顧客解像度が曖昧なまま、機能を書くのはもうやめよう #PERSOL CAREER Advent Calendar2025

はじめに

私が所属する組織ではPRD(製品要求仕様書)の運用を始めて2年近くなるのですが、「ターゲット顧客」の欄が次のような記述になってしまうケースをよく目にします。

例:「30代男性、IT企業勤務。効率化を求めている」

一見それらしいのですが、年齢・性別・職業といったデモグラフィック属性だけで構成されたペルソナは、開発チームに“誰の、どんな課題を、なぜ解決するのか”を伝えきれません


結果として、採用企業(採用人事)の文脈から切り離された機能が実装され、プロダクトはPMF(プロダクト・マーケット・フィット)から遠ざかってしまいます。
これがよく言われる「顧客解像度が低い状態」の正体です。


私自身、チームに「もっと顧客解像度を高めよう」とフィードバックする場面があるものの、どうやって解像度を上げるのかを体系立てて説明するのは意外と難しいと感じていました。

そこで本記事では、明日から実践できる“顧客解像度を高める3つの視点”を紹介します。

※本文中の事例はすべて解説用に作成したものです。

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解像度が低いPRDの正体:「要望の鵜呑み」

まずは、典型的な“解像度の低いPRD”から見ていきましょう。

ある営業担当者から次のような声をもらったとします。

「採用企業(採用人事)がスカウトメールを送るのが大変らしい。一括送信機能が欲しいそうです」

そこで、以下のようなPRDを書きました。

  • 課題:1通ずつ送るのが手間で工数がかかっている

  • ソリューション:検索結果にチェックしてテンプレートを一括送信できる機能

  • ターゲット:忙しい人事担当者

一見、理にかなっています。しかし、これは典型的な「要望の鵜呑み」です。

一般的にユーザが口にする「解決策」には、真の原因(Pain)が隠れていることが多いためです。

 

では、解像度を上げるにはどうすればよいのでしょうか。


視点1. 深さ(Depth):JTBDで「痛み」の真因を特定する

ここで使いたいのが JTBD(Jobs To Be Done) の考え方です。

JTBDはクレイトン・クリステンセンらが提唱した理論で、「顧客が成し遂げたい真の仕事(Job)に着目する」フレームワークです。

 

営業からの要望をそのまま受け取るのではなく、顧客へ短いインタビューを行ってみます。

PM(プロダクトマネジャー)
「一括送信が欲しいとおっしゃっていましたが、具体的に『大変だ』と感じる瞬間を教えていただけますか?」

人事担当者
「実は…特定の専門職(例:高度な技術領域)のスキルセットを見ても、どんな言葉が刺さるか自信がなくて。当たり障りのない定型文になってしまうんです。それをコピペして送るのが虚しくて…」

 

ここでようやく見えるものがあります。

  • 表面的な課題:メール送信の工数

  • 真の課題(Pain)
     ・採用候補者に無視される不安
     ・専門スキルへの理解不足からくる訴求力の欠如

これが「深さ」をもって課題を捉えるということです。

 

この解像度に到達できれば、

AIを用いて候補者の経歴から訴求ポイントを「候補として提示する」機能

など、まったく異なるソリューションの検討が生まれます。


視点2. 広さ(Width):エコシステムと代替手段を俯瞰する

次は「広さ」です。
顧客(採用企業)は自社のプロダクトだけを使っているわけではありません。

  • Excelやスプレッドシート

  • エージェントサービス

  • チーム内のコミュニケーションツール

  • “何もしない”という選択肢

こうした代替手段も含めて比較しています。

 

さらに、プロダクトの外側のステークホルダーも考慮する必要があります。

  • スカウト担当と面接担当が別か?

  • 経営層は採用にどの程度コミットしているか?

  • 現場はどの職種の充足を急いでいるか?

こうして視野を広げられれば、「短期的には便利でも、長期的には悪影響がある機能」を自然と排除できるようになります。


視点3. 時間(Time):「点」の機能ではなく「線」の体験へ

最後は「時間」の視点です。
これはUX界隈でよく使用されるカスタマージャーニーに近い考え方です。

「一括送信が欲しい」という要望には、
実は“その機能が使われる時間帯”や“使う時の心理状態”が深く影響しています。

ここでは、実際に採用人事がスカウト業務に取り掛かる1日の流れを追いながら、
時間の解像度がPRDにどう影響するかを見ていきます。

 

人事担当者の1日:スカウト業務が後回しになる理由

9:00(出社)
メール対応、上司からの依頼、突発タスクに追われる。
→ スカウト業務は後回し。

14:00(午後)
面接準備、採用候補者対応、書類確認、社内調整。
→ 優先度の高い業務が詰まり、手をつけられない。

18:00(夕方)
やっとスカウトに取り掛かれるが、
「疲れた、早く帰りたい」という気持ちが強くなる。

送信後
「この文面で本当に刺さるのかな……」という
自信のなさ(Skill Gap)と、返信を待つストレスが残る。

 

ここまで時間軸で追ってみると、顧客(採用企業)が一括送信を求める背景は単なる「工数削減」ではなく、

  • 夕方の疲れた状態でゼロから文面を考える認知コスト

  • 専門職採用への不安

  • 早く終わらせたい気持ち

  • 返信が来ないことへの恐怖

といった“その瞬間の感情”が複雑に絡んでいることが分かります。

 

一括送信という要望への対応に加え、夕方の疲れた状態でも“最小の思考コストで、自信を持って送れる”体験を考えると以下のようなソリューションを考えることができます。

例:作業開始を支えるUI

  • ログイン直後に「今日のおすすめ採用候補者3名」を提示
     → どこから手をつければよいか迷わせない

  • 採用候補者の経歴を解析し、「この採用候補者にはこうアピールすると刺さりやすい」というポイントを自動提示
     → 文面をゼロから考える必要がない

  • 採用候補者ごとに自動生成された文面を提示
     → ユーザは最終チェックだけで送信可能

例:送信後の心理的ケア

  • 送信完了画面で「返信の多い文面の傾向」や「平均返信日数」を表示
     → 不安を期待に変え、次のアクションにつなげる

 

これこそが、時間という軸で顧客(採用企業)を理解したときに初めて見えてくる本質的なソリューションです。


まとめ

  • 深さ:JTBDで“真のPain”まで掘る

  • 広さ:エコシステムと代替手段を見渡す

  • 時間:点ではなく線で体験を捉える

この3つを押さえることで、PRDは単なる要望のまとめではなく、チームを正しい方向に導く「設計図」へと変わります。

次にPRDを書くときは、表面的な情報だけでなく、その背後にある構造にも目を向けてみるのはどうでしょうか。

塩津 壱成

塩津 壱成 Issei Shiotsu

プロダクト&マーケティング事業本部 クライアントプロダクト本部 プロダクトマネジメント統括部 PdM3部 第1グループ  プロデューサー
 
学生時代にバックエンドエンジニアとしてWEBアプリケーションの開発に携わる。新卒で医療系予約サイトのWEBディレクターを担当。その後、スタートアップでSaaS系プロダクトのプロジェクトマネージャー(PjM)を経験。2023年よりパーソルキャリアにて「doda ダイレクト」のプロデューサーを務める。

※2025年12月現在の情報です。