カオスを楽しみ、挑む組織に――dodaを支えるプロダクト開発統括部の変革

上妻裕史

転職サービス「doda」やハイクラス人材の転職サービス「ix転職」をはじめとしたパーソルキャリアのサービス開発を担うプロダクト開発統括部。開発を外部へ委託していた時代の学びや市場の変化を受け、「開発部門としてのあるべき体制」を目指して立ち上げられました。

現状は「2、3年後もわからないほどのカオス」と語るのは、プロダクト開発統括部エグゼクティブマネジャーの上妻裕史。大きな変革期を迎える中で、エンジニアに求められているスキル、そしてマインドとは何なのか――熱く語ってもらいました。

dodaの開発スピードが事業の成長を左右する

——プロダクト開発統括部がつくられた背景について教えて下さい。

パーソルキャリアでは、2019年までプロダクト組織とマーケティング組織が分かれていたんですが、連携を強化するために、この2020年度からはP&M(プロダクト&マーケティング)本部に統合したんです。そのなかで、dodaをはじめとしたプロダクトの開発に、より特化した組織をつくろうということで、立ち上げられたのがプロダクト開発統括部です。dodaやiXなどのWebプロダクトはパーソルキャリアのメイン事業であり、その開発スピードは、会社全体の成長も左右します。プロダクトの開発速度をいかに上げるかが、私たちプロダクト開発統括部にとって重要になります。

上妻裕史

メンバーは、常駐社員を含めて85名ほど。プロダクト開発統括部は、「プロダクト開発部」と「エンジニアリング部」に分かれていて、それぞれにグループがあり、さらにその中で複数のユニットを組みながら開発を進めています。

プロダクト開発統括部 組織図

▲プロダクト開発統括部 組織図

——プロダクト開発統括部は、dodaのどういった部分の開発に関わっているのですか?

新しいところだとdodaのアプリ開発ですね。2019年5月にリリースして以降、継続的に開発を行っています。Webサイトでいうと、最近はCtoCサービスの開発を進めています。例えば、登録した個人のお客様が、ある企業についての口コミ情報を投稿すると、そこに別の個人がリアクションできるような相互のやりとりを可能にするものを担当しています。

他には、dodaに会員登録する際の情報入力を、ステップフォーム化しました。ページ上にすべての入力項目を設けるよりも、一つの項目を入力したらページが変わって次の項目に移行する形式に変更して、一般的なサービスと同じ水準で使いやすくしました。

——ユーザーにとってより使いやすいサービスとなるよう継続的に開発をすすめているのですね。toBにおいてはどうなんでしょうか?

企業様向けには、レコメンドやタレントソーシングといった部分の開発を行っていますね。法人の企業様が、求職者のデータベースを閲覧してアプローチできる「doda Recruiters」のサービスにおいて、ワンクリック配信の機能を手がけました。求人広告をつくり、ターゲットとなる求職者を検索し、文面を送信……といった煩雑な作業をできる限り簡略化して、ワンクリックで行えるよう、機能改善を行っています。

アジャイル型への変革で、スピーディーかつ柔軟な開発を

——さまざまな角度のサービス開発を行っているんですね。どのような開発スタイルで開発を進めているのでしょうか?

今は、開発のスピードを上げるために、スクラムマスターを据えたスクラム開発(アジャイル型の一つ)への移行を推進していくつもりです。

dodaは2007年にサービスをリリースして以来、継ぎ足し継ぎ足し開発を行ってきた状況で、サービス設計やフレームワークなどの点において、「現代的な開発環境」になっていませんでした。また、かつては外部ベンダーへ案件を委託するケースが多かったため、必然的にウォーターフォール型を取っていました。しかし、パーソルキャリアも内製化をすすめていくにあたって、この従来の開発スタイルが必ずしも効率的ではなくなってきて。

Webプロダクトの場合、外部ベンダーに発注してから納品されるまでに、案件規模が大きいと半年から1年くらいかかることもある。そうすると、納品される頃には、世の中のニーズが変化してしまっているんですよ。柔軟性が求められるWebプロダクトの開発においては、外部委託はあまり向いていないんです。

上妻裕史

——スピーディーな開発が求められるにあたって、そのスタイルを変える必要があった、と。

そうです。ウォーターフォール型におけるプロジェクトマネジャーの役割は、システムの要件定義をしたら、設計以降は外部ベンダーに依頼し、進捗管理やクオリティーコントロールを行っていく、というものです。内製化し、スピーディーな開発環境に移行するにあたっては、こうしたプロジェクトマネジャーの役割よりも、「内製エンジニア」や、エンジニアと同じ目線に立って開発の最大化を目指す「スクラムマスター」の役割が必要なんです。

逆に、社内システムの開発では、柔軟性よりもむしろ、しっかりと要件を定義して、QCD(クオリティ・コスト・デリバリー)を担保することが求められます。とはいえ、今後、より効率的に開発を行っていくためには、組織全体としても、徐々にアジャイル型への移行が必要になるだろうと考えています。

WhyやWhatを考えられるエンジニアが、dodaを変える

——組織として大きな開発スタイルの変革を実行されていますが、上妻さんご自身が、「開発スタイルを変えなくては」と実感したきっかけがあったのでしょうか?

そうですね。最初に危機感を覚えたのは、外部のアセスメントサービスを受けた際に「dodaの開発環境は業界と比較してもだいぶ遅れている」という結果を突きつけられた時ですね。パーソルキャリアの基幹事業の一つであるdodaが最適な形になっていないことは、会社として大きな弱点であり、リスクになります。できるだけ早く、組織ごと変えなければと思ったんです。

——それは、かなり大きな決断ですね。

僕も元々は「会社として、守るべきところは守りつつ、進めるべきところを進める」と考えていたんです。だけど、課題を一つひとつ潰していくだけでは大きな変化にならないと思い始めて。そして、最終的に到達すべき、組織としての理想形を考えたんです。「スーパーイケてる開発組織」を目指そう、と。そのためには、目の前の一つひとつの課題に対処しながら進んでいくよりも、まず、ベストな体制を構想したうえで、そこにたどり着くまでの方法を考えたほうがいいと思ったんです。

——たしかに抜本的な改革が必要だったかとは思いますが、捉え方によっては半ば強引に感じられるような気もします。

僕は、これもひとつの計画性であり、バックキャスト的思考だと思うんです。これまで「目に見えている課題をどうクリアするか」といった“How”の部分を中心に動いていたところから、まず“What”や“Why”に目を向けて行動するようにスイッチングしたということです。

上妻裕史

そして、もちろん、僕の独断で行ったわけではありません。市場のニーズの変化に応じて、経営からもオーダーが増えたことも、変革しようと思うきっかけの一つになりました。誰もがdodaの開発スピードにおけるボトルネックを認識している中で、この課題を解決できれば、大きなインパクトを与えながら事業に貢献することができるはずだと確信しました。会社の課題に対して、自分の役割としてできることを最大限に生かして行動したということです。

——なるほど。今後、アジャイル型の開発をより推進していくにあたり、どんな課題が出てきそうですか?

まずは、内製エンジニアの体制を拡大することが重要です。サービスごとに開発体制を構築するためには、現状の15名程度から倍増する必要があると考えています。

また、開発マネジメントの観点では、これまで外部ベンダーに委託してきた部分を自分たちでコントロールする必要が出てきます。その中でも、スクラムマスターの役割が重要となります。

スクラムマスターの役割は、開発チームの価値を最大化することですから、自分なりの目のつけどころや発想をいかに周囲に浸透させられるかというスキルが求められます。やはり意識から変えていかなくてはならないですよね。ウォーターフォール型でいう「PMBOK」のような共通の教科書に依存しない分、より個人のスキルに拠るところが大きくなるはずです。

——メンバー一人ひとりの意識づけから変えていく必要があるんですね。

そうなりますね。世の中のニーズや変化をしっかり感じ取って、その上で必要な課題設定をするというサイクルを回していけること。そしてやはり、これまでの“How”起点の思考から、開発のすすめ方、プロセス、体制やアーキテクチャなどを包括したプロダクトの全体像に対する“Why”や“What”の思考を持てるようにスライドしていくことが大切です。

どんな案件が来ても最短で進められるような高いスキルを持つスペシャリストを増やして、最終的には業界最高水準のエンジニア組織を目指したいと考えています。

——では、最後に業界最高水準を目指すプロダクト開発統括部で、ともに仕事をしたいと思う人材像をお聞かせ下さい。

プロダクト開発統括部に限らずどこの部門でも求められることだと思いますが――「キャリアの偶発性を面白がれる人」ではないでしょうか。現在、プロダクト開発統括部をはじめとして、パーソルキャリアは大きな変革のフェーズにあります。会社全体を見渡しても、とても流動性のある組織なので、時には大きな変化を求められることも出てくるでしょう。そんなカオスの中でも自分の軸をぶれさせることなく、抵抗なく変化を楽しめる。このマインドがあれば、きっとこの仕事で成果をあげてくれるだろうと思います。

(文=波多野友子/編集=ノオト/写真=品田裕美)

上妻裕史

上妻裕史

上妻 裕史 Hirofumi Kouzuma

P&M本部 プロダクト開発統括部 エグゼクティブマネジャー

2005年、インテリジェンスITソリューションズ(現パーソルキャリア、以下旧インテリジェンス)に中途入社。ヘルプデスクを皮切りにネットワークエンジニア、Webサービスエンジニアを経験。2012年に旧インテリジェンスにて「IT知識と事業理解を持ち、IT施策を推進する」新設部門「BITA(ビータ)」のマネジャーに就任。その後、ダイレクト・ソーシングサービス「doda Recruiters」のサービス責任者としても活躍するなど、さまざまなシステムやサービスの企画・開発に携わっている。2020年より、プロダクト開発統括部の責任者に着任。

※2020年3月現在の情報です。