エンジニアにとって理想の「働き方」とは? 働き方改革者・オトバンク久保田代表×パーソルキャリア三口対談

オトバンク久保田氏、パーソルキャリア三口氏

パーソルキャリアでは現在、エンジニアが働きやすい環境をつくるために、評価制度の刷新や職場環境の見直しを進めています。そこで今回は「自由に働いてほしい」をモットーに、フルフレックス制や満員電車禁止令など新しい職場環境のあり方を提案している、株式会社オトバンク代表の久保田裕也氏をお招きし、お話を伺いました。

迎えるのは、サービス開発統括部で新しいテクノロジー活用やエンジニアに合わせた働き方を開拓しているエグゼティブマネジャーの三口聡之介。エンジニアにとっての快適な働き方を深堀りしていきながら、組織内にその姿勢や環境を浸透させるにはどのような働きかけが必要なのかというところまで、ふたりにじっくり語り合ってもらいました。

個性を活かしたままチームをまとめるコミュニケーション術

——パーソルキャリアとオトバンク、それぞれエンジニアの構成人数はどれくらいなのでしょうか。

三口:パーソルキャリアは全体で約6,000人の社員がいますが、そのうちエンジニアは70人弱ですね。転職サービス「doda」などの既存のプロダクトから、働くにまつわる新規のサービスを続々と開発・提供していて、エンジニアの内製化を進めている最中です。

久保田:オトバンクはスタッフ含む全社員で60人、そのうちエンジニアは10人くらいですね。今のCTO(佐藤佳祐)が入ってきてから、当社でも内製化を進めようということになり、エンジニアを増やし始めました。

オトバンク久保田氏、パーソルキャリア三口氏

三口:採用にあたってはどんなところを重視されているんですか?

久保田:SNSで荒ぶっている人に声をかけて、採用することが多いですね。

三口:荒ぶり採用ですね(笑)。

久保田:考え方はすごく正しいんですけど、言葉を選ばなくて、いい意味で空気を読まないという人たちがいて。そういう場合、会社からは結構扱いにくい人と思われがちだと思うんですよね。オトバンクではそういう個性的なエンジニアも迎えて、「みんなもっと主張すればいい」という雰囲気を作っています。ドライかもしれませんが、どうせ他人なんだから、みんなもっと主張しあって居心地のいい空間をつくっていこうよ、という感覚ですね。

三口:組織の幅を広げるという意味では、似たようなキャラクターの人材ばかりが入ってきても面白くないですからね。

僕の配下のエンジニアにも、個性的なメンバーはいますよ。会社が定義しているオフィスカジュアルのルールをほとんど守っていなかったり(笑)。もっとも、これは服装のルール自体が主に営業職に向けて作られたものなので、内勤のエンジニアはそれを遵守しなくてもいいのかな、と。僕的には、一人ひとりは尖っているけれど、全体で見るとまとまっている――そんな組織がつくれたら理想的ですね。

——久保田さんのおっしゃる「居心地のいい空間」、つまり「エンジニアにとっての働きやすい環境」をつくるにあたって、それぞれどんな取り組みをされていますか。

久保田:僕は基本的にフラフラしています。

三口:フラフラ?

久保田:社員はみんな真面目なので、僕まで真面目に働いていると社内のムードがピリピリしちゃうんです。お菓子を食べながら「今どんな仕事してるの?」「頑張ってるね〜」みたいにフラフラとメンバーに声をかけていると、ふとした時に悩みを相談されたりするんですよ。要するに演出ですね。

三口:コミュニケーションが取りやすい状況を必然的につくっている……?

久保田:そうですね。組織特有の隙間風を埋めるためというか。

例えば「飲み会を月に一回やろう」と決め事にしても、乗ってくる人と乗ってこない人っているじゃないですか。だけど気軽にSlackで投げかけると「はい、行きたいです」って人が集まってくるみたいな。そんなラフな空気がつくりたいんですよね。あとは、フラフラして見せることで「僕に仕事の愚痴をぶつけるな」というポーズをとっている部分もあるかもしれません。

三口:どういうことですか?

久保田:「久保田に言えば解決してくれる」みたいな、「とりあえず偉い人に話さえすれば、問題を改善してくれるだろう」という雰囲気にはなってほしくないんです。僕は常に、一応話は聞いて頭には入れておくけど、みんな好きにやればいいんじゃない、というスタンスです。上長に進言するよりSlackに思っていることを吐き出してもらって、事が大きくなる前に解決されていくというのが理想だと思っているので。

三口:なるほど、メンバーにはフランクに接してほしいけど、決して簡単に愚痴を受けつけるわけではない、と。気楽にコミュニケーションしてもらう場をつくるという部分では、僕も似たようなことをやっているかもしれないですね。うちのチームはみんなでよくボードゲームをやるんですよ。

久保田:ボードゲームですか。

三口:ボードゲームって立場関係なく参加できるし、案外メンバーの性格を把握するツールにも使えると思っていて。「この人、こういうシーンで攻めちゃうタイプなんだ」みたいな感じだとか。雑談も同じで、エンジニアの組織において雑談は邪魔だという考え方もあるかもしれませんが、やっぱりメンバーが仲良くなっておくと、長期的に見れば仕事のスピードが増すんですよ。

それに、メンバーの性格や強みを知っておくことで、任せる仕事を決めるための材料にもなりますし。だから僕は、雑談がてら、みんなでランチに行くことは業務のひとつだというアプローチで取り組むようにしています。

久保田:なるほど。僕の場合は、業務時間内にランチに行こうが飲み会をしようが、パフォーマンスを発揮してくれる分には自由にやってくれていいかな、というスタンスですね。そもそもオトバンクって、一匹オオカミタイプが結構多いんです。ある社員が「今日はちょっと早くあがります……」とか言いながらふらっと帰っていったと思ったら、カンファレンスでスピーカーをやっている姿をSNSで見て驚く、みたいなこともあったり(笑)。

株式会社オトバンク 代表取締役社長 久保田裕也

▲株式会社オトバンク 代表取締役社長 久保田裕也

三口:すごいですね。業務時間はあまり拘束していないんですか?

久保田:ある程度の自由を与えつつ目標を設定してもらうと、予想外のパフォーマンスを出してくることがあるんです。できる限り集中して価値のある仕事をしてほしいので、日々の出勤時間という単位でどれだけタスクを消化したか、といった評価はしていないです。

職場を、社員の手で変化させるための“仕掛け”

——今のお話からも、オトバンクさんが新しく自由な仕組みを積極的に取り入れている様子が伺えます。そういった働き方を浸透させるにあたって、どのようにメンバーに働きかけているのですか。

久保田:僕は基本的には「何もしない」ですね。むしろ上の人間たちは傍若無人に振る舞うくらいでちょうどいい。結局みんな上の人間を見て、「ここまでならやっていいんだな」ということを判断するじゃないですか。だから僕、木曜日は出社しないことにしているんですよ。

三口:週休三日ですか。

久保田:老化もあるかもしれないんですが(笑)、月火水と頑張ると、木曜日はもうアウトプットをする余力が残っていないんです。僕自身がそんな感じなので、「あの人今日見かけないけど、ちゃんと仕事してるのかな」といった話はうちの会社ではあまり出ないですね。もちろん本人がしっかりパフォーマンスを上げている限りは、の話ですよ。そこがいまいちだった場合は、評価のタイミングできちんと指摘します。

——義務を果たす限りは自由を与えられる、という感じなんですね。三口さんはメンバーにどのように働きかけていますか?

三口:エンジニアは常に社内にいる必要はないと考えているので、リモートワークは推奨したいと考えています。リモートを浸透させるために仙台に新しい開発拠点をつくりましたし。

久保田:面白い決断ですね。

三口:僕はもともと、「人のレベルに合わせて環境をつくる」というのではなく「無理やりにでも環境を用意してしまえば、それに合わせて人は行動・成長する」という考えを持っていて。だから、あえて仙台に支社をつくって、東京と同じような状態で仕事を推進させようと考えたんです。仕事をするにあたっても、東京で決まったことを仙台支社の人がただこなしていくといったことにならないように、いつでもライブでビデオをつなぎっぱなしにして、密なコミュニケーションを図っています。

▲パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エグゼクティブマネジャー 三口聡之介

▲パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エグゼクティブマネジャー 三口聡之介

久保田:それが成功すれば、全社員の完全なリモートワークだって可能という証明になりますね。

三口:そうなんです。あえてそれに近い環境を用意したということです。中には、絶対にリモートはしたくないというメンバーもいますが、「今日は出社禁止です」という環境をつくって全員リモートにさせたところ「案外働きやすかったです」とか「家にいい作業用の椅子を買いたくなりました」という声が上がってきたりして。環境を無理やり変えることで新たな気づきが促される――そんな仕掛けをつくっていきたいんです。

久保田:地方に仕事場をつくるという意味では、うちのCTOも釧路で子育てをしながら仕事をしているんですよ。月に1週間ほど東京に来るんですが、どうすれば仕事に不具合が起こらないかということをしっかり考えながら運用していますね。

三口:新しい仕組みを取り入れる際、それが機能するようにしっかり運用すること、それが一番大事だと思います。ある程度のルールを設けて、それを守っている限りは好きにしていいよというようにして、結果としての方向は揃える。例えば、雑談を推奨したところ作業効率が下がってしまったのであれば、コアタイムを設けて、その間はチャットのみの会話に切り替える、といった感じに。

目的達成のために、“ふさわしい環境”を目指す

——先ほど久保田さんは実働時間と評価が必ずしも連動しないとおっしゃっていましたが、現状、一般的にはそのような認識はまだ希薄なように感じます。メンバーの中にも、自由な働き方をすることで生産性や評価に弊害が出ることを危惧する人もいるのではないでしょうか?

久保田:僕自身の価値観は、先ほどお話しした通り、会社の目的にコミットしてくれるのであればその方法はなんでもいいし、Slackや社内Wikiで共有されるべきことが共有されていれば構わないんです。

オトバンクの評価制度は、もともとすべて社員がつくったものなんですよ。みんなが納得してつくったものなんだから、そこに向かって頑張ってくれたらそれが一番いいというか。もしその評価制度のままではパフォーマンスが上がらないのであれば、その時々で変えていけばいい。いつも言っていることなんですが、問題が起きたら起きたで、どうすれば改善できるのかを前向きに議論すればいいと思っています。

オトバンク久保田氏、パーソルキャリア三口氏

三口:なるほど。僕としては、エンジニアにはあまり会社の方だけを向いて仕事をしてほしくないと思っています。エンジニアにとって大事なのは「市場価値が上がること」だと思うんです。やりたいサービスがあって、そこに心血を注ぐのはいいことだと思いますが、それが「会社に求められているから」という理由だけで個人の市場価値が上がらないのであれば、自身の選択肢を狭めてしまうことになる。

久保田:おっしゃる通りですね。

三口:パーソルキャリアのミッションでもある「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」という感覚を、できるだけみんなに持ってもらいたいんです。ひとつの会社に特化したスキルを持っていても、それは不安定なわけで。エンジニアには、世の中で通じるようなスキル、考え方、行動を身につけられるようになってほしいんです。

僕は上に立つ人間として方向を揃えることはやりますが、あとは基本的に自由に、枠にとらわれずに仕事をしてもらいたい。ひいては、それが生産性や評価につながってくるんだと思っています。

久保田:同感です。僕がこうやって自由な働き方を推し進めている大きな目的って、事業を大きくしたいというモチベーションがあるからなんですね。そのためには、僕ひとりにすべての裁量がある状態ではいけないと思っていて。だからメンバーには、できるだけ多くのことを任せる必要があった。そのためには、会社の空気から変えていかないとダメだと思ったんです。

三口:メンバーに自主性を持ってもらうための空気づくりですね。

オトバンク久保田氏、パーソルキャリア三口氏

久保田:そうです。メンバーそれぞれの成果だけはきちんと定義した上で、「できる限りパフォーマンスを上げるように頑張ってね、ただし助け合うべき場面ではみんなで助け合いましょう」と。とはいえ、働き方さえも自分で定義できないようでは、自主性も何もないなと思ったんです。だから今は、メンバーと一緒に僕自身も思考錯誤している最中です。

――方向性を揃えた上で、できる限りメンバーには自立を促す――オトバンクにもパーソルキャリアにも共通する組織づくりの肝だと感じました。最後に、それぞれの組織でこの先挑戦してみたいと考えている取り組み教えてほしいです。

久保田:エンジニアサイドからは見えにくい、各部門の業務内容や温度感をもっとシームレスに共有するための仕組みがつくれたらいいなと思っています。そのためには、「全社員がワンフロアにいて情報が常に共有されている、まったく仕切りのないような」状態を、誰がどの場所で仕事をしていても実現できる仕組みを促進していきたいです。

三口:シームレスな環境づくり、僕も大切だと思います。

僕個人としては、新しい仕組みやサービスを先陣切って検証し、いいものは全社規模で実現できるように示せる存在になりたいです。特にエンジニアという職種にとって、環境面が整っていることはとても重要だと思うんです。そこに関して遅れをとることがないように動き続けたいです。

(文=波多野友子/編集=ノオト/撮影=西田優太)

オトバンク久保田氏、パーソルキャリア三口氏

株式会社オトバンク 代表取締役社長 久保田裕也

久保田裕也 Yuya Kubota

株式会社オトバンク 代表取締役社長

東京大学経済学部経済学科卒業。売上ゼロのオトバンクに立ち上げ当初から参加し、2006年に新卒入社。会社の仕組みづくりから資金調達など会社のあらゆる業務に携わりながら、オーディオブック配信サービスの立ち上げからコンテンツ自体の研究や制作インフラの開発、事業責任者を経験し、2011年3月より代表取締役副社長、2012年3月より現職。3台のデッキを部屋に構え、夕方から朝5時まで放送を聴き続けほぼ寝ずに登校する青年時代を送ってきたラジオフリーク。フルマラソン2時間40分台の記録を持つ"走る社長"の一面も。

パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エグゼクティブマネジャー 三口聡之介

三口聡之介 Sonosuke Mikuchi

パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エグゼクティブマネジャー

京都大学在学中に、株式会社ガイアックスの設立に参画。その後、KLab株式会社で携帯アプリケーションの開発に従事したのち、楽天株式会社に入社し、プロデューサーとしてMyRakutenなどを担当した。2013年から株式会社百戦錬磨に参画、取締役に就任。2013年にとまれる株式会社を設立、代表取締役社長に就任した。その後、ベンチャー企業複数社を経て2018年2月からパーソルキャリア株式会社に入社。サービス開発統括部のエグゼクティブマネジャーを務めている。

※2019年11月現在の情報です。