もっと“自分に合った”企業との出会いを創出――MAツール内製開発の舞台裏

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顧客にあったサービスやコンテンツを提供し、顧客と関係性を構築するためのアプローチを行うのがCRM施策。dodaユーザーに対して行われている企業情報の提供水準をさらに高めるべく、今回キャンペーンマネジメントシステム、materia(マテリア)の内製開発に踏み切りました。開発段階から運用段階まで数々の困難を乗り越えリリースまで進めてきた、プロダクト企画統括部 谷口、出戸、カスタマー企画部 上堀内の3名に、今の率直な想いを聞きました。

 

※出戸は退職していますが、本人の同意を得て、掲載を継続しています。

 

ユーザーが本当に求める情報の提供を実現するために――

――まずは、今回のプロジェクトの概要とスタートした背景を教えてください。今回、新たにキャンペーンマネジメントシステムを内製開発されたということですが、その背景にはどのような課題があったのでしょうか。

谷口:dodaのCRM施策の一つであるメール配信を改善し、スピード感をもって顧客に価値ある情報提供ができる環境を実現するために、今回キャンペーンマネジメントシステム「materia(マテリア)」を内製開発しました。プロジェクトが始動したのは2018年10月。当時のCRMグループによるメール配信には、大きく2つの課題がありました。

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プロダクト企画統括部 リードディレクター 谷口 綾

まず一つは、より“ユーザーにあった”情報提供のレベルを高めたいということです。

当時は、ユーザーにとって機会損失にならないように、さまざまな切り口でユーザーの方にご案内をしていました。希望年収、勤務地、職種、人気企業など希望に沿った求人紹介から転職活動にまつわるノウハウのご案内などなど……複数の企画を掛け合わせながら、ユーザーの方のお悩みを何か手助けしたいと思っていたのですね。しかし施策を重ねるにつれ、全体の状況の把握が煩雑になっており、施策数自体は500を超えていました。最新のユーザー行動を活用して、再度施策設計を見直さなければいけないと感じていました。

もう一つは、メンバーによる運用面での課題です。

当初の配信は全て手作業のオペレーションで行っており、一度の配信を行うにあたり2時間の工数がかかってしまっていました。またユーザー条件の設定画面は初心者では扱うのが難しかったり、メンバーやプロジェクトの要望に合わせた機能の拡張が叶わなかったりしていました。もっと効率的でスピード感のある情報提供ができるのではないかと考えていました。

 

――求人の選択や進め方は転職活動をしていく中でも気持ちの変化がありますもんね。それらがユーザーにとって最適なものになっているかどうかは大事ですね。そうした課題の解決に乗り出すにあたり、なぜ内製開発を選択された理由を教えてください。

出戸:まずは手動のルールベースで配信しているメールを精査しつつ、配信ボリュームを下げて、CVRを引き上げられるようなレコメンドを増やそう、というところから着手したのですが、既存のツールではデータ連携できるレコメンド数に上限があって。拡張性が低かったので、ツールをリプレイスするか内製化するかを検討したんですよね。

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プロダクト企画統括部 マネジャー 出戸 貴博

上堀内:そうですね。その際、少なくともレコメンデーションを行うための基盤は将来性を踏まえても、内製が必要だという考えが社内にあったので、自ずと全て内製する方向に進んでいきました。

出戸:また今回主に着手したのはCRMグループが企画・配信を行うメールの仕組み改善ですが、他にも転職メディア事業やエージェント事業など、他部署の集客を起点とした配信も存在しています。いずれは各事業部とのメール配信の統廃合などを行い、ユーザーにどのような情報を提供しているのか、さらに精査していく必要があるため、ツールを内製して一つの柱を作ることで配信元を統一して行けたら、という考えもありましたね。

壁にぶつかりながらも、課題解決へ大きく前進

――開発とCRM施策の現在地を教えてください。実際に内製開発を行われた前後では、どのような変化があったのでしょうか。

出戸:まだ発展途上ではありますが、質と運用の両面の課題は解決に向け前進しています。設定条件の仕様を変更し、キャンペーン作成時に同日配信のユーザー・求人の重複率を可視化できる機能をつけたことで、同じようなメール配信を行うことが減り、500以上あった施策も1/4近く削減されました。

また、これまでは1施策単位でしか効果計測データが取得できませんでしたが、今回の開発によってキャンペーン全体でのデータ取得が可能になっています。さらに出力リストやURLなど詳細なカスタマイズも可能になったことで、より良い施策に改善していくための、分析がしやすい環境作りの第一歩になったと認識しています。

谷口:そうですね。そして運用面では、操作性を上げチェックや校閲にかかる時間を短縮できるよう、UI・UXが大幅に改善されました。

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またこれまで手動で行っていた配信の自動化によって、2時間の作業工数を0に削減できたほか、エラーのリスクも軽減。よりスピード感のあるレコメンドテストの実装が可能になりました。カレンダーごとにどの施策がだれに対して送られているかが一目見るだけでわかるように可視化してもらったことも大きな変化です。これによって、どんな施策がどの曜日に配信されているのかがわかることによってユーザーに適切な数のみのご案内に抑制することもできています。

出戸:まさにそのあたりで配信の総量を意識することができます。施策ごとに、ユーザーや求人の重複率なども可視化することで、必要以上の連絡がいくことを防ぐ効果もあります。これらはこれまでのツールだとなかなか実装が難しかった部分なので、内製開発のたまものですね。

谷口:これらによりレコメンドの頻度が上がったことが応募数の大幅UPにつながるなど、ビジネス面への貢献も見えはじめているのもうれしい効果ですね。

 

――改善が進み、着実に結果につながっているのですね。開発プロセスについてお話を伺いたいのですが、内製開発が決まってからの構築の進め方や、その過程で意識されていたことがあれば教えてください。

上堀内:materiaは弊社のAWS基盤上に作ったのですが、それを作る際にまずはレコメンドの内製化のための基盤作りがあって。周辺システムとしてレコメンドのAPIやバッチを作りながら、materiaも構築していきました。

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カスタマー企画統括部 マネジャー 上堀内 太一

僕の想いとしては、レコメンデーションを内製化して届けるシステムを基盤として持っていることが重要だと思っていましたので、そのあたりはメンバーと一緒に過去の知見を踏まえて構築していましたね。

出戸:かみさんのカスタマー企画統括のエンジニアの皆さんには、データマート構築の件もあったので、丸っとお願いをしていました。とはいえ大変だったと思いますが、なんとか形にしてもらいましたね。で、開発プロセスの中で意識していたのは……レコメンド基盤とサービスの繋ぎこみの部分です。

新たに作ったレコメンドの基盤は、社内のみが利用するものなので、サービスとは関係のないところに立てています。ですが、今回はその基盤を使ったシステムを開発し、そのシステムでユーザーに配信する、つまりサービスとつながるわけです。この両方はそれぞれ管轄する部署も異なることから、正しく適切に接続しないと想定している品質とスピードは実現し得ないという点があり、これが難しかったですね。

 

――分析環境内ではなく別で構築するにあたり、技術選定をはじめ気をつけたことや苦労されたことはありますか?

上堀内:何か特別な技術を使ったわけではないですが、セキュリティ面の仕様については厳粛なものにし、またそれを社内の情報セキュリティの方にも理解してもらう点には気を付けました。すでに分析環境はあるのですが、障害発生時など、万が一を考えたときのリスク回避のために、新たな環境を作ったのです。

出戸:例えば既存の分析環境に作ってしまうと、分析者のヒューマンエラーによって障害が起きた時に配信予定メールも止まってしまいます。個人/法人それぞれの顧客に大きな損害になってしまうことがないよう、そういったリスクを考えてやり方を決めていきましたし、一から説明していかなければいけませんでした。

上堀内:当然、持ち出すためのデータ連携も別途に分けないといけないので、持っていっていいものといけないものについて一つひとつ説明して。なかなか思うように前に進まない部分もあって、セキュリティについては本当に苦労したなという印象です。

 

――現場と開発側の調整ディレクションを行われた谷口さんは、いかがでしょうか?

谷口:セキュリティはもちろんですが、最終的に今まで使っていたツールからmateriaに入れ替える際に、「ユーザーが正しい項目に連携されているのか」を確かめる突合テストが本当に大変でした。

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件数が合わないとなった時に、考えられる原因は様々あります。求人を掲載する際の基幹システム上のステータスが営業によってバラバラだったり、また元のツールと今回のツールのタイムラグには違いがあったり、またこちらの与件の認識ずれであったり……それを営業や制作の人たちとかつてしたやりとりなども活かしながら、確認していく作業に苦労したところがありましたね。

皆が同じビジョンに向けて歩むための、共通言語に

――セキュリティや連携の面など様々苦労をされながらも、課題の改善に向け大きな一歩が踏み出された訳ですが、現場のみなさんの受け止め方はいかがですか?

谷口:現場の方はやはり、新しいものをどんどん取り入れて既存のやり方を変えていく、というよりも現状を維持していく指向をお持ちの方が多く、最初に勉強会を行った時は抵抗感を示されることが主でした。

ですが1つのマイナスがあっても、10のプラスがあることを具体的に操作しながら説明して。それを受けて、もっと勉強したいと言っていただき、現在はmateriaを使用するグループのみなさんに向けて、毎週勉強会の場を設けています。そこで以前のツールとの思想や操作の違いをご説明したり、みなさんからの疑問に対して都度お答えしている形です。

上堀内:地固めはまだ必要ですね。以前のツールしか使っていない人たちには、昔の方がよかったように見えるはずです。それは悪いことではなく、ここから「何のために開発し、どのように変化したのか」について理解を得て、広く使われるようになるまでが、materiaにとっての助走段階になるのかなと思います。

出戸:そのために全体的なルールや戦略について事業横断でコンセンサスを取っていかなければと、今回改めて感じましたね。

 

――積極的に使えるようになってくると、活用の幅も広がりそうですよね。現場の理解という点の他に、今後はどのような課題があると認識されていますか?

上堀内:応募効果をはじめ、ユーザーにとって本当に価値ある情報が提供できたと言える成功体験を積み重ねていくことが、これからの課題だと理解しています。

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谷口:そうですね。先ほどお話ししたように、今回の開発をきっかけに応募数が増えました。これは「人の手を介在させず自動化し、エラーをなくしつつ、ユーザーに価値ある情報を送ることができた」という一つの結果だと思いますが、あくまで直近のKPIに過ぎません。この先は、ユーザーに「新しいはたらき方の提案」という価値提供ができたのかどうか、応募という指標からさらに分析を深めていくことが必要です。

 

――UI・UXのさらなる改善や、効率的でスピーディなレコメンドテスト、分析の強化などによって、より一人ひとりにあった企業情報を提供できる基盤を作る。さらにその先に、その情報提供がユーザーの「はたらく」に価値を与えられたか、の視点が必要になるのですね。最後に、1年半取り組まれてきたことや今後に対する思いを、それぞれお聞かせください。

谷口:今回は、新たに作り上げたものが実際に使われる時の、ユーザーのハードルをいかに越えるか、という点がとても勉強になりました。またエンジニアリングや他職種の仕事について、貴重な知見を得られる機会だったと感じています。全てがうまくいった訳ではなく壁にぶつかりながらでしたが、これからも精進していきたいなと思います。

出戸:私は、開発を行ったこと自体よりも、そういったソリューションをもったことで事業側と会話がしやすくなったことが、とてもよかったと思っています。

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今、社内では事業部内のカニバリを調整してマッチングを最適化するプロジェクトが動いていて。事業側のメンバーとプロダクトやマーケティングのメンバーが入って配信の統廃合などをしていこうとする、その前段階にいいものができたと思うので、切り札としてmateriaを活かしていけたらと思いますね。

 

――ユーザーとのコミュニケーションに対する考え方は事業ごとにそれぞれだと思うので、統一していくにあたっての柱ができたことは大きなきっかけになりますよね。上堀内さんはいかがですか?

上堀内:私も同じように感じています。特に今回は、色々な人が色々な目線で仕事をしているのだと感じられる機会でした。それぞれの部署や立場の人にそれぞれの考えややり方がありますが、一つのビジョンを目指して取り組むために「話をする場」が今回できたと思いますし、そのビジョンに向けて推進していくためのツールになればいいなと思っています。

――単に「ツールの開発」「一施策の改善」ではなく、組織が大きく変化するきっかけになりそうです。これからの更なる発展が楽しみでなりません。本日はありがとうございました!

(取材・文=伊藤秋廣(エーアイプロダクション))

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出戸 貴博 Takahiro Deto

プロダクト企画統括部 プロダクト企画部 プロダクト企画第2グループ マネジャー

新卒は広告代理店にてPaid集客の運用コンサルタントに従事。その後、某HR企業にて転職サービスのデジタルマーケティング戦略企画・KPI管理等を担当したのち、開発ディレクターに転向。Webサイトのエンハンスから内製メール配信基盤システム開発、CRM戦略企画等を担当したのちフリーランスとして独立し、その後エンジニアとしての仕事も開始。Webフロントエンド/バックエンドおよびReact Nativeをつかったネイティブアプリの開発などを経験、フリーランスを継続したまま2018年パーソルキャリアに入社。データビジネス系部署にてデータ戦略周りの企画を行ったのち、プロダクトへ移動。PDMを経たあと、2020年4月からマネジャーに着任。同年10月からデータ専門組織、データアナリティクスGを発足させ当該部署のマネジャーおよび、他Web系担当する計3つのグループのマネジャーを兼務。現在は退職。

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谷口 綾 Aya Taniguchi

プロダクト企画統括部 プロダクト企画部 プロダクト企画第1グループ リードディレクター

前職では、通販会社にて自社サイトの改善、メールマーケティングのUI改善や配信基盤の改修業務に従事

2015年9月~パーソルキャリアに入社、前職の知見を活かしメール施策のPDCAに携わる。現在はmateriaの利便性向上のため、ディレクターとして引き続きPJTを進めている。

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上堀内 太一 Taichi kamihoriuchi

カスタマー企画統括部 カスタマー企画部 ビジネスサイエンスグループ マネジャー

大学卒業後、SIerに入社。大手通信企業のバックエンドシステムの開発保守業務を皮切りに、エンジニア畑を歩む。とある人材サービスの現場において、ビッグデータ、レコメンデーションにまつわる業務に従事。当時の経験や体験をもとに自身で人材ビジネスのソリューション開発を志し、2018年10月にパーソルキャリアに入社。データエンジニアとしてスタートし、現在は所属のデータマネジメントグループ、ビジネスサイエンスグループのマネジャーとして、dodaのデータプラットフォーム構築支援、レコメンド施策の支援を行っている。

※2021年3月現在の情報です。