なぜ、“レガシーの壁”に、あえて挑むのか――複雑に絡み合う技術的負債、分断された組織構造、そして限られた人と時間。変革の前に、いくつもの制約が立ちはだかります。それでも、その壁に真正面から向き合い「できることから確実に変えていく」と語るのは、2025年2月に中途入社した馬場 龍(ババ リョウ)です。
現在、法人向けプロダクトの中でもスカウト領域を担う、「doda ダイレクト」の開発組織を率い、レガシーシステムのリアーキテクチャと開発カルチャーの再構築に挑んでいます。
制約の多い環境でも、なぜ進化を止めずに挑戦し続けられるのか。理想と現実のはざまで組織を導く、その思考とアプローチを追いました。
- 長年にわたり積み上げてきた組織に眠る、本質的な課題と変革の可能性
- 成熟した環境に必要なのは、“変わる意思”を持つ人の存在
- “今しかできない変化”に向き合い、エンジニア起点で挑む――技術的負債とカルチャーの再構築
- 変化を“仕掛けられる”組織で、自らの意思で挑戦するということ
長年にわたり積み上げてきた組織に眠る、本質的な課題と変革の可能性
――本日はよろしくお願いします。まずは、馬場さんのこれまでのご経歴と現在の役割を教えてください。
馬場:SIerの客先常駐型エンジニアとしてキャリアをスタートしました。当時担当していたのは、市役所や公共系のシステム開発です。その後、Web系の業界へ移り、D2CのWebメディア事業や、ソーシャルゲーム全盛期にはエンタメ系サービスの開発など、幅広い領域に携わってきました。
6社ほど異なるカルチャーや成長フェーズの現場を経験し、2025年2月にパーソルキャリアへ入社しました。現在は、「doda ダイレクト」を中心とした法人向けプロダクトの開発組織で、ゼネラルマネジャー(GM)を務めています。エンジニアやITコンサルタントのデリバリー全体に責任を持ち、技術的負債の解消や開発カルチャーの再構築に取り組んでいます。
――パーソルキャリアに入社してみて、これまで経験してきた企業とのギャップはどのように感じましたか?
馬場:これまでは、上場していながらも、高い成長意欲を持つベンチャー企業に長く貢献してきました。企業としては成長フェーズにあり、組織にも活気が満ちていましたが、制度や基盤の整備はまだまだ追いついておらず、改善の余地が大きい環境でもありました。
一方、パーソルキャリアに入社してまず感じたのは、組織の成熟度の高さです。マニュアルやルール、手順書といった仕組みが非常に整っており、手続きや承認フローも細かく定められています。ただ、その反面、ルールの多さや煩雑さが、現場での生産性を落とす原因にもなり得ると感じたのも事実です。私はむしろそこにこそ変革の余地があると思っていて、「その実情を自分の目で見ること」が入社の動機のひとつでもありました。
もうひとつ印象的だったのは、レガシーなシステムの存在です。長年にわたり拡張され続けてきたことで、構造が複雑化し、いわゆる技術的負債が積み重なっていました。正直、想像していたより課題感があると感じましたね。ただ裏を返せば、それだけ事業が継続してきた証拠でもあります。
だからこそ、今のパーソルキャリアで、それらを変革していくことに大きな価値があると感じています。
成熟した環境に必要なのは、“変わる意思”を持つ人の存在
――一般的に、事業拡大とともに増えてしまうルールを整備していく際、どのようなポイントを意識すればよいのでしょうか?馬場さんが考えるポイントを教えてください。
馬場:経費精算のマニュアルを例に挙げると、前職では10〜15ページほどで、不明点は各部署に直接確認するスタイルでした。しかし、パーソルキャリアでは、これまでの運用で蓄積されたさまざまなパターンに対応できるように改訂してきた結果、マニュアルは5倍近いボリュームになっています。そのため、ユーザーが迷わず使えるよう、マニュアルの構成やインターフェースも適宜見直していく必要があると考えています。
さらに、こうした仕組みの複雑さを乗り越える手段として、生成AIの活用も有効です。人がルールに振り回されるのではなく、AIが橋渡しをすることで、本来の業務に集中できる環境を整えていくことが理想ですね。
――馬場さんが現在管掌されている領域についても伺います。長い歴史の中で煩雑になった部分の改善として、具体的に取り組んでいることを教えてください。
馬場:組織全体のパフォーマンスを高めるため、まずは見えにくい業務ロスや非効率な時間の把握と整理から着手しています。
前提として、”現場が大変“といった曖昧な感覚だけでは、課題解決は進みません。さらに、パーソルキャリアは複数の部門にまたがるマトリクス型の組織構造のため、現場の実情が他の指揮系統からは見えにくくなりがちです。
そこで今期から、私たちの部門では「どの業務で、どれほどの負荷がかかっているのか」を可視化する取り組みを始めました。これにより、物理的な作業時間だけでなく、”見えにくい非効率”となっているスイッチングコストや煩雑な手続きにもアプローチできるようになります。
特にエンジニアが生産性を高めるには、“まとまった集中できる時間”を、どれだけ確保できるかが重要です。そのため、何に時間が奪われているのかを可視化し、各所に改善を働きかけていく土壌も整えようとしています。
――技術的な取り組みについても教えてください。
馬場:1年ほど前からシステム全体の構造を見直し、将来的には生産性を4倍に高めることを目指しています。というのも、基幹システムであるBAKS(バックス)やARCS(アークス)は、長年の運用により、拡張・改修を繰り返してきた結果、非常に複雑かつ大規模なモノリシック構造になっているんです。
この状態では、新たな機能を追加する際、影響範囲の調査やリスクの洗い出し、テスト工程などに膨大な工数がかかり、結果としてリードタイムも長期化してしまいます。実際、以前は新機能のリリースに数カ月かかることも珍しくありませんでした。
こうした課題を解消し、さらなる事業成長に繋げるため、現在は本格的にシステム全体のリアーキテクチャに着手しています。
“今しかできない変化”に向き合い、エンジニア起点で挑む――技術的負債とカルチャーの再構築
――そうした変革を進めるうえで、馬場さんが大切にしている組織づくりの考え方を教えてください。
馬場:私が常に意識しているのは、「ルールよりカルチャーを作る」ことです。もちろん、最低限のルールは必要ですが、それ以上に、一人ひとりが良い行動を選べる空気をどう育てるかが重要だと思っています。
カルチャーとは、明文化されていないものの、みんなが自然と共通の価値観で振る舞う“柔らかいルール”です。それがやがて、組織の土台を支える力になります。
理想は、そうしたカルチャーによって、組織が自律的に変化を起こしていく状態です。ただ、最初の変化を生むには、強い意志と行動で周囲をリードする人が必要です。パーソルキャリアには、そうした意思を持ったリーダーたちがいます。
例えば、doda ダイレクトの開発組織では、生成AIを積極的に取り入れようとする動きが自然に起きています。社内Slackに専用の部屋を作り、使い方や知見をシェアし合う。そこには、「変わりたい」という自発的な意思があるんです。
――価値観を共有し、自発的な行動が生まれる組織づくりに向けて、現場ではどのような工夫をされていますか?
馬場:現在進めているリアーキテクチャでは、社内のエンジニアが提案してくれた、「DDD(ドメイン駆動設計)」という設計手法を取り入れています。私自身、概念としては理解していましたが、実際にプロジェクトで取り組むのは初めてで、既存システムの複雑さもあり、簡単な道のりではありません。
また、こうした設計手法を取り入れるということは、システム構造そのものを抜本的に見直すことを意味します。プロジェクト完了後も継続的な開発・運用が求められるため、より多くのメンバーを巻き込みながら体制を整えていく必要があります。
そこでまずは、“ファーストペンギン”となるエンジニアが方向性を示し、他の人へ知見を共有しました。そして、一定のレベルに達したメンバーが、次は周囲への展開や品質担保にも関与していく。そうすることで、能力のある個人に依存したプロジェクトではなく、組織で育て、共有するフェーズへと進化しています。
私の入社前から始まっていた流れではありますが、「変化を根づかせる」好例だと感じています。
――組織づくりで人の力を重視されている印象があります。そうしたマネジメントのスタイルは、どのように築かれてきたのでしょうか?
馬場:最初から今のようなマネジメントスタイルだったわけではありません。マネジャーとしてのキャリアを歩み始めたころは、プレイヤー視点が強く、かなり独りよがりだった自覚があります。
というのも、以前勤めていた会社で初めてマネジャーを任された際、初年度の評価で「この1年で誰一人として成長させていない。だから0点だよ」と厳しく指摘されたんです。当時は、本当にグサッと刺さりましたね(笑)
ただ、この経験をきっかけに、自分のマネジメント観が大きく変わりました。今では、組織としての成果はもちろん、メンバーの成長を促すことも同時に追求していくことが大切だと強く感じています。その両方をどう実現するかを常に考えながら、日々の関わり方や意思決定をしています。
――開発組織として高い目標を掲げている中、多くの難しい判断を迫られるかと思います。馬場さんが取捨選択する際に意識しているポイントを教えてください。
馬場:「選択と集中」は常に意識しています。リアーキテクチャに注力するためにも、より限られたリソースで目の前の改善活動を進めていかなければなりません。同時に、リアーキテクチャ後を見越して、ドキュメント整備や品質改善、運用体制の再設計なども考えていく必要があります。
そのため、今進めなくていい取り組みの優先順位は一時的に下げ、未来へ地続きに繋がるアプローチにトライする――これは場当たり的な判断ではなく、将来から逆算して「今このフェーズでしかできないこと」「将来に向けて種をまくこと」を軸に選択しています。
変化を“仕掛けられる”組織で、自らの意思で挑戦するということ
――ここまでのお話から「変化を楽しむ姿勢」が伝わってきました。そんな馬場さんが、なぜ今このタイミングでパーソルキャリアでの挑戦を決めたのでしょうか?
馬場:いくつかありますが、大きな理由のひとつは「過去に挑戦しきれなかった悔しさ」です。技術負債やレガシーシステムの問題は、多くの企業が抱える「あるある」です。ただ、本気で刷新するには高い技術力が求められるうえ、経営の視点では「既存の課題を解消するコスト」と捉えられがちなんです。
私自身、過去にも技術的負債の解消に取り組みましたが、経営判断や資金面の壁に阻まれ、実現には至りませんでした。
その点、パーソルキャリアでは「単に負債を清算する」ことが目的ではなく、「事業成長の土台を築く」という明確な経営戦略が掲げられています。経営層も現場も、システム刷新を未来への投資だと捉えており、腰を据えて取り組める環境が整っている。だからこそ、本気で挑戦できると思えたんです。
もうひとつの理由は、私自身の性格的な部分で、「追う側にいたい」という思いが強いんです。強力な競合やライバルがいる中で、どう競争し、どう価値を生み出していくか――その挑戦自体に、大きなやりがいを感じています。
――最後に、今のパーソルキャリアではたらく魅力を教えてください。
馬場:パーソルキャリアは今、組織として「本気で変わろうとしているタイミング」にあります。仕組みが整っているがゆえの難しさや、レガシーシステムの複雑さなど、課題は決して小さくありません。
しかし、それを乗り越えるための戦略、そのための投資意思が組織にある――だからこそ、今は多くの挑戦機会を得られるフェーズだと思います。変化に対して緊張感を持ちながら楽しめる方にこそ、ぜひ挑戦してもらいたいですね。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/写真=鳴嶋 由紀)
馬場 龍 Ryo Baba
クライアントプロダクト本部 テクノロジー統括部 スカウトプロダクト開発部 ゼネラルマネジャー
パーソルキャリアのdodaダイレクト開発担当ゼネラルマネジャーとして、システム開発組織のマネジメントを担当。SIerで主に自治体向けSEとしてキャリアをスタートし、iPhoneアプリ・Webシステム受託のスタートアップ参画を機にWeb系に転向。以降、モバイルゲーム開発、ECサイト構築、Webメディア開発などを数社で歴任した後に、前職では100名前後のエンジニア・デザイナーを擁する組織立ち上げと組織統括などマネジメントの幅を広げてきた。2025年2月にパーソルキャリアへ入社。「マネージャーは人と組織を育ててなんぼ」が持論。
※2025年6月現在の情報です。