エンジニアが社内起業制度で起案した話 #techtekt Advent Calendar 2023

この記事は techtekt アドベントカレンダー2023 の1日目の記事です🔥

今年もさまざまな記事が投稿されていく予定ですので、興味がある方は#techtekt Advent Calendar 2023で検索してみてください!

 

自己紹介

はじめまして👋

HR forecasterというプロダクトでエンジニアリングマネジャーをしている西澤 翔利です。

本業はプロダクト開発ですが、その傍らでOWNERSという社内起業制度を利用した事業起案にも挑戦しています。事業起案という領域に挑戦して半年程経ちますが、エンジニア一筋でやってきた私が何故事業起案に挑戦したのか、どんな事をしたのか、どんな事を学んだのか、振り返りも兼ねてこの記事を書こうと思います。

温かい目で読んでいただけると幸いです。

何故事業起案に挑戦したのか

理由は2つあります。

  • どうやって作るかよりも何故作るのかに軸足を置きたい
  • 事業作りをエンジニアの枠を越えて広く理解したい

俺のサービスで世の中を変えてやるんだ!なんていう崇高な気持ちではなく、割りと自分本位な理由がスタートでした。
私はパーソルキャリアに中途で入社し、それまではいずれの会社でも業務システム開発エンジニアでした。私が関わってきた業務システムでは、顧客が社内に存在していてその人たちの業務上の課題を解決していく事が求められました。常に答えは社内にあって、何に困っているのか、どうなると理想かは電話1本、チャット1本すれば聞けてしまうわけです。必要であれば直接現場に行って業務を後ろで観察する、なんてこともしてました。
ですが、基本的には現場から連絡があった時に動くだけで、自ら積極的に改善を仕掛けていくということは殆どありませんでした。何故ならその業務システムを自分が良くしなくても業務は回っているし、ユーザーが離れていくわけでもないからです。使わないと業務が回らないのであれば現場は使わざるを得ないですよね。

そんな状態ですから、私の興味関心は何故作るではなく、どうやって作るかの方が強くなっていきました。如何に流行りの言語、ライブラリ、フレームワークを使っているか。時代の流れに乗れているか。俺の考えた最強のアーキテクチャが計算通りマッチした時が最高の瞬間でした。

 

ですが、プロダクト開発の現場はそうはいきませんでした。

顔の知らないユーザーが使っているわけですからユーザーとの距離は当然遠いですし、プロダクトの規模が大きければ役割も分かれていき、エンジニアが生の声に触れる事は少なくなります。

顧客が何を感じて私が作ったサービスを使ってくれているのか、不満なく使えているのか、今困っている事は何なのか、全て仮説をもとに検証していく作業の繰り返しです。

技術はこれらを解決するための一手段に過ぎません。最適な技術、構成の定義もプロダクトの状況によって変化します。

顧客は何の言語を使っているのか、ライブラリは何使っているか、どれだけスケーリングしやすいアーキテクチャで組まれているかなんてことは興味がなくて、顧客の抱える課題が解決できているかが顧客の最大の関心事なのだと思います(決して技術を軽視しているわけではなく)。

唯一性のあるサービスであればこんな躍起になって考えなくても良いのかもしれません。ですが、世の中にある大部分のサービスは数ある選択肢のうちの1つでしかないのかなと思います。今日競合がいなくても明日には競合が出てくるかもしれない。適切なユーザーに対して、適切な課題解決の内容を当てていかなければ、ユーザーに選ばれ続けるサービスとして存続するのは難しいのだと思います。

 

このように業務システム開発の現場と、プロダクト開発の現場の両方を経験して、それぞれのギャップを感じるうちに何故作るのかを理解する事の重要性、そのためにはエンジニアの枠を越えて全体を俯瞰する必要がある事を感じ、事業起案に挑戦しようと考えました。

 

※余談ですが、パーソルキャリアへ入社して初めて参画したプロダクトがリリース前に撤退判断になった経験もあります。継続するのか、撤退するのか判断する場に当時立ち会ったのですが、今思うとそれも気持ちへの変化を与えた要因なのかなと思います(今でも当時すごくドキドキしたのを覚えてます。悪い意味で)。

 

OWNERSって?

冒頭で説明したOWNERSという社内起業制度について説明します。

パーソルキャリアの事業方針に沿っている事が前提になりますが、その範囲であれば自分が決めたテーマをもとに社内での事業起案を進める事ができる制度になっています。社内外にメンターがいるので、1人で悩むのではなく、伴走してもらいながら事業起案を進める事ができます。

全くの未経験の私でも挑戦できているのでサポートはかなり手厚いです。

 

エンジニアではありませんが、実際にOWNERSを利用して社内起業へ着々とフェーズを進めている方の記事もありますので是非そちらも参照してみてください。

 

www.persol-career.co.jp

起案したテーマ

後継者不足(事業承継)というテーマで起案をスタートさせました。長らく社会問題として扱われてきていますし、昨今では2025年問題の中で語られる事もあり、良く耳にする方も多いのではないかなと思います。

このテーマを選んだのは、私が新卒で入社した会社での経験がきっかけでした。

所謂斜陽産業と言われる業界で業績は右肩上がりとなることはありませんでした。十数年前は必需品として重宝されていましたが、今では嗜好品となってしまい、時代の流れに淘汰されゆくのを目の当たりにしていました。

ですが、世の中がどうであろうと根強いファンはいるわけです。そのサービスを楽しみにしてくれている人はいて、今でもその人にとっては必需品であることに変わりはないのだなとその時感じました。代替品に置き換えられてしまった事がこの話の根本的な原因だとは思いますが、後継者不足についても似たような感情を抱き、継ぎ手が見つからない事によって終わってしまう事業を世の中に残していけるようなお手伝いができたら嬉しいなと想い、このテーマでスタートしました。

 

ただ、こんな清らかな理由だけではなく、ビジネス化できそうという観点もありました。

このテーマ自体は長らく社会問題として扱われていて、既に色んな形でビジネス化されています。つまり事業化できる課題であることが実証されていると考えました。
今は非常に便利な世の中ですから簡単な課題は既に解決できている事が多いです。ニッチな課題をもとに未開拓のテーマに対して取り組むのは自分にとってもハードルが高いのでは、と感じたためこのテーマを選択した1つの理由です。

 

どのように調査を進めたか

調査過程の具体的な話はここでは書けないのですが、基本的にはユーザーが課題だと感じているであろう仮説を自分なりに立てて、ユーザーインタビューを繰り返しそれが事実なのかを検証する作業を繰り返しました。

ここが苦労した点なのですが、私の起案テーマは身近な誰かの課題ではなく、実体験から溢れる何とかしてあげたいという想いだけでスタートしているのでN1の顧客を見つける作業からスタートでした。
また扱っているテーマも後継者問題というだけで、どんな顧客の、どんな課題を、という部分がフワフワした状態だったので、なかなか芯を捉えたインタビューができず、空を切るようなインタビューを繰り返していたなと今振り返ると思います。

 

調査した結果

背景を調べ、競合サービスを調査しつつ、実際に事業を相続した経営者、事業を廃業した経営者、中小企業を相手にする銀行の方等、さまざまな人にインタビューを実施しました。

私はこのテーマを調べる前は後継者がいなくてサービスを存続できなくなってしまう事は、経営者にとってのペインなのだと考えていたのですが、調べていくうちにそうではないのかもしれない、という結論に至りました。

事業が廃業できるというのはむしろ良い事で、ステークホルダーへちゃんと分配もできているし、雇用もしっかり確保しつつ、何もわだかまりなく次のステップへ進めるということなんだと話を聞いて思いました(廃業と倒産は意味が違うので注意)。

以上の事から私の考えた仮説に当てはまる顧客は見つかりませんでした。

 

全体通して起案を通じて学んだ事

自分のテーマを事業化のステップへ進める事ができなかったのは残念でしたが、得たものは非常に多かったと思います。

以下が私が学んだ事です。

 

  • 仮説を複数持ってユーザーインタビューへ臨む大切さ

インタビューは相手の話を聞きに行く場ではなく、自分の仮説を確かめに行く場だと実感しました。相手の話すペースに流され、それに身を任せているとインタビュイーの話したい事を一方的に聞くだけになってしまいインタビューを終えて得るものがない状態に陥ってしまいました。

  • 自分が事実として振り替えれるような原体験のないテーマで起案しない

自分や自分の身近な人が実際に困っていた等の具体的な体験があるとN1は確実にいるわけですし、同じ悩みを持つ顧客も見つけやすいのかなと思いました。私は今振り返ると想いだけでスタートさせたわけですが、そのせいもあって顧客を見つける事がすごく大変でした。

  • 「誰のため」は狭くした方が良い

狭すぎて顧客いないじゃん!というのもありそうなのですが、私の場合は、単純に”事業を承継した経営者”というだけで、どんな事業か、従業員規模・年商はどの程度か、オーナー企業なのか、一族経営なのか、等ユーザーの属性が全然設定できておらず、適切な属性のユーザーにインタビューすることができませんでした。

結果として課題もバラバラで再現性のある課題かどうか判断できずに終わってしまいました。

  •  今の世の中に転がっている課題は複雑なものが多い 

便利な世の中ですから、簡単に解決できる課題は既存のサービスで既に解決している事が多いです。ユーザーが抱えている課題は複雑なものが多く、話を聞いても「それは解決できる話なのか?」と思ってしまう話が多かったです。

  • 筋が悪いアイディアは諦める事も大事

自分なりに愛着もありますし、せっかく自分がやりたいと思った事業の種をなんとか事業化したいという想いもあったのですが、いつまで経っても課題に辿り着けないのであれば諦める事の重要性も感じました。

  • 課題を解決する意義を感じた

ユーザーインタビューの中で本当に悩んでいる方もいて、目に涙を溜めながら話されている方がすごく印象に残っています。残念ながらその方の課題を解決するには至りませんでしたが、胸が熱くなったのを覚えてます。

  • 兼任は大変

本業の傍らで起案作業をやるわけですが、本業が忙しいとどうしても起案作業の優先順位が下がってしまいがちでした。どっぷり時間を投下してやることができず、空いた時間で進めるのでモチベーションコントロールも大変で、何度も「俺がやらなくても誰か解決してくれるんじゃない?」という葛藤がありました。

 

以上が約半年間事業起案に向き合って学んだ事です。

ただ、これらの話の大部分は社内セミナーやメンターからもずっと言われていたにも関わらず、踏み抜くまで気づけなかったのが非常に残念なポイントです。

次の起案では今回の経験を活かして望みたい所存です!

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!

今年のアドベンドカレンダーも始まったばかりなので、明日からの記事にもご期待ください。

それではまた👋



西澤 翔利 Shori Nishizawa

エンジニアリング統括 クライアントサービス開発部 HR_Forecasterエンジニアリンググループ マネジャー

2021年4月にパーソルキャリアに入社。「HR forecaster」の開発エンジニアとしてジョインし、現在はエンジニアリングマネジャーを担当。

※2023年12月現在の情報です。