシップとの間には、今回の集計データでは直接的な強い関連性が確認できなかった一方で、パルスサーベイで取得している 「仕事満足度」や「人間関係満足度」などの要素については関連が見られました。
また後者の満足度については、「エンゲージメント」に関連する項目との相関関係が見られています。この「エンゲージメント」の項目は、一般に、向上させることで個人のパフォーマンスや会社としての業績を高めることにつながると言われているものです。
ここから、個人や組織のキャリアオーナーシップを高めていくことで、普段の仕事におけるコンディションが改善されて生き生きと働けるようになり、エンゲージメントが向上する。その結果として、会社の業績向上につながっていく可能性がある、という示唆が得られました。
斉藤:キャリアオーナーシップを高め、そこから業績向上にまでつなげていくために、今後はより適材適所を意識したマネジメントなど環境を整えていくことが重要になってきそうですね。
中里:そうですね。また今後は、「キャリアオーナーシップ」の向上が個人や組織のパフォーマンスにどのような効果をもたらすかについても究明していきたいなと思っています。大学院で産業組織心理学や組織行動論の研究をされていた倉持さんの知見もお借りしながら、新たに取り組みを始めたところです。
瀬野尾:「キャリアオーナーシップ」を育むことが、一人ひとりの人生だけでなく組織のパフォーマンスにも影響する。今はまだ仮説でしかありませんが、データを用いて論理的にその方程式を明らかにできれば、より一層社会に向けても力強く推進していけると思います。
ワークショップ:イメージスケッチ「キャリアオーナーシップとは?」
――後半は、ワークショップを実施したいと思います。「キャリアオーナーシップ」を社会に広めていくにあたり、この概念を皆さんはそれぞれどのようなイメージをもってご説明されますか? ここまでのディスカッションをふまえて定義を改めて整理し、ご自身の持つイメージを絵や図で表現してみてください。
――まず、瀬野尾さんはいかがでしょうか?
瀬野尾:私はこのイラストで、自動車に乗ってハンドルを自分で握るのか、助手席に座るのか、それとも後部座席に座るのか、という問いを表現しています。
それぞれのポジションを好む人がいて、いろいろな考えがあるからこそ面白い。ただ私自身の経験から、自分でハンドルを握って操縦していくことはとても楽しいので、皆さんもぜひやってみることをオススメしたいです。そしてそんな運転席に座る方がどんどん増えていくときっと面白いのでは?という思いを込めています。
中里:私にとっては仕事が楽しく、趣味の合唱に対する感覚と近いものがあるので、今回は合唱に例えて表現してみました。
合唱では、自分で練習する時間と、周りの声を聴いて合わせる時間が両方必要です。さらに、そこに「声の相性のよい人と一緒に歌う」「指揮者になる」などの選択肢が示されることで表現の可能性が広がり、幸せや笑顔が生まれるというイメージです。
仕事においても「キャリアオーナーシップ」を通じて同じようなことができ、また客観的なデータや選択肢が示されることでさまざまな生き方があり得るのかなと思います。
倉持:私もハンドルを握ることをテーマに描いていて、意図せず瀬野尾さんのものととても似通ったイメージになりました。
ハンドルを握っている人は、目的地を自分で決められるのはもちろん、目的地に向けて近道・遠回りを好きに選んだり、時と場合によって高速道路と一般道路下道を使い分けたりもできる。つまり自分の考えや工夫次第で目的地への辿り着き方を自在に操れるというところが、私の中での「キャリアオーナーシップ」のイメージに近しいなと思っています。
斉藤:私は “蓄積” をイメージした棒グラフを描きました。
生きていく中でさまざまなスキルやナレッジ、自分の生き方が段々と蓄積されていく、というのが中心となるイメージです。もちろん紆余曲折があってグラフの値は上がったり下がったりしますが、それでもひたすらに走り続ければ、少しずつでも確実に蓄積されていく。この蓄積そのものが「キャリアオーナーシップ」を表しているのかなと考えました。
だからこそ「キャリアオーナーシップを強く意識しすぎなくてもいい」「どのような考え方や進み方でもいいから、前に進み続けていけばいい」というメッセージを込めています。
――根底に共通する大きなイメージがありながら皆さん異なる表現をされているという点でも、それぞれのお考えの中に “その人次第” の要素があるという点でも、多様さが印象的ですね。
瀬野尾:何か一つの価値観だけを押し付けるつもりはないんです。助手席に座る “主人公” だっていいですし、目標や目的に良い・悪いや高い・低いもないはずで、 自分自身がどのように捉えて、どのように進んでいくかが大切なのだと思います。
斉藤:やはりさまざまな人のあり方を認めることが、「キャリアオーナーシップ」において必要なことと思います。多様な価値観を受け止めて認め、その中から自分が選択し、その過程で得た気づきを多くの人に発信していけると良いのかもしれませんね。
「キャリアオーナーシップ」の持つメッセージをプロダクト・サービスにつなげ、社員の行動や顧客体験、さらには社会を変えていく
――本日は、さまざまな角度から “これからのキャリアオーナーシップ” についてお話を伺いました。この「キャリアオーナーシップ」を持つ人材を増やしていくために、今後皆さんがチャレンジしたいことをそれぞれお聞かせください。
倉持:今後も「キャリアオーナーシップ」にまつわるアンケートの取り組みを継続し、“エビデンスベースのマネジメント” の実現を目指していきたいと思っています。まずは本日のワークショップや議論の内容をふまえながら「キャリアオーナーシップ」の定義を再整理し、質問項目のブラッシュアップに取り組んでいきたいところです。
また現在は、“データを可能なものから収集して分析した” という段階です。せっかくこのような機会をいただいているからには、今後さらに多くのデータを集めて「キャリアオーナーシップ」のよさをより明確に示すとともに、techtektのような媒体を通じてそのよさを広めていくことにもチャレンジしていきたいと思います。
中里:大きな時代の変容を背景に、個人も企業も “はたらく指針” を持ちづらい状況になってきている中で、「キャリアオーナーシップ」はそこに何かしらの指針を示せるものなのではないかと思っています。
まずはパーソルキャリアがキャリアオーナーシップ推進において「とても魅力的なので真似したい」と思われるようなロールモデルになり、さらに将来的にはその知見を社会にも提供していければ嬉しいなと思います。
斉藤:このような取り組みを進めることの意義と、HR領域から世の中へと「キャリアオーナーシップ」の考え方を広めていける可能性を感じています。
今後はパーソルキャリアとして世の中に向けた発信を行っていくのはもちろん、私自身も改めて “多様性” をふまえてその定義を考え直し、発信していきたいですね。さらにデジタルテクノロジー統括部のメンバーたちがデータ・テクノロジーの各面からこのテーマに取り組み力を発揮できるよう、環境・仕組みづくりにも挑戦していければと思います。
――ありがとうございます。それでは最後は瀬野尾さんに締めていただければと思います。
瀬野尾:「キャリアオーナーシップ」は私たちのミッションそのものであり、それ自体が他社との差別化につながる私たちならではの強みになり得ます。
極めて抽象度の高いキーワードではありますが、これを額縁に飾って終わることのないように行動していくことが重要です。私たちは今まさに、この「キャリアオーナーシップ」が持つメッセージや世界観をプロダクト・サービスにつなげて社外に発信し、社員の行動や顧客体験、さらには社会を変えていくことに挑戦しようとしています。
これに向けて皆さんと一丸となって取り組んでいけるよう、私自身このキーワードに徹底的にこだわり、より解像度を高めたイメージを共有するべく言葉を尽くしていければと思います。
――本日はありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)
瀬野尾 裕 Yu Senoo
パーソルキャリア株式会社 代表取締役社長
1973年生まれ。法政大学を卒業し、人材サービス企業を経て2000年にインテリジェンスに入社。 2005年より株式会社インテリジェンスITソリューションズ(現 パーソルプロセス&テクノロジー株式会社)の取締役をはじめ、IT/テクノロジー領域におけるコンサルティング事業や技術派遣事業での役員などを経て、2017年には現パーソルテクノロジースタッフ株式会社の代表取締役に着任。2018年からパーソルキャリア取締役執行役員を担い、22年から現職。
斉藤 孝章 Takaaki Saito
デジタルテクノロジー統括部 ゼネラルマネジャー
大学卒業後、自動車業界を経て、コンサルティング業界、EC業界、人材業界などのITガバナンス及びIT戦略・設計に従事する傍ら、管理職として組織構築に貢献。2016年にパーソルキャリア(旧インテリジェンス)に入社。同社のミッションである「人々に“はたらく”を自分のものにする力を」の実現をテクノロジードリブンでリードする。
中里 しのぶ Shinobu Nakazato
人事本部 人事IT推進部 HRDXグループ リードデータアナリスト
卒業後、シンクタンクやマーケティングリサーチ業界などで顧客向けに、コーチング企業で自社向けに、データアナリティクス領域の仕事に多岐に携わる。前職のSIerではクライアント企業の業績可視化などに関わるとともに、管理職として自社の成長に貢献。2019年にパーソルキャリアに入社。現在はHRのDX領域を兼務するデータアナリストとしてその役割を担う。
倉持 裕太 Yuta Kuramochi
人事本部 人事IT推進部 HRDXグループ データアナリスト
2022年に データサイエンティスト職として新卒入社。修士研究で若手人材の職場学習に関する研究に取り組んで以降、心理統計学に没頭。パーソルキャリアに入社後は「エビデンス・ベースド・マネジメント」の実践を目標に、人事を兼務するデータアナリストとしてデータ活用、学術的知見の活用に挑戦中。好きな分析手法はSEM。
※2023年6月現在の情報です。