三口流「組織の動かし方」とは―――“仕掛け”から始まるサービス開発統括部の新たな挑戦

三口聡之介

サービス開発統括部のエグゼクティブマネジャーを務める三口聡之介は、2018年の入社以来、 社内エンジニアの業務環境整備や新規サービス立ち上げなど、パーソルキャリアの新規事業推進において、大きな役割を果たす人物の1人。

その三口が責任者を務めるサービス開発統括部とは? そもそも、自身のキャリアにおいて、起業を含め数多くのIT関連サービス事業に携わってきた彼は、なぜパーソルキャリアに入社したのでしょうか? 三口に話を聞きました。

※組織名称は2019年11月時点

 

社会を“効率化”する良いサービスとは――パーソルキャリアへ入社した理由

——三口さんは、パーソルキャリアに入社するまで、どのような経歴を積んでこられたのでしょうか?

大学在学中に株式会社ガイアックスを立ち上げたのがキャリアの出発点です。その後、「これからはモバイルが流行るだろう」と考えて、KLab株式会社に転職。携帯アプリの開発をやってました。それから、これまでの自分の経験が生かせると思って、楽天株式会社にプロデューサーとして入りました。

企画を考えるのはもとから好きですし、経営者やエンジニアとしての業務を経験していたので、それぞれの立場にいる人が何を考えているか理解できるのは、自分の強みだと思ったんですよね。そして、パーソルキャリアに入る前は、立ち上げから参加した株式会社百戦錬磨で、旅行分野におけるIT活用に関わっていました。

——様々な業種で働いてきたんですね。その根底には、どのような考えがあるんでしょうか?

僕は、「社会を効率化させるために必要な“良いサービス”とは何か」ということを、ずっと考えてるんですよ。

そもそも「良いサービス」とは、ユーザーの抱える課題を一時的に解決するのではなく、根本から解決するサービスのことなんだと思っていて。例えば、飢餓状態の人に食事を提供するだけだと、空腹は一時的に解決できても、時間が経てばまた同じ状態に戻っちゃいますよね。そうではなくて、「お金を稼げない」「食材が手に入らない」などの状態に陥った根本的な原因を解消することが、本当の「解決」だと僕は思うんです。

三口聡之介

もちろん、「食事をもらって空腹を満たす」のも解決方法の1つではあるので、それを選ぶ人がいてもいいと思います。要するに、1つの解決方法を提示するというよりも、課題に対するアプローチ方法がいくつかある中で、当事者が“自分にとっての最適な方法”を自由に選べる状態が理想なんです。

——そして、その中でも、「効率化」を実現していくサービスを追求されていると?

確かに、「社会の効率化」はテクノロジーを活用する目的の1つです。けれど難しいのが、仕事に限った話だと、短期的な効率化を求めると長期的には生産性が落ちるんです。そこで大切になるのが、使う人に対する「思いやり」だと思っていて。ある本の一節によると、「効率とは、愛である」とされています。サービスを使う人の身になって考えることが、結果として長期的な効率化を生むんです。

今でこそビジネスに関わっていますが、大学生のころは、ボランティアにたくさん参加していた時期もあったんです。だけど、ボランティアって、活動する人同士の「思いの強さ」で繋がることしかできなくて、良い取り組みをしていても、より多くの人に届けていくのが難しいんですよ。素晴らしい活動をしていてもそれが広がらなければ意味がないと思っています。

まずは、利益を出すこと。そして、その利益を使って取り組みをより広げていくことができれば、スピード感を持って世の中を変えていくことができます。そのためにはボランティアとしてではなく、ビジネスとして、取り組みを広げていく方法を考えたいな、と。

——なるほど。そんなさまざまな業種の経験を経て、パーソルキャリアに入社したのはなぜだったのでしょう?

百戦錬磨を退職した後、「これから世の中はどう変わっていくんだろう?」と考えたんです。世の中が変わるきっかけは大きく分けて2つあると僕は考えています。1つはイノベーションが生まれる「技術革新」、もう1つは、法律が改正される「規制緩和」。技術革新を予想するのは難しいですけど、現在の社会課題を考えたとき、「HR業界と金融業界で、これから近いうちに法律の規制緩和があるはずだ」と、なんとなく予想できて。そして、次の新しい仕事も、その両業界のどちらかに絞って探していたんです。

「働くことの概念」が目まぐるしく変わっていくHR業界では、5〜6年以内に新しいHR techの芽が出てきて、20年後にはユーザーがそのサービスを当たり前に使っているはずです。そこに関われたらうれしいと思って、たまたま紹介を受けていたパーソルキャリアに入社することを決めました。

人生を「線」ではなく「面」で支援する新しいサービスの開発

——現在、三口さんが責任者を務めている「サービス開発統括部」について教えてください。

サービス開発統括部は、新サービスの開発が主な役割で、今は24人のメンバーで開発にあたっています。

——新しいサービスとは、どういったものですか?

『人々に「はたらく」を自分のものにする力を』というパーソルキャリアのミッションを、転職サービスに限らない方法で達成するようなサービスですね。転職が人生における「点」のイベントだとすれば、僕たちが目指しているのは長い人生を「線」、さらには「面」で支援すること。働く人のライフイベント、生活に密着したサービスを生み出そうとしています。

——現在、開発しているサービスは、具体的にどのようなものですか?

例えば、本来の社員の力を発揮できるように、スムーズなオンボーディングを支援するサービスや、異業種も含めて自分の可能性を知ることができるサービス、膨大な数の求人票から自分にマッチする求人を効率的に確認できるサービスなどですかね。今年4月に経営層からリクエストがあって、ミッション実現のための新しいサービスを1年間に8つ、並行して開発をすすめることになって。今挙げたのは、そのリクエストに応じて開発をしているサービスなんです。

三口聡之介

——1年間に8つも…!入社して早々、かなり大掛かりなプロジェクトですね。

そうですね。実は今年の4月の時点ではチームメンバーも少なくて、システム開発にかけられるリソースに限りがあったんですよ。その中で複数のサービス開発を行うためには、「少人数」かつ「短期間」で取り組む必要がありました。リリースまで1人が2〜3つのサービスを担当しなければならないうえに、1つのサービスには実質3〜4か月間しか時間をかけられないという中で、サービスの質を上げていく……。

そのために、「Vue.js」や「Firebase」といった開発言語やツール、開発手法として「Design Sprint」を導入するなどして、今はようやく1つずつ形になってきた段階ですね。

——限られたリソースでサービス作りをしてきたんですね。どんな狙いでそれぞれのツールを取り入れたんですか?

学習コストを抑えるために、Vue.jsを採用して、これまで他の言語を使っていたエンジニアでも、開発に取り掛かるのに時間がかからないようにしています。

さらに、サーバの管理や保守といったバックエンドの処理には、Firebaseを導入しました。一般的にインフラエンジニアを雇う必要がある部分ですが、そこをテクノロジーに任せることで、人の手をかけるべき、サービスの機能面やUIといったユーザーのメリットに関わる部分により注力できるようにしました。

ほかにも、サービス開発時にはDesign Sprintの手法も取り入れました。Design Sprintは新しいプロダクトを開発する際に、少人数・短時間でアイデア出しからプロトタイプ作成、その検証までを行うフレームワークです。その一通りの工程に全員が関わることで、サービスの目的をより深く理解できるようになるため、結果としてサービスの質を向上させることに繋がります。

このように、限られたリソースの中でも品質の良いサービスを作れるように、全員で常に最新の技術にアンテナを張り、取り入れられるようにしています。

リーダーが組織に「仕掛け」を設けることで、課題は自ずと解決できる

——三口さんは、サービス開発統括部のメンバーにどういったことを求めているのでしょうか?

スピードを意識しつつも、本当に時間をかけるべき部分には時間をかけて、質の良いサービスを開発することです。検証できるものは早い段階でリリースし、時間をかけるべき別の部分にリソースをかけたいんです。

三口聡之介

ほかには、「スピード」と同時に、常に「チャレンジ」を求めています。8つのサービス開発はリリースにあたって会社が指定した期限があるので、どうしてもスピードを重視して開発を行うことになります。ですので、その状況下では、あえて意識しないと「新しいチャレンジ」をしなくなってしまうんですよ。変わった試みをするよりも、以前と同じプロセスで開発したほうが効率も良いし、安心ですからね。

——たしかに、無意識のうちに手慣れた方法を取ってしまうと思います。それでもサービス開発統括部は「新しいチャレンジ」をする、と?

そうです。そもそも、作るサービスやターゲットユーザーが変わればそれに適した新しい技術が必要になります。なので、新しいプロジェクトに着手するときは、「どこを目指し、どのように新しいチャレンジをするか?」をチームで考え、目標として掲げるようにしています。

たとえば、新しい技術を試してみるとき、「今回はうまくいかなくても、今後開発するサービスで使えるかもしれないから、やってみよう」と考えるんです。そうすれば、1度目のチャレンジで時間がかかっても、それを2度目で回収できるはず。そこで生まれた時間は、また違うチャレンジのために使える――そんなふうに、うまく循環する「仕掛けづくり」を意識しています。

——仕掛けづくり……それが三口さん流の「組織の動かし方」なんですね。

まさに。もともと僕は、仕掛けを用意して、組織をあれこれ動かしていくのが好きなんですよ。僕から皆に直接チャレンジするように働きかけるのではなく、仕組みや制度を設けて、その中でそれぞれが新しいチャレンジをするように促していくんです。

そうして各メンバーが動けば、一人ひとりは自由に行動していても、自ずと全員が同じ方向を向くようになります。例えば、「部にはこういう目標があるけど、それに対してあなたはどう貢献できる?」と投げかけて、その枠の中で個人の目標を決めてもらう……といった感じですね。

他にも、リモートワークを推進するための仕掛けとして、新拠点となる「仙台支社」を設置しました。遠隔の拠点があると、どうしたら東京オフィスと距離を意識することなく連絡・連携を取れるようになるのか、社員が自ら考えるようになりますよね。そうすることで、解決すべき課題が浮き彫りになって、それを解決すれば、社員がリモートで働ける土台ができあがるはず、と考えたんです。

こうした仕組みを僕がつくって、その中で「自分の頭で考えられる人」を増やしていきたいと思ってますね。

空気は読まず、当たり前のことを当たり前にできるように

——組織にたくさんの変化を起こしている三口さんですが、課題などは感じたりしているんですか?

今の課題は、いかにチーム全体で生産性を上げていくか、ですね。良いサービスをつくるには、能力の高い個人の力だけではどうしても限界があるんですよ。

そのため、メンバー同士で日常的に雑談をしたり、お互いのことをよく知るための機会を設けたりするようにしています。「生産性の高い組織は、メンバーの心理的安全性が確保されている」という研究結果があるんですよ。メンバーの一人ひとりが雑談の中で自分に興味を持ってもらえれば、「ありのままの自分を見てもらっている」と感じることができますよね。そうすれば気になることはすぐに他のメンバーと話ができるし、何かあったときはお互いに間違いを指摘しやすくなる状況が生まれます。その結果、組織の改善は、リーダーがいなくともメンバー同士で自然とできるようになるんです。

そもそも、うちの部には「成長していった結果、ふさわしい役割が与えられる」という考えはありません。まず、ポジションや役割が与えられ、それを果たすために能力を獲得していき、その結果として成長していってほしいんです。「まず環境を与えて、それに順応していく」というのは、組織を変化させる仕組みというだけでなく、個々の成長においても同じです。

三口聡之介

——なるほど。では、三口さん自身は、これからどのような役割を求められているとお考えですか?

市場で当たり前とされていることを、パーソルキャリア社内でも適用できるように努める役割でしょうかね。自分は、パーソルキャリアに中途入社した人間なので、その立場を生かして、社内にある無言のルールや当たり前になっている空気感のようなものも、意識的に無視しちゃってもいいのかな、と(笑)。

改善は進めていますが、業務プロセスの中には、まだまだ変えられることは多いです。「これはサービスのためにならない」と思った部分は積極的に変化させるなど、エンジニアやデザイナーがより働きやすい環境づくりにチャレンジしていきたいと思っています。

——たしかに、それをすでに実行されていますよね。最後に、今後三口さんが成し遂げたいことを教えてください。

「doda」と並ぶ、収益の柱となるような社会的意義のあるサービスを立ち上げたいです。

現在の弊社の事業は「doda」が中心ですが、今後は転職サービスのあり方が変わってくるでしょう。何十年後か先を見据えたとき、働き手が少なくなったり、働くことの意味が変わったりするかもしれません。ほとんどの人が、今は考えないような「なぜ働くのか?」「なぜ給料の高い会社を選ぶのか?」などを考えるようになり、働く目的を再定義するようになれば、これまでの転職サービスとはまったく違ったアプローチが必要になるはずです。

そんな時代がやってきたとき、多くの働く人に「このサービスが必要だ」と言ってもらえるような、社会的意義のある新しいサービスを手掛けたいですね。

(文=流石香織/編集=ノオト/撮影=西田優太)

三口聡之介

三口聡之介

三口聡之介 Sonosuke Mikuchi

パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エグゼクティブマネジャー

京都大学在学中に、株式会社ガイアックスの設立に参画。その後、KLab株式会社で携帯アプリケーションの開発に従事したのち、楽天株式会社に入社し、プロデューサーとしてMyRakutenなどを担当した。2013年から株式会社百戦錬磨に参画、取締役に就任。2013年にとまれる株式会社を設立、代表取締役社長に就任した。その後、ベンチャー企業複数社を経て2018年2月からパーソルキャリア株式会社に入社。サービス開発統括部のエグゼクティブマネジャーを務めている。

※2019年11月現在の情報です。