副業にまつわる課題を解決したい——情報銀行を活用した実証実験へのチャレンジとそのウラガワ

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3社共同のプロジェクトが発足し、その一員としてパーソルキャリアも参画。2019年の8月から8か月間にわたり、副業に関する画期的かつ壮大な実証実験が行われました。その実務の中心を担ったのがデジタルテクノロジー統括部 データ&テクノロジーソリューション部 データエンジニアリンググループの桑原 悠と川里 怜です。プロジェクトを遂行する過程において、実際にどのような苦労があって、それをどのように乗り越えたのか。知られざるプロジェクトの裏側と、これからの展望についてお聞きしました。

※川里は退職していますが、本人の同意を得て、掲載を継続しています。

 

わずか半年という短期間で結果を出す!苛烈なミッションへの挑戦

——今回のテーマとなります「副業マッチングサービス」のプロジェクトがスタートした社会的背景などからお話いただけますでしょうか。

桑原:ご承知の通り、2017年3月に内閣府で働き方改革の草案がまとめられ、その中に“副業推進”という項目が掲げられました。我々は、その当時から“副業”という分野において、人材業として何らかの価値貢献ができないかを検討しており、私たちの役割である“テクノロジーをどのように活用するかを考える”部隊として、チームを作って取り組んできました。

もうひとつの流れとして、今回のプロジェクトとは別に、以前から「情報銀行」をテーマに、大手企業2社と、そして私たちパーソルキャリアの共同で新しいビジネスの構築を進めており、その座組の中に、この副業のユースケースを取り込んでいこうとなったのが事の発端となります。

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デジタルテクノロジー統括部 シニアエンジニア 桑原 悠

詳細を仔細にお伝えすることはまだできないのですが、枠組みの概略を説明しますと、「情報銀行」という基盤を提供している大手企業A社と、それを事業化しようと考える大手企業B社、そして人材系ビジネスにおいてこれを活用したいと考える我々の思いが一致し、完全なる共同プロジェクトとして、3社でしっかりタッグを組んで進めることができました。

私自身は、エンジニアリンググループに所属しながら新規事業開発を中心に顧客へ新たな価値を提供することを担っており、このプロジェクトに最初からかかわらせていただきました。 

——川里さんも最初から携わっていたんですか?

川里:私も最初から加わっていました。主に任されたのは、実証実験のフェーズです。実験の設計はもちろん、運用から取りまとめまで担当させていただきました。

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デジタルテクノロジー統括部 エンジニア 川里 怜

桑原:私たちのデジタルテクノロジー統括部では今、ビジネス、エンジニア、アナリティクスという3領域がそれぞれ重なりあうような人材を求めています。つまり、エンジニアとビジネスの両方ができるような人材に育ってほしいという思いから今回、川里さんがアサインされたと受け取っています。

——桑原さんも川里さんもキャリアのスタートはエンジニアからですものね。川里さんは声がかかった時にはどういうお気持ちでしたか? 

川里:ポジティブな感情を抱きましたね。もちろん、背景や意図などは事前に共有していただいて、それを踏まえたうえでお互いにディスカッションしながら進んでいったところもあったので、特に違和感はなかったと記憶しています。

プロジェクト自体、とても社会的インパクトが大きなものだと思いましたし、同時に課題の大きさというか、難易度も高いのではないかと感じていました。

仕事の難しさを判断する基準として、市場に出ているか否かというポイントがあると思っています。同じようなサービスがすでに市場に出ていれば、ある程度の予想がつきますが、このプロジェクトは、同じようなモデルが存在していなかっただけに未知の部分が多く、取り組む前から“難易度が高いのでは?”と感じていたのかもしれません。

——川里さんが担当された実証実験のこれまでの経緯を教えてください。

川里:半年という短期間での立ち上がりでした。昨年の8月に共同でプレスリリースを打って、そこから実証の設計が始まり、同時並行で実証実験の準備を進めていきました。さらに並行して、システムの設計構築を大手企業B社さん主体で進めていただき、開発部分とビジネス部分の結合は、3社間で高い頻度でミーティングを重ねて、多い時は毎日認識合わせをしていった感じですね。

そして昨年の11月ごろから実証実験に参加していただく企業様への営業活動が始まりました。12月に実証のコンセプトを知っていただくためのオープンセミナーを開催し、さらに訪問活動やメール告知を行い、準備を整えたうえで、何とか今年の2月から3月にかけて実証実験にこぎつけることができました。私たち自身も、主催企業でありながら実験に参加。終了後、3月末から4月にかけて参加いただいたワーカーの皆様にインタビューを行って取りまとめました。

——通常で考えると、半年という短期間では到底できないような…。そのスコープはどのようにして決まって、成し遂げるために工夫したことはありますか?

桑原:なるべく、今期中(2020年3月)までに結果を出して、この事業の見極めをしたいというのが、3社共通の気持ちとしてありました。結局コロナ禍の影響で流れてしまったのですが、3月に3社共同でこの取り組みを発表する予定があって、それまでに必ず実証実験を終えている必要がありました。

短期間で実現できた理由として考えられるのは、かなりベタではありますが、ひたすら議論を重ねたからということでしょう。コンセプトも何もできていない状態の中で、現時点における副業の課題をいかに解決するのか、またこの「情報銀行」というコンセプトをどう使っていくべきか。議論を重ねると同時に、いかに短期間で設計して、短期間で検証するか、実証計画を練り上げたことに尽きると思っています。

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今回のプロジェクトに限らず、川里さんをはじめ、チームメンバー間で常日頃から新規開発に関するディスカッションや、どういうモデルがいいのかをよく話し合っているので、今回から始まったことではなく、習慣はついていました。完全にゼロベースからアイデアを練り上げたわけではないのですよ。ネタは持っていたので、その精度を上げていくことに注力した感覚ですね。

結局、どんなにコンセプトが良くても、法律的にOKかどうか、情報セキュリティー的にOKなのか、結局はそういった些細なポイントの精度を上げなければ、今回のプロジェクトに限らず世の中に出すことはできません。

しかも、それを期間内で、おまけに我々のチーム内だけでなく、法務や情報セキュリティー部門にも確認を重ねながら進めていくのは、今考えるとなかなかヘビーな体験でした(笑)

川里決まったフレームに当てはめるのではなく、すべてがイチからの新規ビジネスでした。考え方として、今ある副業にかかわる課題を解決すれば、どうなるのか?そういった根源部分から考え始めて、解決策がそのままアイデアになるという、まさに“課題ドリブン”のような形で議論を進めていきました。

副業を取り巻く社会を変える。壮大なチャレンジだからハードルも高い

——もっとも苦労されたのは、どのフェーズでしょうか。

川里: 正直なところ、どこの段階も非常に難しく、実証設計しかり、営業活動しかり、広報活動など、もろもろフェーズごとに苦労した点はありますが、あえて一つ挙げるとすれば、やはり営業の部分ですね。そもそもこの実証実験は、参加いただける企業様が見つからなければ成立しません。クリティカルパスといいますか、絶対に外してはいけないということでプレッシャーもありました。“いかにコンセプトに共感いただくか?”も重要でしたが、今回の実証実験は、実際に副業先と契約を結んで、対価をお支払いいただくというところまでしっかり取り組んでいただくというものでしたので、この短い期間で対応いただけるのか?というハードルもありました。

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企業様にお話させていただく機会をいただくのはもちろん、機会を頂戴した後、“こういうフローで実証実験をやります”という認識合わせにも時間がかかりましたね。そもそも認識が違っていると、後々、手戻りだったり、途中から離脱されるという事態に陥りかねません。タイトなスケジュール中で行っていたので、認識不足が大きなリスクになると意識して取り組みました。

桑原:コンセプトをご理解いただいていない企業様にご協力いただく必要があるときに、川里さんは2つの戦略を取ったんですね。一社ずつお声がけにあがると短期間では回り切れないので、一斉に集めるため、ゲストを呼んでイベントを開催したうえで、自身が登壇し、プロモーションをかけて、見込みのありそうな企業様にアプローチを行っていたんです。それに加えて、他の3社と協力して、副業人材にご関心の高い企業様リストをゼロから作り、上から順番に営業していっていました。もちろん1回ではすぐにご承諾いただけないケースもあるので、そのステータス管理や進捗管理も川里さん自身ですべて行い、数か月しかない営業期間の中で企業様にご参加いただけるに至りました。 

——企業を巻き込むというのは大変ですね…。各社、副業における課題は大切とわかっていても、なかかなか進んでいないという現状だったと思いますが、すぐに始めなければならないとい意識づけをするために、どのようなことを行ったのでしょうか?

桑原:副業に送り出したい企業と、労働力が足りないので選択肢のひとつとして副業人材を受け入れたい企業という2タイプがあって、前者の送り出し企業に関しては、ご承知の通り、副業を解禁しているのは、わずか2割程度。この2割の企業にヒアリングをさせていただいたのですが、企業様によっては、副業を開始しているのは全従業員の1割にも満たないという現実がありました。理由は様々ありますが、そもそも世間の雰囲気に乗って解禁したものの、現実的には推進できてないという企業があったり、比較的、推進している企業でも社員側がやらない、もしくは隠れてやっている可能性があるという課題もありました。そこで、より人事の皆様が安心して利用できて、かつ課題解決ができるような仕組みづくりを進めることにしました。

川里:確かに、副業なのですぐに解決しなければならない課題のように思えないかもしれませんが、個人目線に立ってみると、今後、多様な働き方が求められるような社会になった場合を想定し、今から課題解決を図っていかなければ間に合わないと思っています。つまり、そこを見越していく必要があると思うのですね。副業に関しては個人目線だと、始めたい意識がある方は非常に多いのですが、受け皿が足りない、需給がアンバランスだということがわかったので、そこにテコ入れをしました。要するに副業を始めるまでのハードルが高いという仮説をおいて、そこに対していかにハードルを下げるかという解決策を講じたのです。

桑原:もっと副業を取り巻く社会そのものが整備されたら良いという思いがありました。結局、ハードルを高くしている要因はひとつではなく、送り出す企業側の課題、そこで働かれる従業員の課題、受け入れる企業側の課題の3つに分類されます。このうちのどれか一つだけを解決しても、滑らかに回り始めるものではありません。副業解禁後、数多の副業サービスが登場しましたが、これらの課題の中の一部分しか解決できていませんでした。全部丸ごと解決しましょうというのが今回の取り組みでしたから、必然的にハードルは高くなる(笑)。

川里:副業がしやすくなるサービスが世の中にあれば、個人の働き方も変わります。そういった意味でも今回、実証実験に参加したワーカーのひとりとして、副業を始めやすい仕組みができあがったと感じています。

プロジェクトを終えると圧倒的な成長が待っている―― 

——今回のプロジェクトは3社共同で、なおかつ大きな社会課題に臨むという、なかなか遭遇できないプロジェクトのような気がします。参画したことで、ご自身の価値観やマインドの変化はありましたか?

桑原:プロジェクトが終了して感じたのは、これは当初から意図したことではありませんが、コロナの影響で大きく働き方が変わっていくだろうということ。実際に在宅で仕事をされている方の多くが、これまで以上に副業の意向が上がってきているという話を聞きます。一般的なイメージでは、仕事が終わってから数時間、土日に数時間というイメージでしたが、今回、受け入れ側もリモートになり、副業者も含めて全員、自宅から一か所のリモートの場所に集まることができるようになり、副業のハードルが下がる可能性がある気がします。

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また、このプロジェクトは3社共同でプロジェクト推進を行うため、プロジェクトに関わる社外の様々な方との議論・調整・連携が発生します。一方で、社内においても我々のチームでは完結せず、社内部門各所に確認・連携を行う必要があります。これらを川里さんが、ほとんど一手に引き受けてくれました。任せている立場としての期待と不安は、正直・・・多少はありましたよ。(笑)でも終わってみて実感したのは、環境の提供が大切だということ。今までにない経験や環境が人を育てるということが、川里さんの成長を通じて知りました。

——“任せたほうが成長する”という考えの論拠は?

桑原:私たちのチームの場合、基本的に各自のプロジェクトをリーダーとして、オーナーとして責任を持って取り組んでもらっています。“いつかオーナーになる”という気持ちだったり、“いつかは機会が来るだろう”という環境では、ポテンシャルを発揮できないと思います。ですから、初めから若いリーダーとして任命しておけば、後からリーダーになる人たちより、失敗と成功の経験を早いサイクルで回せると思っています。

——川里さんはこのご経験を経て、価値観やマインドが変化した部分はありますか?

川里:そうですね。マインドの部分でいえば、今回、参加されている複数の大企業の方々と調整して進めなければならないという環境において、相手の意図を汲み取ることであったり、思いやる気持ちが根底に必要だと学びました。参画した企業はそれぞれに目的は違えども、実証実験そのものの目的は一つなので、お互いを考慮しながらプロジェクトをどのように進めるかを考えることが重要なのだと理解しました。また、桑原さんからオーナーシップを委譲してもらったことも大きいです。プロジェクトの中の業務の一部分を任されるより、プロジェクト全体を責任持って取り組んだほうが、間違いなく成長につながると実感しましたね。

——実証実験が無事終了した現段階で思うことを踏まえたうえで、今後の展望をお聞かせください。

川里:達成度は7割くらいと感じています。今回は企業間副業をコンセプトにしており、副業先のピックアップや副業先とのコミュニケーション、雇用契約という3つのポイントについて検証ができました。個人目線における副業の始めやすさや時間管理について、ひとつのモデルを提起できたと思っています。ただ一方でスケジュール的にタイトだったこともあり、長期的な副業案件を掲出することができませんでした。そのため、雇用契約の利点を検証することができなかったという課題が残ってしまいました。今後は働く期間を長くしたり、ボリュームを増やしたりという条件を加えながらさらに検証をしていきたいと思っています。

桑原:総括的な立場でいうと、副業の実証が終わった今、コロナの状況を踏まえながら、臨機応変に柔軟な企画の拡大や変更を進め、ブラッシュアップしていきたいと思っています。スピードが求められるフェーズに入っていますので、そこは意識しつつ、Afterコロナには、各種人材系企業がシフトチェンジして、副業分野における様々な新サービスを打ち出してくると思うので、我々も引き続き企業と個人へのご支援を根底に置きながら、今後の状況において、求められているものに応えられるようサービスの強化を図っていきたいですね。

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——今回の副業ジャンルに限らず、パーソルキャリアの中で今後実現したいこと、チャレンジしたいことがあれば教えてください。

川里:副業というのは、多様な働き方の一つの手段に過ぎず、他にも自社内の働き方改革、リモートワークなど、追求すべき様々なテーマがあります。なので、あらゆる選択肢を今後、多様な働き方を求める個人に対して提供することに価値があると思っています。働き方に最適解はないので、選択肢を増やすというのは個人に対して価値のあることだと思うので、もっと視野を広げて考えていきたいですね。 

——パーソルキャリアは、それが実現できる環境なのですね。

川里:それが実現できるのも、パーソルキャリアにチャレンジできる環境があるから。先ほど桑原さんが言っていましたが、オーナーシップを委任してもらえることに大きな要因があると思っています。

——桑原さんの上司としての手腕を非常に感じますが、桑原さんが個人として、チームとして実現していきたいことを聞かせてください。

桑原:個人的には、私も環境に恵まれていて、話の分かる上司の下で様々なチャレンジができているので、それは引き続きやっていきたいですね。チームとしては“人々に働くことを自分のものにする力を”というミッションを掲げており、今回の副業、情報銀行の取り組みの根底には、“個人の能力や可能性の最大化”という思いがあります。このコロナ状況下、大きく社会が変わりつつある過程で不安に思われている方々に対して、チャンスとなるような支援ができたらと思っています。

——最後に、このチームに向いている人材像についてお聞かせください。

桑原:世の中にないものを生み出して、そして動かしていけるようなパワーのある、元気な方がいいですね。社会貢献に対する思いが強い方はもちろん、それ以上に“エゴが強い”ほうが良いと思ってます。ここでいうエゴとは、「もっとこうなったら、周りの人や世の中がより良くなるのではないか、面白くなるのではないか」という自分なりの仮説や想いを指しています。

新規事業は楽なことばかりではありません。他者への貢献の最大化に向けて、平坦ではない道のりを行く際に、はじめは独善的なものであったとしても、自分の中に、モチベーションの源泉を持ち、それを継続的に追求できる方が向いているかもしれません。一人が強く想い続けたビジョンが気付けば多くの人と共感できる絵になる可能性があります。

他者にとって最良の結果を導き出すために、まずは、自らの意思で決断できる、そんなメンバーがチームには多いと思います。

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———素敵なお話をありがとうございました!

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=THE TEXT FACTRY(エーアイプロダクション)/撮影=古宮こうき)

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桑原 悠 Yu kuwahara

デジタルテクノロジー統括部 データ&テクノロジー ソリューション部 エンジニアリンググループ シニアエンジニア

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川里 怜 Rei Kawasato

デジタルテクノロジー統括部 データ&テクノロジー ソリューション部 エンジニアリンググループ エンジニア

現在は退職。

※2020年6月現在の情報です。