求人票が一定の掲載基準を遵守しているか確認する求人審査業務の、業務負荷とヒューマンエラーリスクを軽減するために始動した「求人審査AIプロジェクト」。これまでAIを活用したモデルや環境の構築が進められてきましたが、今回ついに事業への実装が完了し、現場からも高い評価を得ているといいます。
そこで前回の記事に引き続き、プロジェクトのキーマンであるデジタルテクノロジー統括部のメンバーにインタビュー。スムーズなプロジェクト推進のために凝らされた工夫や今回得られた学び、そして現場実装を成功できた要因について聞きました。
- 「dodaプラス」サービスで、求人審査AIの業務実装が完了
- さまざまなステークホルダーの事情を考え、それに沿った対応をすることが求められる
- 自由な環境の中で自分の役割を自覚し、柔軟に“のびのび”とやれたことが成果につながった
※田口は退職していますが、本人の同意を得て、掲載を継続しています。
「dodaプラス」サービスで、求人審査AIの業務実装が完了
――まずは、プロジェクトの現在地からお聞かせいただけますか?
北島:現在は「dodaプラス」サービスの求人審査業務における審査項目一つに対して、AIによる求人審査モデルを実装し、リリースが完了したところです。
大前:前回の取材の時点では基本的にプロトタイプだったため、現場でエクセル出力されたものをベースにこちらで計算してお返しするという手作業が発生していましたが、本番機に接続されたことで自動的にデータを取得・返送できるようになりました。
――これまでのプロジェクトを振り返って、まずは皆さんがそれぞれの領域で取り組まれたことを教えてください。
大前:アナリティクスとしては、前回作ったプロトタイプを使うので新たな取り組みはなく、今回は髙橋さんがシステム側の開発を担当してくださっています。
髙橋:システムとしては、今回クラウド側の領域とオンプレミス環境をつなぎこむ必要がありました。その際、こちらからオンプレミス環境を触るのはセキュリティなどの観点から難しいため、オンプレミス環境での開発はオンプレミス環境を管轄している部署(以下、管轄部署)にお願いし、クラウド側のAWS標準環境の管理を私が担当し、両者をつなぐ専用線を通してAPIでやり取りする形で、実装を進めています。
ここで開発したものを実際に業務内で使うために必要な後工程の部分は、今回北島さんが作成してくださいました。
北島:髙橋さんに開発していただいたのは、求人票の原稿内に該当する審査項目でNGとなる表記を抽出するシステムの部分ですが、このままでは業務に使うことができないんですね。求人審査チームが行っている業務では、抽出したNG表記に「NGコメント」を付け足した上で、それを管理帳票に貼り付けるところまでが一連の作業となっているからです。
そこで「抽出されたCSVを加工し、管理帳票に貼り付けるための元ファイルを生成する」仕組みを、私の方でExcelのPower Queryを使って作成しました。
大前:管轄部署との相互連携や接続、また社内基幹システムBAKSと連携するにあたっての仕様調整やマネジメントは、田口さんが担ってくださっています。
田口:今回前任の方が退職されるということで、引き継いでプロジェクトにジョインしました。主な役割としては、大前さんのおっしゃる通り管轄部署との調整窓口で、またデータ管理のテストやリリースまでの社内外との調整も行っています。
さまざまなステークホルダーの事情を考え、それに沿った対応をすることが求められる
――プロジェクトを推進するにあたって特に工夫されたポイントや、その過程を経て学びになったことなどを教えてください。
髙橋:お客様の大切な個人情報をお預かりする事業の性質上、セキュリティ関連の申請が複雑で時間がかかるという前提がありますが……今回はオンプレミス環境との繋ぎ込みをするにあたって、用意されている専用線を使うことで必要以上の時間をかけない工夫ができたことがよかったと思っています。
またパーソルグループのAWS標準環境を使っている中で問題が出てくることもありますが、他の案件で起きた問題をふまえてこの案件での対応に活かし、反対にこちらで起きた不具合を他にフィードバックすることができました。こうした動きを通して、環境自体も少しずつ良くなってきているかなという感覚ですね。
大前:今回は速度を担保するためにGPUを使っているのですが、24時間稼働させるとなると多くのコストがかかってしまうため、髙橋さんにはGPUの稼働時間をなるべく短くしてほしいとお願いしていて。ご対応いただいてコストを大きく抑えられたことがよかったです。
髙橋:今回のプロジェクトであれば、実際に動かすのは1日10分に満たないくらいで、24時間稼働させてしまうのは勿体ないですからね。必要な時だけAWS側のサービスを使って実装することもできるので、設計を変えてご提案させていただきました。
アナリティクスとエンジニアの連携については、まだやりとりの形などが定まっていない部分はありましたが、どうやって進めるかを大前さんと話し合いながら柔軟に連携できたかなと思います。
――関係部署との調整や連携を担われた北島さん、田口さんの立場からはいかがですか?
北島:今回業務実装をするにあたって、要件定義をするために求人審査チームの皆さんから情報を引き出す部分には苦労しました。審査チームが仙台にあるので、業務フローや実際の審査の様子を見たことがなかったんですよね。まずは自分で審査基準を勉強しながら、「どのようなファイルを使って、どの時間帯に誰が作業をしているのか」などを細かくヒアリングしていきました。
そういった過程を丁寧に踏めたこと、さらにお忙しい中企画の方々にご協力いただいて現場への丁寧なレクチャーをしていただけたことで、今回業務実装に漕ぎ着けられたのかなと思っています。
また先ほどお話ししたPowerQueryを使った仕組みの構築は、コストをかけずにできる方法として自分で手を動かすことにしたのですが、初めてながら思っていたよりもスムーズに構築ができています。他の案件でも、フィジビリで仮の帳票を作成したい時などに活かせそうだなと学びがありました。
田口:私は管轄部署との調整が多かったのですが、今回は特にスケジュールもタイトですし、お互いに手戻りの発生で時間をかけたくないという思いもあったため、タスクの整理やお互いの認識合わせには特に気を遣いました。
例えばテストの時期やバッチ実施時刻について細かく確認したり、「その単語はどのような意味で使われていますか」と用語に対する認識も明確にしたりと、曖昧な点を先送りせずに進めること――これらの認識合わせが早い段階でできることで、無駄が省かれ、プロジェクトの進み方も大きく変わってくるので、工夫できてよかった点かなと思います。
また今回、管轄部署が普段使われている課題管理表をやりとりの中に取り入れることで、コミュニケーションをよりスムーズにすることができました。外部の方と協業させていただく中で、パーソルキャリア側の既存のルールや事情と同時に、管轄部署の事情まで熟慮して、それに沿った対応をすることがプロジェクトを円滑に進める上で大切なのだなと、学びがありましたね。
自由な環境の中で自分の役割を自覚し、柔軟に“のびのび”とやれたことが成果につながった
――実際に現場に導入されて、どのような成果があがったのでしょうか。現場からの声などがあれば教えてください。
北島:導入後に求人審査チームの方にヒアリングを行ったところ、非常に良い評価をたくさんいただきました。例えば「今回AIを導入した審査項目は、非常にNGが多いところだった。導入後はNG表記がNGコメントまで含めて出てくるので、単に管理帳票に貼り付けるだけでよく、大幅な業務工数削減につながった」「抽出されたNG表現を確認したが、人の目で見て抽出した結果と変わりない精度で、安心して任せられる」などです。
導入前にも、キーワードベースでNG表現を抽出する「デジタル審査」の仕組みはありましたが、ここでは抜け漏れをなくすために一部正しい表現までNGとして抽出されてしまったり、またNG表現を確認した後にコメントを残す作業は人の手で行う必要があったりしていて。今回そうした課題が解消されたことを、ご評価いただけたのだと思います。
――業務実装を成功させられた要因を、皆さんそれぞれのお立場からどのように振り返られますか?
田口:メンバーどうしのコミュニケーションと個々の丁寧な仕事ぶりのおかげ、でしょうか。
私たちデジタルテクノロジー統括部はビジネス・エンジニアリング・アナリティクスの3系統に分かれていますが、プロジェクト内でメンバーが負う役割や責任の境界は、明確に決められている訳ではありません。
そういった環境の中で、今回のプロジェクトメンバーがそれぞれの役割の認識合わせをしっかりとした上で、タスクを切り出して抜け漏れがないようにしっかりと進めてくれた。そういった基本的なことができていたからこそ、連携がうまくいったのかなと思います。
そして、メンバーがそれぞれ丁寧に仕事を進められたことですね。事業側との認識合わせ〜要件定義は北島さんならではのお仕事だったと思いますし、学習データやAIのモデリングは大前さんの得意とされるところです。またリリースしてから今に至るまで片手で数えられるほどしか障害が起きていないのは、堅牢で汎用性の高いシステムを構築してくださった髙橋さんのお力のおかげですよね。こういった個々の力や丁寧さが積み重なって、よいチームができて、よいプロダクトができて、という話につながったのではと思っています。
髙橋:少し似ていますが、個々がプロとして“のびのび”やれたことが大きいのかなと思います。既存の開発スタイルに囚われず柔軟に・瞬発力高くやれる、のびのびやることで成果につなげられる、そんなデジタルテクノロジー統括部の強みを活かせたかなという感覚ですね。
北島:できる人が集まってくれたことに加えて、個人的には新しいチャレンジができたことですね。自分の得意領域+新たなチャレンジを一人ひとりがしていけば、プロダクトも部署ももっと良くなっていくのかなと思います。
――ありがとうございます。それでは最後に、皆さんが今後チャレンジしたいことをお聞かせください。
大前:皆さんのおっしゃる通り、今回はプロが集まってやれたのでスムーズによいものができましたが……部署の誰がアサインされても同じことができるか、というとそうではないと思います。アナリティクスは新卒のメンバーも大歓迎のスタンスなので、そういった新たにジョインしてくださる方々をどう育成して巻き込んでいくか、は今後の課題ですね。
来期以降も引き続き新しいメンバーを迎える予定なので、「大前さんはもう引退しても大丈夫」と若手に言われるくらい、育成を頑張っていきたいと思います。
高橋:この案件は特に気軽に挑戦しやすい環境なので、新しいものを導入してノウハウを蓄積したり、実績を積んで他にフィードバックしたりして。新しいサービスの導入や信頼度の高いシステム構築につなげていきたいと思っています。
またこれまで部署としてたくさんのものを作ってきましたが、時期的に作ったものの運用や保守を他の方々に正しく引き継いで、我々は次のステップに進んでいかなければいけないと思っています。この案件もいつまでも私が張り付いて見ていることはできないので、どのような形で引き継ぐべきかを考えながら、そういった引き継ぎのノウハウも蓄積していけたらと思います。
田口:日本の人口減少が避けられない今、個々の生産性を上げること、AIにできる単純作業はAIに任せて人間が創造的な仕事に力を割くことが必要だと感じています。そうした中で、例えば求人票の持つ価値をどう掘り起こせるかなど、まだまだ考えられる余地はあると思うので。本質的な問いを発しながら、事業インパクトを出せるプロダクトを育てていきたいと思います。
北島:求人審査AIの導入が「やり切れた」となった先で、また別の場所でも事業に貢献していくために、自然言語処理を使った新たな取り組みにも挑戦して成果をあげていきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈)
北島 寛康 Hiroyasu Kitajima
デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 ビジネスグループ シニアストラテジスト
2006年に新規事業コンサルタントとしてキャリアをスタート。国内のRPA市場黎明期に入ると、事業立ち上げに携わり、RPAツールの販売・導入、代理店網の構築、新事業・サービスの企画・開発に従事。2019年6月にパーソルキャリアに入社し、データ/テクノロジーの事業活用を担うデータテクノロジー統括部のビジネス担当、及びRPA推進グループの案件開発を担当中。
大前 択悟 Takugo Omae
デジタルテクノロジー統括部 デジタルビジネス部 アナリティクスグループ シニアデータアナリスト
髙橋 大地 Daichi Takahashi
デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 Webアプリエンジニアグループ リードエンジニア
大学卒業後、大手企業傘下のグループ会社で組み込み系ソフトウェアの開発に従事、システム開発の基礎を経験。その後Web系のベンチャーでWebサービスを構成するフロントエンド・バックエンド・インフラといった技術要素の開発、保守、運用に従事。前職ではそれらの経験をもとに、客先と直接やりとりをしながら、オンプレ・クラウドを問わずサービスの設計・実装に携わる。現在パーソルキャリアにてバックエンド開発を担当。
田口 雄一 Yuichi Taguchi
デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 CODグループ リードエンジニア
設計や営業などさまざまな職種を経てIT入り。現在はプロジェクトマネージャーとして、AI案件スコアリングや求人審査用AIなど部署のAI案件を担当する傍ら、プロジェクトマネジメント教育やオンボーディングにも携わる。登壇歴あり。空港と温泉とMMOが好きな2児の父。コロナ環境下のリモート生活で自宅の仕事用品が揃っていく一方、運動が疎かになっているのが最近の悩み。現在は退職。
※2022年3月現在の情報です。