パーソルキャリアは、キャリアオーナーシップを育む社会を創るために、テクノロジーの活用、また適切なデータの利活用をさらに推進し、より良いサービスを提供していきたいと考えています。
そのデータの利活用を推進していくために重要なのが「データマネジメント」や「データガバナンス」です。データの鮮度を保ちながら、経営や事業の判断に俊敏性を向上させるためにも、データマネジメントの在り方を考えていくことの重要性も増しています。前回は、プライバシー保護やコンプライアンス、データマネジメントの在り方についてBSI社 前川様をお招きし、お話を伺いました。
第2弾となる今回も前川様をお招きし、データガバナンスの必要性やその構築のポイントについてお話を伺います。聞き手は、パーソルキャリアでデータガバナンスに関する検討を行う、デジタルテクノロジー統括部 リードエンジニアの海保です。
- 大切なのは「どこに・どのようなデータが存在し、どのように管理・保護・活用されているか」が分かること
- データガバナンスを進めていくうえで、大切なポイントとは?
- 現場への発信や対話から、データマネジメント・ガバナンスへの理解を波及させていきたい
大切なのは「どこに・どのようなデータが存在し、どのように管理・保護・活用されているか」が分かること
――まず、前回インタビューをさせていただいてからの1年ほどで、データマネジメントにまつわる動きにどのような変化があったのか、世の中の様子からお聞かせください。
前川:前回は「データ活用に向けてプライバシーやセキュリティに着目するケースも出てきたものの、そこまで取り組みが進んでいる訳ではない」とお話ししました。そこからの1年で、個人情報保護法の改正やインシデントの発生などもあり、プライバシーやデータの保護への関心が徐々に高まってきていると捉えています。
また、データベース内の構造化データだけでなく、画像・動画・音声といった非構造化データも活用する流れになったことなどを背景に、データ活用の観点でさまざまな進展が生まれました。
ただ、企業において各事業やサービス、部署がバラバラにデータを保有しているために、隣の部署が持っている情報を活用できないといった状況も生まれています。そうした中で、「 “顧客” という視点でさまざまな情報を統合し、全社で管理することにより、提供側ではなく受け手側の視点でサービスや商品を提供する」ことが目指されるようにもなっています。
――情報を統合して管理し活用するという文脈で、今回のテーマである「データガバナンス」への注目も高まっていますが……そもそもデータガバナンスとはどのようなものだと捉えていらっしゃいますか?
海保:一つのデータベースにさまざまな情報が詰まっていると「一元管理されている」ように感じられますが、実はそれは「一箇所に集めた」だけで、中身が把握されていないケースも多くあります。
そうではなく、大切なのは「どこに・どのようなデータが存在し、どのように管理・保護・活用されているか」が分かる状態=マネジメントされている状態になっていることだと思うんです。
そういった状態を作るために、「システムを提供している人と使っている人が一緒になって管理体制を組み、責任を負っていく」という仕組みを、会社が統率して作っていくことがデータガバナンスなのだと捉えています。
――情報が散らばっていても、きちんと管理されていれば「マネジメントされている状態」だと言えると。
海保:はい。加えて、一箇所に集めることをルールにしてしまうと、活用が制限されてしまうのではないかと思うんです。「活用が進んで拡大しているからこそ、さまざまな場所にデータが存在している」とも言えます。だからこそ、データマネジメントがそういった利活用を止めるものであってはいけないと考えています。
前川:おっしゃる通りだと思います。「どこに・どのようなデータがあるか分かる」「隣の部署が持つデータでも、許可されたものであれば活用できる」状態が作れれば、より活用が進みます。“一元管理すること” ではなく、“適切に管理された状態で利活用すること” が目指されるということではないでしょうか。
――「管理された状態」を目指す、第一歩とは?
前川:複数の事業を持っていたり、一つのブランドの中に複数サービスがあったり……という各社の状況のなかで、「このデータは誰のものなのか」という線引きをして整理していくところがスタートになると思っています。
データガバナンスを進めていくうえで、大切なポイントとは?
――パーソルキャリアでは、前川様にご支援をいただき「データマネジメント・ガバナンスについての検討」を進めているとのことですが、データマネジメントの現在地をお聞かせいただけますか?
海保:現在は、先ほどお話ししたような「データが一つのデータベースに集まっている」状態にあります。個人と法人のお客様からお預かりしているデータを複数の事業・サービスで活用させていただいているため、効率を考えて環境を一つにする必要があったのだろうなと推察しています。
前川:最終的に「誰でもデータを使える状態にして、データの価値を最大化する」ことを目指すには、これから利活用しやすいような仕組みを作っていく必要がありますね。
――議論の中では、整理・仕組みづくりの方向性をどのように検討されているのでしょうか。
前川:最終的にはデータマネジメントのルールを作り、それを守ってもらえるようサポートする仕組みを作っていくことになります。ただ、ルールが厳しく固められすぎた結果、組織から受け入れられないものになってしまうといけないので、まずは現場の実情に合わせて、ルールや仕組みのあり方から検討していかなければいけません。
海保:パーソルキャリアにはさまざまな事業、サービスを運営する部署があるため、それぞれに対して統一ルールを適用することには難しさがあります。なので、責任を持って管理していく体制を作るために、まずはデータの意味合いや種類によって「区画」や「管理者」を明確にしていこうというのが現状の方針です。
――そういった整理を進めていくにあたり、課題になるポイントがあれば教えてください。
海保:冒頭お話ししたように、「どのような区画でデータを区切るか」「このデータは誰の持ち物で、誰を責任者として割り当てるか」を考えることは、システム担当の中だけでやっていいものではなく、ユーザーも含めて議論していくことが重要になると考えています。
ただ、ユーザーには「データはITやシステムの担当者が管理するもの」という認識が根付きやすいように思うんです。この認識をすり合わせてユーザーを巻き込んでいくことが、一つの課題になると捉えています。
――認識の相違の背景にあるものとは?
海保:そもそも「データとは何か」の認識に差があるのだと思います。私自身、これまでの経歴の中で、現場でデータを使うユーザー側の立場からシステム側に入ってきたので、議論を始めた当初はこの認識のすり合わせに苦労したのですが……。
ユーザーの多くは、データと聞くと「システムの区画」をイメージします。そこから、「自分が参照している “データ” は、IT・システム担当が作ったシステムから提供されているのだから、彼らが管理するものだ」と考えてしまいやすくなります。
ですが、データはシステムとは違って。データがたまたまシステムの上にのってサービスとして成立しているだけで、その “元となるデータ” はPCの中のExcelファイルやビジネスアプリケーション上など、さまざまなところにあります。つまり、現場で業務に臨む方々が日々データを生み出しているんですよね。
だからこそ、データガバナンスを考えるにあたっては「現場で生み出されたデータそのものを管理していく」という目線を持ち、生み出す現場の方々と、それを使ってサービスを提供しているITの方々、両者の視点でマネジメントをしていくという理解が重要になるのだと思います。
――取り組みを進めるにあたって、現場への発信が重要になりそうですね。
海保:そうですね。ルールができることによって、何かが自由にできなくなる訳でも、業務プロセスにドラスティックな変化が生まれる訳でもなくて。
ただ、お客様から情報をお預かりしているからには、それをしっかりと活用させていただき、社会に価値を還元させていきましょう、と。
そしてそのために「誰が・何を・どのように管理するのか」を明確にして適切に管理をしていきましょうと、そんなメッセージを伝えていけたらと思います。
現場への発信や対話から、データマネジメント・ガバナンスへの理解を波及させていきたい
――ありがとうございます。それでは最後に、この議論を通じて今後成し遂げたいことをお聞かせください。
海保:データマネジメントはおそらく皆さんがやったことも考えたこともない領域で、面倒なものと抵抗感を持たれる方も多いと思いますし、ある程度歴史のある環境で新たに始めるというのは大変なことだとも思います。
なので、まずはできることから……このような議論をさせていただくのはもちろんのこと、業務や案件の中で対面するメンバーに「こんな考えもあるよ」「この視点で物事を考えると、実は違うかも」と視点を共有し、波及させていけたらいいなと思っています。
前川:一緒に検討を進めさせていただく中で、やはりパーソルキャリアにおいてデータマネジメントを実現していくことに難しさも感じますが、この取り組みをきっかけに何か一つでも変化を作れたら良いなと。ぜひそれをプロジェクトの皆さんに実現していただきたいですし、そこに私も微力ながらお手伝いさせていただければと思います。
――顧客に価値を還元するためにも、もう一段データについて全員が考えていく重要性を理解しました。ステキなお話をありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈)
前川 浩司 Hiroshi Maekawa
BSI Professional Services Japan株式会社 シニアコンサルタント
前職の大手IT企業では、ITエンジニア、ソリューション営業を経て、コンサルティングに従事。ビジネスコンサルタントとして、業務改革、タレントマネジメントやAI導入等の各種プロジェクトをリード。現職では、プライバシーマネジメント領域に注力し、企業のDX(Digital Transformation)化に伴うプライバシーガバナンス導入等のコンサルティングに従事。
海保 雄樹 Yuki Kaiho
デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 サーバーサイド・インフラエンジニアグループ リードエンジニア
新卒でGMS事業を展開する企業に売り場販売担当者として入社。現場業務を行う中でビジネスにおけるデータの重要性を知り、社内公募制度を利用しグループ内のSI企業へ出向。グループデータ基盤やBI基盤の運用・保守、活用推進に従事。2社目のコンビニエンス業態の企業では、コンビニエンス事業をフィールドとしたデジタル活用企画を担当。2021年10月にパーソルキャリアに入社後は法人企画統括でのデータ活用環境の構築案件に参画中。