フランス発のエンジニア養成機関、42 Tokyo。「挑戦したいすべての人に質の高い教育を。」をコンセプトに問題解決能力とコミュニケーションスキルを養う学びの場を提供し、社会で活躍する自立したエンジニアを教育されています。パーソルグループでは、42 Tokyoのローンチパートナーとして創立時からご支援させていただいたり、直近ではパーソルキャリアの新卒エンジニアが42tokyoを受講しました。
今回は42 Tokyo 事務局長 長谷川様をお招きし、パーソルキャリア デジタルテクノロジー統括部の井上、小川と共にインタビューを実施。42Tokyo × パーソルグループの連携の背景から「エンジニア教育」の課題とあるべき姿まで、お話を伺いました。
徹底した問題解決型学習で、考える力とコミュニケーションスキルを磨く
――まずは、長谷川様より42 Tokyoの概要を改めてご紹介いただけますでしょうか。
長谷川:42 Tokyoは2019年11月に東京・六本木に設立した、フランス発のエンジニア養成機関です。
かつては大学で学位を取得しなければエンジニアになれなかった、学歴社会の色濃いフランスで、資産家が「実力さえあれば誰でもエンジニアになれるはずだ」と立ち上がったのをきっかけに誕生。現在では、この思いを受け継ぐネットワークが世界20数カ国に広がっています。
42 Tokyoは「挑戦したいすべての人に質の高い教育を。」をコンセプトとして掲げており、フランスと同様に学歴不問、かつ学費も完全無料。16歳以上であれば、意思のある方が誰でも挑戦できる学びの場になっています。
――社会で活躍するエンジニアを教育される42 Tokyoの、学び方や指導の特徴を教えてください。
長谷川:まず42 Tokyoに入学するには、「Piscine」という4週間の入学試験を受けて合格していただく必要があります。Piscineとはフランス語でスイミングプールを意味するもので、「42 Tokyoというプールで4週間もがき続け、溺れることなく泳ぎ切った方のみを迎える」というコンセプトの試験です。
4週間で課され続ける課題は、決して易しいものではありませんが、候補者たちは自分なりに考えて向き合い、時には候補者同士で教え合いながら前に進んでいきます。
このPiscineに合格した方は24時間いつでも42 Tokyoで学べるようになりますが、ここでの「学び」は講師がいて教えてもらうようなものではありません。Piscineと同様に与えられた課題を自分で考え・調べながら解き、その過程でものごとを学んでいただきます。もちろん、課題を添削するのも学生同士です。
自分が解いた課題について、「解」とそこに至るまでの道筋を相手に説明し、理解してもらえたらOK。理解されなかった場合はまた一から課題に取り組み直し、改めて添削に臨む仕組みになっています。この徹底した「問題解決型学習」によって一人ひとりの考える力を養い、エンジニアを教育しているのが42 Tokyoの大きな特徴です。
――パーソルグループとの連携がスタートした背景についてお聞かせください。
長谷川:パーソルグループ様には、42 Tokyoが開校するタイミングで開校のパートナーである「ローンチスポンサー」としてご協賛をいただき、以降もご支援や共同でのイベント開催などを行わせていただいています。
42 Tokyoは完全学費無料で学びを提供しているため、存続していくにはスポンサーの皆様のご支援が不可欠です。その中で、ある一社の企業に寄りかかる形になって、その企業の経営状態によって安定した運営ができなくなったり、企業方針によって学生の教育が歪められたりすることは望ましくありません。42 Tokyoがニュートラルな教育機関であり続けるためにも、多様なスポンサー様のお力が必要だと考えています。
またもう一つ、42 Tokyoの教育の「出口」を支えていただくという意味合いもあります。エンジニアを育てて終わりでは意味がなく、「社会に出て活躍したい」という思いを学生一人ひとりに叶えてもらってようやく、我々の役目が果たせるので。社会への大きな影響力をもつ企業様に42 Tokyoのことをご理解いただき、学生の活躍をサポートいただければという思いが背景にありました。
井上:ご一緒させていただいた背景を詳しくは聞いていませんが、パーソルキャリアは、転職サービス「doda」を中心として、転職やキャリア支援のノウハウを持っています。42tokyo様を卒業された学生さんの支援や、またエンジニア人材を必要とする法人顧客に対しても価値提供ができることから、ご一緒させていただいたのではないかと推察しています。
求められるのは課題解決のために考えもがくこと、そして自分自身と戦うこと
――2021年より、パーソルキャリアの新卒エンジニアが42 Tokyoで受講していると伺いました。どのような背景で入学が決まったのでしょうか。
井上:本人が、42Tokyo様を知り、さらにパーソルが協賛していると知って興味を持ち、周りの先輩社員に行ってみたいと話したそうなんです。先輩からも「受けてみればいいじゃない」と背中を押されたそうで、上長である私に話をもらいました。彼は今年の4月からエンジニアになったばかりで業務のアサインも始まっていないタイミングだったので、「それなら1ヶ月行ってみたら」と送り出すことにしました。
Piscineが始まってからは、毎週のように「溺れそうです」「合格できないかもしれないです、すみません」と弱音をはきながらも奮闘している様子を近くで見ていました(笑)。ただ「合格・不合格は運もあると思うから仕方ないけれど、今月のあなたのミッションはこれに取り組むことだから、絶対に途中で諦めることだけはしないで」と伝え続けて、最終的には、見事合格してくれて、驚いたしうれしかったです。
――話を聞いた先輩社員の一人である小川さんは、送り出す側の思いとしてはいかがでしたか。
小川:話を聞いて42 Tokyoについて調べてみると、率直に「過酷なところに飛び込むんだな」という印象でした。ただ「問題にぶつかり、自分で考えて解決する」場面は仕事において必ず発生するので、あらかじめそれを実感としてもった上で仕事に取り組めるのはプラスなのではと思いました。ライオンの親が子を谷底に落とすような気持ちで送り出しました。
井上:具体的な課題内容については外からはわかりませんが、確かに4週間話を聞いている限り、いきなり難易度の高いプロジェクトにアサインされた若手社員のような雰囲気が感じられました。新卒でいきなりそういったプロジェクトで経験を積むのは難しいからこそ、とてもよい経験になったのではないかと思います。
もともと真面目に取り組む姿勢や素養のあるメンバーでしたが、それが少し磨かれて帰ってきた気がします。
――42 Tokyoとしては、そのような「現場の仕事を知る」狙いもあってプログラムを設定されているのでしょうか。
長谷川:そうですね。ソフトウェアエンジニアリングにおいて一番求められることは、課題を解決するために考えてもがくこと、そして自分自身と戦うことです。プログラムを書いていると絶えずエラーが起きますし、エラーが起きた時に必ずしも誰かが対処法を教えてくれるわけではありません。この4週間を乗り越えることで、「苦しくても自分で調べてみればどこかに答えやヒントがある」「エラーだってきちんとハンドリングすればFIXする」ということを身に付けてもらえたらと思っています。
エンジニア教育に必要なのは、一人ひとりを“観る”こと
――ここからは「エンジニアの教育」をテーマに皆さんのお考えをお聞かせください。まずは、昨今エンジニア不足が叫ばれる状況を長谷川様としてはどのように捉えていらっしゃいますか?
長谷川:エンジニアが足りなくなってしまうのは、仕方のないことだと思っています。プログラミングは国語・算数のように皆が共通で学ぶ「常識」ではないからこそ、意識的に育てていく必要がありますよね。42 Tokyoとしては、着実に学生を増やしながら力のある人材を育て、ポジティブにコミットしていきたいと捉えています。
――パーソルキャリアでは開発の内製化を進めていますが、事業会社で活躍できる人材像や、そのような人材の教育における課題はありますか。
井上:「仕様書通りに作れる」の先にある「よりよいものを作る」ために、自分で考える力や問題解決能力は身につけていかなければいけないと考えています。エラーが出ても一つひとつ対処していく根気強さや挫けない心も絶対に必要です。また全システムを相対的に見て他への影響を考えていく力など、求められる領域は広がっていきます。
小川:そういった「現場感」があると、現場で課題に直面した時にも手を止めず、自分で前進していけますよね。ただ私自身も全く違う業種からこの分野にキャリアチェンジし、「何から学べばいいのか」「どうアプローチすればいいのか」に悩む部分は大きかったです。事業会社の現場で活躍する人材になるための道筋が見えづらい、という課題はあるかなと思います。
井上:事業会社で力を発揮するには、技術だけでなく業務フローなどもキャッチアップして、「どこを直せば事業や組織がよくなっていくのか」の視点を得ていく必要がありますからね。できれば本人が興味を持って社内の人とコミュニケーションを取りながら道筋を捉えていってくれるとよりよいですが、受け入れる側としても他部署との交流の機会を設けるなど、考えていかなければいけないと思います。
――技術を学んだ後に実務を意識するというお話が出ましたが、教育と実務の関係性や、学びを実務に活かす際のポイントをどのように捉えていらっしゃいますか?
長谷川:大前提として、実務も教育もとにかくコードを書いて、とにかく問題解決のプロセスに取り組み続けることが欠かせません。その経験によって問題解決の「型」を自分のものにできれば、それは実務にも必ず生きてくると思っています。複雑度には違いがあるにせよ、実務自体が問題解決であることは間違いないですからね。
小川:個人的には、コミュニケーションが一つのポイントになると思っています。数日かけて調べてもわからなかったことが先輩社員に聞いたら5分で解決した、ということも往々にしてあるので。日頃から周りのメンバーとコミュニケーションをとって関係性を構築したり、困った時にさっと聞きにいけたりする力があると、学びを実務に活かしやすいと思います。42 Tokyoではその力を自然と養える仕組みになっているのがいいですよね。
長谷川:ありがとうございます。やはり42 Tokyoでも、周りに聞ける人はどんどん成績が伸びていきますし、ただ頼るだけでなくコーヒーをご馳走した代わりにヒントを得たり、自分が教わった分相手がつまずいた時に何かを返せたりするような人には、どんどん情報が集まってきます。そういった社会の中でのコミュニケーションを身につけて卒業してもらえるように、引き続き頑張っていきたいところです。
――最後に、企業やマネジメントはどのようなスタンスでエンジニア教育に臨むべきか、皆様のお考えをお聞かせください。
小川:個人的に意識しているのは、画一的な教育にしてしまわないことです。「エンジニアとしての経験があって自走できる人・そうでない人」「やりたいことが明確な人・自分が何をすべきかわからない人」など、色々な人がいますから、一つの決まった型で教えることはできません。相手をきちんとみてコミュニケーションを密に取りながら教育に臨むことを大切にしたいですね。
そして企業としては、時間やお金がかかってもその人材がしっかりと育ってくれれば得られるものは大きいので、長い目でみて「投資」をしてもらえたらと思います。
井上:事業会社のエンジニアは数の少ない貴重な存在なので、教育は手厚くしていくべきだと思っています。その中ではやはり一人ひとりの向き・不向きを見極めて、様々な選択肢を使い分けていくことが大切なのではないでしょうか。我々の部署での新卒受け入れは多くて2,3名程度なので、もし可能なら全員42 Tokyoに挑戦してみてもらいたいとは内心思っていますが、42 Tokyoが合う方もいれば、プールではなく温泉の方が育ちやすい方もいるはずですから。一人ひとりに合う学び方を見つけて、必要に応じて教育カリキュラムも新たに考えて作りながらやっていけたらと思います。
長谷川:皆さんのおっしゃる通り、採用や教育においては「人それぞれである」という考えが大前提としてあります。その上で大切なのは、評価者がきちんとログをみて評価することだと思っています。それによってファクトベースの適切な評価がなされるようになれば、一人ひとりにマッチする教育やキャリア形成につながりやすくなりますし、メンバーとしてもログをきちんと残す健全な形で業務に臨むようになるはずです。
学校側としてもしっかりとログを残すようにしていくので、ぜひ採用してくださる企業様の側でもログを意識いただけると良い未来につながるかなと思います。
そして、プールでなく温泉の方が育ちやすい方に向けて、頑張って“42 スパーランド”を作っていきますので、その時はぜひ(笑)。
――新たな構想!?(笑)も聞けたところで、エンジニア教育について理解が深まりました。本日はありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈)
長谷川 文二郎 Bunjiro Hasegawa
一般社団法人42 Tokyo 事務局長
1995年生まれ。DMMアカデミー1期生としてDMMへ入社。DMMアカデミー運営中に「42」を知ったことをきっかけに、フランスの42パリ校へ入学。現在、DMMにて一般社団法人42 Tokyoの事務局を担当。
井上 テイ子 Teiko Inoue
デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 サーバーサイド・インフラエンジニアグループ マネジャー
SIerで開発エンジニアとして約7年従事した後、ECサイト2社に於いてプロジェクトマネージャーを10年程勤める。その後、2018年パーソルキャリア株式会社へ入社。プロジェクトマネージャーを経て、2019年 エンジニア組織の マネジャーに。 2020年4月より自らもリモートワークをしつつ、メンバー達と様々な課題に奮闘中。
小川 由輝 Yoshiteru Ogawa
デジタルテクノロジー統括部 デジタルソリューション部 サーバーサイド・インフラエンジニアグループ シニアエンジニア
専門学校卒業後、電気工事士として約7年間半従事。 その後キャリアチェンジし、SIer、事業会社での情シス、インフラエンジニアを経て、2018年パーソルキャリアに入社。現在は、Webアプリケーション開発、担当案件のインフラ設計・構築・運用保守を担当。
※2021年11月現在の情報です。