メール送信基盤運用における準備と課題

はじめに

2023年10月にGoogleから発表された「メール送信者のガイドライン」を皮切りに、メールへの注目度が急速に高まりました。
当社でもメール送信基盤を運用しており、日々の運用について共有いたします。皆様のお役に立てれば幸いです。
なお、メール送信基盤のリプレイスとGmailガイドライン対応が重なり、2024年6月までに事前対策と問題の解消に取り組んでおりました。

■本記事で使用される用語について■

用語 意味
スロットリング 通信や処理の制限を行うこと。ここではメールの送信制限。
レピュテーション 電子メール送信者の信頼性や評判
ウォームアップ 新しいIPアドレスやドメインを使用してメール送信を開始する際に行われるプロセスで、送信量を徐々に増やし受信者や受信サーバーに対する信頼性を確立する
DKIM メールの送信元ドメインが本物であることを証明するデジタル署名を使用し、受信者がメールの信頼性を確認する技術
DMARC 電子メールの送信ドメインの認証と送信ドメインの評判管理を行うためのプロトコル
ソフトバウンス メールが一時的な問題(例:受信者のメールボックスが一時的に満杯である、サーバーに接続できないなど)により配信できなかった場合に発生するエラー
ハードバウンス メールが永久的に到達できない場合(例:受信者のメールアドレスが存在しない、不正なメールアドレスである、メールサーバーが存在しない)に発生するエラー

メール配信基盤の運用

当社でも転職希望者様や企業様に対するメール送信をスムーズに行うために、メール配信基盤を運用をしています。
2024年4月には新しいメール送信基盤にクラウドリフトするプロジェクトをリリースしました。 新しい製品への切り替えには、内部仕様の違いや性能を慎重に考慮しながら進める必要があります。
また、新環境の準備としてIP/ドメインウォームアップが必要です。私自身、データセンターの移転によりスロットリングの経験もあり、メール送信の難しさを痛感しています。

ウォームアップ計画

新しい環境でメールを送り始めるためには事前準備が必要です。 準備が不十分だとメールが迷惑メールとして扱われたり、遅延して届いたりと不都合が発生します。 事前準備の一つとしてメールのウォームアップがあります。

  • IPウォームアップ: 新しいIPからメールを送信する際は、送信数を徐々に増やし、実際のメール配信数に至るまで暖機運転を行います。これにより、送信先からのペナルティを受けて拒否されるリスクを軽減します。
  • ドメインウォームアップ: 新たに取得したドメインからメールを送信する場合も注意が必要です。信頼性(レピュテーション)の低い状態からスタートするため、IPウォームアップと同様に徐々にメール送信数を増やして暖機運転を行う必要があります。

事前に十分な準備をしていましたが、初めは一部の送信先でスロットリングが発生しました。スロットリングの原因は明確には言えませんが、以下のような要因が考えられます。

  • IPウォームアップしたメールアドレスの送信実績が少なく、評価が低かったこと
  • 定期的にメールを送信しウォームアップしていたため、瞬間的なメール増加によるルール違反が生じたこと

新規サービスでは考慮しやすいですが、既存サービスの送信経路変更などはサービスに影響を与えない形で配信数を増やす方法を開発チームと検討する必要がありました。

送信計画

ウォームアップが完了した後も、メールを急激に送り始めることは避けるべきです。受信側メールサーバーにはメール受信のルールが存在し、これに違反するメールを大量に受信すると、意図的にメールの到達を遅らせるような挙動を示す場合があります。

安全にメールを到達させるためには以下のような対策を考慮し、受信側のルールに合わせた調整を行う必要がです。

  • アプリケーションからの送信をスケジュールし、適切な流量で送信する
  • メール配信基盤で制限を設け、適切な流量で送信する
  • リアルタイムで送信したいメールは別の配信キューから優先的に送信する

また、メール送信計画が意図しないものになっていないかを検知するため、以下の指標を日常的に監視しています。

  • 送信メール数
  • 滞留メール数
  • 配送時間
  • ソフトバウンス数
  • ハードバウンス数

個人宛のメールはメールボックスがいっぱいになることもあるため、注意が必要です。私自身のGmailアドレスも写真によって容量が圧迫されており、容量を確保するために努力しています。

運用からの解放

規模が大きくなるにつれて、上記の点を考慮し運用を続けるのは非常に大変です。こういった運用から解放されるためには、外部メールサービスの利用が有効です。

外部メールサービスを選ぶ際には、費用だけでなく以下の条件を比較し、求める環境に適したものを選択する必要があります。

  • 配信性能
  • 専用環境/共用環境
  • ドメイン別の配信速度コントロール
  • TLS、DKIM対応
  • 配信状況管理画面の有無
  • 優先度配信の有無

外部メールサービスを利用する場合でも、IP/ドメインウォームアップについて考慮が必要です。契約したからといって即座にメール送信が可能になるわけではないため、安全にメール送信ができる環境を整えるためには、早い段階から計画を立てることが重要です。

最後に

Gmailや他のメールのガイドラインが今後どのように変わるかは常に注視する必要があります。DMARCのポリシー強化やBIMIの活用など、企業として考えるべき事項はまだまだあります。 完璧なメール送信を実現するには、まだまだ道のりが長いと言えるでしょう。

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中村 佳史 Yoshifumi Nakamura

テクノロジー本部 ITマネジメント&インフラ・セキュリティ統括部 インフラ部 プラットフォームG

メーカー、クラウドサービス事業者での構築・運用、プロジェクトマネジメント経験を活かして、パーソルキャリアシステム内製化の一端を担う

※2024年7月現在の情報です。