これまでパーソルキャリアのテクノロジー本部 本部長を務めていた柘植がパーソルホールディングスCIO/CDOに着任し、昨年7月から同ポジションに、「doda」のプロダクト開発をはじめさまざまな事業を管掌してきた上妻が就任しました。
2023年度から新しい中期経営計画もスタートし、テクノロジー本部の役割はこれまで以上に広がり、また事業の中でも重要なポジションを占めていくこととなります。
そうした中、テクノロジー本部はどのような戦略を描き、どのような未来を見据えて進化を遂げていくのでしょうか。そして上妻がテクノロジー本部で大切にしたい共通の価値観、カルチャーとは――
テクノロジー本部設立以来3年半を振り返って
――コロナ禍で人々のはたらき方や転職市場にさまざまな変化が生まれた中、テクノロジー本部としても大きな変容を遂げてきたことと思います。まずはテクノロジー本部が組成されて3年半の振り返りから教えてください。
上妻:テクノロジー本部ができてからの3年半、まずtechtektのおかげもあってたくさんの仲間が加わってくれて、組織としてケイパビリティを発揮する土台が築けたことが何よりよかったと思っています。
また新規サービス開発を専任で担う組織もできてきて、その第一歩としてキャリアマネジメントツール「PERSOL MIRAIZ」やオンボーディング支援ツール「HR Spanner」、求人作成支援サービス「HR forecaster」、給与水準データ提供サービス「Salaries」などが形になったこともよかったなと振り返っています。
はたらくの未来を見据えて感度高くテクノロジー活用に取り組んできた中、コロナ禍で想定よりも早く “はたらくの多様化” が進み、その結果として今の時代に必要とされるサービスを提供できたのかなと捉えています。
――課題としてはいかがですか。
上妻:一つは、開発環境の面ですね。たくさんのメンバーを採用しても、皆さんにとって開発しやすい環境がなければケイパビリティを高めていくことはできませんから。技術負債への対応をさらに進めていくことも含め、まだ取り組める余地がありそうです。
もう一つは、経営へのインパクトという観点での課題感です。やはり組織拡大というのは “経営として意味あることをつくり出す” ために行うものですから、この3年半で成し遂げた組織拡大に比例してより大きな経営インパクトを与えられるとよかったなと思っています。
この部分の戦術をうまく働かせるためには、管理職が「多様な職種のメンバーがそれぞれどのようなポジショニングで動くべきか」という視点を持ち、全体の “フォーメーション” を適切に整えていくことが必要です。
また今後、テクノロジー本部のよさである “自由さに支えられた心理的安全性の高い環境” と “より高い成果や学びの追求” をかけ合わせて両立させていくことも、経営にインパクトを与える上で重要になると思います。
――上妻さん自身の役割における変化についても、振り返りをお聞かせください。
上妻:役割としては、「doda」サイトのプロダクト責任者から、新規サービス企画やデジタルテクノロジー統括部も見るようになったりと、徐々に管掌範囲が広がってきました。
テクノロジー本部として実行力を高めていくためには、それぞれのメンバーについて「誰がどのような仕事をしているか」「その人たちの強みを活かすには、どのようなポジショニングにすべきか」を知り、自分ゴト化した上で変えていく必要があると思っていて。だからこそ、自分が関わっていない各部署の中にも入っていこうと取り組んできた3年半でしたね。
――新たな領域に積極的に挑戦される、その原動力はどこから来ているのでしょうか。
上妻:結局は他の部署の方々とも関わって仕事をすることになるので、それなら自分ゴト化できた方が自分にとってもプラスになりますし、組織を外からではなく内側から変えていくことで、皆さんにもその変化を自分ゴト化してもらいやすいという意味でよさがあると思っています。
またそもそも、これだけたくさんのメンバーを採用して一人ひとりの人生を背負っているのに、コンディションを整えずに「あとはみんなで盛り上げて新規サービスをやりましょう」では皆さんが困ってしまいますから。せっかく拡大してきた組織をよりよくするために、何とかしたいという使命感もありますね。
――2022年7月よりテクノロジー本部長という新しい役割を担われることになりましたが、この変化をどのように捉えていらっしゃいますか?
上妻:会社をよくしたい、仲間が生き生きと強みを持ってはたらける状態をつくりたい、という思いがあるため、そのための全体設計を担える本部長という役割には挑戦したいと思っていました。
そもそもの課題設定や「どの部分を重点的に進めていくか」という戦略が、後に「いかに組織として筋のよい仕事だけに注力できるか」を左右すると思うので、この部分に自分の意思を反映できるようになることを前向きに捉えています。あとは私自身が本部長としての能力を身につけていくことで、テクノロジー本部をよくしていけると思います。
組織のフォーメーションを整え実行力を高める、次のフェーズへ
――続いて、2023年から新たにスタートした「テクノロジー中計」について伺います。まずこの新テクノロジー中計において、組織の方針をどのように掲げているのか概要を教えてください。
上妻:今回、組織のテーマを “マトリクス組織” としています。
これまでテクノロジー本部には、エンジニアチームやデザイナーチームなど職能にもとづくチームが複数あり、さらに新規サービスも扱う、とさまざまなものが入り組んでいる状態でした。
そこから選択と集中を行い、今回は「テクノロジー本部は職能組織である」と明確に示しています。新規サービスについては、新たに設立された「新規サービス開発本部」を軸としながら、私たちが職能組織として横串を刺すような形になっています。
この変化によって、新たなものづくりをする際に「お互いに情報連携をする」というアクションをとらなくとも連携ができる状態が生まれると期待しています。
振り返りでお話ししたように、設立からの3年半でここまでの組織拡大が叶ったからこそ、今度は “フォーメーション” を整えて実行力をより高めていきます。組織づくりにおいて、一歩次のフェーズに進んだ感覚です。
――「顧客体験価値の最大化をテクノロジーで実現する」ことを目指す上で6つのテーマを立てられたとのことですが、どのような背景があったのでしょうか?
上妻:まずはやはり、パーソルグループの中のパーソルキャリアという会社なので、グループとして目指すところをインプットし、これからの “はたらくの多様性” や “キャリアオーナーシップ” に接続するような柱を立てようということが一つ。
またパーソルキャリア単体で、非連続な成長を目指していくことになるため、そのために何が必要かという観点も背景にあります。
非連続な成長を目指し、会社としても売り上げを上げるために現在のコア事業を成長させることが重要になります。そのためには営業メンバーを増やすだけでは難しいものですから、そこで「DXやデジタル化という文脈で何をすべきか」を具体化していきました。
「データ利活用体制の構築」「組織戦略・人材・採用」や、攻めの要素としての「プロダクトの強化」「事業デジタル化の推進」を置きながら、社会や市場の激しい変容にも対応できるように守りの要素として「セキュリティの強化」「技術的負債の解消」を置き、バランスを意識した戦略としています。
――この6つの柱については、どのようなプロセスを経て意思決定がなされたのでしょうか。意思決定の基準などあれば教えてください。
上妻:経営戦略との関連性は、一つの基準としてとても重要だと考えていました。
「HRの経験は浅いけれど新規サービスをつくる能力を持った人がいろいろ考えることで、思ってもみなかったものが生まれる」というよさもあると思います。
パーソルキャリアにおいては、自分たちの強みであるコア事業に接続させて発展させていくこと、持っているケイパビリティを活かしたビジネスをすることが “筋のよさ” になると思っているんですよね。
そしてそうするのなら、ベースにある戦略を知りながらやるのと知らずにやるのとでは成功確率が大きく変わってきますから、経営戦略との紐付けは特に意識していたかなと振り返ります。
その中でも、“一緒に取り組むメンバーにとって納得感があるもの” で、かつ “具体的なやるべきことがイメージできるもの” にすることを意識して今回の意思決定に至りました。
一つひとつの置かれた場所で、言葉ではなく“力を尽くす”
――後半はテクノロジー本部の未来にフォーカスして伺います。まず組織としての実行力を高めていくこれからのフェーズにおいて、上妻さんは本部長としてどのように組織を率いていきたいとお考えか、今の思いをお聞かせください。
上妻:まず前提として、これまでのやり方を否定したりガラッと変えたりするのではなく、せっかく素敵なメンバーが集まっているからこそ皆さんの持つ能力を引き出したい、という思いが根底にあります。
その中で、皆さんからの信頼を得るためには「この人は自分たちと一緒に汗をかいてくれる人だ」と思われる必要がありますし、そこで一つひとつの仕事をやりきって成果を出さなければいけません。そうすることでチームができて、私がまた別の場所に行ったとしても一緒にやってきたチームが助けてくれることもある。だからこそ、一つひとつの置かれた場所で言葉ではなく力を尽くすことを忘れずにいたいですね。
そんな私の型にはまって欲しいということではありませんが、一人ひとりが同じ思いで行動して一緒に課題をクリアしていけば絶対にうまくいくと思うので。テクノロジー本部の皆さんにも、そうやって力を尽くしていってもらえると嬉しいなと思います。
――ChatGPTの登場などを受けて世の中の “当たり前” に変化の兆しが見られ、またセキュリティ・ガバナンスについても法律や倫理観を含め引き続き変化していくものと思われます。こうした社会変容の中、テクノロジー本部としてこの「新しい技術」や「セキュリティ・ガバナンス」をどのように取り入れていこうとお考えですか?
上妻:シンプルに言うと、どちらも重要度高く進めていきます。
ChatGPTについては感度高く活用を進めていきたいと考え、現在すでにその計画を推進していますし、またChatGPTに限らず新たな技術には積極的に挑戦できる会社でありたいと思っています。活発なIT投資が私たちの強みの一つでもありますから、その中で技術の検証や活用を強化していきたいですね。
そういった新たな技術を活用していくとなったときに、「セキュリティやガバナンスという対極にあるものをどうしていくか」が一つの課題になり得ます。
この部分はパーソルキャリアとしても非常に重要なものと認識し、23年4月から新たにガバナンス推進本部を設立。セキュリティやデータガバナンスをさらに強化するべく、体制づくりの新たな一歩を踏み出しました。
今後もこの体制強化を計画通り進めていくことで、しっかりとした基盤の上で新しいものにチャレンジする風土を守り、さらに推進していけると捉えています。
――ありがとうございます。それでは最後に、テクノロジー本部を将来的に市場においてどのようなポジショニングに置きたいとお考えか、組織としての展望をお聞かせください。
上妻:「業界No.1」も一つの大きな指標ではありますし、「テクノロジードリブン」「HRテック」といった要素も、私たちのミッションである “パーソルキャリア全体のデジタル化” を進める上でもちろん大切にしたいなとは思いますが……。
ただ、そういった言葉で “テクノロジー本部が” 評価されることは、本質的に目指すゴールではありません。
テクノロジー本部としては、自分たちが主語になる内向きのはたらき方や取り組み、環境づくりに閉じることなく、事業会社のIT部門として地力をつけてテクノロジーで事業を成長させること。そして一緒にはたらく仲間やその先にいるお客さまに「いいね」と価値を感じてもらうことを大切にしていきたいと思っています。
それがいつか、意図せず私たちのブランドになり評価されるようになる。そんな実力派の組織を目指していきたいと思います。
――素敵なお話をありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)
上妻 裕史 Hirofumi Kouzuma
テクノロジー本部 本部長
2005年、インテリジェンスITソリューションズ(現パーソルキャリア、以下旧インテリジェンス)に中途入社。ヘルプデスクを皮切りにネットワークエンジニア、Webサービスエンジニアを経験。2012年に旧インテリジェンスにて「IT知識と事業理解を持ち、IT施策を推進する」新設部門「BITA(ビータ)」のマネジャーに就任。その後、dodaサイトやdodaアプリの開発責任者、新規サービス企画組織の管掌など、パーソルキャリア内の幅広いシステムやサービスの企画・開発に携わる。2022年より、テクノロジー本部の責任者に着任。
※2023年6月現在の情報です。