新規サービス開発におけるQA活動の“現在地”――大事なのは「現状や暗黙知を可視化すること」

新規サービス開発におけるQA活動の“現在地”――大事なのは「現状や暗黙知を可視化すること」

キャリアマネジメントツール「PERSOL MIRAIZ」や求人作成支援サービス「HR forecaster」、給与水準データ提供サービス「Salaries」などパーソルキャリアの新規サービスの開発を担うエンジニアリング組織では、2022年よりQA活動を強化しています。

昨年末に公開した「QAエンジニアの活動記録とこれから」記事は社内外から多くの反響をいただきました。

今回は、“新規サービス開発におけるQA活動の現在地”をテーマに、QA活動をリードするエンジニアの吉次と吉満にインタビュー。取り組みのこれまでとこれからについて話を聞くと、プロダクト品質の向上だけではなく、より大きな視点で取り組みを進めていきたいという想いが見えてきました――

 

プロダクトの品質に責任を持つ、最後の砦が必要

 

――まずは、新規サービス開発においてQA活動に取り組み始めた背景から教えてください。

吉次:サービス開発部(現在はサービスごとにエンジニアを配置)が多くの新規サービスを生み出すとともに組織としても成長していく中で、プロダクトの品質やそれを守るためのプロセスにおいてさまざまな課題が生じていたことが、取り組みを始めたきっかけです。

エンジニアリング統括部 クライアントサービス開発部 HRサービスエンジニアリング第1グループ シニアエンジニア 吉次 洋毅

エンジニアリング統括部 クライアントサービス開発部 HRサービスエンジニアリング第1グループ シニアエンジニア 吉次 洋毅

このままでは取り組みのスピード感も落ちてしまいますし、新規サービスを開発してしっかりとグロースさせていくというサービス開発部としてのミッションも達成できなくなってしまうなと思っていたんです。初回のリリースから1〜2年以上経つプロダクトが多くなってきたこのタイミングで課題に着手し、品質に責任を持つ最後の砦を作る必要があると感じていました。

またこの品質の部分をケアすることが、メンバーのモチベーションにも、エンジニアとして本当にやるべきことに取り組める余白を生むことにもつながるだろうという思いもありましたね。

 

――社会的に見ても、昨今QA活動やQAエンジニアのニーズが高まっているように感じられますが、このような流れをどう捉えていますか?

吉満:まずその背景には、企業においてITが事業のコアに位置付けられるようになってきたことがあると思います。

その上で、最近では “開発能力” と “業績” の間の因果関係が研究によって示唆されており、各企業が開発能力の向上により目を向けるようになってきた印象があります。その開発能力を下支えするものが品質だと捉え、開発の生産性を高めるために、またお客様のニーズの変化に耐えられるように、各企業でQA活動に注力されているのではないでしょうか。

エンジニアリング統括部 サービス共通基盤グループ リードエンジニア 吉満 恵子

エンジニアリング統括部 サービス共通基盤グループ リードエンジニア 吉満 恵子

特に、開発スピードや生産性を高めることに内製で取り組む動きが活発になっていることから、その活動に伴走できる存在として内製QAエンジニアもトレンドになっていると感じます。

 

吉次:パーソルキャリアにおいても、「doda」をはじめとしての開発をベンダーさんにお願いしていたところから、徐々に内製で管理する部分を広げていくのに伴って、「品質の部分も当然内製でコントロールできるようにしていかなくてはいけない」という流れが生まれた感覚です。

 

品質文化の醸成、品質の見える化を目指して

 

――改めて、これまでどんなQA活動に取り組んできたのですか?

吉次: 現状の課題を整理し、次の3つの取り組みを行ってきました。具体的な課題と対応策については過去の記事で詳しくお話ししているので、ここでは概要のみご紹介します。

  • 仕様書を作成・メンテナンス・レビューする体制を整えるための「テストマネジャーの半常駐体制」の整備
  • コードを書くエンジニアへの基礎知識のインプットを目的とした「QA輪読会」の実施
  • QA輪読会でインプットした基礎知識を実務に役立てるための「品質ガイドライン」の策定

 

――3つの取り組みの現在地を教えてください。

吉次:テストマネジャーの半常駐体制の整備については、各サービスの開発チームへの導入が広がっています。開発チームから課題をあげ、テストマネジャーさんと連携しながら安定して運用いただけているため、今後も継続していきたいところです。

新規サービス開発におけるQA活動の“現在地”――大事なのは「現状や暗黙知を可視化すること」

QA輪読会は継続しつつ、やり方を変更しました。従来は「みんなで一斉に読んできて翌週に代表者が学んだ内容を発表する」流れだったものを、2週間1セットの取り組みとし、「最初の週にみんなで予習して疑問点を挙げ、翌週にその疑問点に対する代表者の発表と議論を行う」流れにしています。議論にかける時間が長くなり、教科書的な学びの話ではなくより実践的な話ができるようになった点で、改善が効果を発揮しているなという感覚です。

ガイドライン策定については引き続き整理を進めるとともに、一部サービスでは、新しく「自分たちのプロダクトの各部分がどのようなテストでカバーできているか」を可視化する取り組みを試験的に始めました。この部分が可視化されるだけで大きな価値があるなと手応えを感じているため、今後他サービスの開発チームにも展開できるよう、しっかりと事例を作っていきたいと思っています。

 

吉満:23年5月にジョインしてはじめに行なったことは、QAプロセスの可視化と改善です。「どのような情報をインプットし、どのような作業をして、何をアウトプットするのか」というQAプロセスを可視化してみることで、見えてきた課題もありました。

新規サービス開発におけるQA活動の“現在地”――大事なのは「現状や暗黙知を可視化すること」

また、仕様書や開発ドキュメントに関していえば明確に書かれている部分は品質が高い一方で、記述が曖昧な部分や明確に書かれていない部分は品質に不安があったりします。

可視化という意味では、エンジニアの頭の中にある暗黙知を形式知にすることも重要だと考えています。「そのメンバーがいなくなったら品質が下がってしまった」という属人化をなくし、保守性を高めることにもこだわっていきたいところです。

 

吉次:そうですね。「そんなの分かってるよ」と思えるような暗黙知でも、可視化しておくことが重要だと思います。そしてそれを進めるにあたって、吉満さんのように新しくジョインされた方の新鮮な目線を取り入れられたことも大きいと感じますね。

 

事業やサービスの成長において、QAがビジネスモデルや技術力と並ぶ重要な要素として認識されるように

 

――お二人はこのQA活動にどんな思いで携わられていますか?

吉満:どれだけ素晴らしい機能が盛り込まれたシステムやサービスでも、品質が悪ければ長くお客様に使っていただくことはできませんよね。そういった意味で品質はとても大切な肝になるものだと思っており、そこに貢献できる取り組みに大きな魅力ややりがいを感じています。

新規サービス開発におけるQA活動の“現在地”――大事なのは「現状や暗黙知を可視化すること」

吉次:品質を担保するためには、エンジニアがテストに触れる、つまり基本的なテスト技法や考え方を知ることが大切なのではないかと思っています。この活動が、今目の前にある課題を解決するだけでなく、エンジニアのみなさんにそういったテストに触れるきっかけを与えられるような取り組みになればいいな、という思いで取り組んできました。

率直に表現すれば、少し面倒で、自分たちで作ったものを厳しい目で見なければいけないという苦しい側面もある活動ですが、避けて通ることはできませんから。無理に押し付けることはせず、でも「聞いたことがある」くらいのレベル感でもどこかで品質が意識されているような状態を作っていければ嬉しいですね。

 

吉満:地道なこの活動に光を当てていきたいですよね。そしてその先で、「みなさんが取り組んでくれたおかげで、これだけよい結果やお客様のお声が得られたんだ」とフィードバックするところまでつなげていきたいなと思います。

 

――QA活動のあるべき姿とはどんなものだと思いますか?お二人のお考えや目指す状態について教えてください。

吉次:開発からテストまで全てカバーできる人がたくさんいる方がいい、というのはもちろんそうですが、現実的にそうではない中で「どのように落としどころを見つけて体制を築いていくか」を考えなければいけませんよね。そこに正解はなく、組織の風土などによって活動や体制の望ましいあり方は変わってくるのだと思っています。

例えば、品質管理を専任で担う部門があり、開発チームとコミュニケーションをとりながら機能開発を進めていくというケースもあります。この場合、作る人とチェックする人でうまく役割分担がなされていますが、一方で縦割りになって “一緒に作っていく” 感覚は生まれにくいのかなと。それぞれのやり方に、良し悪しがあるのではないでしょうか。

新規サービス開発におけるQA活動の“現在地”――大事なのは「現状や暗黙知を可視化すること」

吉満:扱うプロダクトの性質にもよりそうです。公共のもの、インフラ系のものなどに関しては作る人とチェックする人である程度線を引き、“ゲート” としてQAが機能するのもよいでしょうし、新規サービス開発のように仮説検証しながらアジャイルで進めていくプロダクトに関しては、QAが開発に伴走しながらも、チームメンバー全員がプロダクトの品質に責任を持つことが適しているとも言えます。その場その場での判断が求められますね。

 

吉次:そうですね。また1度あり方を決めたからといって、それでその先もずっと上手くいくとは限りませんから。今の私たちとしては、「ここを目指していく」というよりも、都度現状を分析して、ボトルネックにアプローチしていくやり方をしているのかなと思います。

 

吉満:こうして現場の課題を見ながらボトムアップでQAに取り組んでいるという点は、パーソルキャリアにジョインするにあたって魅力に感じたところです。前例のないところからチャレンジし、現場の視点からいいものを作っていきたいなと思います。

 

――ありがとうございます。それでは最後に、お二人が今後チャレンジしたいことを教えてください!

吉満:まず、“パーソルキャリアとしての品質についてのポリシー” を掲げていきたいなと思っています。各現場の視点からのボトムアップの取り組みは継続しながらも、抽象的でもよいので「会社としてこうしていきます」という旗印を作り、それらが噛み合う状態を目指したいですね。

また現在、AIの分野における品質保証についての研究が進められています。今後パーソルキャリアとしてもAIを活用したシステムやサービスの新規開発に着手し、品質保証に取り組む必要性が生じてくることも考えられるので、将来を見据えて個人的にこの分野について学んでいければと思います。

 

吉次:QA活動はサービスや事業を伸ばすために重要なものだと捉えており、その本来の目的をしっかりと達成するために価値発揮していきたいと思っています。

「自分たちがどのタイミングで何に注力すると事業やサービスが成長していくのか」をエンジニア・非エンジニアを問わずみなさんが考えていくにあたり、ビジネスモデルや技術力などと並んで重要な要素としてQAが認識され、意思決定の材料となるように……品質の可視化や人材の育成に取り組み、組織としてのレベルを引き上げていければと思います。

新規サービス開発におけるQA活動の“現在地”――大事なのは「現状や暗黙知を可視化すること」

――ありがとうございました!

 

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(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)

エンジニアリング統括部 クライアントサービス開発部 HRサービスエンジニアリング第1グループ シニアエンジニア 吉次 洋毅

吉次 洋毅 Hiroki Yoshitsugu

エンジニアリング統括部 クライアントサービス開発部 HRサービスエンジニアリング第1グループ シニアエンジニア

2014年に高専専攻科を修了後、飲食店検索サービスを提供するWeb企業に入社。PHPをメインにバックエンドの領域の開発やプロジェクトマネジメントに従事。2016年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。doda AIジョブサーチの開発などを経て、現在はSalariesの開発やQAエンジニア組織の立ち上げや運営などを担当している。

 

エンジニアリング統括部 サービス共通基盤グループ リードエンジニア 吉満 恵子

吉満 恵子 Keiko Yoshimitsu

エンジニアリング統括部 サービス共通基盤グループリードエンジニア

QAエンジニアとして、2023年5月にパーソルキャリアに入社。前職はSES企業にて、toBやtoC向けのさまざまなプロダクトの品質保証活動に従事し、プロダクト状況に合わせたテスト戦略の策定や、プロセス改善、アジャイルQAの推進をリード。

※2023年8月現在の情報です。