御用聞きからの脱却――IT起点の提案で事業貢献を図る集団「BITA」とは

片山健太郎

パーソルキャリア テクノロジー本部内のひとつ「BITA(ビータ)統括部」(以下、BITA)は、ITの知見をもって会社全体の事業成長や収益向上に貢献するため、2012年に立ち上がりました。かつては社内の事業部門からの要請を受けてから動き出す、「受け身」の組織だったというBITA。しかし、システム開発のガバナンスを整え、内製化に着手するなかで、社内のIT部門としての意識を少しずつ変化させてきました。

現在、BITA統括部のエグゼクティブマネジャーを務める片山健太郎は、BITA立ち上げメンバーの求人がきっかけで入社しました。片山が発足当初から携わってきたBITAの成り立ちから今日に至るまで、そしてこれからBITAが目指すものについて聞きました。

※組織名称は2019年12月時点

 

ITの知見を経営に活かすなかで、偶然巡り会った「BITA」の求人

――まずは、片山さんの経歴を教えてください。どんなきっかけでBITAに参画することになったのでしょうか?

最初は、ITに強いコンサルティング会社からキャリアをスタートさせました。経営にITを活用してもらいたいという思いを持ち、ここでシステム開発における、いわゆる「上流」から「下流」までの幅広い工程を経験しました。コンサルティングの仕事はプロジェクト単位なので、ミッションを終えたら次のプロジェクトやクライアントへ移ります。おかげさまでさまざまな現場を経験できましたが、一方で、ひとつの企業の経営にもっとしっかり関わって、IT戦略で事業貢献したいと思うようになりました。

片山健太郎

そこで転職を考えてdodaに登録したところ、偶然にも運営元のパーソルキャリアがBITAの立ち上げメンバーを募集しているのが目に留まって。そして、2012年2月に入社して、4月から始まったBITAの立ち上げに参画しました。

――そうだったんですね。そもそもBITAはどんな役割を担ってるんですか?

BITAは、「Business IT Architect」の略称です。

ITを使って業務を変革させ、事業貢献することを目的としていて、現在は「システムの安定化」と「新たな挑戦」の両方に取り組んでいます。自分は、2012年に入社してから、業務改善に伴う基幹システムの機能追加、改修や基盤・DB刷新などを行いました。そして、2015年からはBITA全体の責任者を務めるようになって、今はITを前提とした施策、マネジメントの方針決めや実行支援がメインの業務になっていますね。

変革には「守りを固める」ことが不可欠だった

――2012年にBITAが立ち上がった背景を教えてください。

かつてのパーソルキャリアのIT部門は、バックオフィスの一部門のように位置づけられた組織で、社内から寄せられるITに関する要望に対応する、いわば「受け身」の組織だったんです。そんな状況を見かねた当時のCIOが、「ITを用いて事業に関わっていくのならば、御用聞きではいけない」と声を上げて、BITAを立ち上げたんです。

――これまでいろいろな企業のシステムを見てきた片山さんは、当時のパーソルキャリアにどんな印象を抱きましたか?

大きく2つの課題があるなと思いました。まず1つめは、システムの品質です。当時は運用保守が満足に行えていない状態で、障害が起きる頻度の多さが気になりました。そしてそれは、その状況を解決するためのプロジェクトを進められるリーダー的人材が少なかったことが理由だと感じていました。

――なるほど。そこで「システムの安定化」が役割であるBITAの出番なんですね。

そうです。IT活用で「新たな挑戦」を始めるためにも、新しいプロジェクトを進めることのできる人材と、十分な運用保守が行える体制の両方を整えることが必要で。そのためにまず、社内の各部署の業務を深く理解したうえで、「それぞれの部署と、一緒に事業に取り組んでいく」というマインドをBITA内で浸透させることから始めなければと考えました。

片山健太郎

そして、もうひとつの課題は、IT投資のスコープや目的が曖昧であることでした。方針が定まってないので、案件の優先度がその時々で変わり、プロジェクトがなかなか進んでいかないんです。なので、ROIや全社最適の目線を持って、プロジェクト全体を整理して進める必要があったんです。

そして、これらを解決するには、パーソルキャリアの各事業を十分に知ることから始めました。主要事業の業務プロセス図を作成することで、2年がかりで会社全体の業務を可視化して理解を深めていったんです。

――2年がかりで業務の可視化! 地道だけど重要な仕事ですね。その後は、どんな取り組みを進めていったんですか?

地盤は整えたので、BITA部のガバナンス整備とIT企画業務やプロジェクトマネジメント業務の標準化をすすめて、安定稼働などのアウトプットの質を上げていくことに取りかかりました。

それと並行して、システムの内製化も進めていて。当時、開発そのものは外注していたんですが、ベンダーに任せる体制では、当事者意識を持つことに限界があります。それに、パーソルキャリアがナレッジを蓄積する機会も失われてしまう…。先々のBITAのあり方を見据えると、事業変化に合わせて柔軟に対応させられる体制づくりが必要不可欠だったので、内製化に舵を切りました。

事業により深く関わるために、各事業部での仕事を「主務」に

――先ほど、「1人ひとりが各事業部の業務をより理解する」というマインドセットの話がありましたが、具体的にどのような方法ですすめていったのですか?

簡単に言うと、BITAメンバーの主務を各事業部に置きました。BITAは現在、「BITA統括部」の下に「エンジニアリングBITA」「プロジェクトBITA」「事業/プロダクトBITA」という各部門があり、そこからさらに各サービス事業に紐付いた組織を各々に設けています。そのうち、「事業/プロダクトBITA」のメンバーは、それぞれの事業部と物理的に同じ空間で仕事をするだけでなく、所属も各事業部に置き、そこでの仕事を主務とし、BITAは兼務としています。

――事業のなかにIT部門を組み込んでしまうとは、珍しいですし、思い切った組織体制ですね。

この体制を取ることで、それぞれの事業及び業務への理解が深まりますし、個別の事業単位でITの情報や知見を閉じてしまうことなく、全社横断で共有して、役立てることができます。当初はBITAの業務を主務としていたんですが、2017年に各事業を主務に切り替えました。QCDやROI、サービスレベルなどの観点で、もう問題ないと判断したんです。メンバーを育成できるマネジャーが育ってきたことも大きいですね。

片山健太郎

――そうしたマネジャーの育成は、どのように取り組んでいったんですか?

マネジャーのレベルアップも重要な課題のひとつだったので、育成にはより力を注ぎました。

自分の中では、メンバーの業務成果をレビューできなければ品質も上がっていかないので、実務に入り込める人がマネジャーになるべき、という考えがあります。私がしっかりレビューして改善点を指摘することで、メンバーにも同じように業務をレビューできるようにさせる。実務経験を積みながらレベルアップを図っていってもらったんです。

――質の高いレビューを重ねて育成されてきたんですね。でも、それぞれの事業部を主務とするということは、BITAのメンバーは一箇所にまとまって仕事をしているわけではないんですよね。情報共有や連携はどのように行なっているんですか?

おっしゃるとおり、働いている場所が違うからこそ、コミュニケーションの仕組みが大切になります。いろいろなツールを組み合わせてコミュニケーションを取っているのですが、基本はMS Teamsを使っています。kintoneでも、部署同士の情報共有を行ったり、標準化した業務プロセスをオープンにし、みんなが見られるようにしています。

それから、IT部門外の人と連携するときには、認識の齟齬が起きないように、モックをつくってイメージを共有するなど、言葉だけではなくビジュアルを用いるといった工夫もしていますね。

――そうした取り組みや工夫によって、各部門で「主体的に」「スピード感のある」開発ができる体制を作りあげているんですね。全体管理や意志決定においての問題などは起きないものなのでしょうか?

サービスの開発やリリースは、基本的に各プロダクトオーナーの権限で意志決定します。ただ、統一した基準やプロセスを設けるなどして、ガバナンス体制は構築していますよ。案件の規模に応じて社内承認を得たのちに開発に着手して、開発を終えたものはリリース判定会を開いて、可否を判断してから世に送られる、といった流れです。

こうした細かい部分を含めたさまざまな取り組みによって、ようやく組織全体が「普通のレベル」に到達してきた、という感触があるんです。やっと足場が固まって、いよいよ新しい取り組みを始められるようになったというところです。

エンジニアリングを強化し、IT起点の提案型組織へ

――これからBITAの新たな取り組みをすすめていくにあたって、片山さんがメンバーに呼びかけていることなどはあるでしょうか?

「振り返りの徹底」ですね。パーソルキャリアの各事業を「我が事」として受け止めたうえで、取り組みを改善していくには欠かせないことだと思っています。もしも結果が出なかったとしても、それを責めたり落ち込んだりするのではなくて、その後につながる学びに変えて活かしていってほしいんです。

――でも、振り返りって大事だと思いつつも、忙しくなると、ついついおざなりになりがちですよね。

そうなんです。だから、振り返りを徹底させるために、業務プロセスの一部に組み込んでいます。具体的に言うと、それぞれのメンバーの振り返り内容をアプリに上げて、他の部署にいるBITAのメンバーも見ることができるようにしています。IT目線での情報共有は、別部門でも同じ技術を使っている場合などもあって、大いに参考になりますからね。全社としてのQCDの観点でも、振り返りは重要なんです。

片山健太郎

――徹底されていますね! 最後に、これからBITAをどのように進めていきたいと考えているかを聞かせてください。

もう一段BITAという組織のレベルを上げていきたいと思っています。現状ではまだ、各事業部からの企画をもとに開発を行うケースが多いのですが、「ITソリューション提案型組織」としてのBITAの役割を発揮できるように、全体を底上げしていきたいです。私たちはITのスペシャリストだからこそ、「最新技術を使えば、こんなことも実現できる」という発想ができる。そうしたBITAの発信を起点に、利用者の満足度を高めたり、まだ世にないサービスを生み出したり、事業に貢献できることがあるはずです。

そのためには、2016年から力を入れてきた、エンジニアリングのさらなる強化が欠かせません。特に、データ系技術や、アプリケーション開発の人材、それから、新たな提案を行っていくにはクラウド活用を行える人材がより重要になってきます。こうした分野におけるエンジニアの採用を積極的に行っているところですが、闇雲にすすめるのは、パーソルキャリアとしても、エンジニアの方にとってもよくないこと。育成とのバランスを大事にしながら、一緒に事業を作りあげていきたいという気持ちを持ったエンジニアの採用をすすめていきたいと思っています。

(文=加藤学宏/編集=ノオト/写真=品田裕美)

片山健太郎

片山健太郎

片山健太郎 Kentaro Katayama

パーソルキャリア株式会社 テクノロジー本部 BITA統括部 エグゼクティブマネジャー

1998年にITコンサルティング会社でシステムの開発、運用保守、BPRに伴うパッケージシステムの導入を実施。 IT化構想策定など、上流案件も実施し、14年間務める。 一つの企業の経営にもっとしっかり携わりたいと考え、2012年2月にパーソルキャリアに入社。 人材紹介・転職メディア事業のIT責任者を務め、2015年からIT組織(BITA統括部)を管掌。

※2019年12月現在の情報です。