求人広告で企業の魅力を引き出す――画像処理技術の活用プロジェクト

求人広告で企業の魅力を引き出す――画像処理技術の活用プロジェクト

転職サービス「doda」の求人情報サービス(以下、求人広告)では、求人広告制作のプロフェッショナルが取材、撮影、編集などを行って広告を制作。広告出稿いただいた法人企業様の魅力を余すことなく転職希望者様にお届けしています。

しかし対面撮影の機会が減ったコロナ禍においては、写真や画像は法人企業様から提供いただくことも多く、照明の加減などによって「顔色が不自然になってしまっているけれど、他に素材がない」といったこともしばしば。

そこで今回、コンピュータビジョン領域における補正・加工技術を活用し、画像処理を最適に行うツールを構築。PoCが行われ、作業工数の大幅な削減などの成果をあげています。本プロジェクトを担当した田口、宮下、芝、そして求人広告制作のマネジャーである佐古に話を聞きました。

※撮影時のみマスクを外しています。

※田口は退職していますが、本人の同意を得て、掲載を継続しています。

 

始まりは「画像処理技術を活用し、社内で浸透させたい」という思い

 

――まずは、制作部で行われている求人広告制作のお仕事について教えてください。

佐古:制作部は、「doda」に掲載する求人広告の原稿にまつわる取材・原稿作成・撮影・デザインなどの業務を行う部署です。社内のメンバーと外部のパートナー様を合わせて100名を超える体制で、月に数百本の原稿を制作しています。

採用ソリューション企画本部 制作統括部 制作部 Techグループ 兼 撮影グループ マネジャー 佐古 雅成

採用ソリューション企画本部 制作統括部 制作部 Techグループ 兼 撮影グループ マネジャー 佐古 雅成

 

――今回プロジェクトが発足することになった背景には、どのような課題があったのでしょうか。

佐古:求人広告には法人顧客のお写真やイメージ画像を挿入するのですが、コロナ禍においてご訪問による対面撮影の機会が減り、お客様から画像をご提供いただくことが増えてきました。その中で、ご提供いただいたお写真の表情が硬かったり、不自然な顔色になってしまっているものが多くあることが、発足のきっかけとなった課題です。

求人広告のプロとしてこだわって原稿を作っているからには、広告の印象を大きく左右するお写真についても、良いものを使いたいという思いがあります。

ですが、代替のお写真を探したり、社内のデザイナーが加工を行ったり、加工前後にお客様からご確認をいただいたり……と多くの時間やコストがかかってしまっていて。またどうしても適したお写真がない場合、そのまま使用せざるを得ないこともあったんですよね。

広告としてしっかりと成果をあげてお客様の満足度をより高めるためにも、「求人広告をdodaに載せたい」と思っていただけるような質の高いメディアを作るためにも、画像の質について改善の必要を感じていました。

 

――そこから、どのような経緯でプロジェクトが発足したのですか?

芝:一人ひとりが多様なスキルを持つ私たちの部署である「デジタルテクノロジー統括部(以下、DT部)」のブランド力を社内でも高めるために、ビジネス視点だけでなく技術視点でも取り組みを推進することが大切だと考えていました。その視点から、“課題を解決するために技術をあてる” だけではなく、“技術の活用を目指す先で、それに適した課題を見つける” と発想から始まったのが今回のプロジェクトです。

デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 ビジネスグループ リードストラテジスト 芝 勇介

デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 ビジネスグループ リードストラテジスト 芝 勇介

大学で画像処理を研究し、前職でもその経験を積まれてきた宮下さんがジョインされたことを機に、宮下さんが持つ画像処理の知見や技術を事業部に何とか浸透させたい、という思いがあったんですよね。

 

佐古:芝さんの前任となる方から、「画像処理の卓越した技術を持つ優秀な方が入ったが、その技術を求人広告の領域で活かせないか」とのお話がこちらに届いて。それなら、と課題をお伝えしたところからプロジェクトが動き出しました。

 

現場・ビジネス・エンジニアの密な連携でプロジェクトを推進

 

――ビジネス側の視点として、ROIはどのように想定されていたのでしょうか。

芝:フィジビリ前の段階では、定量的には代替写真を探す工数の削減・お客様とのコミュニケーションの効率化による「50時間/月の制作工数の削減」、定性的な面では「お客様の満足度向上」を想定していました。また制作部の方に実際に使っていただき、ご評価いただけるはずだという確信もある程度ありましたね。

とても大きな額の費用対効果がすぐに出るという性質のプロジェクトではないため、優先度について懸念の声もありましたが……。

もちろんビジネスとしてROIを示すことも大事ですが、こうして技術活用事例を発信すれば、DT部の取り組みに対する社外からの認知を高めることにもつながりますし、別部署やグループ会社で抱える同様の課題にもツールを展開できるはずですから、ビジネス貢献以上の効果を考えれば、やるしかないだろうなと思っていました。事業部の方とも対話を重ねて始動しました。

 

――このプロジェクトのお話を聞いて、エンジニアの宮下さんは率直にどう思われましたか?

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 サーバーサイド・インフラエンジニアグループ リードエンジニア 宮下 侑大

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 サーバーサイド・インフラエンジニアグループ リードエンジニア 宮下 侑大

 

宮下:求人広告は制作量が非常に多いため一枚一枚手作業で修正していくのは現実的ではないですから、機械学習やコンピュータビジョンの考えを何かしら取り入れていく余地があるだろう、というのが率直な印象でした。

最近では、StyleGANを代表とする画像生成技術の精度が高まってきています。これまでは、クリエイティブな領域は人手がメインでしたが、徐々に介入し始めていると思います。

私自身、前職がクリエイティブ系の会社だったこともあり、制作において質の高い写真があるだけでだいぶ工数が変わるというニーズも肌感としてわかっていたので、現場の「こうしたい」を叶えたいなと思いましたね。

 

――そこから、どのように構築を進めていかれたのでしょうか。

宮下:まずは現場の課題をヒアリングさせていただいて。「真顔を笑顔に変えたい」「顔色を変えられるようにしてほしい」などのニーズを抽出し、それを実現するためのアルゴリズムを組み立てていきました。

 

使用言語はPython、実行環境はGCPで構築しています。画像処理関連ではOpenCVやPyTorchなどのライブラリを用いて、encoder4editing・StyleCLIPといった技術でニーズに沿った画像編集を実現しました。フロントはstreamlitを使用しています。

また、画像処理以外の部分では、ユーザーが使用するためにWebアプリとして表示する必要があるのですが、サーバーサイドやフロントエンドを1から構築する経験がなかったため、今回はそれらの技術も習得しながら進めました。

 

――現場での業務で実際に使えるツールにするためには、システムやコンプライアンス関連でもさまざま調整が必要かと思いますが……。

デジタルテクノロジー統括部 データソリューション部 CODグループ リードエンジニア 田口 雄一

デジタルテクノロジー統括部 データソリューション部 CODグループ リードエンジニア 田口 雄一

 

田口:そうですね。私たちは転職希望者様の個人情報や法人企業様の採用関連情報など非常に大切なものをお預かりしているため、取り扱いを厳しく管理しなければいけないのは大前提です。

プロジェクトメンバーはその分野の専門家ではないため、規約に沿った正しい利用のためには、情報セキュリティやコンプライアンス、法務などの皆さんとの対話が不可欠です。

またプロダクトとして運用を継続していくためには、どのようにSLAを引いて運用していくのか、制作のみなさんに気持ちよく使っていただくためにどう工夫するのか、なども詰めていかなければいけません。

そうした一連の流れを調整するための役割として、今回私が入らせていただいています。多少の経験値があるので「こうしたらいいよね」「こう申請するといい」など各方面を巻き込みながら動いていきました。

 

“現場の困りごとを技術で解決する” DXに近道はないが、やり方は絶対にある

 

――実際に構築されたツールの概要について、お聞かせください。

 

宮下:画像をアップロードしてボタンを押すと、パラメータで明るさや赤み・青みの増減、笑顔のレベルなどを調整できる仕様になっています。例えば、こちらの例のように真顔で写っているお写真を笑顔に変えたり、反対に笑顔を真顔に変えたりもできます。

イメージ例

 

佐古:カメラマンとしての経験がある私も、すごいなと驚きました。これができれば、お客様から代替のお写真をご提供いただくためのコミュニケーションも減らせますし、写真に写るのが苦手な方のハードルも下げられるのではないかと思いました。

お客様から承諾やご依頼をいただいた上でツールを使って加工を行い、仕上がりをご確認いただく、という流れはこれまでと変えない形で、現場への導入を進めています。

 

――現場に新たにツールを導入するにあたっての課題などはありましたか?

佐古:原稿制作の現場ではすでにたくさんのツールが使われているため、新たなものが追加されることを必ずしも歓迎されるとは限らないと懸念があり、「現場にいかに浸透させるか」は重要な課題だと捉えていました。

そこで、まずはツールを使うことで得られるメリットを丁寧に説明しました。また制作部の方からシステムの名称を公募したり、社内デザイナーを対象にしたコンペでロゴを決めたりと、「一緒に作り上げた」と一体感を持っていただくための工夫を行ってきました。

社内公募によって決まったロゴ

実際に現場での利用が始まってから、「無表情で写られていたものが笑顔に変わるだけでも、とても助かった」といったお声を多くいただいており、メリットを広く実感いただけたのかなという感触です。

 

――ビジネス・技術面から現場への浸透まで、みなさんの密な連携が鍵になっている印象です。

田口:そうですね。エンジニアが技術検討を行い、ビジネス側で実現性を考えて、現場とも泥臭くやりとりをさせていただく――ビジネスプロセスの中の困りごとを技術で解決するために必要とされるステップを、しっかりと踏めたプロジェクトだったなと振り返ります。

 

芝:これまでのキャリアの中での経験から、全員がお互いの業務のことをある程度理解していたことが大きかったのではないでしょうか。宮下さんは広告関連のクリエイティブ領域にご経験がありますし、私も採用ソリューション領域の経験があったからこそ、うまくいったのかなと思います。

 

佐古:それはあると思います。私も元々IT出身なのでITエンジニアの方々のお気持ちもわかりますし、カメラマンの経験から画像加工に携わる方のお気持ちも理解できる――だからこそ、課題を解決するためにも浸透に向けた土壌づくりは自分がしっかりと行いたいという思いがありましたね。

求人広告で企業の魅力を引き出す――画像処理技術の活用プロジェクト

 

――ありがとうございます。それでは最後に、みなさんが今後チャレンジしたいことをそれぞれお聞かせください。

 

芝:まずは、制作部の方々に「このツールがないと仕事ができない」と言っていただけるまでに、ツールのレベルを高めていきたいです。みなさんのご要望をお聞きして機能のブラッシュアップで応えることでそれが実現できると思いますし、利用者の数も着実に増やしていけると思っています。

また制作部の方々からのお声は、おそらくパーソルグループにおいて求人を扱う他の皆さんからのご要望とも一致してくるはずなので。ツールのレベルを高めたその先で、グループ全体への貢献にもつなげていきたいと思います。

 

佐古:例えば、法人企業様が同じ素材を使っていくつかの媒体に広告を出稿された時、dodaに掲載された広告だけ真顔から笑顔に変わっていたら……“サービスの気配り” として競合他社さんとの差別化にもなりますし、お客様の満足度を高めることにもつながるのではと思っています。そういった成果に還元していけるよう、まずはツールの認知を高めて利用してくださる方を増やしていきたいと思います。

 

宮下:このツールを通じて、パーソルキャリアのみなさんに「画像処理でこんなことができるんだ」という技術の可能性を知っていただけたらと思っています。そうすると、「画像処理技術を活用してこんなこともできないか?」とさまざまなアイデアやご要望が生まれてくると思うので。そこから、競合他社との差別化や新たなサービスづくりにつなげ、dodaブランドを築いていけたらと思います。

求人広告で企業の魅力を引き出す――画像処理技術の活用プロジェクト

田口:今回の例からもわかりますが、実は “DXの種” は意外と社内に転がっているものです。ただ、それと技術を結びつけて案件化し、現場に導入していくことは難しく、クイックにできていない組織が多いんですよね。

今回の事例は、現場とエンジニア側が協力してスムーズに導入できた素晴らしい事例だったと思うので、これを皮切りにどんどん取り組みを推進していきたいと思っています。

おそらくDXに近道はありませんが、やり方は絶対にあるはずですし、パーソルキャリアはそれができる会社だと思っているので。一緒にチャレンジしていきたいと思ってくださる仲間を増やしていきたいです。

 

――ありがとうございました!

 

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)

 

採用ソリューション企画本部 制作統括部 制作部 Techグループ 兼 撮影グループ マネジャー 佐古 雅成

佐古 雅成 Masanari Sako

採用ソリューション企画本部 制作統括部 制作部 Techグループ 兼 撮影グループ マネジャー

2013年に中途入社。前職は料理専門のフォトグラファー。前々職ではモバイルアプリの開発エンジニアを経験。パーソルキャリアに入社後は主にIT企業を対象とした求人広告の制作に携わる。採用に関わる提案から、取材、文章作成、撮影、人材育成まで横断的に行い、現在は制作部のマネジメントとして職務にあたる。二児の父。趣味は風景写真。

 

デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 ビジネスグループ リードストラテジスト 芝 勇介

芝 勇介 Yusuke Shiba

デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 ビジネスグループ リードストラテジスト

2017年パーソルキャリアへ入社後、HRコンサルタントとして法人顧客へ幅広く人事支援を行ってきた。2021年10月に社内転職制度を活用し営業職から現部署への初の異動となった。現在、本プロジェクトをはじめHR業界経験を活かしながらデータ/テクノロジーと掛け合わせ事業への貢献に従事している。

デジタルテクノロジー統括部 データソリューション部 CODグループ リードエンジニア 田口 雄一

田口 雄一 Yuichi Taguchi

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 CODグループ リードエンジニア

2019年入社。設計や営業などさまざまな職種を経てIT入り。現在はプロジェクトマネージャーとしてAI案件スコアリングや求人審査用AIなど部署のAI案件を推進、既存事業向け技術案件の窓口として、事業と技術をつなぐ役割を担う。空港と温泉とMMOとお寿司が好きな二児の父。リモート用品は一通り揃ったものの快適すぎて運動不足気味なため、最近は自転車を買おうか思案中。現在は退職。

デジタルテクノロジー統括部 データソリューション部 サーバーサイド・インフラエンジニアグループ リードエンジニア 宮下 侑大

宮下 侑大 Yudai Miyashita

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 サーバーサイド・インフラエンジニアグループ リードエンジニア

2021年に中途入社。前職では画像処理技術を中心にデジタルアートにおける人のセンシングや機械学習関連の業務を経験。パーソルキャリア入社後はクラウド活用業務や自然言語処理を用いたサービスの設計・開発、社内のデータを活用した様々なサービスの提案・促進に携わる。

 

※2022年8月現在の情報です。