栃木県茂木町(もてぎまち)が県立茂木高校に開校した、無料の公営塾「ゆずも塾~VIVAもてぎ~」。
生徒の自習場所の提供をしながら、進路を考えるきっかけづくりを目的とした探究学習も今年度からスタートしました。探究ゼミ「POPRO」は<道の駅もてぎ>の売り上げ増加を目指して、ポップ広告を作成する取り組みを行っており、生徒7人が参加しています。取り組みの一環として道の駅もてぎの商品「ゆずドレッシング」などの商品に高校生がPOPを作成しましたが、POPによって、売上が増えたのか?この疑問が高校生たちの間で解くべき課題となりました。
現代社会ではこういった広告の効果検証は“データサイエンティスト”の活躍により分析・改善活用へ結びついています。本セミナーでは高校生の皆さんにデータサイエンティストについて知り、自分たちの身近でデータが活用されていることを認識して、興味を持ってもらうためのオンライン講義を開催しました。
登壇者はこちらの方々
長谷川 智彦/パーソルキャリア株式会社
太野 英恵 /パーソルキャリア株式会社
前半は長谷川より、データサイエンティストの仕事について説明いただき、後半は太野より、データ分析の簡単なメソッドを「ゆずドレッシング」の実績データを用いながらご説明いただきました。
◆データサイエンティストについて
長谷川:“データサイエンティスト”…と聞いてもあまり耳なじみがないと思いますので、まずは身近なデータ活用例からみてみましょう。
皆さんもよく使うであろうSNSやアプリの裏側で、その人が見た動画などのデータが企業に届いており、おすすめ機能にはそのデータが使われています。宣伝・販売活動でも、例えばコンビニのおでんが売れる時期などのデータを分析し、そのデータをもとに販売を開始しています。
またアプリなどで買い物をすると、そのデータが会社にたまります。
データサイエンティストやマーケターと呼ばれる方々はそのデータを分析してビジネスに応用していきます。
ケーススタディを元にデータサイエンティストの仕事の一例を見ていきましょう
データ分析が行える環境ができるまでは、主に勘や経験をもとに宣伝していました。
しかし、だんだんとデータが集まるにつれ、宣伝する時間帯などをデータを元に決めるようになってきました。
では、実際にどのようなデータを見るのか?
実際に集約してまとめたデータがこちらです。
これらのデータから
◆男子高生や女子高生が多く購入している
◆SNSの広告は、20時~23時の時間帯によく見られている
などが分かります!
ハッシュタグも分析してみました。この分析ではタグでの発生数が多いものほど大きな文字になっています。
最近では、このようにデータと照らし合わせながら販売活動が行われています。
改めてデータサイエンティストとは、企業に集まったデータを分析して、使えるようにする技術者です。
統計学、情報工学、アルゴリズムなど様々な領域の手法を用いて、データから有益な知見や洞察を引き出すことから専門分野の知識が必要とされています。ビジネス・アナリティクス・エンジニアリングでそれぞれの分析技術が必要になってきます。ただし、3つすべてが完璧に出来るスーパーマンはほとんどいないので、実際はそれぞれの専門家が集まって動いていたりします。
ではどのようにすればデータサイエンティストになれるかというと、なりやすさの違いはありますが、いろいろな道からデータサイエンティストになれます。
私の場合は高校時代にバイオの世界を学びたいと思い、農学部に進学しましたが、遺伝子組み換えの実験がきっかけで「データを分析すれば色々なことがわかる」ということに気づきました。データを分析しながら社会に役立つ価値を提供したいと思い、パーソルキャリアでデータサイエンティストをスタートしました。
◆実際にデータをさわってみよう
太野:まず、みなさんがなぜPOPを作ったのかを思い出してみてください。
POPは一般的に「販売促進」の1つに数えられますが、「販売促進」とは
・何らかの商品を商品自体の改良は行わずに今より多く売れるように購買者に向けて働きかける行為全般のこと
であり
・施策終了後、その働きかけが成功したか
ということがとても重要になっていきます。
販売促進(販促施策)の効果の捉え方を表すグラフがこちらです。
販促施策がないときは、基本的に売り上げも変わらないものとして扱います。
それに対し、販促施策を始めると“効果”が出るはずなので、時系列が後ろになるほど売り上げも上がるはずという考えです。
では“効果”とはなにか?
“効果”は必ず定量化しなければなりません。数字となって出てくることで、データアナリスト・データサイエンティストがそれを分析することが可能です。定量化するためには、事前に
・誰に、何を、どう働きかけたらより多く売れるのか
という仮説を立てることが重要です。終了後は仮説を基に効果を検証します。
今回の「ゆずドレッシング」だと、以下のような仮説でしょうか。
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道の駅の商品は商品の名前や、商品自体の品質の高さ、多様な用途が消費者に十分に伝わっていない可能性がある。商品にPOPを付けることで、商品の名前をより際立たせ、品質や用途についてより多くの情報を消費者に伝えることで、購入者が増えるのではないか
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では実際の効果の測定方法を見ていきましょう。
まずは【分析方針の決定】です。
販促の種類がたくさんある場合(例えばPOP)は、できるだけ1種類ずつ絞って分析してください。
その次は【データの入手】です。
計算できるようにデータを整えるのが大変なので、自動でデータが出てくるものがオススメです。
次に【分析用データセットの作成】です
今回だと、不要なデータを削除するためにフィルターをかけて、必要な「ゆずドレッシング」だけにデータを絞ります。
そして【集計】により効果を示す「差分」を計算してください。
数字で見ると何となく効果があることがわかりましたね。
効果が分かったら【効果測定の報告】。誰でも一目でわかるように「差分」をわかりやすく表示するようにしてください。これを【可視化】といいます。
一旦このように表であらわしてみました。ただ数字だとひと目でわかるのですが、直感的には響かない人もいるかもしれません。そこで…
グラフとテキストで直感的にわかるようになりましたね。
【効果測定の報告】というのは、ここまでやってひとまとめです。
ただ報告を可視化するだけで終ってしまってはいけません。
「POPをつけることで、どうして販売数が増加したのか」
仮説を基に効果の理由を考え、効果を継続させるためにどうすればよいかを考え、新たな仮説を立てて、更なる施策を立案していくことが重要です。
このようにモノを長く、できるだけたくさん売り続けるにはPDCAを意識する必要があります。
この意識はデータを扱う仕事だと特に重要だと思ってください。
今回はデータがたくさんあるので、分析のバリエーションを考えるのもオススメです。
POPの効果が一番出た商品や、場所などを分析して比較するのもいいかもしれません。
一般に効果が判明したら報告書を書きます。販促施策には「予算(お金)」がかかります。「予算」に対して
どのくらい「効果が得られたか」を把握する必要があるためです。
「効果」は売上を高める「貢献」となりますので、ぜひ道の駅の方々に「効果」を報告してみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。高校生向けのセミナーでしたが、皆さんが普段何気なく認識している「データ分析」の基礎を振り返るいい内容だったかもしれません。効果検証は明日からでも実践できる内容も多かったかと思います。少しでも皆様のお役にたてればうれしいです。
太野 英恵 Hanae Futono
デジタルテクノロジー統括部 事業開発部 HR-technologyグループ リードデータアナリスト
大学卒業後、メーカーやWebサイト運営会社等数社にてマーケティング及びデータ分析、新規事業企画等を担当。出産後多くの方の支えでワーキングマザーとして勤務する中、教育とキャリア領域への関心を強め、前職では教育産業にて高校生向けデジタルツールの実証研究などに携わる。現在パーソルキャリアにて、テクノロジーを活用した新規事業開発部門にて企画及び調査を担当。 日本マーケティング学会会員、教育テスト研究センター(CRET)連携研究員にも名を連ねる。
長谷川 智彦 Tomohiko Hasegawa
デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 ビジネスグループ
大学時代の専攻は植物学・分子生物学。最近趣味でデザインをかじり出した社会人2年目。植物の実験データを正しく解釈するために統計を勉強し始め、データ分析に興味をもつ。データサイエンスはただいま必死に勉強中。
※2022年12月現在の情報です。