
はたらき方やキャリアの選択肢が多様化する中で、「会社がキャリアを用意する」のではなく、「一人ひとりが自らのキャリアに向き合い、選び取っていく」ことの重要性が、これまで以上に高まっています。パーソルキャリアでは、こうした社会の変化を前提に、個人が自分のキャリアの意思決定に主体的に関わる状態(=キャリアオーナーシップ)を事業の根底に据え、サービス開発や組織づくりに取り組んできました。この考え方は、対外的なメッセージにとどまらず、パーソルキャリアの社員一人ひとりのはたらき方や成長のあり方にも反映されるべきものだと捉えています。
こうした考え方のもと、「キャリアオーナーシップ」を重要なテーマとして掲げ、さまざまな人事施策に取り組んできました。その中の一つが、社員が自身のキャリアの現状を整理し、これからどうありたいかを考え、行動につなげていくプロセスを、継続的な対話を通じて支える取り組みとして設けられた「キャリア対話」です。
本記事では、キャリア対話推進部の管理職、現場で対話を担うエキスパート、そして検証を支えたデータアナリストの視点から、キャリア対話に込めた狙いと、施策を“やりっぱなし”にしないための効果検証を通じて見えてきた示唆、そして今後のチャレンジについて話を聞きます。
キャリアオーナーシップ施策の概観
――まず簡単に自己紹介をお願いします。所属部署と役割、キャリア形成で大事にしていることを教えてください。

牛見:人事本部HRBP統括部でエグゼクティブマネジャーをしています。2013年に入社し、広告媒体の営業からスタートしました。キャリア形成で大事にしているのは「個別性」です。価値観や置かれている環境は十人十色。誰かの真似ではなく、自分に合った努力の仕方や成長の方向性を定め、自然体で取り組んでいけることを自分にもメンバーにも大事にして欲しいと思っています。

千葉:2012年中途入社、エージェント事業の営業企画部門にてキャリアアドバイザーの育成企画、NPS導入などを行ってきました。2016年からは、戦略人事立ち上げ期から顧客親密経営推進、パルスサーベイ、人材開発施策などに関わってきました。個人のキャリア志向としては、会社に依存しない自律的なキャリア形成という概念を大切にしています。世の中にもそういう人を増やしたいなと思って活動しています。

田中:2007年に中途入社し、エージェント事業にてキャリアアドバイザーを10年、管理職を5年経験しました。その後、キャリアチャレンジ制度を活用して人事本部へ異動しています。キャリア形成においては、経験や他者との関わりによる変化を受け止め、自分を柔軟にチューニングし続ける姿勢を大切にしています。

倉持:コーポレートIT部でサブマネジャーをしています。2022年に新卒入社し、人事領域のデータ活用に携わってきました。データ分析だけでなく、システム開発やPM、要件定義など幅広く担当しています。キャリア形成において大事にしているのは「データ活用によって、はたらく上での負や不利益を最小限にする」ことです。現在も各種のデータ活用に関わっており、このプロジェクトもその考えに沿うものだと感じています。
――まず、従業員に対してキャリアオーナーシップをどう広げているか、人事として大事にしている考え方・スタンスを教えてください。
牛見:キャリアオーナーシップについては社長である瀬野尾からの発信やSBU2026でも明確に語られており、それに対して人事本部は「はたらいて笑おう」というグループビジョンを社内から実現できるよう支援する立場です。キャリアオーナーシップを育み、多様な人材が主体的に行動・努力でき、会社と個人の成長につながるように施策を考え実行することを意識しています。

一方で、キャリアオーナーシップは「自分のやりたいことだけをやる」という意味に捉えられてしまうこともあります。キャリアオーナーシップの本質は、「会社からの期待」と「自分のやりたいこと」を重ね合わせることにあります。個人と会社の成長を切り離さず、一つのセットとして捉え直す。そのための橋渡し役として、私たちは「キャリア対話」を実践しています。
――実際の現場から見るとどのような要因によって「会社」と「個人」の期待はズレてしまうのでしょうか?
千葉:主に2つの側面があると考えています。一つは、「会社やマネジメント側の発信が浸透されていない場合」です。会社が求める役割や期待値が具体的に示されていなかったり、現場の社員まで正しく伝わっていなかったりするケースです。
もう一つは、「社員側の情報キャッチアップ」に関する側面です。自分に何が期待されているのか、社内にどのような選択肢があるのかといった情報を、社員自身が主体的に取得し、自分事として捉える機会が持てていないケースです。 一般的に、こうしたズレは「伝え方が不十分だ」といった責任を問う議論になりがちです。しかし、私たちが目指す本来の姿は、従業員が特定の環境に依存しすぎず、自律的に自身の市場価値やエンプロイアビリティ(雇われ力)を高めながら、会社からも「必要な存在」として選ばれ続けている状態だと考えています。
田中:また、世代やライフステージによっても、ズレのパターンは異なります。
例えば、従来の日本型雇用でキャリアを築いてきた方々の中には、「会社から与えられた役割を全うすること」こそがキャリア形成だと信じて走り続けてきた人も多くいます。しかし、世の中の急速な変化と自分のスキルや延長線上にある未来にギャップを感じ、「これまで信じてきた道と何かが違う」と違和感を抱くケースが増えています。こうした個人の内側の変化が、会社が期待する役割との重なりを難しくし、結果として期待のズレにつながることがあります。年代や役職によって抱える課題は多様です。だからこそ、一律の施策ではなく、一人ひとりの状況に寄り添った「対話」が必要だと感じています。
キャリアオーナーシップ醸成に向けた「キャリア対話」の位置づけ
――キャリアオーナーシップ醸成に向けた人事施策の全体像と、その中でキャリア対話がどんな役割・位置づけなのかを教えてください。
牛見:まず、キャリアオーナーシップに関する多様な機会の提供について、パーソルグループの統合報告書の中で図式化されています。「キャリアチャレンジ」「ジョブトライアル」「キャリアスカウト」「グループ内外での副業」など、複数の施策をグループ共通として実施しているほか、パーソルキャリア独自で実施している施策もあります。その中でもコアとなっているのはキャリアデザイン(i-design)という施策です。自身は中長期的にどのような状態になっていたいか、自身の強みや課題は何か、などを言語化することを全社員を対象として定期的に実施しています。 
2023年頃にキャリア対話推進グループとして明確に組織化しましたが、キャリア対話の活動自体は戦略人事の一環として以前より実施されていました。私たちが対話を重視しているのは、標準的な一律の研修や制度だけでは、一人ひとりが抱える固有のキャリア観や、細かな悩みに寄り添いきれない(カバーしきれない)という課題があったためです。
個別の対話を通じて「自分自身のキャリアを主体的に捉え、行動に移すこと」の価値を再確認できたため、現在はその取り組みをさらに加速させています。一部の相談に応じるだけでなく、「全社員が自らのキャリアを考え、主体的に行動できる状態」を組織の文化として根付かせていくフェーズへとシフトしています。
――キャリア対話でキャリアオーナーシップをもっと育むということが目的になった時に、従業員から来る相談の現場で変化はありましたか?
千葉:キャリア対話の実施に至る経路が2023年以降で大きく変わりました。以前は相談窓口としての受け入れをオープンにして社員からの連絡を待つ「受け身(インバウンド)」の対応が中心でした。 しかし、体制が整ってからは、こちらから積極的に声をかける「働きかけ(アウトバウンド)」をスタートしました。具体的には、自らキャリアに迷っている実感がまだない方に対しても、「一度キャリアについてお話ししませんか?」と個別にアプローチを行っています。その結果、初回接点から半数以上が継続対話につながっています。対話数は年間1,000件程度から、今は年間3,000件程度まで増えています。
――実際のキャリア対話ではどのような会話をされているのでしょうか?
田中 : アウトバウンドで接点を取りに行くキャリア対話では、当社が定義する「キャリアオーナーシップ醸成サイクル」(自己理解/キャリアプラン策定/業務・学習の経験の積み重ね)を前提に、初回ヒアリングのフォーマットを使って、まずは今どの段階にいるかを可視化しながら整理します。
そのうえで、どのテーマを中心に継続的に話していくかを一緒に決め、キャリアオーナーシップ醸成サイクルに応じた対話ステップを踏んで伴走していきます。アウトバウンドにおいて、まずは管理職層から中心に広げていきました。管理職の方から対話の価値を実感いただくことで、配下のメンバーへのご紹介や口コミが生まれ、こちらから働きかけなくても直接声をかけていただく機会も増えています。 現在は、今回の効果検証施策の結果を踏まえてキャリア対話のターゲットや対話のあり方を再チューニングしているところです。
キャリア対話の効果検証に踏み込んだ背景
――人事施策は効果が曖昧に語られがちです。満足度アンケートやNPSなど色々あると思いますが、今回は計画を立てて効果検証まで実施したと伺いました。
牛見: その理由はいくつかありますが、主にはキャリアオーナーシップ醸成に目的を変えたときに「どの対象に当てればいいのか」「何がどう良いのか」が曖昧になりやすかったためです。 キャリア対話の対象者を誰にすべきかを明確化するためにすること、そして施策がどんな果実・効果につながっているのかを説明できるようにすることが必要でした。
――因みに世間一般として、従業員のキャリア実現のための施策など、効果を測りにくいものを、どのように扱っているのでしょうか。
牛見:「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム(※1)」でも、独自の指標を設けて測定している企業もあれば、コンソーシアムの定義を導入し始めた企業もあります。一方で、効果の可視化については、まだ手探りの状態で進めている企業も少なくないという印象です。
施策の目的や成果が定性的な表現に留まってしまうと、経営層から「具体的な意義や投資対効果」について問われる場面も出てきます。そのため、どのように効果を定義し、納得感のある形で示していくべきか、多くの企業が共に模索している段階なのだと感じています。
田中:明確な数値効果を追うのではなく、長期的な「社員へのサポート(福利厚生)」の一環として位置づけて、運用されている企業もあると耳にします。
千葉:そうですね。ただ、そうした施策の効果を定量的に証明するのは非常に難易度が高いため、経営サイドから見たときに、積極的な投資判断を下しにくいという側面もあるのだと思います。多くの企業がキャリア形成支援の制度を整えていますが、実態としては「専門家が定期的にお話を聞く」というステップに留まり、その後の具体的なアクションや、施策がどう組織に貢献したかという「出口」の検証まで繋げるのは、ハードルが高いのが現状ではないでしょうか。
効果検証の結果と今後の展望
――効果検証を行ったことで、施策について「ここまで言えるようになった」というポイントや、捉え方・今後の施策検討に変化があれば教えてください。
倉持:今回の検証では、社員をキャリア対話の実施群と非実施群にランダムに割り付け、初回対話の前後(単発効果)と、継続対話の終了時(継続効果)の3時点でデータを取りました。

分析の結果、単発(初回直後)では「自己認識・自己理解」が深まったという回答に顕著な効果が見られました。さらに、数回にわたる継続的な対話を経た後では、「ありたい姿に向けた具体的なアクションが増えた」といった、行動面のポジティブな変化も確認できています。
これらのデータから、キャリア対話が「本人の目的意識をクリアにし、具体的な一歩を後押しできている」ことが証明されました。加えて、本来なら現場のマネジャーが一人で抱え込みがちな「メンバーのキャリア支援」という重い役割を、キャリア対話という専門チームが分担・補完できている可能性も見えてきました。

――この結果を踏まえて、想定通りなのか新たなヒントがあったのか、人事としてはどう捉えていますか。
田中:全体としては、概ね想定していたとおりの結果でした。
特に良かった点は、継続対話の効果として、単なる心情面の変化にとどまらず、具体的な行動変容が生まれた点です。さらに目標が明確になることで、現業務への意味づけが進み、意欲の向上にもつながっていたことは良かったと思います。
牛見:経営的な視点では、「キャリアを深掘りすると、離職や異動希望が増えて現場が困るのではないか」という懸念を耳にすることもあります。しかし今回の結果は、目の前の仕事に意義・意味を見出すことにもつながる、と数字で示せたことは非常に大きな価値でした。キャリア対話が現職へのモチベーションやエンゲージメントにも寄与している、と後押しできると思います。
千葉:また、外部のコーチングサービスなどと比較した際の「社内対話」の強みも再認識できました。
外部の支援は「内省(自分自身を見つめ直すこと)」に強みがありますが、その後の社内制度への接続や、具体的な意思決定まで一貫して伴走するのは難しい面があります。
私たちは社内の事情や選択肢を熟知しています。会社が求める期待値と個人の志向を照らし合わせ、「今の組織でどう価値を提供し続けるか」という具体的な行動や選択まで支援できる。これこそが、内部の人間が対話を担う最大のメリットだと考えています。

倉持:内省するだけじゃなくて、パーソルグループのキャリアオーナーシップ施策として、「行動する・選択する」ところまでちゃんとつながっている。理念を掲げているだけじゃなく、社員向けのサービスとしてそのような機能を保持・提供して、実際に結果を伴っている。それは、「簡単には真似できない」という会社としての強みに繋がるポイントだと思うので、そこを立証できたのは大きな価値だったと思います。
――内省するだけで終わるのではもったいなく、行動・選択まで導くところまでがセットであるべきということがよく分かりました。
牛見:そのような流れを受けて、今後はキャリア対話だけではなく、より長期視点で従業員を後押しするチームとして、「エンプロイーサクセスグループ」に組織の役割と名称を再定義する予定です。
千葉:また、今回の効果検証のためには人事以外の専門職の方がいないとなかなか厳しいと思います。倉持さんのようなデータ分析やIT、エンジニアリングの知見がある方の協力があり実現できました。人事だけで検証をやろうとすると、典型的なアンケート調査などで終わってしまい深い分析は困難でしょうし、こういった体制を組めること自体が珍しいのではないかと思います。

倉持:「傾向スコアマッチング」という手法などを用いて検証を実施していますので、詳しくはこちらの記事をご参照いただければと思います。
――最後に、今後のチャレンジを一言ずつお願いします。

倉持: 負担工数の面からもアンケートを多く取ることへの抵抗はありますが、効果検証の文化を根付かせたいです。満足度を上げること自体が目的ではなく、目的が達成できたかをデータで検証し、改善や中止の判断ができる状態にしたいです。データドリブンな人事に向けて、この事例をきっかけに広げていければと思います。
田中:本テーマは、長期的に取り組むべき領域だと考えており、継続して推進していきたいと思っています。効果検証で見えてきた変化の可視化をもとに、アンケート運用や対話の質のチューニングにも活かせればと思います。加えて、取り組み全体をパッケージ化し、効果検証結果もセットで発信できる形に整えていくことにも取り組んでいきたいと考えています。
千葉:今後の一つのアイデアとしてはサービスデザイン/UXの観点を取り入れ、「社員体験の心地よさや誠実さ」をこの領域で確立したいと考えています。適切なタイミングで適切な人に、適切な形で届けられるよう、データに基づいてコントロールしていきたいですね。また、対話の質が個人の力量に依存しすぎないよう、仕組みやツールも含めて整えていきたいと思います。
牛見:大目標は、7000人を超える全社員がキャリアオーナーシップを理解し、自己理解・プラン・経験のサイクルを回し続けられる状態にすることです。現状はまだ一部に留まるので、継続的に広げる必要があります。 運営においても特定のメンバーに依存せず、人が変わっても施策が続く仕組みに引き上げることが重要です。選ばれる会社であり続けるためにも、間接的に会社を強くする取り組みとして続けていきたいです。
――ありがとうございました!
※1「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」:個人の主体的なキャリア形成(キャリアオーナーシップ)が企業の持続的成長につながるという考えの下、企業や業界を超えて「新しい個人と企業の関係性」を模索・実証し、社会へ提言する実践共同体です。

牛見 佳奈子 Kanako Ushimi
人事本部 HRBP統括部 エグゼクティブマネジャー
2013年4月に中途入社。広告媒体の法人営業、非対面型の人材紹介サービス事業での法人営業等を経験し、2023年10月に人事本部へ異動。17年から管理職に着任し、この9年で様々な規模・配下メンバー構成の組織のマネジメントを経験。

千葉 康昭 Yasuaki Chiba
人事本部 HRBP統括部 キャリア対話推進グループ エキスパート
2012年中途入社、エージェント事業の営業企画部門にてキャリアアドバイザーの育成企画、NPS導入などに従事。2016年戦略人事立ち上げ期から顧客親密経営推進、パルスサーベイ、人材開発施策などを担当。2023年キャリア対話推進の立ち上げ、パーソルグループ間の人材配置施策などを担当。

田中 景子 Keiko Tanaka
人事本部 HRBP統括部 キャリア対話推進グループ エキスパート
2007年中途入社。キャリアアドバイザー、管理職の経験を経て、2023年よりキャリア対話推進へ。入社以来、一貫して社内外のキャリア支援業務に従事。国際コーチング連盟(ICF)プロフェショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)、一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、国家資格キャリアコンサルタント。

倉持 裕太 Yuta Kuramochi
テクノロジー本部 ビジネスシステム統括 コーポレートIT部 サブマネジャー
2022年4月にパーソルキャリアへデータアナリスト職として新卒入社。一貫して人事領域のデータ活用に従事。心理統計学や因果推論に関する手法を用いた人事データ分析をはじめ、分析から得られた示唆をもとにした人事IT企画の立案・推進といったPM的な役割や、システム開発にも携わる。現在はサブマネジャーとして、IT投資計画や予算配分の検討、経営層を含む合意形成、チームマネジメントを担う。
※2026年3月現在の情報です。
