「前の方が使いやすかった」はなぜ起きる?脳科学で紐解く「慣れ」と「学習」の正体

こんにちは、UI/UXデザイナーの松森です。

皆さんは、UIの大幅なリニューアルを行った際、ユーザーから「前の方が使いやすかった」といったフィードバックをもらったことはありませんか?良かれと思ってUIを改善したのに、評判が芳しくなく心が折れそうなPMやデザイナー、エンジニアの方へ向けて、今回は記事を書きたいと思います。

既存ユーザーが「使い慣れている」プロダクトほど、UIの変更は困難を極めます。また、社内ツール等において、一般的なセオリーとは異なる、独自に最適化されたUIであっても、長年使っているユーザーにとってはそれが「正解」になってしまっているケースも少なくありません。

なぜ、私たちは変化を嫌い「慣れ」に執着するのか。そして、プロダクトをモダンに進化させる際、どのようにユーザーの学習を支援すべきなのか。今回は、脳科学や心理学の観点から「慣れ」と「学習」のメカニズムを紐解き、UI刷新における向き合い方について考察してみたいと思います。

1. 「慣れ」とは何か?

ユーザーが「慣れている」状態とは、脳科学や認知心理学の分野では 「手続き記憶(Procedural Memory)」 として説明されることが多いです。

手続き記憶とは、自転車の乗り方のように、頭で考えなくても体が勝手に動くような長期記憶の一種です。この記憶が形成される前後で、脳の処理負荷は劇的に変わります。

  • 形成前: 「保存ボタンはどこだ?」と脳のリソース(CPU)を消費して意識的に探すため、疲れを感じやすい。
  • 形成後: 「保存しよう」と思った瞬間に無意識に指が動く。脳のリソースをほぼ使わず、思考のスピードで操作できるため、ユーザーは「楽」だと感じる。

ユーザーが「昔のほうが良い」と言う理由

ヤコブの法則にある通り、ユーザーは他プロダクトで学んだ操作方法が、別の場所でも通用することを期待しています。

脳は処理しやすいものを「正しい、良い、好き」だと感じる性質があるため、たとえ古いUIであっても「脳にとって処理が楽」=「使いやすい良いデザインだ」と感じやすくなる傾向があります。

2. 刷新時の「拒否反応」との向き合い方

レガシーなUIを刷新する際、避けて通れないのが一時的な生産性の低下、いわゆる 「Jカーブ」 です。

どんなに優れた改善であっても、変更直後は必ずユーザーのパフォーマンスが落ち、摩擦が生じます。

しかし、Jカーブ(下図イメージ)が示す通り、一時的に下がったとしても、学習が進めば以前よりも高い生産性を発揮できるようになります。

この直後の「使いにくい」という声が、移行期の 一時的な摩擦 なのか、あるいは 根本的な設計ミス なのかを見極めることが重要です。

Jカーブの図

拒否反応を和らげるテクニック

UIの刷新をスムーズに進めるために、以下のようなアプローチが有効です。

  1. 「徐々に」変える: 一気に全てを変えるのではなく、段階的な移行を検討する。
  2. メンタルモデルの橋渡し: 新旧併用期間を設けたり、見た目は変えても「Enterで遷移する」「F5で更新する」といった「指が覚えているショートカット」はあえて維持したりする。
  3. ベネフィットを伝える: ユーザーは「慣れた操作」の喪失には敏感ですが、「新機能の利便性」には意外と鈍感です。「なぜ変えるのか」というメリットを、UIやコミュニケーションを通じてしっかり伝える必要があります。

3. 学習してもらうには、どうしたらいいか?

学習とは一見、新しい事柄を身につけるポジティブなものと捉えられがちですが、ユーザーにとって、実は手間のかかる「コスト」として捉えられてしまいます。

学習意欲とは、学習後に得られる「メリット」と学習するという「コスト」を天秤にかけて、メリットが勝ると湧いてくるものです。ユーザーは無意識に、この 「学習に対する費用対効果」 を考え、学習するか、離脱するかを瞬時に判断しています。

「学習コストを払ってでも使おう」と思う3つのケース

  1. 苦痛の解消(Pain Relief): 今のやり方がどうしても嫌で、課題が深刻な場合。
  2. 魔法のような報酬(High Reward): 覚えればすごいことができるという明確なリターンがある場合(BlenderやPhotoshop等、習熟度が価値に直結するツール)。
  3. 代替手段がない(Necessity): 「使いにくいけれど、これを使わないと給与申請ができないから仕方なく覚える」といった業務システムのように、使わないと目的が達成できない強制力がある場合。

3つのケースに対する軽い考察

上記3つのうち、快適な体験を維持しつつ、ユーザーに学習を要求することができるのは、1か2になると思います。

1と2は一見別物のようで、本質的には通づるものがあります。それはユーザーが学習することで得られる「メリット」を理解していることです。その上で、現状の課題感に不満を持つか、メリットに感銘し理想に近づきたいという願望を抱くかの差で1と2に分かれます。

つまり、学習することで得られる対価=メリットをしっかり訴求することが、ユーザーが意欲をもって学習を行う体験を作る上で重要になってきます。

メリットが先、学習は後

まず、メリットをしっかり訴求し理解してもらう。その後に学習に取り組んでもらう。

これを意識することで、ユーザーは「学習に対する費用対効果」を検討することができ、自ずと意欲が湧いてくるはずです。

学習してもらうためのテクニック

「メリットが先、学習は後」に基づき、以下のような設計を取り入れましょう。

  • 段階的開示(Progressive Disclosure): 習熟度に合わせて機能を小出しにする。
  • コンテキスト学習(Contextual Learning): 必要な時に、必要な場所でヒントを出す(例:ボタンを押そうとした瞬間のツールチップなど)。
  • エンプティステートの活用: データがない画面を単なる空白にせず、完成形のプレビューを見せて「何ができるか」を教える。
  • インタラクティブ・ガイド: 「読んで覚える」のではなく「触って覚える」仕組みを構築する。

最後に

既存ユーザーからの拒否反応を極限まで下げるためには、ヤコブの法則を意識した「外部との一致(標準的な振る舞い)」を心がけ、再学習の必要性を最小限に留める設計が不可欠です。

もし再学習が必要になる場合は、今回挙げた「学習コスト」の観点を活用し、ユーザーが離脱しないような配慮を徹底していきましょう。

多くのプロダクトチームと同様に、私たちも継続的な改善と体験設計の見直しに向き合っています。 「正論としての使いやすさ」を押し付けるのではなく、ユーザーが抱える「慣れ」という資産に敬意を払いながら、新しい体験へと橋渡しをしていく必要があります。

最後に、UXデザインに限らず、組織のマネジメントや教育においても「メリットや目的」を正しく伝えて理解してもらうことが、人を動かす上で最も重要だと私は考えています。

最後までご一読いただき、ありがとうございました。この記事が、皆様の業務の一助となれば幸いです。

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松森 裕真 Yuma Matsumori

プロダクト&マーケティング事業本部 クライアントプロダクト本部 テクノロジー統括部クライアントプロダクトデザイン部 デザイン第1グループ UI/UXデザイナー、シニアデザイナー

受託制作2社を経て2020年に中途入社。現在は法人プロダクトの開発に携わっている。娘(6)と息子(5)の子育てをしつつ、観葉植物のモンステラをデカくすることが趣味。

※2026年3月現在の情報です。