ハジメテノオトから始まる

どっちがどっち?

まずは 下の2つの図について 始めてみたいと思います。

2つの図

仮に、この どちらかの図に対して "ブーバ(: Bouba; /ˈbuːbə/)"、どちらかの図に "キキ(: Kiki; /ˈkiːkiː/)" と 名前をつけるとするならば、どっちが "ブーバ" で どっちが "キキ"になる?" と尋ねたとします。

すると おおよその人が、右の丸っぽい図の方を"ブーバ"、左の尖った図の方を"キキ"と 答える傾向があることが知られていて、2001年 UCSD の V. S. Ramachandran 達が 最初に これをまとめて報告し "ブーバ-キキ 効果(: Bouba/kiki effect)"として知られるようになりました。

(Ramachandran, V., & Hubbard, E. M., Synaesthesia- A window into perception, thought and language. Journalof Consciousness Studies, 2001, 8(12), 3.34.

日本語版だと
V. S. ラマチャンドラン, E. M. ハバード "数字に色を見る人たち--共感覚から脳を探る"

別冊日経サイエンス 第157号, 日経サイエンス 2007, 30-39p, ISSN 09170626. NAID 40015641047. )

 

この "ブーバ-キキ 効果" の面白いところは、英語圏のみならず 様々な言語圏でも似たような傾向があるところで、発音の特性と視覚的なイメージの結びつきに起因する現象のようにも思えます。また、Wikipediaの関連ページを見ると ゲシュタルト心理学との関連性も示唆され 中々 興味深い現象だと見ています。

(Kohler, W. , Gestalt psychology, an introduction to new concepts in modern psychology. New York: Liveright, 1929)

 

Water!!

ところで 私たちは、一体 いつ頃から言葉の持つ意味性を理解し始めたのでしょうか?

 

言語の習得性について 今更 ピアジェ - チョムスキー に争っていただかなくとも

(Piatelli-Palmarini, M (Ed.), Language and Learning: The Debate between Jean Piaget and Noam Chomsky. London: Routledge and Kegan Paul, 1980, ISBN: 978-0710200235)

言語の多様性 例えば 虹の色数からの言語的表現と認識などが 国によって異なる話のような 言語的相対論 または サピア=ウォーフの仮説 についての検証として 脳内-言語野の活動具合を見るに、生成文法などの言語科学者の言うような "普遍的な心的言語" と言うのは ちょっと難しそうで、ピアジェ的な 言語習得に関しての モデルが良いように思えます。

# とは言え、角田理論ほどの主張だと どうにも賛同しにくいのですが...

 

この辺りのモデルについて、今井 むつみ 先生, 秋田 喜美 先生の書かれた "言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか" に 中々興味深い説が 展開されています。

(今井 むつみ, 秋田 喜美 "言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか" 中公新書 2756, 中央公論新社 2023, ISBN: 978-4121027566.

または、

ゆる言語学ラジオ, "認知心理学者が語る、言語を習得する鍵は「アブダクション」#191" YouTube 2023/01/03, https://www.youtube.com/watch?v=hNULhZPWmD8&t=3942s .

が、中々 良いまとめになっているように 思える...)

 

 要は、先の ブーバ-キキ 効果 のように、生後間もない発達段階の子供は オノマトペを元に言語を構築し、生活における言葉のやり取りの中 アブダクション推論を元に 言語理解を広げていくモデルは、中々 納得できるところもあり 興味深く見守っているところです。

 

 また、このモデルを仮定すると 例えば 酒井 邦嘉先生の最近の論文 "Enhanced activations in the dorsal inferior frontal gyrus specifying the who, when, and what for successful building of sentence structures in a new language"に 見るような、多言語習得でも L. IFG の 特に音に関する部位における反応の強さも 先の言語習得と何か関係があるのかが気になります。

# 発達段階における オノマトペでの言語習得とウェルニッケ-ブローカ-ミラーニューロンの反応変化を見ればいいのでしょうかね?

(Umejima, K., Flynn, S. & Sakai, K.L. Enhanced activations in the dorsal inferior frontal gyrus specifying the who, when, and what for successful building of sentence structures in a new language. Sci Rep 14, 54 (2024), https://doi.org/10.1038/s41598-023-50896-6 .)

 

 他にも、2025 年頃 公開予定となっている "子ども版日本語日常会話コーパス" にも、言語の意味形成と深化と言う観点で高い価値があるように思えます。

私たちは、発達の段階(生育 間もない頃から) 目にみえる Object に対して オノマトペによる名詞-動詞化による発話状態から、対話などを通して いかに複雑な言語世界を構築していくのか? この"子ども版日本語日常会話コーパス"から 意味醸成における過程の一片でも 触れられることを期待しています。

# おそらく、言語的な概念形成においての難所や 詳細-複雑化のポイントなどが 単語のパターン数や出現頻度で見えると良いなぁ...

(小磯, 花絵, 天谷, 晴香, 居關, 友里子, 臼田, 泰如, 柏野, 和佳子, 川端, 良子, 田中, 弥生, 滕, 越, 西川, 賢哉, 『子ども版日本語日常会話コーパス』の構築, Proceedings of Language Resources Workshop, 1970: 国立国語研究所, 巻 1, p. 103-108, 発行日 2023, https://doi.org/10.15084/00003729 .)

 

まとめ

 最近読んだ本の紹介を、やはり 最近 読んだ論文を絡めた雑感として 書かせていただきました。

最近は、LLMによる学習モデルでは カバーできない言語の問題について考えていたりします。

ウィトゲンシュタインの呪いによって、止む事のない私の思考も また言語化され、学習データの中に組み込まれて行きますが、その 一歩先の場所を探しつつ 上手に進めればと思っています。

# ちなみに、先の"ブーバ-キキ 効果"は Google Gemini で 当てられたので マルチモーダルについても 考えなければならないと感じています...

 

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yyt2

デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 アナリティクスグループ リードデータアナリスト

娘に振り回されっぱなしの毎日です。

 

※2024年4月現在の情報です。