統計データを活用し、中長期を見据えたツールを――応募要件定義サービス内製開発の軌跡

トップ画像パーソルキャリアには、求人広告、転職イベント、ダイレクトソーシングサービスなど、さまざまなソリューションを法人顧客に提案し、採用を支援するリクルーティングコンサルタント(以下RC)が数多く在籍します。これまで、RCは法人顧客に質の高い提案を行うために、過去の出稿実績などのデータを各自でまとめ、提案につなげていましたが、対応の属人化やリソースの逼迫など、さまざまな課題を抱えていました。

そうした課題を解決すべく、2021年8月、求人広告を取り扱う転職メディア事業部で、「応募要件定義サービス」(基盤名「ARMS(アームス)」)が社内向けにリリースされました。

RCをIT/テクノロジーの側面から支えるBITA統括部 デジタル業務推進部とデジタルテクノロジー統括部、そしてシステムの保守開発を担うパーソルプロセス&テクノロジー社(以下、PPT)との協業により実現したこの開発。どのようなプロセスを経てリリースに至ったのか、その裏側に迫ります。

※角岡、田口は退職していますが、本人の同意を得て、掲載を継続しています。

 

よりスピーディで適切な、採用ターゲット設定支援を目指す

――まずは、今回のプロジェクトが始動した背景から伺っていきます。RCの業務プロセスとはどのようなもので、そこにはどのような課題があったのでしょうか。

転職メディア事業部 企画統括部 ビジネスプロセス企画部 BPRグループ 合田 佳史

転職メディア事業部 企画統括部 ビジネスプロセス企画部 BPRグループ 合田 佳史

合田:大まかなプロセスとしては、【①アポイントメント取得 ②ご提案準備 ③ご提案 ④受注 ⑤掲載 ⑥振り返り】で、振り返りをふまえてまたご提案をさせていただく、という流れになっています。そうした中で、②ご提案準備に非常に大きな工数がかかっていることが、課題としてありました。

ご提案資料を作成するにあたり、まずはデータを抽出するべく、点在するいくつものツールを参照しなければいけません。さらに抽出したデータは、セキュリティの観点や法人企業様にご覧いただきやすいようにするためにも “加工” をする必要があります。実際にこれらにかかる時間をアンケートで調べたところ、1つのご提案に対して平均75分もの時間がかかっているとわかったのです。

 

田口:また、転職メディア事業部内では既にPower BIを使った「採用ターゲティングツール」があり、すでに提案準備時間の削減に一定の効果が出せていました。しかしながらPowerBIでは使えるデータの種類、量の制約があり、かつ情報の出力・保存などといったビジネスプロセスと連動した機能のニーズがあり、機能拡張が必要とされていたことが今回の開発の背景となっています。

 

――これまで複数のツールが点在する状況になっていたのは、なぜなのでしょうか。

 

中村:業務に必要なものを少しずつ継ぎ足していったことで、ツールがどんどん増えてきてしまったんですよね。

 

角岡:そうですね。スピード感を持って業務を推進していくためにも、自分たちで必要なツールを用意して業務改善をしていこう、と皆さんが取り組まれた結果なのだと思います。ただ本当の意味で効率化を目指すためには、ここで一元化に取り組む必要があった、という認識です。

 

 

――課題を解決するために内製開発された「ARMS」はどのようなツールなのか、概要を教えてください。

ARMSの実際の画面

ARMSの実際の画面

合田:法人顧客様の情報や求める人材の条件などを設定すると、予測される応募数・応募者層や競合の出稿数などの情報が一括で抽出でき、自動でグラフ化など加工できるツールになっています。

もちろん全ての情報を網羅できるわけではありませんが、RCの業務に最低限必要なものはこのツールで一括抽出できますし、クロス集計が可能なことで分析・活用の幅も広がりました。

 

田口:Power BIではできなかった他システムとの接続も叶うようになったほか、保持できるデータ量も4倍にまで増えていますね。

 

合田:私も半年ほどRCをやっていた経験があるので、「どのようなデータが欲しかったか」「加工できずに困ったデータは何か」など私自身や当時の同僚の思いも反映したつくりになっています。このツールを使っていただくことで、より適切な採用ターゲット設定のご支援を、スピーディに実現していけるのではと考えています。

 

 

――現場の声も適切に反映しながら、プロジェクトを推進していったのですね。皆さんは開発においてそれぞれどのようなお役割を担われたのでしょうか。

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 CODグループ リードエンジニア 田口 雄一

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 CODグループ リードエンジニア 田口 雄一

田口:私と今村さん、kazasikiさんはデジタルテクノロジー統括部からの参画で、「全社的なデータ戦略の推進を見据えて、現場に残るアナログな作業や属人化されたプロセスを “デジタル化” していく役割」として、入らせていただきました。私は全体のプロジェクトマネジメントを担っており、案件の進行やタスク管理はもちろん、コンプライアンス部門との調整やプロダクト施策の取りまとめまで、幅広く対応させていただいています。

 

今村:私はフロントエンド寄りのエンジニアとして動いていて、社内のUXデザイナーやUXリサーチャーの方と協業しながらUI・UXの一部にも携わらせていただきました。

 

kazasiki:私は主にバックエンドのエンジニアとして、AWS上で構築するインフラ全般とAPIサーバの設計及び実装を行いました。また、DevOpsに必要な開発基盤やデプロイパイプラインなどの作成も行いました。

 

角岡:私はシステムアカウントの定義や、制度の整備などを行っていました。

 

合田:主に企画を担当しました。フロントに立って要件をまとめたり、現場の声をもとにどのように進めていくかを調整したりする役割を担っていた形です。

 

中村:このプロジェクトの保守・開発両面を担う役割として、PPTからはリーダー1名・メンバー2名の3名体制で参加させていただきました。バッチ処理とその実行に関わるAWSのサービス構築、一部フロント周りの画面処理、リリース以降の保守運用体制の構築や運用フロー設計などを主に担当しております。

 

 

ユーザーの声やフレキシブルな開発体制を取り入れ、現場での運用を見据えた開発を

 

――ここからは、開発過程を振り返ってお話をお聞かせいただければと思います。エンジニアの皆さまそれぞれのお立場からこだわりのポイントを教えてください。

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 Webアプリエンジニアグループ リードエンジニア 今村 洋一

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 Webアプリエンジニアグループ リードエンジニア 今村 洋一

今村:今回はエンジニアリング統括部 UXデザイン部の方々にお力をお借りして進めたことが、大きなポイントです。まずはUXリサーチチームの方にご協力いただいて、RCのマネジャークラス・プレイヤーの方々それぞれにユーザーインタビューを行い、課題を深掘りするところから始動しました。その上で、UXデザイナーの方に入っていただいてデザインの部分に着手したり、設計の改修に進めていっています。

皆さんのおかげで使いやすいものになったかなと思いますし、こだわった分時間はかかってしまいましたが、きちんと作りきれて良かったなと思っています。

 

kazasiki:PowerBIが既に動いていて営業の人は今そこを見ているので、そこで見られてるデータとのすり合わせを意識しました。単に何かを合計といっても条件によって暗黙的に含む数字と含まない数字があったりするので、合田さんと丁寧にコミュニケーションをとったり、PowerBI側の処理を確認して正確に理解するように努めました。

また、PowerBIの時点で動作が重いという話はあったので、ストレスにならない程度の時間でレスポンスできるようにクエリやDBのチューニングなどにもこだわりました。よっぽど極端な条件にしない限りそれなりの速度で結果が取得できる様になったと思います。

 

――中村さんはいかがですか?

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 中村 様

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 中村 様

中村:リリース後の体制面が特徴的なプロジェクトになっています。最近よく聞かれるようになった「DevOps」の手法にもとづき、保守運用と開発の融合を意識した体制構築を行いました。本件はすでに完了して運用段階に入っているので、私としてはここからが本番ですね。この体制を十二分に活用して、ユーザーのニーズにいち早く応えていけるように、協力関係を築きながらやっていきたいなと思っています。

 

また私自身はプロジェクト後半、保守体制や運用フロー設計あたりから本格的に参入させていただいたので、そこからタスクを実行してレビューを重ね、リリースまでに保守運用フローを回せる状態に持っていく部分に、一番注力したかなと振り返ります。

 

――社内外からの反応はいかがでしょうか。

 

合田:「Power BIの動作の重さが解消され、データが素早くとれるようになった」と営業の方から言っていただけたことが、一番嬉しいなと思っています。

 

やはり皆さん感度が高い方々ですし、またPower BIの成功例がすでにあったため、利用率もよいなという印象です。リリース翌々日には「このツールを使って、さっそく受注につながった」というお声も届いており、工数削減にはしっかりとつなげられているのでは、と捉えています。

ただ周知のための活動まではしきれていない部分があるので、今後は活用率が低いグループに積極的にアプローチをかけていきたい、というところですね。

 

田口:その結果に繋げられた要因の1つとして、今回、転職メディア企画・転職メディアBITA・PPT様・DT統括の四者が良い協力関係を築けたことが、非常に大きかったと思っています。それぞれが役割を全うして連携できたからこそ、一つのプロダクトをきちんと作り切って成果につなげられましたし、それぞれに知見を深めることもできました。これからもしっかりと続いていく体制を築けて良かったと思いますね。

 

 

内製開発だからこその強みを生かして、時代の流れに合わせた変容を続けたい

 

――今回の開発を受けて、今後どのような世界観を目指されているのでしょうか。展望をお聞かせください。

 

田口:やはり「それぞれの事業における業務のIT化を進め、その分、人の能力を創造的な部分に向けていく」ための取り組みをしていきたいと考えています。今回の開発は、その取り組みの最初のステップになりうるものだったと捉えています。

今後は、これまで必要に応じて作られてきた様々なツールの機能を、システム基盤であるARMSに集約して拡張していく段階になります。その中、転職メディア事業内で発足し兼務させて頂いているデジタル業務推進グループとしても、業務のどの部分をIT化できるのか考えながら、新たな戦略を推進していければと思います。

転職メディア事業部 企画統括部 デジタル業務推進部 メディアBITAグループ 角岡 直徳

転職メディア事業部 企画統括部 デジタル業務推進部 メディアBITAグループ 角岡 直徳


角岡:内製化したことによって、旧来のツールの中で次世代に残すべき機能を踏襲しながら、さらに付加価値として新たな機能を追加していくこともできますからね。時代によってシステムを変え、進化していけるようになるのではと思います。

 

合田:そうですね。時代の流れの中で、RCに限らず営業自体のあり方が変わってきていますから。そういった背景をふまえた上で、データをより適切に活用していくためにも、お二人のおっしゃるように「既存システムに当てはめるだけ」ではない柔軟な土台を作れたことが大きいと思います。今後は内製化したからこその強みを生かして、差別化を図っていきたいですね。

 

 

――ありがとうございます。それでは最後に、今後皆さんがチャレンジしていきたいことをそれぞれ教えてください。

 

中村:やはり保守運用フェーズにこれから力を入れていくことになるので、今回構築した体制を生かしてしっかりと結果を残せるように、努めていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

 

今村:今後armsに様々な機能が集約され、また他のシステムと統合されることが見込まれます。それによってユーザー体験が変化してしまうと、ユーザーは同じツールだと思えず混乱してしまいます。今後はそういった観点からユーザー体験を管理するためにも、ガイドラインの策定や監修の役割を担っていければと思います。

 

角岡:少し大きな話にはなりますが、極論「営業が営業をしなくてもいい」世界観が実現できれば面白いかなと思うので、頑張っていきたいと思います。

 

合田:まだまだ活用されていないデータはたくさんあるので、それをうまく活用してさらに事業にインパクトが残せるように頑張りたいと思っています。角岡さんがおっしゃった「営業が営業しなくていい時代」というのは私としても理想だと思うので、そこまでいけたらいいな、というところですね。

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 Webアプリエンジニアグループ リードエンジニア(データ) @kazasiki

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 Webアプリエンジニアグループ リードエンジニア(データ) @kazasiki

kazasiki:現場の方々の要望に柔軟に迅速に対応できるということをしっかり実績で示していきたいです。そういった意図でシステムや体制づくりはしましたが、実際にやろうとすると考慮が足りてないところがはちらほら出てくるでしょうし、ツール独自の問題や改善を取り入れるフローに関する問題も色々あると思います。その辺りに丁寧に対応しながら現場の方々との信頼感を作っていければと思います。

 

田口:まずは転職メディアを成功させたいですね。そのためには、当たり前のことを当たり前に、落ち着いて着実にこなせる人間でありたいなと思っています。仕事も家庭も毎日大切に過ごすことで、プロジェクトやプロダクト、ひいては事業の成功がついてくると思うので、丁寧にやっていきたいと思います。

 

――素敵なお話をありがとうございました!

 

(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈)

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 CODグループ リードエンジニア 田口 雄一

田口 雄一 Yuichi Taguchi

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 CODグループ リードエンジニア(データ)

設計や営業など様々な職種を経てIT入り。現在はプロジェクトマネージャーとして、AI案件スコアリングや求人審査用AIなど部署のAI案件を担当する傍ら、プロジェクトマネジメント教育やオンボーディングにも携わる。登壇歴あり。空港と温泉とMMOが好きな2児の父。コロナ環境下のリモート生活で自宅の仕事用品が揃っていく一方、運動が疎かになっているのが最近の悩み。現在は退職。

 

 

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 Webアプリエンジニアグループ リードエンジニア 今村 洋一

今村 洋一 Yoichi Imamura

デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 Webアプリエンジニアグループ リードエンジニア(データ)

2011年からキャリアをスタートし、フロントエンドエンジニアとして様々なWebサイトの設計・実装を経験。インタラクティブエージェンシーではナショナルクライアントをはじめとした多数の案件に従事。関係者が100人を超える大規模サイトの設計や実装、システムやサーバーサイドとの連携など幅広い領域を担う。現在パーソルキャリアにて新規事業開発に携わり、フロントエンド開発、UXデザインなどを担当。

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@kazasiki

デジタルテクノロジー統括部 データ&テクノロジー ソリューション部 エンジニアリンググループ リードエンジニア

バックエンドエンジニア。VRゲームとダンスミュージックが好き。都内のクラブによく行く。

 

転職メディア事業部 企画統括部 デジタル業務推進部 メディアBITAグループ 角岡 直徳

角岡 直徳 Naomichi Tsunooka

転職メディア事業部 企画統括部 デジタル業務推進部 メディアBITAグループ

パーソルキャリアに新卒から入社し、媒体広告営業で主にIT業界を担当。その後メディアBITAグループに参加。メディアBITAでは主にSFA領域を担当している。趣味は旅行で特に北海道が大好き。現在は退職。

転職メディア事業部 企画統括部 ビジネスプロセス企画部 BPRグループ 合田 佳史

合田 佳史 Yoshifumi Goda

転職メディア事業部 企画統括部 ビジネスプロセス企画部 BPRグループ

前職から営業をし、2017年パーソルキャリア入社後3年間は営業職に携わる。2020年初の職種転換で企画職に。現在は、営業側の意見を吸い上げ、次フェーズの企画や新しいツールの企画などを担当。キャンプやスノーボードなどアウトドアが好き。

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 中村 様

中村 祐滋 Yuji Nakamura

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 システムソリューション事業部 グループソリューション統括部 リクルートメントソリューション部 メディアサービスグループ 転職メディアチーム

独立系のSI企業を渡り歩き下流から上流まで様々なシステム開発、保守を経験した後、2020年にパーソルプロセス&テクノロジーに入社。転職メディア事業部向けの保守、開発チーム双方の舵取りを任せられ現在に至る。小3長男と小学生レベルの喧嘩をしながらゲームで遊ぶのが癒しの時間。

※2021年9月現在の情報です。

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