パーソルキャリアの基幹システムは、2021年4月よりオンプレミスからOracle Exadata Cloud@Customer(以下、ExaCC)とOracle Exadata Cloud Service(以下、ExaCS)のハイブリット環境へ移行しました。
これは「主力事業を支える基幹システムだからこそ、段階的に安全な移行を」という意図で行われた、いわば“クラウド移行プロジェクトのシーズン1”としての取り組みです。
そしてこの一段階を経て、ハイブリッド環境でも十分にシステムの性能を発揮できると明らかになったことから、2022年8月、“シーズン2”として本番環境も含めたすべてのシステムがExaCSへ移行されました。
シーズン2にあたり、理想と現実のはざまで、どのように取り組みが進められたのでしょうか。プロジェクトをリードするインフラ基盤統括部 システム共通BITA部 シニアコンサルタントの佐藤隆一と、シーズン2から参画した同部署のシニアエンジニア石田、リードエンジニア松原に話を聞きました。
- ハイブリッド環境での安定稼働を経て、いよいよExaCSへの完全移行へ
- 問題が起きたときこそ成長のチャンス より良いシステムとその安定運用を目指す
- “クラウドらしさ” を発揮できる環境づくりで、クラウド移行の効果を最大化したい
ハイブリッド環境での安定稼働を経て、いよいよExaCSへの完全移行へ
――まずは、シーズン2始動の背景からお聞かせください。
佐藤:まず本プロジェクトは、基幹システムの本番環境を、従来のオンプレミス環境のEOSLが近づいたことを機にクラウド移行しよう、というところからスタートしています。そしてその中で、いきなり全面的にパブリック環境を使うのはリスクが大きいため、第一段階として “ExaCC・ExaCSのハイブリッド環境” へ移行したのがシーズン1の取り組みでした。
シーズン1を終えて運用を行う中で、クラウド上でのシステムの安定稼働が本番環境でも確認できたことから、これなら安心して次のフェーズに移れると感じていました。ちょうどExaCCのEOSLも近づいていたため、このタイミングで当初の計画通り完全移行を行おうと始動しました。
――石田さんと松原さんが新たにプロジェクトにジョインされていますが、お二人はどのような役割を担われたのでしょうか。
佐藤:完全移行自体が完了し、これから安定運用していこうというタイミングでお二人がジョインされました。
石田:役割としては、完全移行後に発生した性能・コスト面での課題改善に2人で協力して取り組んでいます。
現在はOracle社とのやりとりは佐藤さんを中心に行っていただいていますが、今後はその辺りも引き継いでいきたいなというところです。
――お二人はプロジェクトのこれまでのプロセスを聞いて、どのような第一印象を持たれましたか?
石田:前職がSIerでさまざまなシステムを見てきましたが、完全移行前にワンクッション挟むケースはとても珍しいなという印象でした。もちろんその方が安心安全ではあるものの、やはりその分コストもかかりますから。「システムを止めないために、コストを負担するだけの価値がある」という経営も含めた意思があって初めてできることかなと感じましたね。
松原:私も同じく、安定運用のためにコストがかけられていることが印象的でした。
またしっかりとテストができている点も印象に残っています。基本的に基幹DBではテストの体制が整っていないところも多い中、テストツールを使ったテストまで行われた上での取り組みと知り、なかなかそこまでやらないなと驚きました。
佐藤:きちんとテストで確かめた上で、事業側に対する説明責任を果たそうという風土があるからこそかもしれませんね。
問題が起きたときこそ成長のチャンス より良いシステムとその安定運用を目指す
――シーズン2の取り組みについて詳しく伺っていきます。まず佐藤さんから、完全移行フェーズの振り返りをお聞かせいただけますか。
佐藤:そもそものプロジェクトの目的であるExaCSへの移行については、ある程度の期間をシステムをクラウド側で稼働させた実績もあるため、基本的には問題なく進められる内容ではありますが……実は今回他にも狙いがいくつかあったんです。
例えば、ソフトウェアのバージョンもサポート停止になるため、今回そのバージョンアップも併せて行おうと考えていて――せっかく完全移行のタイミングでテストも行われますから、この機に新たなバージョンに合わせて設計も刷新しようと思い切って着手してみたのですが、結果としてさまざまな課題が生じてしまったというのが正直なところです。
――具体的にどのような課題が生じたのでしょうか。
佐藤:具体的な例の一つとして、ハードウェアがよいものになりディスクI/Oが速くなったことで、その分CPUへの負荷が大きくなってしまいました。
これまではディスクにデータを要求してから返ってくるまでに時間がかかっていたために、CPUもゆっくり動けばよかったものが、前者のレスポンスが上がったことでCPUにもすばやい処理が求められるようになり、パンクしてしまったと。
松原:そもそもDB自体が一般的に使われているものよりも速く、それでもこんなにCPU使用率が高くなってしまうことには驚きました。
佐藤:例えるなら、スーパーカーが信号機や障害のたくさんある街中を走らなければならない、止まらざるを得ない状況なんですよね。その信号機などを取り除いて走りやすくするための作業を、今お二人が頑張ってくださっています。
松原:そうですね。1月からプロジェクトにジョインし、まずは「何が原因でCPUが高くなってしまっているのか」「何をすると状況が改善されて効果が測定できるようになるのか」を整理してきました。現在は打ち手をさまざま考えながら、試行錯誤を繰り返している段階です。
――状況のキャッチアップや対処法の検討は、どのように進められたのでしょうか?
松原:前職で扱ってきたのは、佐藤さんの例えを借りれば “スーパーカー” ではなく “普通車” だったので、今回生じた問題やボトルネックは経験にないものばかりで。生じた問題をベースに都度佐藤さんから経緯をお聞きしたり、一つひとつ仕組みを見て原因を探ったりしながらキャッチアップしてきました。
もしこのDBが安定運用できていたとしたら、理解を深めるのはなかなか難しかったかなと思います。
石田:確かにそうですね。本当は問題が起きないことが望ましいですが、エンジニアの知識習得や成長は、トラブルシュートの過程でさまざまなことを調べる中で進んでいくこともある感覚です。
また一つひとつの課題への対処と並行して、バージョンアップによって使えるようになった新たな機能やExaCSのサービスに含まれる各種有償ライセンスの機能についての検証も進め、システムの改善につながるものを探ることにも挑戦しています。松原さんはアプリ側の出身で、私はインフラ系の出身なので、お互い補完しあいながら取り組めて助かっていますね。
“クラウドらしさ” を発揮できる環境づくりで、クラウド移行の効果を最大化したい
――プロジェクトを通して、学びや気づきなどがあれば教えてください。
佐藤:ハイブリッド環境のステップを踏んだことで、クラウド移行自体は問題なく完了できたなと振り返ります。
欲張ってさまざまなことに挑戦して問題が発生した点は反省でもありますが、やってみなければ昔のままだったと思うので、挑戦して失敗したのはいいことだったのかなと。結果として生じてしまった課題の解消については、お二人の活躍に期待しながら(笑)、一緒に頑張っていきたいと思っています。
――石田さんと松原さんはジョインされて初めてのプロジェクトだったかと思いますが、いかがでしたか?感じたことや、パーソルキャリアでプロジェクトを進めていく上での学びなどがあれば教えてください。
石田:自分で出した案を検証させてもらったり、前職では扱えなかったような新しい機能も試したりと、とても自由にやらせてもらっています。さらに利用可能なライセンスの幅も広いため、できることが多い環境でエンジニアとして楽しさを感じています。
気づきとしては、前職では “普通車” だったために運転する人が工夫しないと上手くシステムを使いこなせず、その分使う人たちがシステムを触って作り込んでいて。一方パーソルキャリアでは “スーパーカー” なので、使う人があまり強く意識しなくとも、とりあえずアクセルを踏めばスピードが出せるような状況だったのかなと。だからこそ、今回の取り組みをはじめ、今後作り込んでいける余地がたくさんあるのかなと感じました。
松原:これからだな、という感覚ですよね。
プロジェクトの進め方としても同様で、これから事業側の方々とのコミュニケーションをしっかりととって連携を強めていこうという段階です。現在打ち合わせや会議体でやりとりを進めていますが、今後はこちらから皆さんにご依頼をしていかなければいけなくなるので、手探りで取り組みながら学びを得ていければと思います。
――ありがとうございます。それでは最後に、プロジェクトの展望と今後チャレンジしたいことをそれぞれお聞かせください。
松原:今はまだ、さまざまあるExaCSの機能を活用して “クラウドらしさ” を発揮するところまでは至っていないと思っています。
オンプレ環境では固定費になってしまうような部分を機能活用によって削減できるのがクラウドならではのよさだと思いますし、石田さんのおっしゃる通り、せっかくたくさんの機能が使える環境にありますから。自分から「これを使うと、こんないいことがあります」と企画を立てて発信し、活用の幅を広げることに挑戦していければと思います。
石田:「多少コストがかかっても、役立つ可能性があるなら試してみればいい」と自由に挑戦させてもらえる環境なので、世の中のクラウドサービスの中からパーソルキャリアで活用できるものがないかを積極的に探していきたいなと思っています。
せっかく会社の中心にある基幹DBを担当させてもらっているため、そういった取り組みを通して、よりよいサービスを作ることに影響を与えていければ嬉しいです。
佐藤:まずプロジェクトとしては、クラウド移行という目的は達成しましたが、今後もソフトウェアやハードウェアのEOSLがありますし、新しいよいものが出てきたりすることもあり得ます。その辺りの情報をしっかりとキャッチアップして、同じコストで “スーパーカー” から “レーシングカー” に乗り換えられる可能性があれば、私たちがその部分に取り組んでいくべきだろうと思っています。
個人的には、DBの領域はお二人がガンガン進めていってくれると思うので、他のことにも挑戦していければと思います。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=古宮こうき)
佐藤 隆一 Ryuichi Sato
インフラ基盤統括部 システム共通BITA部 プラットフォームグループ シニアコンサルタント
2012年にパーソルキャリアに中途入社。インフラエンジニアとして経験後、2015年10月にパーソルホールディングス、グループIT本部に異動。グループ各社が展開する基幹データベースをExadataに統合するプロジェクトにも参画。2018年10月に帰任し、現在に至る。
石田 和也 Kazuya Ishida
インフラ基盤統括部 システム共通BITA部 インフラグループ シニアエンジニア
2023年1月にパーソルキャリアに中途入社。前職ではインフラエンジニアとしてデータベースシステムやWebシステム等の提案から設計~構築、保守・運用やそれらのマネージメントに従事。現在はインフラグループにてパブリッククラウド関連に関わりつつ、プラットフォームグループを兼務しDB関連の改善活動に従事。
松原 諭 Satoshi Matsubara
インフラ基盤統括部 システム共通BITA部 プラットフォームグループ リードエンジニア
2023年1月にパーソルキャリアに中途入社。前職では業務システムの要件定義、開発、開発のマネージメント、リリース後の保守・運用に従事。現在はプラットフォームグループのDB担当として、基幹ExaDBの改善、安定化に従事。
※2023年5月現在の情報です。