ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

いまやプロダクトの成長に欠かせない存在として、プロダクトマネージャー(以下、PdM)の役割があります。転職サービス「doda」では、PdMの役割を以下のように定義しています。*1

プロダクトマネージャーとは、企業が提供するプロダクトの企画や開発、マーケティング、販売や改善などを一貫して管理する役割を担う職種です。

しかし、PdMの役割は企業によって大きく異なる傾向にあります。また、プロジェクトマネージャー(PM)やプロダクトマーケティングマネージャー(PMM)との協業が進むなど、時代の変化に伴いその役割は日々変化しているのが現状です。

そこで今回は、ダイレクト・ソーシング・サービス「dodaダイレクト」のサービス運営を担う、タレントソーシング事業開発本部 プロダクト統括部 プロダクトマネジメント部でゼネラルマネジャーを務め、自身もPdMとして多くのメディアでその役割を伝えてきた真崎豪太に話を聞きます。この先求められるPdMのスキルやキャリアとは――存分に語っていただきます。

 

いつもつらいと思い続けていたPdMという仕事も気づけば13年――市場におけるPdMの役割の変化や潮流、そしてパーソルキャリアの現在地

 

――本日はよろしくお願いします。まずは真崎さんの自己紹介をお願いします。

真崎:新卒でソフトバンクに入社して、そこからPMやPdMという仕事を13年ほど行っています。当時コールセンターのスタッフ業務のシステム化(DX化)や、My SoftBankというアプリの企画とかをやっていました。

その後創業直後のフォトシンスに入社し、鍵の開け閉めをスマホでできるIoTスマートロック「Akerun」というプロダクトを担当していました。次にDeNAに転職をして、今の「タクシーアプリGO」を立ち上げから約4年ほどPdMとしてかかわり、メルカリで新規ビジネスの立ち上げ、そのあとはフリーランスとしていろんなスタートアップのプロダクトマネジメント支援をして、ご縁あって去年の10月にパーソルキャリアに入社しました。

タレントソーシング事業開発本部 プロダクト統括部 プロダクトマネジメント部 ゼネラルマネジャー 真崎 豪太

タレントソーシング事業開発本部 プロダクト統括部 プロダクトマネジメント部 ゼネラルマネジャー 真崎 豪太

――新卒から長くPMやPdMを担当されていますが、ご自身ではPdMがあっていると感じていたのでしょうか?

真崎:これまで本当にプロダクトマネージャーの仕事がつらすぎて仕方なかったんです(笑)正直ずっとキャリアに悩んでいましたよ。

どうしても上からも下からも横からも、挟まれやすい仕事なんですよね。経営者や事業責任者からはプレッシャーをかけられますし、エンジニア、デザイナー、CSからも色んな意見や要望が来る、板挟みになりやすいんです。

ただ、その中をうまく立ち回りつつ、よい体験をお客様に届けたい、一度走り出したら最後までやり遂げたい、という気持ちが強いんです。だからやり続けられたのかもしれません。

 

――最近では、PdMという役割が定着し、求められるようになってきていると感じます、その背景についてどのように考えていますか?

真崎:そうですね。プロダクトマネジメントの歴史から振り返ってみましょう。プロダクトマネジメントはシリコンバレーで発展し、2010年代ごろから外資系企業を中心に日本にも浸透し始めました。

国内企業では2015年ごろから徐々にスタートアップやメガベンチャーを中心に、PdMというポジションが取り入れられてきました。最初はIT・テック企業が中心でしたが、ここ5年ぐらいで非ITの大手企業も、ディレクターやプロデューサーと呼んでいた職種を「実はPdMではないか」と見直し始めた印象があります。

ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

その背景として、テック企業では“ソフトウェアそのものが商品”であるため、商品開発のポジションとしてPdMが不可欠です。一方、DXの波が大手企業にも押し寄せ、ソフトウェアの事業化が重要視されるようになりました。

 

いまでは、製造や小売、金融などの領域でも、SaaSサービスや自社アプリの開発により積極的に踏み込む企業が増えています。これは、既存事業の一部としてシステムを外注するだけではなく、自社で“サービスを作って売って改善し続ける”体制を整える必要性が高まったためです。

 

――パーソルキャリアでのPdMの現在地についても教えてください。

真崎:弊社でも時代の変化に対応し、数年前からプロダクトマネジメントの強化として、PE制度(テック系職種)の拡充や採用を進めてきました。特に、経営層がPdMの重要性を理解しているため、大きなサポートを得られています。

ただ、弊社においては「PdM」という職種名はまだ設けられておらず、現状は「ディレクター」という役割がプロダクトマネジメントを担っています。そのため、社内への浸透はまだまだこれから進んでいくような段階です。

 

PdMは“デジタル領域における継続的な顧客体験の向上に責任を持つ”――事業領域の本質や他職種との混在を解く

 

――パーソルキャリアに限った話ではないと思いますが、ディレクターとPdM、まだまだ職種役割が混在しているところも多いように感じます。どのように区別されるのでしょうか?

真崎: 実態として、弊社の多くのディレクターはPdMに近い業務を担っていると思います。ただし、PdMはデジタル領域における継続的な顧客体験の向上に責任を持ち、企画からリリース後の改善まで広範囲に関与する点が、従来のディレクターとの違いです。とはいえ、実際の現場では、PdMとディレクターの境界が曖昧で、両者の役割が混在しているのが現状です。

 

――デジタル領域にける継続的な顧客体験の向上、という観点で言うとITコンサルタントやPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)との違いも教えてください。

真崎:まずITコンサルタントは企業内の課題解決や単発のプロジェクト進行に特化するケースがあり、商品開発やプロジェクト完了後の継続的な改善までは担当しないことがあります。

次にPMMは、主にプロダクトの企画やマーケティング領域を通じてビジネスの拡大にフォーカスするのが特徴です。PdMとは密接に連携しており、「次にどんな体験・機能を追加すれば、中長期のビジネス・プロダクトのビジョンを実現できるか」といった議論を一緒に繰り返し行っています。

ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

企業規模が大きくなるほど、PdMとPMMの分業が進む傾向にありますが、明確な業務範囲が定められているわけではありません。パーソルキャリアにおける私の役割の一つは、こうした業務の重なりを整理してPdMの担当領域を明確にし、より効果的にビジネスの拡大と顧客体験を良くすることだと考えています。

 

ビジネスに資するPdMとは――この先求められるPdMのあるべき姿を探る

 

――PdMはデジタル領域における継続的な顧客体験の向上に責任を持つとなると、時にビジネスと顧客体験のどちらを優先するのか――ここも板挟みになりやすいような気がします。ビジネスに資するPdMとは、どのような存在でしょうか?

真崎:ビジネスを成立させながら、顧客体験の向上とのバランスを取れる存在ですね。どちらを優先すべきか迷うPdMも少なくありませんが、ビジネスを優先する中で価値ある体験をどのように創出するかが重要です。

とはいえ、顧客体験が損なわれれば、ユーザーの支持は得られず、ビジネスも成立しません。だからこそ、PdMには事業の成長とユーザー満足度の両立を常に意識しながら、的確に意思決定をすることが求められます。

 

――ビジネスを成立させながら顧客体験を高めるには、どんなスキルが必要だと考えますか。

真崎:私個人としては「どこにベクトルを向けるかを見極めるセンス」だと考えています。これは一般的なプロダクトマネジメント論においてあまり語られることのない意見ではあります。

バランスを取りながら適切に判断する力がなければ、様々なステークホルダーとの摩擦が生じたり、板挟みになったりすることもあるでしょう。しかし、どこかに必ず突破口があるので、PdMには中立性を保ちながら柔軟に方向転換できる能力が欠かせません。

ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

ただし、単に調整するだけではなく、確固たる「思想」を持つことも重要です。世の中には類似するサービスが数多く存在しますが、その中で「なんだか使いやすい」「競合とは違う魅力がある」と感じさせるのは、デザイナーやエンジニア・PdMなどの作り手の思想やコンセプトが明確に反映されるためです。

PdMとして譲れないポイントを明確にしながらも、進め方や優先順位は柔軟に調整する。その姿勢こそが、ビジネスと顧客体験の両立につながります。

 

――PdMとして成長するために必要なことは何でしょうか?

真崎:多くの打席に立つことだと思います。打席に立った回数が多いPdMほど、意思決定のスピードが速く、対応力の幅も広いと感じます。そのため、できるだけ多くの打席に立つことが大切です。

打席も大きな打席から小さな打席までいろいろあると思います。ただ、サービス改善のための小さな機能リリースも1打席。PdM組織としてそういう数をいかに増やしていけるか、が大切ですね。

 

――真崎さんは、社内でもPdMの育成にも力を入れていると聞いています。その中でPdMのハードスキルを記した以下のスライドも拝見しました。これらすべてを理解していた方が良いのでしょうか?

ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

真崎:知らないよりは知っておいた方がいいと思いますが、ポイントなのは学び続ける姿勢だと思います。ビジネスと顧客体験を両立させるためには、PdM自身が幅広い知識・経験とセンスを培う必要があります。

しかし、すべてを個人で完璧にこなすスーパーマンでいる必要はありません。大切なのは、PdMそれぞれが補完し合い、チームとしてプロダクトマネジメント力の総和を大きくすることです。弊社としても組織全体でバリューを最大化できる体制を整えることに注力したいと考えています。

 

人材とテクノロジーの融合で挑むPdMの可能性、パーソルキャリアの次なる挑戦

 

――いまだからこそ感じられる、PdMの面白さを教えてください。

真崎:生成AIの登場により、プロダクト開発の土台そのものが大きく変わりつつあります。AIは単にチャットで回答するだけでなく、Web操作までこなす“AIエージェント”と呼ばれる仕組みが登場し、プロダクトの在り方自体が進化しています。

その中でも、採用・HRの分野は特に大きな変化を体感できる領域です。なぜなら、転職エージェントやキャリアアドバイザーなど、「エージェント」という言葉自体が人材業界では広く使われており、親和性が高いと考えるからです。

ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

さらに、HR業界は以前から市場やテクノロジーの変化に敏感な業界でもあります。新しい技術が登場するたびに、その可能性をいち早く探り、採用やキャリア支援の現場でどのように活用できるかを模索し続けることがこれからも求められます。

人材業界において、AIが人手に代わってどこまでサポートできるのか、人とAIがどのように共存しながら価値を高め合えるのか――これを最前線で考え、挑戦し続けられることこそ、HR業界のPdMの醍醐味でしょう。

 

――パーソルキャリアでそれらを成し遂げる醍醐味は、どのような部分でしょうか?

真崎:パーソルキャリアの特徴は、人の温かさを大切にしている点にあります。AIが進化し、人のように対話できる時代になったとしても、最終的には人間の想いや判断が求められる場面が多く残ると考えています。人の心はそんなにシンプルではなく、むしろAIが普及するほど“生身の人間”の価値がより一層高まる可能性もあります。

「AIで自動化できるものはすべて置き換える」という考え方を持つ企業もあるかもしれません。一方で、弊社は人の温かさを大切にするという価値観を持つ会社です。、そのため、AIをどのように取り入れ、人間らしさをどのように活かすかを模索したい人にはおすすめな環境だと思います。

 

――最後に、今後の展望について教えてください。

真崎:短期的には、まず社内で「プロダクトマネジメントを明確化・構築したいと思っています。その上で、PdMは他のテック系の職種の皆さんと連携し、より良い顧客体験を提供しつつ、効率的な技術基盤を整えていく必要があります。

中長期的には、AIエージェントが本格的に活躍する時代を見据え、“AIフレンドリー”なプロダクトマネジメントの構築が不可欠です。

具体的には、システムの設計からコードベースに至るまで、AIが理解しやすい仕組みを整え、その上で新しい時代の顧客体験を追求することが求められます。これは非常に魅力的なチャレンジです。AI時代への適応を見据えながら、次なる大きなイノベーションに備えていきます。

ビジネスに資するプロダクトマネージャーとは――真崎豪太に聞く、PdM論

――ありがとうございました!

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/写真=原野純一(PalmTrees inc. )

 

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真崎 豪太 Gota Masaki

タレントソーシング事業開発本部 プロダクト統括部 プロダクトマネジメント部 ゼネラルマネジャー

新卒でソフトバンクに入社し、DXプロジェクトマネージャー(PjM)やMysoftbankのプロダクトマネージャー(PdM)を担当。その後、正社員としてAkerun Pro、タクシーアプリGO、メルカリの新規事業のPdMを担当し、フリーランスとしてスタートアップ数社に携わる。2024年よりパーソルキャリアにて「dodaダイレクト」のゼネラルマネジャーを務める。

※2025年2月現在の情報です。