適切なIT投資と予算管理を――IT予算の考え方について訊いてみた

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事業のデジタル化やIT化を促進していく中で、重要になるのが“ヒト”と“お金”。特に、直接的に利益を生み出す事業に紐づかない予算の管理は、当然のことながらシビアになりますが、逆にいえば関係者のあらゆる思いが詰まったお金をうまく生かすことで、新しい価値や組織文化を醸成することも可能です。今回は、既存サービスのIT戦略や開発を担うBITA統括部やインフラ基盤統括部のIT予算の家計簿を一手に引き受けている高木史をクローズアップ。パーソルキャリアのIT予算の仕組みや変化、業務の醍醐味や苦労話など、余すことなくお聞きしました。 

※2020年11月に取材を行い、撮影時のみマスクを外しています。

確保から管理まで、パーソルキャリアのIT予算の考え方

――まずは史さんの現在の役割から教えてください。

 高木:主にBITA統括部とインフラ基盤統括部のIT予算を管理しています。予算と一言で言っても、営業部門のように売上はありませんから、私たちが見ているのは“使うお金”です。予算枠がある中で、いくら使うのか、使う見込みなのかを集計して報告するというものです。

IT予算は大きく2種に分類できます。ひとつは「年間通していくら使うかがわかっている費用」既存システムの維持費やライセンス費用などがこれにあたります。そしてもうひとつは、「これから新しい事に使っていく投資予算」です。前者は予算と実績であまり変動はありませんが、後者は状況によって変動していくものになります。

年度の初めに使いたい予算枠を申告しますが、日々と状況は変わります。時期がずれたり、優先順位が変わることもあります。なので予算枠の中でこまめに入れ替えて、全体として予算を越えないか、この月は越えてしまうけれど他の月で寄せていくといった分解や調整を行っています。

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IT予算として扱うシステム費は、内容によって経理的な処理が変わってきます。

例えば、先ほど説明したライセンスや維持にかかる補修費はシステム使用料、経費と呼びます。使った月に実績を計上するお金になります。

一方、システム開発は、システムを構築して、元々あるシステムに機能を追加するので、経費ではなく会社の資産として計上する必要があります。要するに、住宅や車と同じ固定資産として扱います。開発にかかった費用は資産として計上し、「減価償却」という計上処理をします。実際には意味合いは異なるのですが、簡単にイメージするなら社内で5年ローンを組んで、5年間に分割して費用を返済するというイメージで、月々に計上する額は小さいので、中で多少入れ替わりがあっても表面上あまり変動がないように見えたりします。なので、柔軟に予算の調整ができます。

 

――固定的な運用保守費はある程度、先読みできますが、新しいサービスや緊急な開発案件が発生したりすると、予算配分がどんどん変わっていきますよね。

高木:そうなんです、変わりますね。でも、事業戦略にシステム開発は紐付いているので、システム投資も、ある程度見えている部分はあります。いつぐらいに、こういうシステムを作っていきたいというロードマップがある中で、予算を配分していきます。ただ、金額も含めて、期初の時点では、ざっくりしているので予算執行が確定した案件から適切に配分しながらやりくりしているという感じです。

 

――それを史さんがお一人でやられているのですか。

高木:一応、BITA統括部・インフラ基盤統括部の予算のとりまとめを私がしていますが、事業体ごとに事業企画がいたり、会社全体の予算を管理する経営企画の方がいるので、最終的にはその方たちと連携して、我々はシステム費の部分の情報を出すみたいな連携をとっています。

 

――事業年度を通じて、史さんがどういう動きをしているか、流れに沿って教えていただけますか。

高木:年度の予算策定は、例年、前年度の12月頃から計画が始まり、3月くらいには最終的に締まって、4月がスタートします。大きく上期・下期の単位で予算を見ていますが、毎月月初に予算の状況に合わせて、最新の予測(フォーキャスト)を経営企画に提出していますね。

特に管掌しているBITA統括部やインフラ基盤統括部は、さまざまな事業を横断したシステムを見ているため、各事業に対しての説明責任があります。IT予算と大きくまとめて言っていますが、事業部ごとに予算の箱があって、それが今10種類以上あります。基本的には、それぞれの箱の最新の情報を各組織のマネジメント層に毎月確認をするということを行っています。

 

――毎月確認するというのは、次に使いたいお金を意味しますか?

高木:そうですね。当月以降、期末までのものを確認するというイメージですね。前月で未確定だったものが確定したら確定情報として予算を更新し、引き続き未確定のものは時期をずらして報告するということを行っています。

また、前月に報告した予測に対して実績が出てくるので、そこに差があれば、それについて、なぜ差が出たのか報告する、それを毎月のプロセスでやっております。

 

――予算を管理する前に、そもそも各組織からの情報収集が必要になりますね。

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高木:はい。予算の計画数字を作るのは、各組織のマネジメント層がそれぞれの事業の企画部門などカウンターパートの人たちと目線をあわせながら、「大体これくらい使いたいです」というのをとりまとめてきます。

各組織から上がってきたものをとりまとめながら、最終的には統括部のエグゼクティブマネジャーが横断的・戦略的に見た上でも摺合せをして、最終的に経営企画に提出します。

あとは、事業部の中で“お財布事情”を見て、利益を残さないといけないから、それに対してコストが多いとなれば、もう少し精査しますね。優先度を見極めて減価償却の開始時期をずらすなどの調整を、事業企画と私、各組織のマネジメント間で行っています。

 

――皆さんがやりたいという事は受け止めて、適切に経営に打診しているんですね。経営企画側に打診をする前に気をつけているポイントはありますか?

高木:経営企画にあげる前に各事業とも握り、“システムにお金を使い過ぎだ”って話にならないよう事前のコミュニケーションを取っています。そこは私がというよりは、各組織が行っているので、私の役割はそれほどありません。事業企画から「こういうことを計画しているけれども、ちゃんと予算に盛りこまれていますか?」という質問や問い合わせを受けることがあり、減価償却は少し特殊でどこに予算が入っているのかわかりにくいので、それをわかりやすくひもときながら予算の内訳に入っていることをお伝えします。あとは時期の認識がずれていないかをすり合わせたりもします。まあ、いわば調整役ですね。

最終的に意志をもって実行するのは事業なので、管理している予算を正しく捉え、経費か投資かといった科目情報などを正しく伝えるということです。システム費ならではの知見を踏まえ事業担当者に伝えるという役割ですね。会社のルールに乗っ取って、「これは投資にできないので、経費にしてください」というチェックと伝達をしていという感じです。要するに、ハブ的な仕事です。

 

――史さんはGIT(パーソルホールディングス内のグループIT部)ともやりとりをされていると伺ったのですが、どんなシーンでやりとりされているんですか?

高木:GITには、わかりやすくいうと税金みたいなものを納めています。例えばパーソルグループが共通で使っているネットワークやデータセンターにかかる費用はグループITの共通費として支払われています。もう少しわかりやすく言うと、我々が使っている会計システムや、Outlookなどグループで決められたツールは、グループ全体で契約しています。実際に使っているのは各個社なので、使った分はきちんと支払ってくださいと費用が振り分けられます。

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 グループの中でも社員数の多い中核会社は、人数に応じて費用負担がかかるものもあれば、データの容量によって割り振られるものもあります。色々なカテゴリー毎に費用負担率が変わりますが、人数によって振られるものは良いのですが、利用量で割るものとかは注意が必要ですね。

年度の初めにこの比率で、と決められるカテゴリーもありますが途中で利用割合が変わるものについては、しっかりと主張しますね。私の思いとしては、年間で何十億もかかるものなので、どういうお金がかかっているか、我々が納得する比率でなければ、パーソルキャリアの経営陣に説明できないし、払ってくださいとは言えないですよね。

ITの共通費の他にもグループ横断で振り分けられるコストはありますが、そういったコストは勝手に振られるという感覚もあり、表面的には見えにくいのです。ですので、誰かが何も言わないといけない。きちんと中身を把握して、有効な使われ方をしていないのであれば、変なお金を払い続けるという事になり、それは嫌ですよね。そこはしっかり把握することを心掛けています。

 

――そこまでやるのは、高木さんの性格というか…使命感のようなものがあるのでしょうか。

高木:自分がGITに対峙する温度感は少し高いかもしれないですね。やはり事業会社なので、コストに対してシビアです。各社さまざまな考え方はあると思いますが、同じ目線であるべきだと考えます。

私たちが一番、アカウンタビリティを発揮しないといけないポイントは、コストとの兼ね合いです。もちろん必要なお金は使うべきだし、せっかく使うのであれば、しっかり管理して、何が無駄で何が有効か把握するべきですし、それがグループ全体の利益になるのは間違いありません。

私が入社した当時のグループITも、今のグループITの組織の状態も理解しているということもありますし、グループとしても拡大していく中でまだ仕組みがあまり整っていない部分もあり、過去を知る立場としても積極的に要望出しをしています。

 

予算調整や会計処理という部分で事業を支えている自覚と責任

――話をお聞きしている限りでは、調整ゴトや細かなルールが多く、大変なことも多い印象ですが。。。

高木:そうなんですかね…?自分では、あまり苦労していると思っていないんですよね(笑)。ただ、入社当初はITに対する自身の理解不足により、費用科目の処理について適切に判断をできない部分がありました。中身を担当者に教えてもらいながら、“こういう場合どういう風にしたら良いのか”と、一つひとつ経理に確認しながら習得していきました。

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日々状況が変化していくことに対して、正しい費用の処理を行うことは、大変といえば大変です。ほぼそういったケースはないですが、何らかの事情によって開発を中止するときには、減価償却想定で処理していた費用を、仕損じ処理として経費の科目に振り替える処理をしなければなりません。また、過去に資産として登録したけれども、償却期間である5年を待たず使わなくなり、廃棄するときは一気に残金をコストにすることもあります。そういうものは、元々、予算として予測しにくいので、都度、調整していく必要があります。それは、やはり日々、全体の予算を把握していないと対応できません。

 

――聞いているだけで、頭がこんがらがってきそうです(笑)。変動はたくさんあります、予定通り行きません、期間が延びることもあります。でもなるべく早く処理をしないといけないってことですよね。

高木:そうですね。正しいタイミングで、本当に使わないと分かったタイミングで、すばやく処理をします。会計おいて絶対に不審な点はあってはならないので、情報をキャッチした時点で、いつ何を処理しないといけないかを想定しながら動いたりしていますね。

 

――一人で担当してするのはすごく大変そうなのに、史さんの口ぶりではそんな風に聞こえないのが不思議です(笑)。各グループがそれぞれ実現したいことに向けて、コストも必要になると思うのですがその情報はどんなふうにキャッチしながら、どのように調整をしているんですか?

高木:各組織のマネジメント層が予算を作り、それぞれに枠を持ってているので、奪い合いみたいなことはないです(笑)。グループよりも1つ上の階層である部ごとに予算を作っていて、その中から各グループに必要な予算が割り当てられています。

情報を毎月吸い上げるという観点では、ゼネラルマネジャーやマネジャーと予算確認のミーティングを実施しています。とはいえ、マネジメントが細かい案件まで追いきれないので、その時はそれぞれのプロジェクト担当者に直接聞きに行きます。

BITA統括部やインフラ基盤統括部では、年度で予算を確保し月次の確認を行っていますが、それに加え、プロジェクトごとに“IT審議”と呼ばれる審議会があります。要するに、本当にIT予算を執行するにあたってのもう一段階先のフローですね。その審議会にも出席して議事録を取っています。そこで権限のある方々が、「この投資はOKですよ」と承認した情報が入ってきますので、それを元に予算を割り当てて確保しておこうという感じですね。

資料には、どこの予算を使うか、科目を書く欄があります。審議の場でもそれをあまり細かく見られないので、その情報を正しく修正しましたという事は各担当者にお伝えするなど、私のほうで細々した調整をします。プロジェクト担当者は、お金の処理の知識であったり、予算の仕組みをある程度理解していただきたいですが、そのあたりをこちらがしっかりフォローすることで、本来の業務に時間を割いてほしいという気持ちがありますね。

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大枠でいくらというところは認識していただいて、細かい科目や請求書のところはこちらが巻き取りますよというスタンスでやっています。そういう立場として価値を発揮できたらいいなと思いもあります。面倒なところがあったら、とりあえず投げてもらっていいですよ、という感じですね。それらの仕事を通じて、間接的に事業を支えているという自覚や責任を感じています。

 

お金を使うのって、決してネガティブなことではない

――特にBITAやインフラ基盤統括の基本的な予算の考え方や仕組みがわかってきました。そのうえで予算管理や調整を長く携わっている史さんから見たときに、ここ最近の変化を教えてください。

高木:そうですね。組織の規模は私の入社当時から比べると倍以上に変化しています。組織が大きくなる中で、プロジェクトの投資額は、当然、右肩上がりになっています。それに伴い、今では、予算化される仕組みが整ってきて、横断的にもっとよくするためにという組織もあります。

一方、新規サービス開発やテクノロジーに関わる領域では、事業予算とは別に研究開発という枠が一昨年くらいにできました。他の企業でもあると思いますが、業績に左右されずにきちんと将来に向けて使える枠ができているので、それぞれの立場でやりたいことがお金の面でも実現できる仕組みは整ってきているように感じています。

特にBITA統括では使ったお金に対して、効果が出ているかどうかを振り返る仕組みも設けていますので、そういった繰り返しの中で、失敗があったら、よりよくしていくためにどうするのか、お金の面でも検討するサイクルもできています。PMだったらプロジェクト単体だけで見ればよいですが、我々のような組織は、組織全体でうまく成功率や事業への貢献度をモニタリングして、組織として価値発揮できるよう考えています。

 

――メンバーがチャレンジしやすいように仕組みを整え、またメンバー自身もコスト対効果を説明できるようになってきているのですね。組織が大きくなっていく中で、適切な予算使途を“見立てる力”はどんな風に養われているのでしょうか。

高木:この大根、高い!みたいな感覚で、システム投資を見立てることはできません(笑)。ただ一つ言えることは、予期せぬことが起こった時のために、今見えている見積りプラス何割か予備費を確保します。その予備費はリリースがいつと見えた段階で、“残っている予備費は使わないですよね”という問いかけや調整はよくやっています。

また、経費と投資で少し違います。投資は減価償却で変動幅も少なく調整できますが、経費は急にガクっと下がるのであれば、予算の時期にもう少し早くそれを言ってほしかった、ってなりますよね。どのタイミングで情報をキャッチするかは一概に言えないですが、期初に予算を立てたものは下期に見直しが入ります。上期の状況を見て下期に使いきれないとなれば削っていき、より予算と実績を近づけるという行動をしながら調整をしていきますね。この見立ては…これまでの経験によるものもあるかもしれません。

 

――これまでの話を聞いていると、史さんは経営企画や事業企画の顔と、BITAが事業に対してやりたいことを実現してもらうために最大限力を尽くしてあげたいというBITAの顔、その両方を持っていますね。

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高木:関係各所と調整するにあたり、できるだけ、それぞれの立場に歩みよって理解しようと思いますが、それぞれの立場が分かるので、お互い、仮にうまくいかない時は、お互いが理解できる最終着地点に持っていくために、自分なりに別の知見のある方に聞いたり、経理の方に聞いたり、自分が間に入り最終的に納得してくれたらと思います。それは自分のモチベーションにもなります。

自分がそういう立場でいられる事がやりがいだと思います。どちらにもいい顔をするわけではないですが、それぞれが手を取り合えるような仲介人みたいな感じです。尽くすのが好きなので、あれこれしてしまうのだと思います。

 

――仕事のモチベーションとして、誰かの役に立ちたいと思うことがあると思いますが、それだけではないと感じます。史さんが、この仕事醍醐味に感じる瞬間はどこにあるのでしょう。

高木:自分が表舞台に立つことはあまり好きではないので、今日のインタビューも正直苦手だったのですが(笑)、自分が後ろで支える事でプロジェクトがうまくいき、アワードで表彰されたりすると、自分は何もしてないけれど、とても嬉しいですね。みんなが仕事を楽しめる後押しができることが醍醐味ですね。

 

――史さんが、この先チャレンジしたいことがあったら教えてください。

高木:先ほど少し触れましたが、お金を使ったことに対してこういう効果があったという事を振り返り、評価できる仕組みはできあがっています。しかし、新しいチャレンジや新しいテクノロジーにはリターンが見えにくいところがあるので、経営に対して、こういう価値を生み出せているということを継続的に伝えていけば、また枠がもらえると思います。そういう仕組みはまだまだできていませんよね。だから、そういったテクノロジーに関わる人たちが最大限に価値を発揮できるような仕組みや評価軸を整えていけたら良いかなと思います。

 

――かっこいいですね!特に研究開発は今までやってこなかった領域なので、何をもってこのコストを良しとするのか、の基準を作るということですね。

高木:お金を使うのって、決してネガティブなことではないので、胸を張って使ったよと言えるような仕組みがあれば、躊躇なくチャレンジできますよね。失敗しても正しい処理と、振り返りをしっかり行って次につなげていければよいのです。

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――チャレンジする風土だけではなくて、その風土を支えるベースとして予算を適切に管理することの大切さを改めて理解しました。史さん、ありがとうございました!

 

(取材・文=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/撮影=古宮こうき)

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高木 史 Fumi Takagi

テクノロジー本部 BITA統括部 テクノロジー企画部 テクノロジー企画グループ

2013年11月パーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に中途入社。

※2021年1月現在の情報です。